バタフライ   作:非食用塩

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第四話 駆け抜けた夏の残像

 

 

 アイスクリームを食べたら、視界が明るくなった。

 小さい頃にも一度低血糖で倒れたことがある。あれ以来、伯母は食事抜きの罰を与えなくなった。こうして思い返してみると伯母の継子いじめって目に余るほどでもないな。

 うちはそもそもの事情が事情だからね。

 文房具屋で羊皮紙や羽ペン、インクにワックス、スタンプを見た。

 ハグリッドによると連絡手段は手紙が基本とのことで、レターセットも籠に入れる。ダドリーに手紙を送って驚かせてやろう。

 本屋は特にすごかった。天井までぎっしりみっちりと本が並べられている。大きさも材質も多種多様だ。

「すっごい」

 適当に手に取ってぱらぱらめくってみる。ルーン文字で書かれた本だの、白紙の本だの、あっちの本屋ではまずお目にかからないようなものばかりだ。

 ハリーが手に取った本は『呪いのかけ方、解き方』。いかにも魔術師(ウィザード)の本って感じ。

 教科書以外にも何冊か読めそうな本を見繕う。こっちの礼儀や常識には不慣れなので勉強しておきたい。

 鍋屋で大鍋を買い、上等な秤を買い、折りたたみ望遠鏡も買った。ハリーは新品らしく真鍮がピカピカのやつで、あたしはアンティークっぽく燻しになったやつだ。

「アレンはそういうの好きだね」

「うん」

 水晶の薬瓶も買った。あとはなんだっけ?

 ハリーにリストを見せてもらう。

「次は杖だね」

「おお、魔術師っぽい!」

 わいわい話していると、ハグリッドがわざとらしく咳払いした。

「あー、その、まだプレゼントを渡してなかったな」

「「プレゼント?」」

 ハリーと同じタイミングで首が傾いだ。

「そんなのいいよ。ねえ」

 同意を求められたので頷いて返す。

「わかっとる。だけどな、俺はずーっと、この十年ずーっと、ハリーの誕生日を祝ってやれんのを我慢してきたんだ。頼むから俺の我が儘を聞いてくれんか?」

「僕の?」

 耳聡さに苦笑いするあたしをよそに、ハグリッドは二人の誕生日だと必死で言い直した。

「動物をやろう。梟ならふたりで使えるし、手紙を運んでくれるいいやつらだ。な? それならいいだろ?」

 どうしても何か贈りたいらしい。わたしは肩をすくめ、ハリーは深く息をついた。

「わかった」

 ぱあっと目を輝かせたハグリッドは、杖屋まで案内するのももどかしそうに来た道を戻っていった。

 直後、真横にいたハリーが素っ頓狂な奇声を上げた。目線を追うと杖屋の看板が目に入る。

「紀元前?!」

 こっちの口からも変な声が出た。

「老舗だね」

「すっごい老舗」

 ショーウィンドウに杖が一振り。あれは売りものじゃないのかな。

 店内は埃っぽく、棚という棚に幅の狭い箱が詰められている。人影は見当たらない。──と、不意に四方八方から視線のようなものを感じて生唾を飲んだ。

 シューっと奥の方から音がする。何かが滑ってきて、ガコンと音を立てて止まった。

 梯子だ。梯子が滑ってきた。

 中程に人が乗っている。

「いらっしゃいませ」

 そう言って、その人は慎重な足取りで梯子を降りた。

 ヴィクトリア朝時代の男性が着ていそうな服装の老人の色素の薄い目が、ハリーとあたしを交互に見つめる。

「ハロルド・ポッターさん、かな」

 ハリーは少し驚いた顔をして頷く。こっちでちゃんとハロルドと呼ばれることがなかったので嬉しかったようだ。

「では、そちらはアルトリア・ポッターさんか」

 今度はあたしが驚いた。ハリーは有名でも、あたしを知っている人はいないものだと思っていたから。

「はい」

 返事をするあたしを見て、老人は薄く笑った。

 

 

 

◇◇◇◆◆◇◇◇◆◆◇◇◇

 

 

 

 オリバンダーさんは両親がどんな杖を買ったのか、懇切丁寧に教えてくれた。

 売った杖は全部記憶してるんだって。すごい、と声を上げたのが聞こえたのか、オリバンダーさんがついっとこっちを見た。

 じっと見てこられて戸惑いつつも何か言うんだろうと思って待つ。が、オリバンダーさんは唐突に棚の方を見て、くしゃくしゃしたものを取り出した。

 今の間はなんだ?

