赤城から電話があった日から二日後の夜、高木は横須賀にほど近い小さな町の喫茶店に入っていた。店内はやや暗く、約束の相手を探すのに数秒かかった。
「待たせたな」
「いえ、私も五分ほど前に着きましたから。お呼び立てしてすみません」
奥のテーブル席に着いていた赤城を見つけると高木も向かいに腰を下ろしコーヒーを注文する。
「それで、連絡してきた頼みってのは?」
「高木さんに書いてもらいたい記事があるんです」
「書いてもらいたい?それは取材を受けてくれるってことか」
どこか引っかかる言い方に怪訝な表情になる高木。俯き加減になりながら言葉を探す赤城。執務室の時以来、またしても二人の間には微妙な空気が流れる。
沈黙を破ったのは高木だった。
「その口ぶりだとこっちの考えてる記事とは別のものってカンジだな」
ハッと顔を上げた赤城を見ればそれは一目瞭然のことだった。問題は赤城が書かせようとしているものは何なのか、それが見えてこない。
「・・話しにくいんであれば、先にこっちの話を聞いてもらっても良いか?」
「何でしょう」
「アンタ自身のことだ。この二日少し調べさせてもらったがアンタ普通じゃないな」
その言葉を聞き赤城の表情が凍りつく。寿司屋の時は雲をつかむように手応えがなかったが今は核心に触れている実感がある。高木は畳み掛けるように話を続けた。
「能力の面もだが、経歴も怪しい。横須賀に移る前が」
「そんなの、どこで調べたんですかっ!!」
赤城の声が店内に響き店主や他の客がこちらを振り向く。それには構わず高木はまっすぐ赤城に向けた視線を外さなかった。
「すみません」
「いや、俺もいきなりこんな話をするのは無神経だったかも知れない。すまない」
だが一連の会話で赤城の取材拒否の理由、その背景に近づいているのは間違いない。次の話をどう切り出すか、ここは慎重になるべきかも知れない。
「俺自身取材相手であるアンタのことを知らなさすぎた。そんな時にちょっと見せてもらったデータに違和感を覚えてな」
「何のデータですか」
「出撃と演習に関する戦闘データだ。制空権に関することで気になる部分があった」
「それで変に思って調べられたんですか」
「ああ、経歴についてもそれで気になって調べさせてもらった」
赤城の経歴、それは横須賀に着任する前のことだった。建造されたのはとある小さな鎮守府の工廠であり、そこの艦隊に所属した後、提督の転任に伴い舞鶴に異動となっている。そして舞鶴に何年か務めた後突然横須賀に異動になっている。
「この舞鶴から横須賀への異動が引っかかった。小さな鎮守府から提督の昇任に付き添う形や実力を買われて引き抜かれる話は聞くが同格の鎮守府に艦娘単体での異動ってのはあまり聞かない。トレードの形跡もなかった」
調べていくと普通ではない何かが彼女の周りについて回っていた。その気になって調べない限り特に気に留めないようなものではあるが。
一通り高木の話を聞いていた赤城はやがて諦めたようにため息を一つついた。
「たった二日でそこまで調べられてたなんて・・はっきり言って驚きました」
「調べた内容についてはまだ誰にも話していない。内容如何によっては今後も話すつもりはない」
「・・そうしてください。言いふらして良い性質のものじゃないですから」
言い終わると赤城は片手で顔を覆い天を仰ぐ。
「どこからお話しすれば良いのか・・少し整理させてください」
「ああ、構わない」
思った以上に高木の調査が深いところにまで達していたのだろう。赤城の頭の中ではこれからどうすべきか、その思案をしているように見えた。