Side:
ぐれ兄の家に向かう途中で
というか外出時は必ずと言っていいほど車で移動する慊人は、ぐれ兄の家への行き方を知っているのだろうか。それ以前に体調不良の慊人は、道中で力尽きて倒れていそうな気もする。
若干の不安を抱えながらも、ぐれ兄の家が建つ小山に辿り着いた。
「建視……? どうしてここへ……」
頂上へと続く石段を上っていたら、急ぎ足で石段を下りてきた
僕が上半身にアンダーシャツしか身につけていないせいか、由希は奇異の目を向けてくる。ここに来る途中、すれ違った人達にも同じような目で見られんだよな。
「慊人を捜しに来たんだよ。それより、由希はどうして外に出ているんだ。
由希は怪訝そうな顔で「事情って?」と聞き返してきた。事態がよくない方向に転がっているのを感じながら、僕は説明する。
「今朝、慊人が
「……本田さんは
迂闊な行動を取った夾を恨みたくなったが、おそらく夾は慊人の現状を知らないんだろう。
本田さんは夾に言わなかったのか? なんで? 考えるのは後回しだ。
僕と由希は手分けして本田さんを捜す。由希は石段を下りて右の道を、僕は石段を下りて左の道を捜索する。
道を歩く夾の後ろ姿が見えた。項垂れた夾は落ち込んでいるように見えたけど、今は猫憑きの従弟を気遣う余裕はない。
「おい、夾。本田さんは一緒じゃないのか?」
「……なんで、そんな事を聞くんだよ」
僕が由希にした説明を繰り返すと、ただでさえ生気がなかった夾の顔が真っ青になった。手分けして本田さんを捜そうと提案する前に、夾は由希が向かった方向へと走り出す。
僕もそっちに行こうとしたら、白いミニバンが走ってきて僕の近くで停車した。車の後部座席から降りてきたのは、黒一色のロングワンピースを着た
「久しぶりね……」
淡々と紡がれる声を懐かしいと思ってしまうほど、本当に久しぶりだ。もう二度と会えないだろうと思っていたせいもあって、後ろめたさより愛おしさの方が上回ってしまう。
そんな僕のお花畑な思考を察知したのか、続いて後部座席から降りた
花島さんの前から逃げ出した翌日から学校を休み続けて、何の前触れもなく休学届を出したからね。責任を感じさせてしまったと思う。
本当なら土下座して謝るべきだけど、それは後だ。
「花島さん。いきなりで悪いけど、本田さんが今どこにいるか判る?」
「あっちの方向から
花島さんが指差した先は、小山の頂上付近の森の中だ。捜索範囲広いな。花島さんにナビをお願いしたら、彼女は「いいけど……」と言う。
「透君の身に迫っている危険とは何なのか、知っているなら教えてちょうだい……」
恵君に送ったメールには『本田さんの身に危険が迫っているから、車で迎えにきてほしい』としか書かなかったからな。
僕は花島さんや恵君と並んで道路を歩きながら、話せる範囲で説明した。
本田さんは以前、
そして今朝、慊人が精神的に不安定な状態で家から飛び出し、行方知れずになっている事。
「慊人は感情が激しく乱れると、他人に八つ当たりする事があるんだ。慊人と本田さんが鉢合わせしてしまったら、本田さんに危害が及ぶかもしれないと思って」
「……透君のすぐ近くに、感情が激しく乱れた電波の持ち主がいるわよ……」
なんてことだ。どうして悪い予感ばかり当たるんだろう。
「ぐれ兄の家の庭から森に入るのは遠回りだから、ここから森の中を突っ切る最短ルートをとろう」
僕は、草摩家の所有地である小山と公道を区切る石垣の上に飛び乗った。
花島さんは自力で石垣を登れなかったので、僕が手を貸して引っ張り上げる。恵君は自力でよじ登っていた。
ロングワンピースを着た花島さんにとって傾斜になった山道は難関かと思われたが、彼女はスカートの端を軽く持ち上げて驚くほど素早く山道を登っている。
持久走の記録を計った時に、スタートラインで力尽きた花島さんとは別人のようだ。
