調査隊の一日   作:辰伶

2 / 2
隊長の苦労と褒美

「くそぉ・・・あいつら頼み過ぎだろうが」

 埃しか落ちなくなった財布を上下して男は大きなため息を吐く。

 

 彼は御華見衆という組織の一部隊、観察方本部主任。コードネーム「あるぴに」という。彼は先日の件で詫びを兼ねて部下達に昼食を奢ると言い、上野にあるますだやという店に入った。そこで部下達は、彼の懐事情などお構いなしにどんどんと料理を頼んでは空腹の胃袋にかっ込んでいった。そしてかなりの量の料理を部下達は胃袋に沈めて満足した。その結果、「あるぴに」の懐も見事に沈めたのだ。

 

 御華見衆とは、凶禍と呼ばれる悪しき魂の根幹から生み出される禍憑と呼ばれる異形の存在からこの国を護る為に生まれた少女達———巫剣と彼女達を指揮する巫剣使いを中心に組織された特殊機関のことである。彼女達のことを知っているのは銘治政府や一部の高官しか知らず、世間一般には別の姿で認知されている。

 

 その一機関である観察方は、政府から御華見衆副司令丙子淑林剣が直にまかされている諜報機関であり、主な任務は巫剣に関する情報や各地に散らばる彼女達の生活の監視である。本部主任である「あるぴに」は、同時に調査隊の隊長を兼務している。観察方の下部組織であり、任務は観察方と同じで違いがあるとすれば、各地の異変の調査や祠等の修理が加わる。

 

 主任兼隊長の「あるぴに」は、任務の都合上彼女達と接触する機会が多く御華見衆の隊長や彼女達と面識がある。

 

「えーっと…きょうの予定はっと」

 気を取り直して、今日の予定を確認しようと手帳を懐から出そうとした時だった。

 

「ちょっとお客さん! こんなところで寝ちゃ困るよ!」

 どこからか迷惑そうな怒鳴り声が聞こえた。声の方向に向くとそこはとある居酒屋だった。そこは、行列ができると評判の店だ。

 

 少し近づいて彼は天を仰いだ。近づいてしまったことを後悔したのだ。

 そこは昼から酒が飲めるということで庶民の間で流行っている店である。自分も利用したことあるが、味は秀逸で毎日行列ができるのも納得である。

 

 そこの一角に完全に潰れてしまっている和泉守兼定と鍛冶兵という悪党(?)が打ったとする影打ち長曽祢虎徹———皆はテツコと呼んでいるらしい———が店員に揺すられている。顔が真っ赤で眼を回していて暫く起きそうにない。また別の一角では酔っぱらいが軽く暴れていた。

面子は長曽祢虎徹、瓶割刀、八文字長義、影打ちソボロ助広———同じく皆からヒロと呼ばれている———である。八文字は泣きながら方言丸出しで叫んでいるし、残りは酒持って来いコールが凄まじい。こうなると連中はめんどくさいというのを彼は部下から聞いて知っていた。

 

(あーこれ俺が治めないとダメだよなぁ)

 

 一応、彼女達は表向き『めいじ館』という喫茶に勤務している従業員ということになっている。それが、ここで痴態を晒して評判を下げるのはよろしくない。最悪副司令あたりに話がいったらどうなるか分かった者じゃない。

 

「ちょっと、何してんすか! 店の迷惑です!」

 たまらずあるぴには声をあげて彼女達の静止に入った。

「あ゛ぁ、何だおめぇ酒盛りを邪魔するなよ!」

「そうもいってられないですというか本当に店の人に迷惑ですから!」

 酒盛りを継続しようとするその手を必死に止めようとするも所詮人間と巫剣。力の差は歴然だ。あっという間に吹っ飛ばされ壁に叩きつけられた。

 

「いってててて・・・」

 背中が痛むが、気にしていられない。可及的速やかに彼女達を止めねば惨事が待っている気がした。

 

「ほんといい加減にしてくださいよー!」

 痛みを気にすることなく再特攻をかますあるぴに。彼なりの使命感を果すべく必死になって酒乱達を止めにかかる。

 

「うるっさい!」

 

 しかし空しく腹部に強烈な蹴りを喰らい無残にも外に放り出されてしまった。流石にこの一撃は効いた。放り出された彼は呻きつつ薄眼をあけた。

 そこには、仁王立ちした少女達が立っていた。眉間に青筋を浮かべている彼女達は、それはそれは素晴らしい笑顔だった。

 

(救世主が来た)

 あるぴには素直にそう思った。最強の助っ人だ。彼女達にとっては地獄の番人であるが。

 

「・・・貴様らは一体何をしているんだ?」

 静かに凍えるような声に牙を剝こうとした四人は、そこにいた者達を見て一気に顔が青ざめた。

 

「あらあら~・・・ちょっとはめをはずしすぎましたね~」

 のんびりとした口調だが、言葉の端々に怒りが滲んでいる気がした。

 “たまたま”めいじ館に用事があり向かっていたこの二人———七星剣と丙子淑林剣はその道中に巫剣達の痴態を発見したのだ。

 

「あ、・・いや・・・その」

 冷や汗を大量に流す虎徹がしどろもどろになりながらゆっくり後退る。潰れている兼定とテツを除いた他の者達も同じだ。

 

「何をしていると聞いているんだ。答えろ。虎徹」

 ガタガタ震えている虎徹は何も答えられない。その傍で、淑林が倒れていた「あるぴに」に声をかけて無事を確認していた。

 

「大丈夫ですか~?」

「あ、はい、大丈夫です。しかし淑林様。何故ここに?」

「ちょっと打ち合わせしたことがありまして~来ちゃいました~」

 そうなんすねと返している中、七星剣はゆっくりと歩を彼女達に進める。

 

「貴様ら……市民に迷惑をかけるなと何度も言いているよな? なのに……このざまは何だ?」

 

 青筋の隆起が歩を進めるたびに大きくなっている気がした。完全に酔いが醒めた三人は一つに固まってガタガタ震えていた。いつもなら巫剣達をからかったりするヒロでさえ、彼女の殺気に充てられて涙目になっていた。

 

「……淑林。彼と、潰れている二人の世話を頼む」

「は~い」

「……貴様らは私と来い。逃げることは許さん」

 鋭い視線と冷たい言葉に、三人は一斉に姿勢を正して返事してとぼとぼついていった。後に聞いた話では、三人はめいじ館の一室に於いて5時間の説教の上、不眠不休で三日間迷惑をかけた店での手伝いと任務に駆り出されたらしい。

 

 残された「あるぴに」と兼定・テツは店員と淑林の介抱を受けてそれぞれ帰路に着いた。兼定とテツは軽く注意を受けただけだった。

 「あるぴに」は結果的に今日の予定をキャンセルせざるを得なかったが、急ぎの用で無いものや淑林が手配してくれたおかげで何とかなったものもあった。

 何より嬉しかったのは、淑林の膝枕を堪能したことだと後に彼が語っていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。