「杖腕はどちらですか」

 気を抜いたところに声をかけられて肩が跳ねる。

「な? え? 腕?」

「杖を振る腕はどちらですか」

 利き手のこと?

「右、です」

 腕を伸ばして答える。頷いたオリバンダーさんは、くしゃくしゃしたものをピンと伸ばして「測れ」と言う。くしゃくしゃしたものの正体は巻尺だった。しかも巻尺が自分で測っている。なにこれすごい。

 オリバンダーさん曰く、杖の木材は様々あるけれど、中に入れる芯は三種類に限定しているんだそうだ。材質の組み合わせも含めて一振り足りとも同じ杖はなく、他人の杖では自分の求めるだけの力が出ないともいう。

「ではアルトリアさん。これをお試しください。黒檀に一角獣のたてがみ。二十五センチ、振りごたえがある」

「試すって?」

 どうすればいいのか。

「手に取って、振ってみてください」

 渡された杖を軽く握る。特に何の力も感じないし、振っても空気を裂く音がしただけだ。

 これでいいのかとオリバンダーさんを見上げる。……いや、なんでそんなに目が爛々としてるんですかね?

 妙な気迫にたじろぐあたしの手から杖を抜き取って、オリバンダーさんが次の杖を渡した。

「松にドラゴンの心臓の琴線。二十三センチ、頑固。どうぞ、お試しください」

 今度は指先にピリリと刺激がきた。これが杖の力なのかな。

 ヒュッと勢いよく振ると杖先から可愛い火花が散る。

 またオリバンダーさんは杖を取り上げた。思案しているのか棚を見上げて唸る。

「なるほどなるほど。こちらで少々お待ちください」

 そう言ってオリバンダーさんは梯子に登った。梯子が滑っていって姿が見えなくなる。

「杖っていうから先端にでっかい宝石でもついてるのかと思った」

 離れた場所で見ていたハリーが側に来て言う。

「持ってみてどう?」

「二本目は指にピリってきた」

「へえ」

 オリバンダーさんが戻って来ると、ハリーはスッと距離を取った。

「林檎にドラゴンの心臓の琴線。二十六センチ、極めてしなやか。どうぞお試しください」

 その杖は今までの杖とは違った。

 持ち手に見たこともない、美しい記号のような文字のようなものが彫られている。それ以外は節のひとつもなく、すらりとまっすぐでシンプル。

 不思議に思ったのは、今初めて目の前に出されたのに生まれた時から側にあるような親しみを感じたことだ。

「じゃ、じゃあ、試します」

 僅かな緊張を振り払って杖を持った瞬間、これだと確信した。

 あたしは思いきり振らずに空気を優しくなでるように振る。そうした方がより良い気がした。

 すると、指先からなにかが流れ出る感覚とともに、輝く赤い光のリボンが杖を振った軌跡を追うようにして中空にたなびいた。

──すごい。

「ブラーヴォ!」「うわぁ」

 オリバンダーさんとハリーが同時に声を上げる。

「お見事です、アルトリアさん」

 穏やかに笑ってオリバンダーさんは言った。

「あなたはよい魔女になりそうで、本当に楽しみですね」

「わかるんですか?」

「私は杖の作り手ですから、杖がどのような持ち主を選ぶのか、わかることもありますの。……それはとても良い杖です。大事にしてやってくださいね」

 杖をなでるオリバンダーさんの目はとても優しい。

 本当に杖が好きでこの仕事をしているのがわかって、あたしは微笑みながらしっかりと頷いた。

 

