妖精空間漂流記【完結】   作:ひえん

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アンノウンを探る

 不可知戦域から生還した雪風はフェアリイ基地へと降り立った。そして、特殊戦の区画まで自走し、停止。すると、基地の消防隊が放水を浴びせる。これは対ABC汚染洗浄としての放水であり、機体全体が洗い流される。そして、放水が終わると、キャノピーが開く。深井大尉と桂城少尉は機体から降りると、防護服を着た隊員たちに誘導されて防護コンテナへと運ばれていく。そこで彼らも雪風同様に体中洗い流されるのである。

 

 

 

 雪風が帰還した。

 

 その一報は直ちにフォス大尉にも伝わった。すると、彼女は急いで司令センターへと飛び出していった。一方、ほむらは一人で部屋にて待つ。自分には司令センターに入室する許可がないから仕方がない。よって、ここでフォス大尉が情報を持ち帰ってくるのを待つしかないのだ。そして、他にやることも無いので再び課題に取りかかる。そこから暫く時間が経った頃、フォス大尉が慌てて戻ってきた。だが、どうも様子がおかしい。

 

「何かあったのかしら?」

「ええ、あなたの秘密がばれた」

「…話の出所は?」

「雪風…いや、厳密にはジャムね。雪風の不可知戦域内で記録したデータを再生していたら、ジャムからあなたに関する質問が飛び出したのよ」

 

 まさかジャムがきっかけになるとは思わなかった。内心でほむらが頭を抱えていると、フォス大尉が更に言った。

 

「ほむらちゃん、その件でクーリィ准将があなたを呼んでいるわ」

「准将…特殊戦のボスと言われている?」

「ええ、その人よ。私もついて行くわ」

 

 これは覚悟を決めねばなるまい、軽く深呼吸をしてから部屋を出る。目指す先は特殊戦司令センター。もちろんブッカー少佐もその記録から自分の秘密を聞いたに違いない、この先どうなるか…そんな考えが脳裏に走るが、ほむらは歩き出した。こうなっては逃げ場なんて無い、その点では“いつも”と同じだ。さすればどうするか、決まっている。やるしかない、そう心の奥底で呟きながら。

 

 司令センターに入る。ここは初めて入る部屋だ。広い室内には大型のディスプレイが設置され、管制業務や分析業務を行う隊員たちが忙しなく動いているのが見える。そして、そこにクーリィ准将はいた。話は司令センター隣の部屋で行う事となり、三人でその部屋に入る。どうやらブッカー少佐はいないようだ。部屋の中は応接室のような雰囲気となっている。打ち合わせに使う為の部屋なのだろうか。

 

「初めまして、暁美ほむら。私は特殊戦副指令リディア・クーリィよ」

「暁美ほむらです。よろしく」

「呼ばれた理由は分かるわね?では、本題に入りましょうか」

「ええ、私が何者か…という事ね」

「その通り。では、B-1…我が特殊戦の偵察機が記録したデータを見ながら話を聞かせてもらいましょうか」

 

 そして、端末に映像と音声データが再生される。その映像には奇妙な空が映っていた。上下には雲の壁があり、その中間の空間には雲が一切ない。これが不可知戦域…魔女の結界とはやはり違う。だが、現実離れしたような風景であるのは確かであった。映像と共に機内の零と桂城少尉の声も再生される。彼らも焦っているのだろうか、緊迫感のある会話が聞こえてくる。

 しばらくすると、警報音と共に不明機発見の一言。そして、カメラにはある機体が映る。雲海の中から飛び出してきたのはスーパーシルフ、特殊戦で使われている偵察機だ。しかし、深井大尉はそれを雪風のコピーだと言った。ジャムは人どころか機械をもコピーするという事だろうか。

 そして、無機質な声が聞こえてくる。どうやら、これがジャムの声らしい。要領を掴みにくく長い文章が並ぶ…ジャムの総体と称するこの相手の語学能力はマミ達が持っているAIよりもはるかに劣るようだ。そして、深井大尉、桂城少尉とジャムの会話が続く。会話というよりもジャムの発言内容に対して逐一聞き返し、詳細を確認しながらその内容を整理するという表現の方が合っているようにも思える。しかし、ジャムは特殊戦を味方にしたいのであろうか?そんな事を考えながら記録の続きを見る。

 そして、状況が変わったのはこの後である。ジャムが逆に質問を飛ばしてきたのだ。

 

『深井中尉、我に疑問がある。回答を求む。我の観測領域をある概念が通過、それに接触を図ろうとしたが失敗した』

『何が言いたい?』

『その概念を追った先、その終着点がある個体である事を確認している。その個体とは特殊戦に所属する人間、暁美ほむらである。深井中尉、あれは何であるか。回答を求む』

 

