わんぱく全盲お姫様   作:アサルトゲーマー

4 / 4
4話ですが勿論性癖に妥協はありません


ラブ・イズ・ブラインド

 

 とある世界のとある大陸。

 そこには貧しい、しかし平和な小国がありました。

 

 大国にはおよそ及びませんが、歴史はそこそこ。そして城もそこそこ大きいとなれば、脱出用の抜け道の一つや二つはあるものです。

 しかしそんなものがあると知られては脱出用にはなりません。情報は管理され、場所は隠蔽されています。知っているのは王と王女と近衛だけ。

 

 そのはずですが、何事にも例外があるもので…。

 

 

 

■■■

 

 

 

 ディエスは貴族階級の嫡子として生まれたワンパク坊主です。

 屋敷を抜け出しては庭を駆け回り、いつも泥だらけになって帰ってきました。

 彼の母はいつも叱るのですが、父は子供はそうでなくてはと思っており、今は屋敷に入る前に泥さえ落とせば一応お咎めなしとなっています。

 

 そんなディエスの趣味は庭の冒険。丁寧に手入れされた木のゲートを潜り、草の絨毯を抜け、花畑へと足を延ばします。

 普段であれば誰もいないその場所に、しかし真っ白な影が一つ。

 驚いたディエスはその場で立ち止まり、その影をじっくりと眺めます。

 

 背を向けた人型。装飾の無い、しかし見事なまでに真っ白な外套。そこから伸びる手と髪もこれまた真っ白で、そこだけ色が抜け落ちているかのようでした。

 その真っ白な手が花弁を摘み取ります。そしてその影は匂いを嗅ぐように頭を近づけ…。

 それの中身を吸い始めました。

 

「ええ…」

 

 謎の真っ白の存在は、ただの花蜜泥棒でした。 

 

 

 

 

「おい」

 

 花蜜泥棒はその後も犯行を続け、ついに犠牲が10に届こうとしたところでディエスに声を掛けられます。

 振り返る影。果たしてその(かんばせ)は少女のもので、とても美しいものでした。ディエスは一瞬どきりとしますが、その口に咥えられた花弁を見て気分が急激に落ち着いていくのを感じました。

 

「何やってんだよ。ここは俺んちの庭だぞ」

 

 えっ、そうなの?言葉にはしませんでしたが、彼女の表情はそう物語っています。

 彼女は花弁をもごもごと転がし、味のしなくなったそれを地面にそっと置くと、実に見事な跪礼(カーテシー)を行いました。

 

「初めまして。私の名はユズ。この度はとんだ御無礼を…」

「いや取り繕ってもおせーよ」

 

 ディエスはぴしゃりと言い放ちましたが、名乗った彼女、ユズ姫はにこにこと笑うばかり。

 なんだか調子が狂うなと思ったディエスは、早々に会話を切り上げようとします。

 

「おいユズ。すぐうちから出ていくんなら誰にも言わないから、早く出てけよ」

「出口はどちらでしょう?」

「は?お前が入ってきた場所だよ」

「………」

「お前どっから入ってきたの?」

「少し壁の穴を……」

 

 ウフフ。ユズ姫はその先の言葉を濁します。

 流石にどこかに穴を開けたとは思いたくはないが、あとで使用人に確認させたほうがよさそうかな。彼はそう考えました。

 とにかく、距離こそあるものの、ここからでも立派な本門は見えます。ディエスはそちらを指さしながら言いました。

 

「ならあっちに門が見えるだろ。そっからなら出られるから」

「…申し訳ありません、見えませんわ」

 

 そりゃ、目を瞑ってたら見えねえだろ。彼はそう考えます。

 ヒトは目でものを見るのが当たり前。ディエスの中ではそうです。

 

「私、生まれつき、目が見えなくて」

 

 だからこそ、ユズ姫の告白はひどく衝撃的でした。

 

 嘘だろ。ほんとに?そういえば目を一度も見ていない。マジで。迷ったのはそれのせい?酷い事を言ったかも。

 

 彼の中で様々な言葉が過ります。

 どう言葉を掛けるべきか。悩んでいる彼の手を、ユズ姫はそっと包みました。

 

「もし宜しければ、エスコートをしていただけないかしら」

 

 ディエスは思います。

 ユズは…気にしていなさそうだ。そも、繊細なやつだったら一人で出歩いて花の蜜なんて吸ってるわけないよな…。

 それに、エスコートか。なんとなく大人な響きだ。なんか、イイかも。それにこいつ、可愛いし。

 

「……まかせろ!」

 

 少し逡巡のち、彼は承諾。

 ちょっとだけ背伸びしたように恭しく跪く彼に、ユズ姫は月のような笑顔を浮かべるのでした。

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

「──ってことがあったんだ」

「へえ、それは。とても不思議な体験をしたね。それからどうなったんだい?」

 

 夕食時、食堂。

 ディエスは今日の昼に起きた出来事を両親に報告していました。

 父親は優しく微笑みながら、話の続きを促します。

 

「それで、あいつったら俺がエスコートしてるってのに、あっち行ったりこっち行ったりでさ。庭から出すだけでも一苦労。結局昼まで歩き回るハメになっちゃったよ」

「あらまあ、その子はよほど楽しかったのね」

「ええ、そうかなあ」

「きっとそうよ」

 

 母親も優しく微笑みながら、彼の話に相槌を打ちます。

 

「それで門の外まで連れてったら、今度は顔を真っ赤にして怒ってるじいさんが来てさ。今度はそいつと追いかけっこが始まったんだ!」

「ほほう、それで?」

「家が城の方にあるって言うから裏路地の抜け穴を通ってそっちに逃げたんだ。……そういえば、あいつ目が見えてねーのになんであんなに詳しかったんだ…?」

「盲人の中には風の声が聞こえる人が居るそうよ。ひょっとしたらその子は風とお友達なのかもしれないわね」

「風と友達かあ。どっちかと言うとあいつ自体が風みたいな奴だったけど」

 

 ディエスは一旦会話を切り上げると、コップに手を伸ばして水を口に含みます。

 その瞬間を見計らって、父親と母親は視線を交わしました。

 

 ユズ姫だな。

 ユズ姫ね。

 どうする?

 放っておいても良いかと。

 なるほど。ユズ姫には友人が出来て息子も顔が繋げる。

 悪くないでしょう?

 ああ、悪くない。

 

 ディエスがコップをテーブルに置いた瞬間、既に両親は視線を外していました。

 

「なるほど。いい経験をしたようだねディエス?」

「いい経験?」

 

 彼は父親の言葉をオウム返しをします。母親はその言葉に深く頷きました。

 

「私たち貴族には、異性の手を引いて街中を掛けるなんて経験はなかなかできませんわ。ディエス、この出会いはきっと良いものになるでしょう」

「それにその子もきっと…いいや、すぐにまた私たちの屋敷に迷い込んでくる」

「どうして?」

 

 ディエスは首をかしげます。答えは簡単、王城からの抜け道の一つがこの屋敷につながっているから。

 しかしそんなことはおくびにも出さず。父親と母親は、声を重ねて答えました。

 

縁は味なもの(縁は異なもの)人と人の出会いなど(男女の出会いなんて)そういうものだ(そういうものよ)ディエス(ディエス)

 

 そして二人は、仲睦まじく笑うのです。

 

 

 




続きは未定です
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