 

 

◇◇◇◆◆◇◇◇◆◆◇◇◇

 

 

 

 次はハリーの番だ。

「どうぞお試しください」

 ハリーは何度となくこの台詞を言われた。だってまだ杖が見つからないのだ。

 後ろから見ていても相当うんざりしているのがわかる。逆にオリバンダーさんの目は爛々としていて、手強い客にテンションが上がっているようだった。

 もう三十振りくらい試したよね。ああ、今日中に見つからなかったら困るかも。

 椅子を見つけて腰かける。

 それからさらに十振り試した辺りでオリバンダーさんが肩で息をしながらハリーを手で制した。

「ちょっと、……もうちょっとだけ待ってもらえますか。今度こそ見つかりますので」

 よろよろしながら梯子を登って、また姿を消す。体力的に大丈夫なのか心配になってきた。

「僕ってそんなに難しい客なの?」

 苛立ちを含んだ棘のある声でハリーが言った。

「相性とかあるんじゃないかな」

「ふうん」

 オリバンダーさんは梯子を降りるなり走って戻ってきた。

「これは滅多にない組み合わせですよ。──柊と不死鳥の羽根。二十八センチ、良質でしなやか。どうぞ、お試しください」

 取り出された杖が、ぐん、とハリーに意識を向けたのがわかった。入った時に感じたあれは杖の視線だったのか。

 理解した瞬間、全身から血の気が引いた。半歩後ずさったあたしに気づいたオリバンダーさんが人差し指を口の前に立てる。『しーっ』のジェスチャー。黙ってて、ってこと?

 店内が赤と金の光で明るくなった。ハリーの杖が見つかったのだ。

「アレン」

 はっとして顔を上げる。ハリーが目の前にいた。

「七ガリオンだって」

 杖の代金をまだ支払ってなかった。慌ててリュックの中から金貨を七枚出してカウンターに置く。

「あなた方が、」

 金貨をしまいながらオリバンダーさんが言った。

「双子に生まれて本当によかった。彼もそうであれば何かが違ったのかもしれませんが、もう過ぎたことですね」

「彼?」

 誰だ。

「お世話様でした」

 あたしを自分の背中で隠すようにしてハリーが言った。

「行こう。ハグリッドが待ってる」

 腕を掴んだハリーの手が震えている。何かあったのかもしれない。

 オリバンダーさんに視線を投げても意味ありげに微笑むだけで何も言わなかった。

 ドアベルを鳴らして通りに出る。目を刺す光が赤い。

 待ち構えていたハグリッドが純白の梟が入った籠を掲げて「誕生日おめでとう」と言った。

「綺麗な子だね」

「名前、考えなきゃ」

 ハリーが笑顔でお礼を言うと、ハグリッドは顔を赤くして向こうを向いた。

 仕立屋で頼んだ服を受け取ってパブに戻る。カウンターの以外に人の気配はない。クィレル教授の姿も見当たらなかった。

 地下鉄に乗って帰路についた。メモ帳に、今日あったことや得た情報の整理をしながら書きつけていく。そうしないと頭がパンクしそうだった。

 ハリーはずっと黙りこくったまま梟の羽を指でなでている。

 パディントン駅の構内に出るとハグリッドが言った。

「電車が出るまで時間がある。飯でもどうだ?」

「遠慮しとく」

 ハリーの即答にハグリッドが萎れた。

「ここまでありがとう。アレン、一緒に来て」

「うん」

 荷物を引きずって歩きだすあたしたちに、慌てた様子でハグリッドが声を上げた。

「ま、待った待った! これを渡すのを忘れてた!」

 前で通せんぼしながらコートのポケットを探るハグリッドは、目的のものを見つけてハリーに渡した。中身はホグワーツ行きの切符だと少し興奮気味に説明しているハグリッドの話を聞いているのかいないのか、ハリーは曖昧に頷いた。