 想像していた以上に自分の名前がはっきり出てきたことに驚く。そして、背後に嫌な汗が出る。やはり、あの夢の中で見たあの物体…あれがジャムに関わる何かだったのはこれで確実だろう。すると映像が止まる。そして、クーリィ准将が質問してきた。

 

「暁美ほむら、質問はこの映像の通りだ。あなたは何者?」

「ええ、ただの元魔法少女よ」

 

 ほむらの返答にたまらずフォス大尉が口を挟む。

 

「いやいや、ほむらちゃん…いきなりすぎるわ」

「言い逃れは無理、それなら素直に言った方が被害は少ないわ」

 

 その返答にクーリィ准将は疑問を返す。

 

「魔法少女?それは比喩表現か何か?」

「いえ、正真正銘あの魔法少女よ」

「では、ここで魔法でも使って証明してもらいましょうか」

「無理よ。今言った通り、元魔法少女なの。今は完全に普通の人間」

「つまり、証明困難と?」

「ええ。判断材料として使えそうなのはジャムが興味を持ったという事実ぐらいかしら」

「ふむ…では、今は何故普通の人間なのかしら?」

「それは説明がややこしくなるけど…いいかしら?」

「ええ、時間はたっぷりあるわ。レモンティーでも飲みながら聞きましょうか」

 

 クーリィ准将は若い秘書官に紅茶を頼む。「あなたも何か頼みなさい」と准将から言われたので無難にココアを頼んだ。フォス大尉はコーヒーだ。そして、飲み物がやって来てから話を再開する。

 まず、魔法少女とは何か。魔法少女の誕生と末路。自分が時間軸を移動した結果、ここで目を覚ました事。目が覚めたらただの人間に戻っていた事…その流れを一通り説明する。それを聞いた准将は紅茶を一口飲んで映像を再開した。

 

「つまり、あなたはこういう所から飛ばされてきたと?」

 

 その一言の後、画面に映った光景にほむらは絶句した。そこには見覚えのある風景が広がっていたからだ。間違いなくワルプルギスの夜と戦った後の見滝原そのものである。映像は次々切り替わる、雪風の光学センサが忙しなく各所を撮影しているのだ。そして、センサは瓦礫の中で倒れた人物を見つけた。画像が拡大されてその一点が表示されると、見覚えのある顔が映る…巴マミである。機内の交信記録でも驚いた声色が響く。

 

「これは見滝原…間違いなくここから飛ばされてきたわ」

 

 そして、映像は次々切り替わる。佐倉杏子が映る。次に美樹さやか…今のところ、この星にはいない人物だが。そして、次に映った人物のその姿にほむらは思わず動揺する。

 

「まどか…!!」

 

 そう。それは彼女が何よりも守りたかった人物、鹿目まどかだったからである。傷付きピクリとも動かないその姿、ほむらにとっては耐え難い映像そのものだ。そして、大勢の犠牲を出しながら敗北した嫌な思い出も併せてよみがえる。

 クーリィ准将はそれを見逃さない。過去多くの経験から、ほむらのその表情が演技等ではない事を見抜く。現に彼女は額から冷や汗が出て、血の気が引いたような顔色だ。明らかに動揺している。今まで大人びた様子だったが、これは年齢相応と言ったような反応だ。

 

「あなたは映像に映るあの時間軸…つまり並行世界から何らかの超常的な力でこちらにやって来た。そして、途中ジャムに見つかって興味を持たれた。こういう解釈で間違いはないかしら?」

「え、ええ…そうなるわ。しかし、この映像は何なのかしら…」

「ジャムの言う事を信用するのならば、あなたがいた並行世界を観測して再現したものという事になるわ。大丈夫?気分が悪そうだけど」

「ちょっと嫌な思い出が」

「少し休憩にしましょう。フォス大尉、面倒を見てあげて」

「了解」

「それと、今度から隠し事は程々にしておきなさい。深井大尉にも伝えておくように」

 

 クーリィ准将が退室する。そして、フォス大尉がほむらの様子を見る。呼吸と脈が速い、過度のストレスによるものだろうか。

 

「大丈夫?」

「ええ、なんとか」

「街がこんな廃墟になるなんて…魔女とはそんなに強力なものなの?」

「これは例外よ、最強の部類で災害規模。そして、幾度も時間軸を繰り返しても倒せない相手」

「つまり、この映像は」

「その魔女に負けた後よ。おそらく、私が飛ばされた後の」

「ジャムはこの光景を見て興味を持ったのかしら」

「違うと思う…やはり、私が時間軸を飛び越えた事だと思うわ」

「しかし、こういうのに見知った顔がいるのはなんとなく複雑ね」

「私は毎度そんな気分よ」

「心中お察しするわ」

「それはどうも」

 

