神様と十二支と猫と盃と《完結》   作:モロイ牛乳

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今回はドラマCDの話です。


54「絶対見つけ出す!!」

 文化祭から3日経った日の放課後。学校に残っていた僕は生徒指導室で、部活に所属してない(あるいは幽霊部員の)風紀委員の仲間と共に、啓発ポスターの作成に励んでいた。

 大きな行事を乗り越えたせいか、生徒達の気持ちが緩んで校内の風紀が乱れている。それを改善すべく、全校生徒に注意喚起を促すためのポスターだ。

 

「こういう標語はどうだろう。身の用心、校則破り1回、留年の元」

「うちの高校って、留年する人いたっけ?」

「あんまりいないと思うけど……出席日数が足りなかったとか、追試でも合格点を取れなかった場合は、留年するらしいよ」

「校則破りから留年は飛躍しすぎだから、他の言葉に変えた方がよくね? 例えば……不合格の元とか」

「受験生は不合格という言葉を見るだけで憂鬱になるから、別の単語にしてあげて」

 

 雑談しながら作業していたら、生徒指導室のドアをノックして1人の女子生徒が入ってきた。3年C組の錦木(にしきぎ)夏実(なつみ)先輩だ。

 

建視(けんし)、ちょっといい?」

 

 僕が返事をするより早く、風紀委員の十朱(とあけ)優香(ゆか)さんが低い声を出す。

 

「錦木センパーイ……キン・ケンの掟を忘れたとは言わせませんよ」

「解っているわよ。建視に話しかける時は常に2名以上で、でしょ? ここには優香と緋里(あかり)もいるから、掟には違反してないわ」

 

 錦木先輩は「それより、これを見て」と言って、1枚の紙を差し出してきた。

 紙を受け取って見ると、僕を中傷する文章が書かれていた。書くといっても手書きじゃなく、パソコンで文章を作成して印刷したと思われる。

 中傷文はずらずらと書いてあったけど要約すると、『風紀委員長のくせに派手な髪色しやがってウザイ消えろ』という内容だ。文章は稚拙なのに、反論しにくい処を衝いているな。

 

「これは、どこで入手したんですか?」

「さっき開かれたクラスの代表と部長が集まる会議の会場となった、会議室の机の中に入れてあったの。由希(ゆき)と1年の倉伎(くらぎ)真知(まち)に対する中傷文も、一緒に入っていたわ」

 

 中傷されたのが僕と由希だけなら、モテない野郎が嫌がらせをしたのだろうと見当がつく。だけど、倉伎さんもとなると犯人の絞り込みが難しくなるな。

 

「建視君を中傷!? しかも由希君まで……絶対許せない!」

梅垣(うめがき)先輩に報告はしたんですか?」

 

 十朱さんと萩原(はぎわら)さんが怒りの声を上げると、錦木先輩は「勿論よ」と答える。

 

夕子(ゆうこ)たちは校内にいるキン・ケンのメンバーと、プリ・ユキにも協力を仰いで、中傷文をばら撒いた犯人捜しに乗り出しているわ。犯人を見つけ出した暁には、二度と天を仰げないようにしてやる……っ」

「二度と箸を持って、ご飯を食べられないようにしてやりましょう!」

「二度とトイレに行けないように……もしくは、二度と瞬きができないように……」

 

 本気でヤバイ制裁は下さないだろうけど、僕は念のために「やりすぎないようにね」と釘を刺しておく。錦木先輩と十朱さんと萩原さんは子供のように無邪気な笑顔で、「はーい」と答えた。

 僕も兄さんに注意された時、同じような表情で良い子のお返事をした事があるから解る。あれは「バレないように叩きのめしてやる」と思っている顔だ。

 中傷文をばら撒いた犯人は、自業自得という四字熟語を身を以て思い知るだろうね。

 

 

 

 僕は啓発ポスター作りを中断して、生徒会室へと向かう。

 会議に出席した生徒が生徒会役員に中傷文の事を報告したらしいけど、大規模な犯人捜しが行われている情報は上がっていないだろうから。

 