しばらくすると、慊人の気配が感じられるようになった。慊人の感情が昂っているのか、僕の胸の奥がザワザワする。
本田さんを傷つけないでくれと祈った矢先に、慊人の気配が急に凪いだように静かになる。怒りすぎて冷静になっちゃったとかじゃ……と危ぶんでいたら、慊人の声が聞こえた。
「慊人が助けを求めている……?」
「透君の電波が急に弱くなったわ……!」
花島さんは目に見えて焦りの表情を浮かべた。
胸の奥にいる盃の付喪神は慊人の求めに応じるべきだと主張していたけど、今は本田さんが優先だとねじ伏せてやる。
花島さんの後を追いかけて崖の下に辿り着くと、地面に仰向けに倒れた本田さんを見つけた。
「透君……! 透君……っ!!」
親友に駆け寄った花島さんが必死に呼びかけても、本田さんは返事どころか身動きすらしない。
崖の一部が崩れている。あそこから落ちた……のか? 4メートルぐらいの高さがあるぞ。
近寄って見たら、本田さんの腕にはナイフで斬られたと思われる傷があった。顔には殴られた痕もある。
……本田さんはこんなになるまで、慊人の八つ当たりを受け続けたのか。
僕が慊人を捕まえていれば、こんな事には。本田さんにもしもの事があったら、僕の責任だ……!
目の前が真っ暗になったけど、落ち込んでいる場合じゃないと思い直す。僕がズボンのポケットを探って携帯を取り出すより早く、恵君が自分の携帯で119番にかけている。
到着した救急隊員の案内をするために石段の下に向かおうと思ったら、息を切らした由希と夾がやってきた。
「ほ、本田さんっ! 救急車を……」
「俺が呼んだよ」
恵君の返答を聞いた由希は「
死人のような土気色の顔になった夾は本田さんに近寄り、倒れている彼女の側で膝をつく。
「と……っ、透……?」
「触らないで……」
本田さんの頭に触れようとした夾を、花島さんが厳しい口調で制止する。
「透君は頭を強く打っていると思うわ……」
「……っ、待……っ、待ってくれ……待ってくれ、待てよ」
うわ言のように同じ言葉を繰り返す夾は、意識のない本田さんに話しかけているらしかった。
「違う……っ、違うんだ、こんなことを望んだんじゃないんだ。透、待てよ、こんな……っ」
夾の様子が変だ。本田さんと何かあったのかな。
「大丈夫……ですよ……」
本田さんのか細い声が聞こえた。よかった、意識を取り戻したようだ。
「もう……大丈夫ですよ……」
「いいよ……もういい……わかった、いいから……黙っとけ……」
夾は泣きながらそう言ったが、本田さんは再び気を失ってしまったから恐らく聞こえていない。
本田さんの手をとった夾は、彼女の手の甲にキスをしている。
いつになく大胆な行動に出た夾は、僕と花島さんと恵君の存在を忘れているな。呪殺しそうな目付きで夾を睨む花島さんを無視するなんて、ある意味すごいよ。
それにしても、あんなに怒る花島さんは初めて見た。夾は本田さんと何かあったっぽいけど、暴言を吐いたりしたのだろうか。
本田さんには優しく接するようになった夾がそんな事をするなんて考えにくいけど、しばらく会わない間に本田さんと夾の関係に変化があったのかもしれない。
▼△
Side:
草摩夾を慰めるために意識を取り戻した透君は、再び気を失ってしまった。恥知らずな草摩夾は透君が気絶しているのをいい事に、透君の手の甲に口づけている。
やめて、透君に触らないで。
透君の想いを無視した罪悪感。自分の言動を悔いる気持ち。今日子お母様に対する後ろめたさ。そういった電波が
……ダメ。自分を抑えつけないと。このどす黒い感情に任せて力を解き放ってしまったら、草摩夾を殺してしまうかもしれない。
――食えよ。おまえ、魔女なんだろ? 魔女は生きたイモリを食うって、姉ちゃんが言ってた!
