「それにしても大麻呂デパートっていつ来ても賑わってるよな」
「そうですね」
……大麻呂デパート。
前にも1度だけ一条先輩と来たことがある。確かお姉ちゃんの誕生日プレゼントを買いに来た気がする。
あの時はすごく楽しかった。
一条先輩は覚えているんだろうか。私との大切な思い出を。
「前にも来たよなここ。確かその時も駄菓子フェスタやっててさ、春ちゃんに奢らされたんだよ。まあ、春ちゃんはそんなこと覚えてないか」
「お、覚えてますよしっかりと」
「そうだよな。大事な思い出だもんな」
「……大事な思い出」
そっか。私とのお出かけが先輩にとっても大事な思い出だったんだ。
だったら今日も、楽しみなのは私だけじゃないのかもしれない。
先輩が楽しんでくれるなら、それはすごく嬉しいことだ。その横に私がいるなら特に。
「とりあえず片っ端から食べていくか」
先輩が私の手を引っ張った。
これが日常……だったらどれだけ幸せなんだろう。
いつも先輩が私を引っ張ってくれたらと勝手に思ってしまう。
でも、違うってことはわかってる。これは日常じゃなくて特別な今日だけのこと。
「春ちゃん。このういろうすごい美味いぞ!」
「本当だ!美味しい。ですが先輩。こっちのどら焼きも甘くてなかなか」
「ぬおっ!やるな!」
「あっちに美味しそうなようかんがありますよ」
「よっしゃ!行ってみようぜ」
「はい!」
やっぱり先輩と話してると楽しい。
そういえば前もこんな───
「そういや前もこんな感じだったよな。あの時もようかんとか食べてさ」
「え!?そ、そうでしたね。ていうかそんなことまで覚えてるんですね」
「ま、まあな」
先輩の曖昧な表情を見て一瞬だけ疑問、というよりも願望のようなものが頭をよぎる。
こんなに細かく覚えてくれてるってことは、先輩も私のことが好きなんじゃないのか。
知ってる。ただの願望だってことは。
わかってる。叶わないってことも。
それでも一瞬だけ光を見たから。先輩と私が一緒に過ごせる道があった気がしたから。
「一条先輩って私のことどう思ってるんですか」
突然、口走ってしまった。
先輩への気持ちが、愛情が止まらなくて暴走しているのが自分でもわかる。
先輩は困っているような迷っているような表情をしたままで何も言わない。
たぶんこの続きを聞いてしまったら、今の関係ではいられなくなるだろう。
だから心の中で『これ以上言わないで』と叫ぶ自分がいる。
でもそれと同時に、それ以上に先輩への気持ちを抑えられない自分もいた。
「1人の女性として、私のことをどう思いますか」
「春ちゃ───」
「私は一条先輩がずっと、高校生の時からずーっと好きでした」
ああ、やってしまった。心の中に後悔という感情が押し寄せる。それでももう私は止まらない。
「先輩はどう、ですか」
「俺は……」
先輩は好きな人に告白をされて喜んでいる顔でも、嫌いな人に告白をされて嫌がっている顔でもなく、ただただ困った顔をして言葉を詰まらせていた。
この顔が全てを物語っている。
もともと覚悟もしていた。でもやっぱりつらいなぁ。
これからは、一緒にいても気まずいだけで一緒にどこかに行っても楽しくないだろう。
そんなのつらいなぁ。
「俺は、いや、俺も春ちゃんのことが特別だし、異性として好きだ。……でも、ごめん」
「一条先輩……」
「春ちゃんとは付き合ったりとかそういうのはできない」
先輩はそう言うと申し訳なさそうに下を向いた。