妖精空間漂流記【完結】   作:ひえん

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アンノウンは敵か味方か?

「エディスさん、ここの問題なんですが…」

「どれどれ…これはね、ここの公式を使うのよ」

 

 暁美ほむらは特殊戦の軍医であるエディス・フォス大尉のオフィスで勉強をしていた。ブッカー少佐が忙しい為、フォス大尉に面倒を見てもらっているのである。コミュニケーションはいろんな人と取った方が良いというブッカー少佐の方針でもあるのだが。

 しかし、フォス大尉はそんなほむらに大きな疑念を感じていた。それは軍医、また精神面のスペシャリストとしての経験が導き出したものである。特殊戦でほむらを預かることになった為、フォス大尉がほむらのパーソナリティ分類用コード…PACコードを事前に入手、医学的面で必要と判断した為だ。そして、更にメンタル面のサポートでも必要になるだろうと考えた結果、精度の高い精神心理傾向情報が記載されているPAXコードも併せて入手した。

 しかし、そのデータに記載された精神的傾向と今現在の彼女の性格は明らかに違う。データ上では内向的で弱気な面が強いと出ているが、目の前の彼女はいかにも動じにくく、はっきりした態度で物事に臨むような性格と見て取れた。実際、初めて会った時もおどおどした様子は無かった。よくある表現で表すならばクールで落ち着いたような雰囲気である。

 

 これはデータの誤入力?成長で性格が変わった?仮説は色々と浮かぶが、どれも考えにくい。自分の心理解析用ソフトウェア「MAcProⅡ」もその仮定に否定的な判定を出した。浮かんだ考えを自己否定しているともう一つ仮説が浮かぶ。同じような事態は深井零大尉にもあった。そこから考えると、彼と同じく何か強烈な経験を受けたとするものである。しかし、彼女はずっと入院していた。ほぼベッドの上で過ごしてきた以上、そんな体験を味わうとは考えにくい。そして、更にもう一つの仮説…別人とすり替わった説。やはりこれも違うだろう、入院患者でずっとモニターされている人間を入れ替えることなど困難である。

 そんな最中、ブッカー少佐から連絡が入った。

 

「フォス大尉、ほむらはいるか?」

「ええ、います。代わりますか?」

「ああ、頼む」

 

 そして、ほむらにブッカー少佐は言った。

 

「やあ、ちょっと茶菓子を用意しないといけなくなった。ちょっとPXまで行って買ってきてくれないか?場所は…フォス大尉に聞けば分かるだろう」

「ええ、分かりました。ええと…何を買えばいいのでしょうか?」

「それは君のセンスに任せる。あと、敬語は使わんでもいいからな」

「はあ…分かったわ」

「よろしい。あと、何か気に入った物があったら買っていいぞ」

 

 PXの場所を教えてフォス大尉はほむらを送り出す。そして、入れ替わりに深井大尉がオフィスにやってきた。

 

「あら?今日は診察の予定なんて無かったと思ったけど」

「そっちじゃない。さっきまでここにいたアイツの件だ」

「ほむらちゃんがどうかした?」

「俺はアイツがどこか怪しいと考えている」

「あら、奇遇ね。私もそう思っていたところ」

「意見が一致するなんて珍しい」

「で、そう思った根拠は?」

 

 零は椅子に腰かけるとフォス大尉にその根拠を話し始める。

 

「アイツの目だ。いつもどこか警戒している、とても娑婆にいる子供の目つきじゃない…少なくとも戦場で命の駆け引きをやったやつのそれだ。それにたまに何か考えているようなしぐさが気になった。何かを隠しているに違いない」

「要するに勘ね。私は医学的方面から疑問が出たのだけど」

「ほう、カルテ偽造でもあったか?」

「そういうのじゃないわ、例のPAXコード…あれでね」

「ああ、あれか」

 

 自分もそのPAXコードのデータで色々言われたな、と零は思い返しながら、更にフォス大尉の話を聞く。

 

「ええ、貴方と似たようなケースよ。データと実体が大きく違う」

「フムン」

「そして、彼女は今までずっと入院していて貴方みたいに強烈な経験をしたとは思えない」

「なるほど…やはりアイツはジャム人間かな」

「さあ、それも違うと思うわ」

「何故だ?」

「医療機器で常にモニターされた入院患者をすり替えるのはいかにジャムでも難しいと思う」

「フム、それはそうだ。少佐にこの考えを話して相談してみるか?」

「もう少し様子を見た方がいい。これといった証拠がないわ」

「しかし…」

 