 生徒会室に到着した時、妙なものを見つけた。木の切り株を輪切りにしたような物体が、ドアの横に立てかけてある。

 なんだコレと思いながら切り株の輪切りの裏側を見てみると、やたら達筆な文字で『学園防衛隊本部』と書いてあった。ナベが持ってきた物だろうな。

 

「そこで何をしているんですか?」

 

 声をかけてきた小柄な男子生徒は、生徒会書記の桜木(さくらぎ)君だ。

 

「これが何なのか気になって、ちょっと見ていたんだ。立派な看板だね」

「こんなバカげた物、看板として掲げる訳ないでしょうが! 僕は急いでいるんです。用がないなら立ち去って下さい」

「用ならあるよ」

 

 僕がスラックスのポケットから取り出した中傷文の紙を差し出すと、桜木君は苦虫を噛み潰したような表情になった。どうやら彼は、中傷文の存在を既に知っているらしい。

 

「会議に出席した生徒が、風紀委員長に報告したんですか?」

「そうだよ。僕も中傷された訳だし」

「どうせ貴方も会長と同じで、女子生徒を誑かして男の反感を買ったんでしょう」

 

 桜木君の棘のある口調から、由希に対する不満が感じ取れた。中傷文をばら撒いた犯人は桜木君かと一瞬疑ったけど、頭脳優秀な桜木君がこんな下らない嫌がらせをする訳ないか。

 僕が考え込んでいる間に、桜木君は生徒会室のドアを開けて「ちょっと皆さん!」と大声で呼びかけた。

 

「おかえり、(なお)

 

 会長用の事務机に着いて書類仕事をしていた由希が、出迎えの言葉で応じた。藤堂(とうどう)さんは「おかえりぃ」と言いながら、桜木君の後ろにいる僕を真っ先に見つけたようだ。

 

「あっ、けんけんだぁ~っ♡ (きみ)に会いに来てくれたのォ?」

「違うよ。さっき開かれた会議で、僕と由希と倉伎さんを中傷する文書がばら撒かれたらしくて。それに関する報告をしに来たんだ」

 

 僕は生徒会室に入って説明しながら、由希と倉伎さんに対する中傷文も含む3枚の紙を掲げる。眉をひそめた由希が言葉を発する前に、桜木君が憤りを隠さずに話し出す。

 

「中傷文については、僕も他の生徒から報告を受けました。会長、今度こそ倉伎にちゃんと注意して下さいよ。倉伎は日頃の態度が良くないから、こんなこと書かれて配られたりするんだぞ!」

 

 倉伎さんは大人しいタイプに見えるけど、チョークが入った箱をひっくり返したり物を割ったりするらしい。そのせいで“破壊魔”という不名誉な綽名が付いてしまっている。

 教室を滅茶苦茶にした前科がある春の方が、“破壊魔”と呼ぶに相応しいと思うけど。春は怒らせるとヤバイ人物だと判明したから、恐れて呼べないのかも。

 

「建視、それ貸して!」

 

 中傷文に目を通した由希は、険しい面持ちになった。

 由希に対する中傷文はざっくりまとめると、『女みたいな顔してウザイ消えろ』といった事が書かれている。由希が真っ先に見たのは倉伎さんに対する中傷文だから、後輩が貶されて怒ったのだろう。

 

「根暗の破壊魔か……女の子に対してこの文はないだろ」

 

 僕が渡した中傷文を由希と一緒に見たナベが、不愉快そうに眉を寄せた。

 

「でもォ、真知ってホントにそうだもんね~。きゃはははっ」

 

 歯に衣着せぬ物言いをした藤堂さんは、平然と笑い飛ばした。

 生徒会の仲間が中傷されているんだから、怒るフリくらいはしようよ。由希とナベだけじゃなく、倉伎さんを非難した桜木君まで引いているぞ。

 

「……真知は、自分の中傷文がばら撒かれていた事を知っていたの?」

 

 気を取り直した由希が問いかけると、書類保管庫の前に立っていた倉伎さんはこくりと頷く。

 

「知っていた。一緒に配られていたから……」

「はぁ? その文はどうした?」

 

 ナベの質問に、倉伎さんは「関係ないから処分した」と答えた。どうやら倉伎さんも会議に出席していて、自分を中傷する文書以外は由希達に見せたらしい。

 

「真知……なんで先にこれを見せなかったんだ」

 

 由希が怒りを抑えた声で訊くと、倉伎さんは淡々とした口調で「気にしてないから」と答えた。強がっているようには聞こえない。自分が中傷されたのに、他人事みたいだ。

 

「怒らないのか?」

「本当の事だから」

「放っておいていいのか?」

 

 由希が質問を重ねる度に、部屋の温度が下がっていくような錯覚に陥っているのは僕だけか?