 ココアを一口飲んでやっと落ち着いて来た。すると、クーリィ准将が戻ってくる。ほむらが落ち着きを取り戻すタイミングを見計らっていたかのようだ。この人物は敵にすると厄介極まりない、ほむらはそう感じていた。

 

「で、あなたに関するジャムからの質問はこれで終わりよ。次にもう一つ聞きたいことがある」

 

 端末の映像が切り替わる。そこには可視光以外で撮影したと思しき写真が写っている。カラーではない。その中にはアイツがいる。そう、インキュベーターである。

 

「この小動物かしら?」

「ええ、話が早くて助かるわ」

「単刀直入に言わせてもらうわ、この宇宙生命体は敵よ」

「先ほどの話で魔法少女を生み出す存在というのがこの生命体という事ね」

「ええ。地球人を騙し、結果として命を奪う生命体よ。名前はインキュベーター」

「ジャムではない?」

「本人はそう言っているわ。曰く、ジャムは何もかもが違いすぎて理解できない存在、と」

「では、何故その生命体がこの星にいるのかあなたの考えを聞きたい」

「分からないわ。聞いた限りだと人類とジャムの戦争を観察しているとか…何かよからぬ事に使えないかと研究しているとかそんな所かしら」

 

 クーリィ准将はほむらの目をじっと見る。この話題になった途端、彼女の目つきは鋭くなった。余程、そのインキュベーターとやらを憎んでいるようだ。

 

「投げやりな考察ね」

「アイツらの考えなんて想像もしたくないわ」

「しかし、ある意味で宿敵なのでしょう?それでいいの?」

「ええ、まあ…」

 

 ほむらの回答はしどろもどろである、敵視するだけだったのだろう。

 

「じゃあ、今日はとりあえずこの辺りで終わりにしましょう。あなたも疲れているようだし」

「分かったわ」

 

 クーリィ准将が退室していく。ほむらは全身の力が一気に抜けた、緊張が解けたのだ。そして、ため息をついた途端、ブッカー少佐が室内に飛び込んできた。

 

「ほむら、大変だったな」

「いえ、ブッカーさん。とても言い出せる話じゃなかったので…隠していてごめんなさい」

「いや、いいんだ…お互いにちょっと気持ちを整理する時間が必要だな。よし、気分転換にちょっと出かけよう」

「どこへ?」

「零の所だよ。フォス大尉も来るか?」

「もちろん、あの二人には聞きたいことが山ほどありますから」

「決まりだな」

 

 ブッカー少佐に連れられて司令センターを出る。行先は特殊戦区画内にある医務室である。そして、その室内にはビニールで出来たテントが張られていた。

 

「医務室になんでこんなものが?」

「万が一、ジャムの生物や化学兵器なんかに汚染されている可能性に備えてだ。まあ、形式上みたいなもんさ…ジャムがそんなものを使う気ならとっくに使っているだろうから意味がない」

「はあ、そういうものかしら」

「二人はこの中だ。入るとしよう」

 

 半透明なビニールをめくってテントの中に入る。その中に深井大尉はいた。そして、桂城少尉は隣のベッドで寝ているらしい。

 

「よく帰ってきたな、零」

「ああ、俺もよく帰ってこられたと思う。しかし、なんだ。フォス大尉はともかくほむらまで連れてきて」

 

 疲れたような声でほむらが話す。

 

「ジャムの余計な質問でひどい目に遭ったわ」

「なるほど、あれでお前の秘密がばれたか。災難だったな」

「嫌な思い出まで思い出す羽目になった」

「恨むならあんな風景を再現したジャムを恨め」

 

 そこにブッカー少佐も同じく疲れたようにこう言った。

 

「ほむらだけじゃない。皆、あの映像を見て疲労困憊さ。元気なのはフォス大尉ぐらい」

「しかし、こんなテントもういらんだろう。エディス、元気なら片づけてくれ」

「いえ、このままにしておきましょう。今片づけたら桂城少尉が起きてしまう」

「フム、気持ちよさそうに寝ているな。こいつは大物になるぞ。さて、零。では、ミッションの話を聞こうか」

 

 零はフムン、と一言呟いた後に言った。

 

「その前にジャック。冷たいビールを奢ってくれないか?」

 




特殊戦の人間達はほむらの正体を知った。
そして、不可視の生命体であるインキュベーターについても知る事となった。

一方、特殊戦の機械達はそれに構わず行動を始めた。全てはジャムに勝つために。
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