一人称型めっちゃ難しいです。気を抜いたら性別変わりそうで怖い。
「まずは貴様らの適性を見る!これができない奴は囮にも使えん!開拓地に移ってもらう!」
訓練生の前で適性訓練の説明をしているのは、昨日の入団式の時と同じキース教官だ。
「腰の両側にロープを繋いでぶら下がるだけだ。全身のベルトを使ってバランスを取れ!」
教官が更に説明を続けている。この訓練は立体機動の基礎となるものだから、出来なければ適性がないと見なして容赦なく開拓地送りにするとのことだった。
この言葉で危機感を強めた人が多いようでどことなく場の空気が変わる。
「では始めろ!」
教官の合図が飛ぶ。順調に進み、自分の番を終えた者からホッとした顔で戻る。張りつめていた空気もすっかり元に戻った。
私も自分の腰にロープを繋ぐ。
「…上出来だ。素質があるようだな」
教官の指示で地面に降り、ロープを外しているとそんなことを言われた。
「ありがとうございます、先生!」
「…教官と呼べ、シュナイダー」
咄嗟にお礼を口にしたが、気が緩んでいたらしい。流石にこれくらいで怒られはしなかったけど、気を付けないといつかやらかしてしまいそうだ。
「何をやっているエレン・イェーガー!上体を起こせ!」
他の訓練生達がいる方へ戻ろうとした時、怒鳴り声が響いて反射的に顔を向けた。
エレンが上下逆さで宙吊りになっている。空中で逆立ちがしたいのなら申し分ないくらい完璧だが、この訓練はそのようなものではない。
そんな彼を見た訓練生達の反応は様々だった。憐みの眼差しを向ける者もいれば、笑っている者もいる。昨日エレンと剣呑な雰囲気を漂わせていたジャンは後者だった。
その後も何度か試みていたが結局一度も成功せず、教官は明日もう一度やって出来なければ開拓地行きだとエレンに告げ、今日の訓練は終了した。
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その日の夕方、エレンに頼まれてミカサやアルミンと共に自主練習に付き合うことにした。
「あれエレン、ベルトはどうしたの?」
「あー、さっき宿舎に置いてきたかもしんねえ」
アルミンの指摘通り、エレンはベルトを着けていなかった。宿舎は当然ながら男子用なので、アルミンが取ってくることになり、少しでも多く練習したいエレンには私のベルトを貸すことにした。
「上手くやろうとか考えずに、前後のバランスに気を付ければいい。腰巻きと足裏のベルトにゆっくり体重を乗せる」
ミカサに続けて私も口を開いた。
「焦らずに落ち着くことも大事だよ」
エレンの表情にはまだ不安が残っていたが、練習あるのみだ。私はゆっくりとレバーを回していく。
「…!できた!」
多少の揺れこそあるものの、エレンはしっかりバランスを取っている。昼間の失敗が嘘だったんじゃないかと思えるほどだ。
「エレン、出来たんだ!」
ベルトを手に戻ってきたアルミンが、目を輝かせる。地面に降りたエレンは私のベルトを外し、自分のものと取り換えた。
「一応もう一回やっとくか。メリナ、上げてくれ」
「了解、っと」
さっきと変わらない速さでエレンの足が地面から離れる。綺麗にバランスを保つ、ように見えた。
「っうわぁ⁈」
エレンはものすごい勢いでひっくり返り、思い切り頭を打ち付けてしまった。私は慌てて元の位置までエレンを下げる。ミカサとアルミンが急いでその身体を抱え起こした。
「僕とミカサでエレンを医務室まで運ぶから、メリナはこの器具を片付けたらこっちに来てくれ」
「わかった!」
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「エレン、手が止まってるよ」
私の声に、エレンはハッとしたように顔を上げた。頭の包帯が痛々しい。
あの後エレンの手当てを済ませ、着替えてから夕食にやってきたのだ。怪我から練習の失敗を察したのか、食堂のあちこちからエレンを笑う声が聞こえてくる。
