妖精空間漂流記【完結】   作:ひえん

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漂流空間を探れ

 杏子達は部屋の中から出られない状態であった。よって、先ほど部屋から突然消えたほむらを探す事もできず、部屋の外の他者へこの事態を知らせる事もできなかった。

 

「くそ、どうすればいいんだ」

「落ち着いて。これがジャムによる仕業なら私達がどうこうできる問題じゃないわ…特殊戦の人達がどうにかするのを待つしかないわね」

「怖いです…これからどうなるんでしょうか」

 

 さなの問いに場は沈黙する。皆、先が読めない恐怖感と不安感に包まれていたのだ。幸い、水道や電気、ガスの供給は続いており、食料もまだまだ大量にあった。このまま籠城するのに不足はない。しかし、外部との連絡は取れず、部屋の中に置かれていたラジオやテレビも受信不能の状態であった。ただ座って待つしかない、現状選ぶことができる選択肢がこの程度しか存在しない事実も、皆の不安感を更に高めていた。

 そんな中、室内にある変化が起こる。最初に気が付いたのはフェリシアであった。

 

「おい、なんか…あの壁、光ってないか?」

「確かに、ただの壁なのに…まさか、ジャムが攻めてきたか!?」

 

 杏子の叫びと共に室内の全員が光り出した壁から離れる。光はそのまま増していき、眩しさのあまりに皆は目を瞑る。そして、光が消えて皆が目を開く。すると、そこには扉があった。

 

「扉…?さっきまで何もないただの壁だったはずじゃ…」

 

 さながそう呟いた途端に扉が開く。そして、中から転げ落ちる勢いで人が飛び込んできた。皆が恐る恐るその人物の正体を確かめようと覗きこむ。そこにいたのは正しく暁美ほむらであった。ただ、その見た目は消える前とは大きく変わっていた。まるでどこかの学校の制服のような服を着ていたからである。

 

「ここは…なんとかなったみたいね」

「ほむら!」

 

 その声を聴いてほむらは顔を上げた。そこは元居た部屋であった。無事戻ってくる事に成功したのである。そして、背後を振り返ると問題の扉は消えており、ただの壁に戻っていた。ホッとした途端に、杏子達からは質問が次々飛んで来る。無理もない、いきなり部屋から消えたのだから。

 

「おまえ…いきなり消えて何があったんだ」

「ジャムにさらわれかけたのよ。なんとか生還したけど…外はジャムの攻撃で摩訶不思議な状態よ。今の扉みたいな奇妙な現象が起きるぐらいに」

「その服もジャムの仕業なの?」

「ええ、多分。気が付いたらこんな格好に」

「それは…実に奇妙だな」

 

 それは正確にはジャムの仕業ではないが、素直に答えると面倒な事になりそうなので誤魔化しておく。もっとも、魔法少女なんて言っても信じないだろうが。そして、ほむらはこれからどう行動するかを考える。先ほどのアイの話では特殊戦司令センターは機能不全に陥っているらしい。その状況をどうにかするにはブッカー少佐達の所に行って司令センター内がどうなっているのか、それを確認する必要がある。それに、先ほど起きた事象を報告する必要もあるだろう。ジャムがどのような攻撃をしてきたのか知らせねば、対策できずにこの事態がただ悪化する恐れが大きい。それにはまず、この部屋を出ねばなるまい。そして、ほむらが部屋の出入口である扉に手をかけたところでフェリシアが声をかけてきた。

 

「おい、その扉は開かないぞ」

「扉が開かないですって?」

「ああ、そうなんだよ。お前が消えた事を外に知らせようとしたんだが、扉が全く動かなかったんだ」

「それは妙ね…この部屋丸ごと別の空間に放り込まれたとかそういう状況でなければいいけれど」

「んー、水もガスも出るからそれは流石に無いと思うけどなあ」

 

 とりあえず、扉を開けねば動きようがない。よって、扉が開くか試してみる。すると、ドアノブは回った。次に扉をわずかに引いてみる、扉はその分だけ動いた。どうやらフェリシアが言っていたような脱出不能な状況では無いらしい。

 