「そんだけだ。じゃあ、またな」

 ハグリッドの気配が消えた。もう人波の向こうにも、あの縦にも横にも大きい影はない。

「説明不足」

 ハリーが不機嫌そうな声で言うので、

「一遍に全部はしきれないでしょ」

と返した。ハリーは、そうじゃないと首を振って、手のひらよりひと回り大きい紙きれをひらひらさせる。

「『九と四分の三番線』なんてすっとぼけた番号の乗り場が、わかりやすい所にあるわけないのに」

「あー」

 それは教えてくれないと困るわ。

 

 

 

◇◇◇◆◆◇◇◇◆◆◇◇◇

 

 

 

 夏は瞬く間に過ぎた。

 今まで魔法に触れることなく生きてきたので、一年生で習うことはひと通り目を通しておく必要があった。プライマリ・スクールでも、最初の一年は知っていて当然のことを知っているかどうかをまず見られる。ホグワーツもきっとそうだろう。

 新しいことを知るのは楽しい。

 そんなあたしたちを、ダドリーは少し離れた所から見ていることが増えた。距離が遠くなった訳じゃなく、会話は普通にしている。

 様子からしてハリーに聞きたいことがあるようだけれど、ハリーはハリーで心ここにあらずなので話しかけにくいらしい。

 ハリーは今、自分のことで手いっぱいだった。

 自分の杖を指先で転がしながら、ハリーが話してくれた兄弟杖のことを考える。ハリーの杖にはヴォルデモートの杖と同じ不死鳥の羽根が使われているんだそうだ。

「警告されたんだと思う」

 ハリーは不服そうに言った。

 ヴォルデモートも偉大なことをしたのだ。と、オリバンダーさんは言ったらしい。

『一人殺せば人殺しだが、百人殺せば英雄だ』はチャップリンの映画だったか。その論理に従えば、ヴォルデモートも確かに英雄だろう。そのヴォルデモートを消し去った──と世間では信じられている──ハリーを英雄視するのもわからなくはない。

「不可抗力でも人を殺したかもしれない僕を敬うのは、ヴォルデモートを敬うことと大した違いはないよ」

 目を伏せて憂鬱そうに息をつく。ハリーは昔から殺人に限らず人の死が苦手だ。

 人殺しを絶賛する人は、自分がどれだけ残酷で無神経なのかわかっていない。それを思い知らされる。

「おかしいな」

「何がおかしいんだ?」

 すぐ近くで聞こえた声に飛び上がった。

「もう! びっくりさせないでよ、ダドリー」

「おまえがぼさっとしてるだけじゃねえか」

 べし、と額を押されて呻く。

「それで、何がおかしいんだって?」

「あっちには警察みたいな組織があるのに、どうして民間人のハリーが引っ張り出されるのかなって」

 ハリーが戻らなきゃいけない理由を考えあぐねて出てきた答えは『ヴォルデモートがまだどこかにいる』。このままでは否応なくハリーはテロリストの親玉の前に突き出されるということだ。それが囮としてならまだしも、民衆が求める英雄的行為という名の人殺しをするために。

「どんなに両親が優れた才能の持ち主だからって、子供もそうとは限らないじゃない? しかも、子供の頃から勇者として育てられたわけでもないのに向こうの都合であっちに行けこっちに来いってさ。そんなの本人じゃなくても腹が立つよ」

「ハリーを祀り上げることで得するやつがいるんだろ」

 憤慨するあたしに、なんでもないことのようにダドリーが言った。

「ハリーを英雄として活躍させることで、自分の地位が揺るぎないものになるやつは誰なんだ?」

「……ダンブルドア」

 ハグリッドの口から何度か聞いた名前を思いだした。

 あたしたちを伯母に押しつけておきながら、ハリーに戻るようにと手紙を寄越したホグワーツの校長。姿がわからないのもあって、あたしにはただひたすら不気味な存在にしか思えない。

「そいつに気をつけろ」

 ダドリーは、あたしの頭をひとなでして部屋に戻っていった。

 

 

 

◇◇◇◆◆◇◇◇◆◆◇◇◇

 

 

 