「もう兵士なんて目指すべきじゃない」
「でもエレンは一度成功してる」
エレンより先に私が反論すると思っていなかったのか、3人は驚いた様に私を見た。
「…その後の練習では失敗した。明日できるとは限らない。それに、命を投げ打つことだけが戦うことじゃない」
「お前なあ…!俺はあの日、あの光景を見ちまったんだぞ!そんな理屈で納得できると思うのか?」
「でも、その覚悟のほどは関係ない」
「はぁ?なんでだよ」
「兵士になれるかどうかを判断するのはエレンじゃないから」
エレンは言葉に詰まる。私は思い切り立ち上がった。椅子が大きな音を立てる。
「それはミカサでもない。そうでしょ?」
「おい、いきなりどうしたんだよ?」
エレンの言葉を無視して、私は食器を片付けてから食堂を後にした。
明日再び行われるエレンの適性訓練を注意してみることにしよう。一番前で見ていたら今抱えている疑問の答えが得られるはずだ。
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「エレン・イェーガー、覚悟はいいか」
「はい!」
目の前で腰にロープを付けたエレンが元気よく返事をする。私は腰に付けられているベルトに目を凝らした。
「始めろ!」
キース教官の合図でエレンの足が地面から離れ、身体がゆっくりと持ち上がる。しっかりと上体を保ったままだったが、やがて金属の軋むような音と共にひっくり返った。
その様子を見て、昨日感じていた疑念は確信に変わった。失敗の原因はエレンではない。
「先生!」
「何度言えば分かる、シュナイダー。教官と呼べ」
他の訓練兵達からどっと笑いが起きる。
やっば、気を付けようと思ってたのにやらかした。
でも言っちゃったものは仕方ない。私は気を取り直して先程よりも大きな声で言った。
「エレン・イェーガーのベルトには不備があります!」
私の発言に、周囲から笑いの波がゆっくりと引いていった。エレンに至ってはひっくり返ったまま私の顔を凝視している。
「…なぜそう考えたか説明しろ」
教官は私の目を見ながら尋ねてくる。その表情に二つ目の疑念も確信に変わった。
「ベルトから、通常ではしないような不自然な音がしました。それに適性が無かったとしても、失敗した時に頭を打つようなことは有り得ません。以上の事実と、自主練習の際に本人以外のベルトで成功したことを踏まえて判断しました」
「……ワグナー!イェーガーとベルトの交換をしろ!」
適性訓練の補助をしていたトーマス・ワグナーという男子訓練兵がエレンとベルトを交換する。キース教官は見事に成功したエレンを見上げた。
「問題ない…修練に励め!」
その言葉に、訓練兵達からどよめきが上がる。故障していたベルトで成功させたエレンのことを見直したのだろう。
私は、アルミンと…誰だろう、名前は知らないけど2人の男子訓練兵と共にいるミカサに声をかけた。
「ミカサ、昨日はごめん。言い過ぎちゃって」
「気にしてないから大丈夫。アルミンがものすごく心配してたけど」
「そりゃ心配するよ!ミカサもメリナも言い争いとかするタイプじゃないし…。エレンだってはっきりとは言わないけど結構心配してたんだよ」
「ごめん、これからは気を付けるね。…そっちの人達は知り合い?」
私が訪ねると、アルミンは頷いて紹介してくれた。
「宿舎で寝るときの場所が近いんだ。背が高い方がベルトルト・フーバー、もう一人がライナー・ブラウンだよ。二人とも、彼女は僕の幼馴染のメリナだ」
「ライナーとベルトルトか。よろしくね」
「ああ、よろしく頼む」
「こちらこそ」
言葉の癖が似ているから、二人は同郷なのだろう。アニとも話し方が似ている気がするけど、出身が近いんだろうか。
「二人はアニと同じ出身なの?」
「どうして?」
目を丸くしてベルトルトが尋ねてくる。
「なんか言葉の雰囲気っていうか、纏ってる空気が似てる気がしたんだけど。違った?」