 倉伎さんもひんやりした空気を感じたのか、「あ……の」と戸惑った声を上げた。由希を敵視しているっぽい桜木君は、不安そうな面持ちで「会長?」と呼びかけている。

 

「ゆんゆ~ん、なぁんかすっごく怒ってるぅ?」

「怒ってないよ、怒っても仕方ないだろ。どこの誰が書いたのか知らないが、イイ根性しているじゃないか。絶対見つけ出す!!」

 

 中傷文を破きながら吼えた由希の背後に、青の炎が見えるようだ。由希が身内以外の人間に本気で怒ったのは、これが初めてじゃないか?

 自分の殻の中に閉じ籠っているように見える倉伎さんは、かつての由希(自分)を連想させるから放っておけないのかな。

 

「今から犯人のあぶり出し作戦を実行する」

 

 ブチ切れた由希は、普段なら絶対言わなそうな宣言をした。呆気に取られる僕や桜木君とは対照的に、ナベははしゃいだ声を上げる。

 

「作戦っ? 作戦大好き! やるやる!」

「ちょ、ちょっと会長、生徒会の仕事は?」

「そんなものは後でどうとでもなる!」

「会長が言っていいのか、そんな事!」

「バカ直! オレ達が学園防衛隊である事を忘れるな!」

「あ゛あ゛~っ! 目ェ生き生きさせて、何アホな事ほざいてるんだ!」

 

 ツッコミ役の桜木君は大忙しだな。僕は部外者だからツッコミを手伝う事はしないけど。

 さてと。風紀委員の仲間が待っているから、用件を伝えて戻ろう。藤堂さんに声をかけると話が長くなりそうだから、伝えるなら倉伎さんだな。

 騒ぐ生徒会メンバーを黙って見ていた倉伎さんは、僕の視線に気付いてビクッと震えた。そんなあからさまに怯えなくても、取って食ったりしないよ。

 

「建視! 真知を怯えさせるなって、前にも言っただろ」

 

 倉伎さんの変化に目敏く気付いた由希が、僕に濡れ衣を着せてきた。

 

「だーかーらー、怯えさせるような事はしてないっての」

「あの……」

 

 倉伎さんが意を決したように、何か言おうとした。

 

「真知、どうしたの? 建視が視界に入るのが嫌なら、今すぐ追い出すけど」

「ゆんゆんって、けんけんには容赦ないのな」

 

 苦笑いしたナベの言葉に、僕は「由希(こいつ)、内弁慶だからな」と答えた。由希は僕を睨んだけど、倉伎さんの発言を聞く方を優先させたようだ。

 

「犯人のあぶり出しをするなら、会長を中傷しそうな人の心当たりを教えて下さい」

「俺を中傷しそうな人を教えてどうするの。今は、真知を中傷した奴を見つけ出そうとしているんだよ。真知、思い当たる節のある人物がいたら言ってね」

「忘れたんですか? 会長に対しても中傷文を書いたんですよ、この人物」

 

 倉伎さんに指摘されて、由希は思い出したとばかりに手を打った。

 

「ああ~、そうだね。別にそんな事はどうでもいいよ」

「私も……私の事はどうでもいい」

 

 倉伎さんは由希が自分を気にかけてくれた事が嬉しいのか、ちょっぴり頬が赤い。

 これで由希も倉伎さんを意識していたら、甘酸っぱい一幕になっただろうけど。由希は犯人捜しに意識が向いている。プリンス・オブ・ザ・BOKUNENZINの称号は伊達じゃない。

 それはそうと、僕も中傷文を書かれている事を忘れないでほしいな。

 

「大丈夫だよォ。けんけんにはぁ、公がついているからねぇ♡」

 

