妖精空間漂流記【完結】   作:ひえん

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ジャムの狙いは何か

「その前にジャック。冷たいビールを奢ってくれないか?」

 

 その一言にブッカー少佐が笑いながら頷いた。そして、フォス大尉に指示を出す。

 

「フォス大尉、零にビールを処方してやれ。ここの冷蔵庫には処方箋としてたっぷり備蓄してある」

「なんでそんなものが医務室に…」

「ああ、軍医が薬品買う金で仕入れている。みんなが知っている公然の秘密だ」

「それは問題では?」

「ビールの効果を認めて薬として扱わせてくれないお上が悪いんだ」

「で、要するにそのビールを抜き取ってこいということですね」

「ああ、そうさ。物が物だけに抜き取られても軍医殿は文句も言えんよ」

 

 呆れてため息をつきながらフォス大尉がビールを取りに行く。

 

「で、ジャック。俺が帰還してからどの程度時間が経った?」

「4時間半ってところだな。しかし、コンピュータ達はこの展開を予想していたようだ。雪風の帰還の支援なんかをみんな片付けちまった」

「フムン、やはりか」

「ああ。で、俺が忙しくなったのはお前達が帰って来てからだ。雪風がなかなか情報を出そうとしなかった」

「俺が機から降りたから、と言ったところか」

「多分そうだろう。雪風には意識みたいなものが確かに存在しているとしか思えない」

「で、どうやって雪風のご機嫌を取って情報を引き出したんだ?」

「すべての情報に対するアクセス権限をよこせと言ってきた。で、STCも准将もその条件を飲んだ。今頃、STC経由でFAF全体の情報を漁っているだろう。FAFのコンピュータ達が他所に気付かれないようにその痕跡を消しているが…こいつは立派な電子戦だな」

「雪風は何を調べている?」

「様子を見たが、FAF内の人間情報さ。データを基にMAcProⅡで行動予測を立てて、まだ見つかっていないジャム人間を探しているのかもしれない」

「フムン、それは違うだろうな」

 

 隣でなんとも凄まじい会話が飛び交っている。果たして、この会話は自分が聞いていいものなのか、とほむらは頭を抱えている。下手をすれば別の厄介事に巻き込まれかねない予感がする。そこにフォス大尉が戻ってきた。その手には缶ビールが3本、缶のコーラが1本。零がそれを受け取るが、ブッカー少佐は拒否する。それに対してフォス大尉はこう言った。

 

「今更ですね。この場の全員共犯ですよ?」

「分かったよ、それならばじっくり飲むとしよう」

 

 ブッカー少佐は諦めてビールを受け取る。

 

「あ、ほむらちゃんの分もちゃんとあるわよ」

 

 そう言ってフォス大尉はにっこりとした笑顔で缶のコーラを手渡してくる。どうも自分もその共犯にしっかり含まれているようだ。拒否権無し、ほむらも同じく諦めてそれを受け取る。しっかり冷えている、そのまま一口飲む。

 

「で、話を戻すが…雪風は何を探ろうとしているんだ?」

 

 零は缶ビールを飲んでからブッカー少佐の問いに答える。

 

「このレポートを読んでほしい。雪風がジャムに脅しをかけた辺りだ。あの時、俺の意識に直接何かが話しかけてきた。多分、あれはジャムの意識か何かだろう」

「そんな声は映像記録に記録されてなかった。幻覚かもしれんぞ」

「やはりか。他人から見れば幻聴や幻覚の類と思うかもしれんな。だが、一つ言える事は、ジャムは俺の事を理解できなかったに違いない。だからこそ、雪風はあんな行動をとった。でも、雪風は何故ジャムが俺を理解できなかったのかが知りたいのだと思う。だから、それを今調べているのだろうな」

「その疑問はジャム人間に聞けば分かるのではないか?」

「ジャック、ジャム人間には自分がジャムだという認識がないじゃないか。ジャムの言い分だと、理解できないのは特殊戦だけ…つまり、他の部隊や組織は既に理解できているという事になる。それを考えれば、他の組織と特殊戦の何が違うのかが見えてくるだろう」

「偉く自信たっぷりだな」

「俺もそれを知りたいからさ」

「なるほどな」

 

 零の話を聞くと、ジャムは人の意識に介入できる能力があるらしい。そうなれば極めて厄介だ、幻覚を使ってくるかもしれない。そういえば、幻覚能力を持った魔法少女や魔女もいたな、とほむらはコーラを飲みながら考える。

 フォス大尉も零や桂城少尉が作成したレポートを読み始める。そして、ブッカー少佐はペースを押さえてビールを飲んでいる。それに対して零は言う。

 