「いや、同じ出身だ。ウォール・マリア南東にある山奥の村でな…。ここに来てから言われたことなかったから驚いたぜ。なあ、ベルトルト」
「うん。エレンのベルトのこともそうだけど、メリナはすごいね」
ベルトルトの言葉にそんなことない、と首を横に振りつつ、私は遠くで別の教官と話しているキース教官をちらりと見た。
♦
それから約半年後、立体起動装置の訓練が始まるのと同時期に乗馬訓練が始まった。
調査兵団に入りたいのなら馬を扱えなければ話にならないし、憲兵団や駐屯兵団を選んだとしても緊急時には馬での移動が必要となる。いずれにしても、馬に乗れない奴は話にならないってことだ。
「そういえばアンタ、変わった目の色だよね」
隣で馬の世話をしていたアニに言われた。今日は乗馬訓練がないけど、昼食後、アニに誘われて厩舎に来たのだ。
変わった目の色か…。私の瞳は上部が青、下部が緑で、虹彩の中心につれて色が淡くなって混じり合っている。確かにあまり見ない色だとは思うけど。
「そうかな?」
「うん。虹彩が二色の瞳って見たこと無いよ」
「でも私の母さんも同じ色だったし、遺伝じゃない?」
鐘が鳴り、午後の訓練が間もなく始まることを告げる。厩舎から戻る途中、アニは私の顔を少し見ると口を開いた。
「シュナイダーって、もしかしてお母さんの姓?」
「そう。父さんが婿入りしたんだって。珍しいよね」
「まあ、そういう夫婦もいるんじゃない」
出会ったばかりに比べると、だいぶアニの態度も柔らかくなったと思う。宿舎に戻って立体機動を付けると、アニはミーナと、私はミカサとそれぞれ合流して訓練場に向かった。
「今日はミカサと違う班だよね?」
「そう。メリナ、怪我しないように気を付けて」
「大丈夫だよ。じゃあ後でね」
今から行うのは協力討伐訓練だ。4~5人で一つの班になって決められたコースを進みながら巨人の模型の項部分を削いでいくもので、討伐数と全体に掛けた時間が評価に直結する。
私が今回同じ班になったのはジャン、ライナー、コニー、サシャの4人だった。
「あっ、メリナも一緒なんですね!」
「そうみたい。よろしくね、サシャ」
サシャと言葉を交わしていると、エレンの適性訓練以来よく話すようになったライナーが近づいてきた。
「メリナ、お前は立体機動が得意らしいからな。頼りにしてるぞ」
「私よりもライナーの方がかなり上だと思うけど」
「おい、目標物を倒すだけじゃなくて今回は罠もつけられてるってこと忘れんなよ」
口を挟んできたのはジャンだった。
何かとエレンとぶつかることが多いこの人は、憲兵団狙いを公言しているだけあってかなり優秀らしい。マルコ曰く、現状を正しく認識する力があるのだとか。
「罠ですか…。どんなのがあるんですかね?」
「そりゃ色んな種類のがあるだろ。お前を捕まえる為に食い物がぶら下がってるかもな」
サシャとコニーが繰り広げる軽口の応酬を眺めていると、キース教官の合図が出た。
「次の班!位置につけ!」
立体機動装置の具合を確かめると、私は他の班員と共に出発地点に並んだ。
目の前に広がるのは森。この木々の幹にアンカーを刺して進んでいくのだ。
さっきジャンが言っていたけど、標的の他に、罠にも注意を払わなければならない。立体機動はかなりスピードが出るので下手をすれば大怪我をする羽目になる。そんなのは御免だ。
アルミンによれば、罠を仕掛けるのは巨人から避ける能力を高めることを目的としているらしい。
「行け!」
教官が声と共に腕を振り下ろす。私達5人はそれを合図に、一斉にアンカーを射出して出発した。
メリナが特定の人としか話していないような気がしたので、協力討伐訓練ではあえてミカサ達と別の班にしました。
ちなみにメリナがアニと仲いいのは、ミカサと長く一緒にいるので感情表現を積極的にしない人に慣れているからです。ミカサとアニって雰囲気が似てる気がして…。
これからも読んでもらえたら嬉しいです。