小学生の時、私の給食に生きたイモリを投げ込んだ男の子に殺意をぶつけてしまった。
憎悪に飲まれた私の毒電波を食らった彼は意識を失って病院に運ばれ、1週間も昏睡状態に陥ってしまい。病院で付き添っていた彼の母親も、過労で倒れて入院する事態になってしまった。
あんなに深く黒く、誰かの死を願ってしまう自分が怖かった。念じるだけで、いとも容易く他人を害する自分の力も。
私はもう誰の死も望みたくない。
その時、恵が私の手を握ってきた。私が必死に自制しているのを察したのかもしれない。
救急車のサイレンの音が近づいてきた。草摩由希の案内で崖の下に駆けつけた救急隊員が、透君を慎重に担架に乗せて運んでいく。
透君を運ぶ救急隊員の後についていって森から出ると、草摩紫呉の家の前から汚れた白い着物の上にスーツの上着を羽織った人が駆け寄ってきた。
「と、透……透っ! 返事をしてよ、透……っ!」
必死な声で透君を呼ぶ
それ以上に気になるのは、透君を傷つけてしまった後悔の電波を草摩慊人から感じる事。
透君の腕にあった大きな切り傷はナイフか何かで斬られたような痕に見えたから、彼女の仕業かもしれないわね。
私が草摩慊人を睨みつけると、彼女は怯えたようにびくりと肩を震わせた。草摩慊人を庇うように、草摩紫呉が間に入ってくる。
「咲ちゃん、透君を追いかけなくていいのかい?」
「酒クサ!! ぐれ兄、朝まで飲んでいたのかよ!」
建視さんが鼻をつまみながら苦情を訴えた。本当にお酒臭いから私も鼻をつまんだ。恵も同じようにしている。
「作家仲間と飲んでいたら盛り上がっちゃったんだよ。それより、なんで上半身にアンダーシャツしか着てないの? 変態みたいだよ」
「花島さん、本田さんの所に行こう」
着ているものについて追及されたくないのか、建視さんは草摩紫呉を無視した。建視さんは変態じゃないと思うけど……多分。
石段を下りて道路に辿り着くと、心配そうな顔をした父さんが救急車の側に立っていた。
父さんは車の中で待機していたはずだけど、恵から連絡を受けて事態を知ったのでしょう。
「付き添いの方は4名までです」
救急隊員の言葉を聞くなり、私は真っ先に付き添いを名乗り出た。
「ぼ、僕も透の側にいたい」
躊躇いがちに希望を述べた草摩慊人の言葉を聞いて、少し疑問に思った。
草摩慊人の電波情報から女性だと判断したのに、一人称に“僕”を使っていたから。
一人称が“僕”だろうが“俺”だろうが“拙者”だろうが、今はどうでもいい事ね。
草摩紫呉が「僕は一応、保護者代理だから付き添わせてもらうよ」と言った後、父さんと何やら話していた建視さんが口を開く。
「僕と由希は、花島さんのお父様の車に乗せてもらうよ」
「俺も父さんの車に乗るから、夾さんが透さんに付き添いなよ……」
「……俺は行かねぇ」
意気消沈した草摩夾の発言を聞いて、私は自分の耳を疑った。
「それは病院に行かないという事……? 透君が心配じゃないの……?」
「俺がいると透を傷つけちまう……」
……最近の草摩夾は、透君を特別に大切に想うようになったと思っていたけど、とんだ勘違いだったみたいね。
「さっき夾が呼びかけた時、本田さんは意識を取り戻しただろ。夾が側で呼び続ければ、本田さんの容体が良くなる可能性があるんだぞ」
建視さんの説得を聞いた草摩夾はぴくりと反応したけど、自分1人が世の中の不幸を背負っているような腹立たしい面構えのままだから、考えを改めるまでには至ってないわね。
「花島がいる……花島がついててやったほうがいい」
はらわたが煮えくり返るような怒りを感じた。
透君は草摩夾を愛しているからこそ、呼びかけに応えるべく意識を取り戻したのに。親友の私が呼んでも、透君は返事をしてくれなかったのよ。
この無力感がわかるかしら? わからないでしょうね。
あるいは、わからないフリをしているのかしら。
……それは私も同じだけど。
私は建視さんから特別な想いを寄せられている事に気付きながらも、素知らぬ振りをしている。