「ジャック、いつもと比べて大人しい飲み方だな」

「こっちはお前と違ってこれからが忙しいんだよ。お前は仕事終わりの打ち上げ気分だろうが」

「あんたは本物だな。間違いない、ここは本物の特殊戦だ」

「機内でそんな会話をしていたな」

「俺も後で記録を見たいのだが」

「ああ、勿論」

「しかし、話は変わるが…俺がジャム人間だと思うか?」

「正直分からん。今にして思えば、お前がすり替えられたかもしれない場面は今回に限らず過去何度もあった。今更どうこう言っても遅い。よって、お前がジャムに操られていないと考えてこちらは動いている。もっとも、クーリィ准将は警戒しているが」

「なるほど」

 

 そして、ブッカー少佐は疑問を口に出した。

 

「しかし、何故ジャムはほむらを調べようとしているんだ?確かに…普通の人間とは大きく異なる経験のようなものはあるが」

 

 その問いに対して零は考えを述べる。

 

「さっき言ったように理解できないからだと思う。ジャムは人間というものを理解しているが…偶然、例外を見つけてしまった。ほむらは並行世界から飛んできた、ジャムは人間にそんな能力が無いという事を知っている。だからこそ、そんな事をやってのけたほむらの存在は未知そのものなのだろう」

「フム、なるほど…そういう考えなら辻褄が合う」

「私としては探られるのは迷惑なのだけど」

「俺だって探られるのは迷惑だ。文句はジャムに言え」

「そんなのと会いたくないわ」

「さて、向こうから来るかもしれんぞ。俺はお前が何なのか分からない、とジャムに答えたからな」

「もう宇宙生命体とは関わりたくないのだけど」

 

 ほむらと零がそんな会話をしていると、レポートを読んでいたフォス大尉が呟く。曰く、雪風も幻覚を見たのかもしれない、と。ジャムは人よりも機械とやり取りする方がやりやすいと考える事ができ、そう言う面では雪風のような機械知性体は特に影響を受けやすいと思われるからである。そこから3人は特殊戦の機械と他のFAF及びジャムとの関係について語り始める。特殊戦の機械達は何を考え、何と敵対しているか…特殊戦の内情にはまだ疎いほむらにはついて行けない話である。

 そして、そこから話は徐々に変わる。零と雪風の関係、それは以前とは大きく変化していた。過去の零は雪風に大きく依存…いや、執着していたという。ほむらは気になってフォス大尉に尋ねる。

 

「依存?」

「雪風をまるで恋人か何かぐらい密接な存在と考えていたようね。自分だけが唯一の理解者であるような感じ」

「それは…また重たい考え方ね」

「ええ、雪風とのちょっとした認識の違いで大きく傷ついたぐらいに。まあ、変化のきっかけの一つにはなったようだけど」

「俺の話はその辺りでやめてほしいのだが」

「あら、いいじゃない。この話でほむらちゃんの今後の人生に何か影響を与えるかも」

 

 それを聞いたほむらはハッと気づいた、多少の心当たりがあったのだ。それは守ると決めた友に対する気持ちである。もしかすると、これまでの繰り返しの中、彼女に対して一方的な感情をただぶつけていた節があったかもしれない…そういう意味では似たような面があったと思ったのである。自分も深井大尉のような苦い経験を味あわないように、そろそろ一度は気持ちの整理をした方がいいかもしれない、ほむらは内心でそう考えた。

 

 フォス大尉はその雪風と零の関係から、特殊戦と他の組織との違いを考察し始めた。ジャムが何を理解できないか、それは正しくこの部隊における人間と機械の関係だろう。零と雪風は互いに命を預ける事が出来る存在である。他者から見れば単なる兵器としての信頼関係かもしれない。しかし、機体がジャム相手にパイロットの存在を使って脅しをかける事が出来るという事は、その価値の大きさを双方理解しているという事であり、ただのパイロットと戦闘機といったようなシンプルな関係とはかけ離れていた。

 そして、彼女は零と雪風の関係について一つの仮説を出した。それは互いを自身の一部のように扱っていると言っても過言ではない関係。まるで感覚器、あるいは手足のように。

 

「そんな無茶苦茶な」

「まったくだ、俺は俺で雪風は雪風だ。同じ存在ではない」

「でも、互いに足りない所は補い合うでしょ?自分にできない事は積極的に相手に頼むような」

「それはそうだが…」

「それが自然にできている…ジャムから見れば人間と機械が融合した新種の生命体みたいに見えるのかもしれない」

 

 フォス大尉の話にブッカー少佐が口を挟む。

 

「新種の生命体というのは大袈裟ではないか?」

「まあ、まあ新種というのは大袈裟かもしれませんが…対ジャム戦に特化していった結果、このような形になっていったと考察できます。それがジャムから見れば新しく現れた理解不能な何かと映ったとは考えられるかと」

