夏のある日、それはそれは燦々と降り注ぐ太陽の光が、水面に円環を描いていた。道路に犇めく陽炎が、淡い夏を魅せる。
「マジで暑い、なんなん地球温暖化って...」
そんなため息交じりにぼやく神崎 青は、温くなったタオルを振り回し、自分の顔に風を送る。三時間目になるあたりだろうか。日光がちょうど真上に向かって歩を進めているのが窓越しに見える。
「暑い暑いってうるさいわね、頭から氷水でもぶっかけてあげましょうか?」
綿月 雫はそう返した。
「かけれるもんならかけてみろよ、学校に氷なんてあるわけねぇだろ」
「そこじゃない」
彼女たちがいるこの希颯高校は、山間にひっそり佇みながらも、少し歩けば都会に近い。そういった自然にあふれつつ、田舎というわけでもない不思議な学校である。春になれば桜に包まれ、夏になれば木々が生い茂り、秋になれば枯れ葉が視界を埋め尽くし、冬になれば銀世界を空に映し出す。何人の生徒がここを卒業していったのかが分からないほど、古い校舎が聳え立ち、卒業生の贈り物と思われる看板やら幕やらサッカーゴールやら。歴史を語るのではなく、歴史を感じる。そんな学校だ。
青と雫は高校一年生。青はバドミントン部で雫は軽音部に所属しており、日々勉強を頑張り........まぁそこは置いておくとして、部活に精を出し、毎日を送っていた。チャイムが鳴り、先生が教室に入ってきつつも構わず駄弁っていると
「今日から転校生が来ます。みんな仲良くしろよ」
と、担任の声。当然クラスはざわざわし始め、男子は
「可愛い子かな!美人かな!?」
と言ったり、女子は
「イケメンかな!イケメン来いよ!!!!」
と、クラス中大騒ぎになった。そんな中、二人は
「転校生か.....この時期に転校ってなんだろ、親の離婚とかかな?」
「あんた冷静よね....この七月に転校なんてなかなかないと思うから、何か理由があるんだろうけど、今....か...」
「ん?なんかあるっけ?」
「いや...予定くらい把握しておきなさいよ....そろそろ生活教室でしょ?グループ作ってキャンプするじゃない一年生は」
「ああ、そうだったっけ。どうでもいいからバドミントンやらせてくれよ」
「いや、私に言われても....」
そうこうしていると転校生が来たようだ。
「入っていいぞ」 ガララララ....
そこには、白髪の170位の背丈だろうか、女性か男性か分からない『なにか』が立っていた。クラス中が静まりかえる。
「今日からこのクラスに入る花蓮さんだ。こちらの方には色々言えない事情があってな、服装も私服だが、プライバシーに関わることがあるから、学校で特例として服装も髪色も認めている。みんな聞きたいことは山ほどあるだろうが、詮索しないように」
『花蓮』さんが日本人であることは、一を聞いて十を知る必要もなく明らかであるが、髪色は白髪で目はオッドアイ、顔だちも男女の識別は出来ず無表情である。紅に輝く唇は妖艶な女性の雰囲気を醸し出すが、鼻は高く、目は彫りが深い。ボーイッシュなようで、女顔にも見える。その『花蓮』さんが口を開いた。
「花蓮です。転校してきた理由も、親が誰なのかも、私が誰なのかも分かっていません。入院していて、退院するとこの学校に行けと言われました。言ったのが誰なのかもわかりませんし、何故入院していたのかもわかりません。唯一分かっているのは、私が花蓮という名前だということ。それだけです。よろしくお願いします。」
クラス中が何も言えず、どうしたらいいのかわからなくなっていた。青も雫もその例外ではない。記憶喪失なのか、はたまた狂っているのか、それともふざけているのか。まったくわからないまま、『花蓮』は自分の席に座った。しかし、青はただ一人『花蓮』に興味を抱いたのだ。なぜなら、『花蓮』は席に向かう途中、冷たい目でクラスメイトを見ながら、青にだけ、なにか期待するような、面白いものを見つけたかのような、そんな目をしていたからである。
これが、青と花蓮の初めての出会いだった。