わんぱく全盲お姫様   作:アサルトゲーマー

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2話も読者を殺すつもりで書いています


メイドベル

 

 

 

 とある世界のとある大陸。

 そこには貧しい、しかし平和な小国がありました。

 

 小国に住むお姫様の名はユズ。彼女は目に光を映すことができませんでした。

 そのためお城の人たちはあれやこれやと工夫を凝らします。

 

 その中のひとつが『ベルメイド』というものでした。

 

 ベルメイドとは、その名の示す通りベルを体の何処かに取り付けたメイドの事です。目の不自由な姫様が孤独を感じないよう、またメイドたちの居場所を把握できるようにする心遣いでした。

 そんな心配とは裏腹にユズ姫はわんぱくに育ち、いまやベルなど無用の長物。自然にベルメイドは存在を減らしていきます。

 そして現在、ベルメイドはたった一人。それもおやつの時間限定だけになりました。

 

 人数はともかく、どうして時間限定なのか?それの答えはたった一つ。

 ベルメイドはいつもお菓子を携帯していて、ユズ姫が求めれば必ず与えたから。そのことから「ベルの音=おやつ」と認識されているからなのです。

 

 

 

■■■

 

 

 

 ちりちりちりん。

 小さく、しかし澄んだベルの音が鳴ります。これがユズ姫にとってのおやつの時間の合図。普段であれば数分、遅くとも10分以内には彼女は現れます。

 

 しかし今日に限って、ベルを持っているのはメイドではありません。

 やせぎすの老人、魔法大臣マジィ・パネエです。いくら追いかけても捕まらないのなら、向こうから来てもらおうとの逆転の発想でした。

 魔法大臣からベルジジイにジョブを変えたパネエは「今度こそは」と、声をださないようにニヤニヤと笑います。そのビジュアルはまさに悪者そのものです。

 

 

 何も知らないユズ姫は、この悪のニヤケ面のベルジジイに捕らえられてしまうのでしょうか…?

 

 

 パネエは待ちました。5分、10分……。ついに20分を越える頃になって、何かがおかしいと感づきます。

 いつもならゴキゲンに鼻歌を歌いながら、乱暴に地面をカツンカツン叩いて現れるユズ姫が、その存在を欠片も主張しないからです。

 

 いやまさか。そんな莫迦な。

 

 作戦の失敗を悟ったパネエは本来のおやつがある場所、厨房に向かいます。

 

「ここにユズ姫様は来られなかったかね!?」

 

 到着するなり彼は声を荒げます。それを見越してか、本来の『ベルメイド』ウノがすぐに頭を下げました。

 

「姫様でしたら、先ほどまでここに」

 

 そして掌でテーブルを指し示します。彼女の指す先、そこには今日のおやつであるパイ……の粉と食器だけが残されていました。

 パネエは絶句します。そして驚きのあまり、そのしわくちゃの手からベルを取り落としてしまいました。

 

 ちりちりちりん。

 小さく、しかし澄んだ音が物悲しく響きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パネエ爺もおばかよねぇ。あんな罠にむざむざ引っ掛かるわけ無いじゃないの」

「姫様。もう外は暗いですよ。寝室に戻られた方がよろしいのではないでしょうか」

「私には光も闇もないわ。暗くたって困らないから大丈夫よ」

 

 『サボり屋』ペートはため息を吐きました。夜警をしているところで何者かが現れたと思ったら、ユズ姫だったのですから。

 彼はユズ姫を一瞥しました。暗がりの中でも映える銀髪は月明りの中で一層美しさを増し。思わず手が伸びそうになったところを咳ばらいをしてごまかします。

 

「そもそも音が違うのよ。ウノはもっと優しく鳴らすの。ころんころーん、って」

「はあ」

「ふふふ、なんだか懐かしくなってきちゃった。あの頃のウノったら、ベルを鳴らしすぎるから大変、で……」

「……大変で、どうなさいました?」

 

 突然言葉の止まったユズ姫を訝しむようにペートは問いかけます。しかし彼女は返事を返さず、あたりを見回すようにキョロキョロと頭を動かし始めました。

 

「鳴ってる…」

「何がですか?」

「そうね、私の過去かしら」

「はあ」

 

 詩的な答えにペートは生返事。それを気にした風もなく、ユズ姫は足取り軽くその場を立ち去り始めました。

 

「多分今日は戻ってこないわ。おやすみペート」

「ええ、おやすみなさい」

 

 暗がりに消えていくユズ姫。それを見送ったペートは再び視線を城外に移します。

 静寂。ときおり弾ける松明の音以外何もない世界で、彼は退屈を感じるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 『ベルメイド』ウノは、自室でベルを転がしていました。

 そのベルは錆びて変色し、音らしい音も鳴らしません。それは10年も前に作られた、初期のベルメイドに配られた特注品だったのです。

 良い音を出すために様々な合金を使い、それ故に1年もしないうちに腐ってしまう儚いものでした。

 

 いまとなってはノイズをまき散らすだけのゴミ。しかしウノはこれだけは捨てられません。

 なぜならそれは、彼女とユズ姫だけの、秘密の合言葉だからです。

 

 トントントン。

 彼女の部屋にノックの音が響きました。

 

「……はい、どうぞ」

 

 ウノが返事をすると、扉が開かれます。中に入ってきたのはユズ姫でした。

 

「うふふ、今日はどうしたの?」

 

 ユズ姫が(ベル)のように笑いながら問いかけます。その優しい笑みに恥ずかしそうにしながら、ウノは小さな声で答えました。

 

「今日は…パネエ様がいらしたので、ゆっくりとできませんでしたよね」

「うん、そうね」

「だから、その…」

「……」

 

 彼女はウノの言葉をじっと待ちます。一方でウノは顔が真っ赤になるほどいっぱいいっぱいで、なかなか続きが喋れません。

 そのまま二人は何も言わず、ただ時間だけが流れます。その時、ユズ姫が悪戯でも想い付いたように悪い顔になりました。

 

「そうねえ。私はなんだか眠くなってきちゃった。今から自分の部屋に戻るのは面倒よねえ」

 

 ユズ姫は彼女に顔をグイと近づけます。それに気圧されるようにウノは身をのけぞらしました。

 

「久しぶりに、たっぷりと甘えたいわ。ウノおねえちゃん?」

「はっ、はいいぃ」

 

 のけぞった体に抱き着くユズ姫。抱き着かれたウノは、見える頭頂部を震える手で撫で始めます。

 さらりとした感触。家臣たちが必死になって手入れをしているだけあって、その手触りは極上でした。

 

 ウノは最初期のベルメイドの一人。そして、ユズ姫と姉妹のように育ってきた元おつきのメイドだったのです。

 甘え上手な彼女にメロメロなウノは、定期的に、そして頻繁に彼女と過ごしてしまうのでした。

 

「明日もパネエ爺の件、よろしくね?おねえちゃん」

 

 彼女の甘い囁き。それに一も二もなく頷いてしまいます。

 もちろん割を食うのはパネエですが、この強烈な誘惑に勝つ術をウノは持ち合わせてはいないのでした。

 

 はたしてベルは誰のために鳴っているのか。すっかり因果が逆転してしまった二人はしかし、姉妹のように仲睦まじく夢の中に旅立つのでした。

 

 

 

 

 

「大好きよ、ウノ」

 

 その囁きはきっと、夢の中の彼女が受け取るのでしょう。




続きは未定です

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