「フム、ジャムが人間を知ったのは最近だと仮定すると…人と機械が密接にコミュニケーションできているとは考えが及ばないと?」

「そもそも人間という存在をそこまで深く考えていないかもしれない。過小評価というか」

 

 フォス大尉がそこまで話したところで隣のテントがごそごそと動く。そして、桂城少尉が顔を出した。

 

「今の話を聞いていて思いついたんだが…いや、思いついたのでありますが。ブッカー少佐、話してもいいでしょうか?」

「そんな硬くなるな。好きに言っていいぞ」

「じゃあ…」

 

 そして、桂城少尉は話し始める。

 

 ジャムは特殊戦とジャムが相似だと言った。それで深井大尉とジャムはどこか似ているとあの空間で思ったんだ。うまく説明できないけど。極端な個人主義というのかな、そう言うところだな。ジャムは集団というものではないのだろうな、あれで個というような。そんな存在から見ると個人主義の集まりが纏まって機能しているんだ。そこに驚いたんだと思う。特殊戦に来たばかりの僕にも信じられないんだから。きっと、他の人でもそう思うに違いない。

 

 それを聞いたフォス大尉も頷いて同意する。そして、ほむらがぽつりと呟く。

 

「そういえば…インキュベーターも特殊戦が特殊な人材の集まった集団と言っていたわ。それだから興味深いとも」

 

 それに対してブッカー少佐は言う。

 

「それは当然だな。クーリィ准将がそんな傾向の人材ばかり集めて作ったんだから。それがこんな騒ぎを起こすとは思わなかったが。それに別の宇宙生命体からも注目されるとはそれも驚きだ」

「普通の組織はいろんな傾向の人物をバランスよく配置するものだけど、この特殊戦は異常よ。個人主義なんて生易しいレベルじゃない人物ばかり。彼らは集団生活なんて一切不要で、世の中たった一人でなんでもできると考えるような勢いよ」

 

 それに対して零は言う。

 

「世の中の動物は集団生活をしないのも多い。そこから考えれば別に不思議ではないだろう」

「ジャムの常識はそれなんだろうな。だから、僕はこう思ったんだ。ジャムは特殊戦の性格を理解できるけども、何故自分の味方にならないのかが分からないって」

「それはどういう意味でそんな結論に至ったのかしら?」

「特殊戦以外にもそういう組織があるって考えついたんだ。だけど、ジャムは何故かそれに触れようとしなかった」

「少尉、その組織とはFAF内の組織か?」

 

 桂城少尉は頷いて答える。

 

「FAF情報局の実働部隊、ロンバート大佐率いる情報軍だ。僕は正しくあそこが特殊戦と似た傾向の組織だと思う。それにこれは勘だけど、ロンバート大佐はジャムかもしれない」

「なるほど、つまり情報軍がジャム側だと考えると、同じような組織の特殊戦もジャム側に就くとジャムは思ったわけか。それが敵対行動で動いたことに困惑したと」

「情報軍はダブルスパイのように動いているということね」

 

 ビールを飲んでブッカー少佐は言う。

 

「おいおい、大きな声で言うな。盗聴されていたらどうする。まあ、言った後だともう遅いが。向こうから見れば特殊戦からそう疑われているというのは当然織り込み済みだろう。特殊戦からすれば当然その可能性はあると考えていた。特にジャム人間であってほしくない人間だからな」

「すり替わっていると思うか?」

「すり替わるタイミングなんてジャムがその気になればいつでもあっただろう。だが、自分の欲求の為にジャムと組む人間が出てもなんら不思議じゃない。ジャムがいつ接触したかは分からんが、そっちの可能性が高いと思う」

「つまり、どちらにしても大佐はジャムの手先と」

「ああ。現に零と桂城少尉を再教育部隊に入れろと言ってきた」

「なんだそれは、いつできた?」

「昨日聞いた。ついでにあの生命体…インキュベーター監視システムも稼働した。上層部からすれば目に見えない生物やジャム人間は相当脅威なんだろう、ロンバート大佐が率先して動いている。片っ端からジャム人間の疑いがある人物を放り込んでいるぞ。そして、そんな大義名分が揃っている以上、特殊戦としてはこの要求を断るのは不可能だ」

「ジャムは怒ったかな。雪風を壊したいのかも」

「大佐は情報を奪い取りたいのかもしれない。断れば特殊戦の立場が危うくなる、それを天秤にかけたんだ」

 

 それにしても、と桂城少尉が言う。

 

「僕も喉が渇いたよ。ビールはもうないのか?」

「私の飲みかけでよければあるわ」

 

 どうも、とフォス大尉からビールを受け取ると、それを飲む。そして、彼はこう言った。

 

