海軍軍令部広報室が日々の業務に加え、近日開催される海軍のイベントに備え忙殺されている日のことだった。高木文則が昼食から戻るとデスクに一枚のメモが貼られている。メモの主は普段は声すらかけてもらえないような広報室次長、嫌な汗が一筋こめかみを走った。
「先輩、何かやらかしたんですか?次長直々に呼び出しでお小言とかヤバいでしょう」
「思い当たる節はないけどな」
隣のデスクの後輩を一瞥しつつ高木は最近の仕事を振り返る。参謀部の幹部の趣味嗜好について面白おかしく書いた記事だったか、取材拒否された協力会の役員の自宅にしつこく訪問したことだったか、言葉とは裏腹に直近の仕事だけでも雷が落ちそうなものしかない。
キリキリと痛む胃を抑えながら次長のデスクに向かうと件の次長は官報の原稿に目をやっていた。高木が来たことを認めるとデスクにあった一枚の紙を目の前に滑らせてきた。
「君に新しい仕事だ。今抱えてるやつは緊急のものは他の者に割り振って構わないからすぐにこれに取り掛かってくれ」
「自分みたいなのを使わなきゃならんような仕事ですか。どんな具合です?」
細かい説明書きには目を向けず上に一回り大きく書かれた表題を見ると"五盾戦特集"とある。
「知っての通り五盾戦は国内最強の鎮守府を決める鎮守府別対抗演習。海軍のみならず政府関係者や一部民間の大企業も注目している海軍の一大イベントだ。そこで色々と宣伝になりそうな企画を考えてるんだかな」
「その一つが大湊、横須賀、舞鶴、呉、佐世保から各一名ずつ主力級の艦娘に取材して記事にするってやつですか」
「そう言うことだ。提督でも良いかと思ったんだが艦娘の方がより宣伝効果が高いと思ってな。君には横須賀を担当してもらう」
上からの命令とあれば承諾する以外ないのが宮仕えの苦しいところである。しかし高木は違和感を覚えた。
「ある意味花形な仕事じゃないですか。自分に回された理由がわかりません」
自慢じゃないが高木は上からの受けが良い人間ではない。目立って反骨のポーズを取った覚えは一度もないがおもねることもしてこなかった。ただただ持ち前の押しと粘りで取材を重ね記事を書く。そんな仕事ぶりに上からはむしろ煙たがられてるような気さえする。
「誰もやりたがらないんだよ横須賀の担当は」
案の定、次長の話した理由は今回の仕事が"高木向き"であることを示していた。
「あそこの提督が非協力的だからとかってことですか?」
「いや、むしろ当の艦娘がね。取材を受けたがらないらしい」
「なら他の艦娘にすれば良いじゃないですか。横須賀なら華のある艦娘なんて幾らでも」
「そこは艦種のバランスというか、横須賀は空母が良いんだよ。他の四鎮はもう記事の大筋ができちゃってるから」
結局のところ取材拒否している艦娘のところに赴き強引に記事にしろということらしい。高木にとって嬉しくはないがそういう意味ではうってつけの人事であった。
「了解致しました。で、誰なんですその艦娘ってのは」
「横須賀第一艦隊所属、正規空母赤城だ」
それだけ言うと次長は原稿に目を戻した。