恋人になってほしいとか言ってこないなら、あえて私から何か言う必要はないだろうと思って。
私は
それを伝えると気まずい関係になって、友達として遊べなくなるんじゃないかと恐れたのよ。
私は草摩夾の事をとやかく言えないけど、それとこれとは話が別よ。
草摩夾にも事情はあるのでしょうけど、知るものですか。たとえ透君が草摩夾を許しても、私は決して許さない。
私は根深い怒りを抱えたまま、恵や草摩慊人や草摩紫呉と共に救急車に乗り込んだ。救急隊員に促されて透君に呼びかけ続けたけど、透君は反応を返してくれなかった。
いっそのこと電波で直接脳に
草摩総合病院に搬送された透君は、救命救急センターに運ばれていく。付き添いは必要ないと言われたので、私達は待合室のソファに座って待つ。
治療を受けた透君は、緊急入院する事になった。透君の親族には草摩由希が連絡したらしい。
「慊人、診察を受けに行こう」
草摩紫呉が草摩慊人を連れて行こうとしたので、私は「待ちなさい……」と呼び止める。
「草摩慊人からは話を聞かなきゃいけないの……透君の腕の傷とかね……」
「咲、やめなさい」
父さんに制止されて、引き下がらざるを得ない。その隙に、草摩紫呉は草摩慊人を連れて立ち去った。
草摩慊人を追いかけてきたと思われる建視さんは、待合室に残ったけど。
父さんは一旦、家に帰った。母さんと
「花島……っ、透の容体はどうなんだ!?」
病院に駆けつけたありさに、恵が「透さんは意識不明だよ……」と話した。
ありさの顔が恐怖で染まる。
……
私の隣に座ったありさは、祈るように両手を組んだ。私も祈りを捧げる。
今日子お母様。どうかお願いですから、透君を連れて行ってしまわないで下さい。
透君は自分だけの倖せをまだ掴んでいません。
今日子お母様が、透君の倖せを天国から見届けたいと思っていらっしゃるのなら、どうか……!
生きた心地がしない時間を過ごし、夜の8時になった頃。医師との話を終えた透君のおじい様が、私達のいる待合室にやってきた。
「透さんが意識を取り戻したよ。後遺症の有無は検査をしないと判らないけど、危険な状態は脱したようだ」
その報せを聞いた瞬間、喜びと安堵がどっと胸に押し寄せた。止めどなく溢れてくる涙が頬を濡らす。
「……っ。今日子さんがこっちに来ンのは早えよって、透を追い返してくれたんだ」
ありさは涙声でそう言った。
そうね。誰よりも透君を愛していらした今日子お母様は、透君が夭折するなんて絶対に認めないわよね。
今日子お母様が透君を連れて行ってしまうとか思ってしまって、ごめんなさい。無言で泣き崩れた私の背を、恵が擦ってくれた。
ひとしきり喜んで涙が止まった頃、建視さんが立ちあがった。
草摩家に帰るのかと思ったけど、予想に反して建視さんは私達の近くにやってきて、深々と頭を下げる。
「ごめんなさい」
「それは何に対する謝罪かしら……?」
「僕の注意が足りなかったせいで、本田さんが森に入って大怪我をしてしまったから」
「注意が足りなかったというのは、どれを指しているのかしら……。透君に対する注意喚起……? それとも、草摩慊人が暴走しないように注意を払う事……?」
建視さんは躊躇いがちに、「両方」と答えた。
「草摩慊人を止められなかった事が罪になるのなら、私も同罪よ……」
「花島さんは悪くないよ! 僕が花島さんを呼んで、巻き込んでしまったんだ」
「私と恵は自分の意志で、透君を助けに行くと決めたのよ……私達が貴方の指示に従って動いたような言い方をしないで……」
私は込み上げた苛立ちを抑えるために息を吐き出した。透君を助けられなかった怒りを、建視さんにぶつけても仕方ないわ。
「てことは、アキトとかいう草摩の奴が透に大怪我を負わせたのか」
声は静かだけど、ありさは青筋を立てて激怒していた。
草摩慊人は診察を受けに行ったまま戻って来なかったけど、それで正解だったのかもね。ここにいたら、ありさにシメられていたわよ。