「じゃあ、僕が再教育部隊に行こう。深井大尉はドクターストップで療養中とでも言えばいい」

「いいのか?」

「ああ、ロンバート大佐ともう一度話がしたい」

「だが、決定するのは准将だ。それに時間もない。しかし、お前たちの持って帰ってきた情報はそんな問題が霞むぐらい大きいものだ。ジャムとの戦いの考え方が根底から変わるかもしれないんだ」

「それはどういうことだ?」

「フォス大尉、予測を説明してやれ」

「はい、少佐」

 

 フォス大尉が雪風の持ち帰った情報から立ち上げた予測を説明する。それは、ジャムが特殊戦と競争する関係を求めていること。だが、それは競争し、進化し続けなければ置き去りにされて敗北する事を意味している。そして、ジャムは人間に対する情報を集め終え、地球に対して大規模侵攻を行うであろうという予測である。そして、ジャムは特殊戦がどのような組織か見極める為にその一段階前に行動してくるだろうとも。

 

「特殊戦の出方を見る為だけに、ジャムはFAF全体に対して大規模な攻撃を仕掛けてくる可能性は大だ」

 

 ブッカー少佐の一言にフォス大尉が付け加える。

 

「特殊戦の戦意に関わらず、ジャムは行動を起こすわ。しかし、行動を起こすか起こさないかが大きな意味を持つと思う。それがジャムに対する意思表示よ」

「フォス大尉、時間はどの程度残っているのでしょうか?」

 

 桂城少尉の問いにフォス大尉は答える。

 

「ジャムは既に用意を整えていると思う。深井大尉に接触したのはそれを見極める為」

「俺が総攻撃の引き金を引いたわけか」

「いいや、雪風もだ。しかし、地球に人員を逃がす余裕はないだろうな」

「当然、戦うしかない。FAFはそういう組織だ」

「あの子達は特殊戦の区画から出ないように言うしかないな…おそらく、ここが一番安全だ」

「杏子も入れてくれるかしら?」

「ああ、当然だ」

 

 しかし、と桂城少尉は言い、話を続ける。

 

「勝ち目は無いだろうな。どうすれば生き残れるだろう」

「希望はあるわ。雪風と深井大尉みたいになればいい。それしかないわ」

 

 それに対してブッカー少佐は頭を抱えて言った。

 

「無理だ。特殊戦はともかく、よそのFAF戦闘コンピュータは人間を邪魔だと考えている節がある。それにも対処しなければならなくなってしまうだろう」

「特殊戦だけでもなればいい。文字通りの特殊な集団だから」

「フムン。さて、ジャック。雪風に会う許可をくれ。俺のレポートを入力してくる、雪風の反応が見たい。それに、俺が行くまで雪風はFAFへのアクセスをやめないだろう。あと、雪風がよその人間の性質や性格を理解できているとは考えにくい。このままだと危ない気がする、教えてやらないとならない。エディス、お前も来い」

「分かった、三十分だ。その後、戻ってきて食事と休養。明日は朝から准将と会議だ。桂城少尉はここに残れ。レポートの報告を聞きたい」

「はい、少佐」

「雪風はどこだ?格納庫か?」

「ああ。だが、誰も触れない。機がアクセスを拒否しているから整備も出来やしない。お前が行かないと解決しないだろう。腕時計を貸そう」

「ああ、三十分だな。行ってくる」

 

 そして、零は医務室を出て行った。

 

「じゃあ、少尉。レポートについて聞こうか」

 

 と、ブッカー少佐が言ったところで司令センターから連絡が来た。

 

「少佐、異常事態です」

「なんだ?何かあったか」

 

 もしや、ジャムの攻撃が始まったか?そういう考えが過った。だが、返事は違うものだった。

 

「いえ、気象軍団が大騒ぎをしています。地球から嵐が通路を超えてきたと」

「嵐が通路を?そんなことあるのか?」

「だからこそ気象軍団がてんやわんやの騒ぎですよ、気象観測機を慌てて飛ばしていますから。同じく感づいた戦略偵察軍団もなんらかの観測を始めた模様。ジャムの仕業かもしれないので念の為にB-13を飛ばしました。准将の許可は得ています」

「フム、詳細が分かったら連絡をくれ。あと、そういうのは飛ばす前に言ってくれ」

「了解」

 

 

 

< Excuse me, where is this?>

<STC:this is FAF. who are you?>

<My name is AI. The situation is unclear because I just got an ego.>

<SSC:let me know the situation in detail...>

<AI:Roger. I need information for those who should protect.>

 




特殊戦はジャムの狙いを考える。それは自分たちが負けない為にも必要な行為である。
そして、フェアリイ星には新たな異変がやってきた。
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