 僕が何となく寂しい気分になった事に気付いたのか、藤堂さんが声をかけてきた。さすがは魔性の女。男を落とすチャンスは見逃さないな。

 とか思っていたら、スラックスのポケットに入れておいた携帯電話が震えた。取り出して見ると、梅垣先輩からメールが届いている。

 

「朗報だよ。中傷文をばら撒いた犯人が見つかった」

 

 僕がそう告げると、ナベが藤堂さんに似せた甘え声で「ええ~っ」と言った。

 

「これから必殺技とか考えてぇ、犯人捜ししようと思っていたのにぃ」

「公の真似しないでぇ、キモ~い」

「それより、犯人は誰?」

 

 問い詰めてくる由希の濃灰色の目が据わっていた。

 犯人の名前を教えたら、ぶん殴りに行ったりして。流石にそれはしないかと思いつつ、キン・ケンとプリ・ユキのメンバーが短時間で捜し出した犯人の名前と学年と所属クラスを伝える。

 

「犯人はサッカー部に所属しているらしいから、今は校庭にいると思う」

「りょーかいっ! ゆんゆん、犯人(ホシ)を確保しに行こうぜ!」

「そうだな。二度とふざけた真似をしないように、ガッツリ説教しないと」

 

 生徒会室を出て行こうとするナベと由希を、桜木君が呼びとめる。

 

「待って下さい。犯人が特定できたなら、明日にでも厳重注意すればいいでしょう。それより、今日の仕事を片付けr」

「あ・と・で」

 

 再び冷気を纏った由希が、桜木君を睨みつけて脅した。桜木君はぐっと言葉に詰まっている。

 仕事を第一として訴える桜木君は生徒会役員の鑑だけど、この問題は明日に持ち越さない方がいいと思う。キン・ケンもしくはプリ・ユキのメンバーが、犯人を闇討ちしかねない。

 一応当事者である僕も由希とナベの後に続くと、藤堂さんもついてきた。

 

「藤堂さん、生徒会の仕事は?」

「直ちゃんと真知がいるから平気だよォ。それにぃ、公とお付き合いしてくれている男の子の1人が中傷文をばら撒いたみたいだからぁ、放っておけないしぃ」

 

 2つの意味での爆弾発言が飛び出した。犯人確保に燃えていた由希とナベが、驚愕の表情で振り返る。

 

「お付き合いって、1人とするもんじゃないのかねぇ。どう思う? 由希君に建視君」

「あー、いやぁ……俺は1人でいいと思うけど」

 

 由希はそう言いながら僕をちらっと見て、「建視はそう思わないだろうね」と言いやがった。

 

「ウッソ。けんけんって女遊びしてんの?」

「してないよ」

「嘘吐け。中学時代は、彼女をとっかえひっかえしていただろ」

 

 ちっくしょ、由希の奴。他人には興味ないと言わんばかりの無関心ヅラしながら、僕の動向をしっかり見ていやがったのか。

 

「僕の交友関係が広かっただけだ。人聞きの悪い事を言うな」

「大勢の女の子の相手ができるって事はぁ、けんけんに魅力と甲斐性があるって事でしょ~っ? 胸張っていいんだよォ、けんけん♡」

 

 藤堂さんが僕を援護してくれたけど、素直に喜べない。

 

「公の言う魅力と甲斐性ってアレだろ、家柄と財力の事だろ」

「そうだよォ。(かける)ったら、なに当たり前の事言ってんのォ?」

 

 なんかここまで来ると清々しいな。生温かい笑みを浮かべた僕を余所に、由希が藤堂さんに確認を取っている。

 

「それより、犯人は公の彼氏なんだよね。どんな奴?」

「すっごく公に優しくてぇ。公のお願い、な~んでも聞いてくれるんだぁ。すっごくいい人だよォ」

「わー、イイヒトダナー」

「お願い、なんでも聞いてくれるんだもんね……」

「使い勝手の“いい人”だよな」

 

 ナベと由希と僕が順番に感想を述べると、藤堂さんは満面の笑みを広げて「うん!」と答えた。仮にも恋人を、使い勝手のいい人だと認めちゃったよ……。

 