「待って、魚谷さん。責任は僕にあるから、殴るなら僕にして」
「アキトって奴をぶっ飛ばしてから、てめぇをボコってやるよ」
いけない。このまま放っておくと、ありさはバイクで草摩家に突っ込むかもしれないわ。
「ありさ、落ち着いて……草摩慊人は透君が崖から落ちた現場に居合わせたけど、崖が崩れたのは偶然よ……」
草摩慊人が透君を傷つけた事は、今のところはありさに言わないでおきましょう。
私達が怒りに任せて報復しても、透君が悲しむ結果になってしまいそう。
こんな風に考えられるようになったのは、透君の意識が戻ったという報せを聞いて、いくらか心に余裕ができたからね。
腕組みをしたありさは納得がいかなそうな顔をしているから、詳細な経緯を説明する役目は恵に任せた。私は建視さんと向かい合う。
「ところで、建視さん……私のメッセージに対する答えはもらえないの……?」
建視さんは何も言わず、私をじっと見つめてきた。熱の籠った貴方の視線を真正面から受けると、居心地の悪いような気分になる。
異性からそんな目で見られた事がなかったからというのもあるけど、やっぱり私にとって建視さんは“友達”で、似たような奇妙な力を持つ“仲間”だから。
……それに同年代の男の子は、小学時代に私が殺しかけた彼を連想してしまって少しだけ苦手意識がある。
わかりやすく好意を示してくれる建視さんが恋愛対象にならないのは、その苦手意識が影響しているんじゃないかと思う。
というのは単なる言い訳で、人間関係の中で最も壊れやすいと言われる恋愛関係になりたくなかっのよ。建視さんは初めてできた“仲間”だから、失いたくないと思ってしまった。
儘ならないものね。私が溜息を吐くと、建視さんは不安そうな表情になった。
私と会う機会はもう無いかもしれないとか思っているくせに、私の機嫌を気にするなんて変な人ね。変テコで……困った人だわ。
「花島さんが僕の復学を待っていてくれるのは、正直嬉しいよ。でも……」
苦笑する建視さんから、諦観の念を感じ取った。貴方はできる事なら学校に行きたいと願っているのに、どうして諦めてしまうの?
――
――私達、まだこんなに近くにいるのに、離れるの嫌です……。私はまだ知らない事が、たくさん……あるかもですが。でも……離れていかないで下さい、はなちゃん。
転校先の中学校の同級生に力を恐れられた私は、透君やありさから遠ざかろうとした事があった。その時、2人の親友は私を引き止めてくれた。
私も同じような事を建視さんに言えればいいけど、上手く伝えられなくて建視さんをまた追い詰める結果になってしまったらと思うと、怖い。
以前のように建視さんと一緒に遊んだりご飯を食べたりしたいと思うのに、彼の内面に踏み込んで傷つけた場合の責任は負いたくないと逃げの思考に走る。私は卑怯だわ。
建視さんはこんな私のどこが好きなのかしら? ……いけない、全く関係のない方向に考えが逸れてしまったわ。
「建視さんは何か勘違いをしているのではなくて……? 私は透君が危険に飛び込もうとしたら助けてほしいとは言ったけど、貴方1人で問題を解決してほしいとは言ってないわよ……」
建視さんは驚いたように赤い目を見開いたけど、相変わらず自分1人で問題を抱え込むつもりみたい。意固地な電波を感じるわ。
「1人でやらなきゃいけないと決めつけてしまう前に、誰かに相談してみたら……? 例えば、そこの草摩由希とか……」
私と建視さんの会話を黙って聞いていた草摩由希は、「んぇっ?」と変な声を上げた。
「草摩家の問題について何も知らない私が口出しするのはどうかと思うから、建視さんの説得役は貴方に任せるわ……」
結局、草摩由希に丸投げしてしまった。
建視さんは残念そうな面持ちで、私をちらりと見てくる。
私が説得役の方が良かったようだけど、お生憎様。貴方は私をやたらと美化するけど、私はお世辞にも心根が美しいとは言えないのよ。