 八月最後の日、ハリーがトランクの中を確認しながら言った。

「伯父さんにキングズ・クロスに連れてってって頼むのは流石に可哀想かなぁ」

 子供がそこから乗車するなら家族も見送りに来るはずだ。こっちにあったとしても、伯父には頭のおかしい連中の群れがいるようにしか思えなくても仕方がない。

「公共交通機関を使った方がいいかもね」

「運賃わかる?」

「うん」

 グリンゴッツで換金した分で充分足りる額だ。乗り場は現地でそれっぽい人を探して解決を図ろう。

 翌日、少し早い時間に荷物を下まで運んで、ちょうど顔を洗いに出てきたダドリーに暫しの別れの挨拶をした。

「大荷物だな。大丈夫か?」

「うん」

 結構な重量があるといっても一人で運べないほどじゃない。今までこの家の庭仕事や買い出しを手伝ってきたので、そこらの子供よりは筋肉も体力もついている。

「ダドリー」

 いつものふんわりした笑顔でハリーが言った。

「いってきます」

「おう、気をつけてな」

「ダドリーもね」

 結局、伯父と伯母には声をかけずに出発した。

 大きなトランクをずるずる引きずっていたら人目を引くかと思っていたのに、全然そんなことはなかった。見る人のそれは好奇の目よりも親切心が勝るようで、段差で苦労していれば通りすがりのスーツの男性が手伝ってくれたりもした。

 キングズ・クロス駅に着いたのは十時を少しすぎた頃。

 トランクをカートに載せて運ぶ。プラットホームまで来ても、九番線と十番線の間に四分の三番線なんて半端な数字はない。

 魔術師にだけわかる入口があるならどうにか気づけないものか。

 ダイアゴン横丁の入口みたいに杖で叩く必要があるとか?

「わかんないなぁ」

 杖の意思がわかった時みたいに何か感じられるかと思ったけれど、期待は裏切られた。

「後三十分で発車だし、同類を探した方が早いかもね」

「そうだね」

 カートをハリーに預けて来た道を戻る。

 ペットとしてあまり連れていなさそうな生きものを連れてるとか、会話の内容が変わってる人とか、一人くらいはいないかな。

「アレン?」

 きょろきょろしていたら聞き覚えのある声に呼び止められた。

「やっぱりアレンだ」

 見るとセドリックがにこにこしながら手を振っている。

「セドリック! 声かけてくれてありがとう! 助かったよー」

 嬉しさのあまり飛びついた勢いのまま縋りついて脱力するあたしを慌てた様子でセドリックが支えてくれる。

「どうしたの? 何かあった?」

「九と四分の三番線がどこかわかんなくて困ってたの」

「ああ、なんだ。僕の手に負えないような大変なことかと思った」

 セドリックがにっこりしたので、あたしも笑った。渡りに船とはこのことだね、うんうん。

 ハリーに手を振ってセドリックがいたことを知らせる。心強い知り合いの登場にハリーもほっとしたように表情を緩めた。

「手伝うよ」

 セドリックがカートを引き受けてくれたので、ハリーも身軽になってついていった。

 ホームへの入口は改札近くの柱だって。これはわからないわ。

 列車の昇降口で荷物を担ぎ上げるのもセドリックがやってくれて、至れり尽くせりである。

「これでもシーカーやってるし」

 自慢げに言う表情は立ち居振る舞いより幼くて、ちょっと可愛い。

 それからセドリックはご両親に暫しの別れを言いに行き、あたしたちは空いたコンパートメントを見つけて荷物を入れた。

 窓の外で見送りの家族と子供たちがわいわいやっている。それを見ているのは面白いけれど、寂しいと思わないのは両親に対して薄情だろうか。向かいに座ったハリーは外に興味がないのか、黙々とペーパーバックを読んでいる。マイペースなのはいつものことだった。

 もう一度、窓の外を見る。大家族がいた。ひと目でわかったのは全員赤毛だから。顔もよく似ている。

 お母さんらしき人に鼻をグイグイ拭かれていた子が逃げだした。そんなにひどくやったら鼻が擦り切れるよ。

 




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