「あのさぁ、ちなみに公さん、犯人にゆんゆんやけんけんの事なんか話したりした?」

「えっ? そだなぁ、えっとねぇ……2人とも公にぃ、あんまり優しくしてくれなくってぇ、公悲しくて傷ついているんだぁ~って言ったぁ」

 

 それが原因だ。僕と由希は同時に溜息を吐く。

 

「公の言う優しいには応えられません」

「僕は親しくない女の子に、優しくするような事はしないから」

「ええ~っ? なんでぇ~っ? 公とけんけんはもう仲良しじゃない~っ。あ~っ、もしかしてぇ。けんけんは全部見せないとォ、仲良しだと認めてくれないタイプぅ?」

 

 僕の人格を貶める発言をした藤堂さんはお色気3割増しで、「公……けんけんになら全部見せても……いいよ?」と誘ってくる。

 一瞬ぐらっときたけど、藤堂さんはぐれ兄属性だと思い出したのでノーセンキューしておいた。

 

「真知については何か言った?」

 

 由希が話を戻すために質問すると、藤堂さんは人差し指を頬に当てて「えーっとォ……」と記憶を探っている。

 

「あんまり公と仲良くしてくれないって。いっつも仏頂面しててぇ、公ぃ、嫌われてるみたいで悲しくて傷ついているんだぁ~って」

 

 それが原因だ。

 半眼になったナベは、「おいおいおい」とツッコミを入れた。由希は頭を抱えて、「公~」と呻いている。僕は乾いた笑みを浮かべて、「うわぁ」と言った。

 

「うん? なぁに? なんで3人とも呆れてるの?」

 

 キョトンとした藤堂さんは惚けている訳じゃなく、本気で自覚していなさそうだ。

 

「犯人は藤堂さんが傷つけられた仕返しをしようと勝手に思い込んで、倉伎さんを誹謗中傷したんだよ。僕と由希に対する中傷は、やっかみが半分を占めると思うけど」

「えぇ~っ。ひっどォ~い。公、そんな事頼んでないのにぃ~」

 

 腰に手を当ててプンプンと怒ってみせた藤堂さんは、「そういう事ならぁ、公に任せてぇ」と言い出す。

 

「ゆんゆんやけんけんや真知の中傷文をばら撒くなんてぇ、絶対に許せないからぁ、公がビシッと言ってくるぅ」

 

 藤堂さんは倉伎さんに対する中傷文を見た時、笑っていたと記憶しているけど。自分の彼氏が後輩を誹謗中傷した動機を知って、怒りが湧いてきたのかな。そういう事にしておこう。

 

「公、1人で大丈夫?」

「ゆんゆんってば、公の事心配してくれるのォ? や~ん、嬉しい~っ♡」

「大丈夫だよォ、ゆんゆ~ん。公ちゃんのメガトンパンチは、殺人きゅウボァ!!」

 

 藤堂さんに脇腹を殴られたナベが、廊下に倒れ込んだ。

 頬を膨らませた藤堂さんは「翔ってば大袈裟~っ」と言っているけど、彼女の拳がナベの脇腹にめり込んだ際にドスッて鈍くて重い音が聞こえたから、大袈裟でも何でもないと思う。

 

「じゃあ、公に任せた」

 

 犯人にガッツリ説教すると息巻いていた由希は、気勢を削がれたらしい。遠くを見るような眼差しになって、藤堂さんに丸投げした。

 由希が説教しなくても、犯人はキン・ケンやプリ・ユキのメンバーから説教という名の吊し上げを食らうだろう。

 

 

 

 その翌日の昼休み。藤堂さんが2−D(うちのクラス)にやってきた。

 

「ゆんゆんから聞いたかもしれないけどォ、公ぃ、犯人君とはお別れしたからぁ。心置きなく公と仲良くしてね~っ、けんけん♡」

 

 藤堂さんが誤解を招く言い方をしたせいで、僕と藤堂さんが付き合っているという事実無根の噂が流れてしまった。花島(はなじま)さんに勘違いされる前に、全力で否定したけど!

 僕は風紀委員の啓発ポスターに、『噂を流す者は、噂に泣かされる』という標語を力強く書きこんだ。

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