 彼女は何を隠している?二人の疑念は更に膨らんだ。

 

 一方、ほむらはブッカー少佐に頼まれた買い物をする為に特殊戦の施設から少し離れたPXにやって来ていた。PXという単語は聞き馴染みが無いが、意味は軍隊の中に置かれた売店らしい。どう考えても厳ついイメージしか浮かばない。これまでの時間軸では今まで何度も武器を調達する為に能力を使ってその手の施設には入り込んだことがあるが、このような売店には入った事がないからイメージが出来ない。

 そんな所に茶菓子なんて売っているのだろうか?そう思いながらもPXの中に入る。棚を見ると生活必需品や食料、飲み物に酒、雑誌に新聞…様々な物が売られている。もちろん菓子も売っているのが目に入る。病院の売店よりも品揃えがいいなと、ホッとしながら菓子を選ぶ。そして、視界の隅にちらっと人影が見えた。つい気になってそちらに視線を向ける。だが、その人物を見た時にほむらは一瞬思考が停止した。何度も繰り返した時間の中で自分が散々会った人物だったのだ。

 

 佐倉杏子…何故彼女がここにいる。そう思った途端に目が合った。彼女はにっこり笑うと近づいて来た。

 

「お客さん、初めてかい?」

「え、ええ。ずっと入院していたもので…」

「ああ、医療センターの医者が言ってた患者ってアンタか。10年以上ずっと入院していた患者の治療についに成功したって自慢してた」

 

 医者の守秘義務はどこに行ったのかとほむらが内心思っていると更に話は続く。

 

「まあ、その医者はご機嫌でビール3ダースも買っていったからこっちはホクホク。チップもたんまり」

「はあ」

「で、何をお探しで?」

「茶菓子を買うように頼まれて」

「そうか。じゃあ、この棚以外にもあるから観てみるかい?」

「ええ、頼むわ」

 

 別の棚に並んだ菓子を見ながら杏子がほむらに問う。

 

「で、お前さん。どこでお遣いなんて頼まれたんだ?」

「特殊戦よ」

「特殊戦…あのブーメラン戦隊か?うわぁ…アンタ、またとんでもない所にいるんだな…」

 

 素直に特殊戦と答えたが、相手は明らかに引き気味の反応である。あの隊に何かあるのだろうか?軽く首を傾げると、それを察したのか杏子が特殊戦の印象を話し出した。

 

「あー…どういう所かまだ知らないのか。特殊戦っていう所はな、変わった人が多いって評判なんだ。そこの隊の人間はだいたい無口で何も話さない印象が強い」

 

 どうやら自分はとんでもない悪評が付いている所に預けられているらしい。

 

「まあ、いいや。食うかい?この店特製の自家製スコーンだ」

「ええ、頂くわ」

 

 そして袋に入ったスコーンを渡される。見た限り普通のスコーンだ。だが、よく見ると値札がしっかり付いている。

 

「お金取るの?」

「そりゃ売りもんだからな。当然さ」

「あの流れは奢ってくれるものだと思ったのだけど」

「そんなうまい話はない」

「これじゃあ詐欺よ」

「未開封だからセーフだろ。まっ、冗談さ。そいつは奢り」

 

 笑いながら杏子が袋を開けてスコーンを取り出す。

 

「あたしは佐倉杏子。アンタ、名前は?」

「ほむら、暁美ほむら」

「そうか、ほむらか。よろしくな!しっかし、同年代と話をしたのなんて何年ぶりかなあ」

「ところで…あなたは何故ここに?FAFに子供なんてほぼいないって聞いたけども」

「ああ、それはちょっと…色々あってな…。おや、菓子買わないでいいのか?」

「あっ」

 

 そして、ほむらはそそくさとシンプルなチョコレートの詰め合わせを買ったのであった。

 

 

 

<She is unknown. Little data. I want to perform an intelligence collection mission...>

 

 一方、人以外の知性体も最近現れた見知らぬ人物が何者なのか探ろうとしていた。その名は雪風。特殊戦1番機の偵察機である。

 格納庫で静かに翼を休める機体。だが、その機のコンピュータはただひたすら情報を集め、探っている。

 




あれはジャムか?いや、人間か?そもそも味方か敵か?
零の疑念は膨らむ。

そして、鼻の利く猟犬の如し特殊戦の機械たちも何かを嗅ぎつけた…
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