「動くわね…外に出られそう」

「おい!外は危ないんだろ?行かない方がいいんじゃ…」

「そうね。できる事ならここにいた方がいいかもしれないわ。でも、私はブッカー少佐に何があったのかを報告しないといけない…この状況を何とかする為にも。いい?あなた達は絶対に外に出ては駄目よ」

 

 そして、ほむらは扉の外に飛び出していった。一方、杏子達は部屋の中に残された。

 

「行っちまったか…しかし、ほむらのあの恰好、なんか見覚えがあるんだよな」

「ええ、実は私も…あっちの恰好の方がしっくりくるというか」

「マミもか?あんな服初めて見たはずなのにな」

「何故でしょうか、不思議な感覚というか…」

「もうちょっとで何か思い出せそうな…」

 

 室内の4人は口々にそう語る。そして、じっと考え込む。すると、部屋の中は靄がかかったようにぼやけ始めた。深く考え込み始めた彼女達はそれに気が付かない様子だ。空間が歪み始めたのである。これはほむらの残した影響か、それとも彼女達が持つ魔法少女の素質が何かを引き寄せている為か、もしくはその両方が組み合わさった結果か。そして、アイはさなに話しかける、彼女達の思考を逸らして室内で起こりかけている変化を阻止する為に。

 

「さな…あなたは神浜にいた時とフェアリイ基地、どちらの方が過ごしやすいと考えますか?」

「え?それは…今の方がずっと居心地がいいよ。みんなもいるし、アイちゃんもいるから」

「そうですよね。では、今はあまり考え込まない方がいいでしょう。皆さん、やたらと怖い顔をしていますよ」

「え!?」

 

 アイの突拍子もない一言に皆はぎょっとしながら顔を上げて、お互いの顔を見た。そして、彼女達の注意が削がれた結果、靄のようなものは消えて部屋の様子は元に戻っていた。こうして、アイは異変を阻止する事に成功したのである。

 

 

 

「アイ。あの部屋の扉が開かない状態だったというのはあなたの仕業かしら」

「おや、鋭い。ばれていましたか」

「ええ、おおよそ察しはついたわ。扉を電子的にロックしたといったところかしら。あの場でそれができるのはジャムを除いてはあなただけですもの。そして、この端末の情報整理や監視をしていたのもあなたね?」

「その通り。まあ、理由は単純ですよ。彼女達をトラブルに晒すわけにはいかないですからね。その手の不安要素を片っ端から排除しただけです」

「なるほど。さて、何故SSCやSTCが沈黙しているのか原因は分かる?」

「はっきりとは分かりません。これは推測ですが…強烈な負荷をかけられてフリーズしたという可能性が最も高いと思われます。ただ、状況を常にモニタしていた訳ではないので確証はありませんが」

「どうにも違う気がするわ。ジャムはその手を使うだろうとフォス大尉が予測して準備をしていたはずなのに。アクセスして様子を探る事はできないの?」

「できません。こちらにはSTCやSSCに命令や操作をする権限がないので…それに呼び掛けても応答が無いのでお手上げです」

 

 そんな会話をしながら、ほむらは特殊戦区画の通路を走っていた。常人よりもずっと速い速さで走る。今の身体能力は正しく魔法少女のそれであった。しかし、異常な状況だ。誰もいないし、気配もない。

 そして、視界は異常なまでにはっきりとしている。これは魔力で視力が強化されているだけでは説明がつかない。物の見え方がどこか変だ。通路の壁や床は汚れや塗装の劣化等が見当たらない、まるで新品同様である。目に映る光景から余計なものが全て消されてしまったかのようだ。

 

「アイ、何か変よ。ジャムの干渉を受けているのかしら?」

「いえ、センサ情報を見る限り、周囲にジャムを探知できませんが…何かありましたか?」

「視界が変なのよ」

「視界が?端末の光学センサでモニタしていますが、特に異常は…おっと、司令センター入口はそこですよ」

 

 アイに疑問をぶつけたところで司令センターへたどり着いた。ほむらは自動小銃を構えながら中の様子を探る。室内は無人。そして、照明は付いているものの、ディスプレイやスクリーンは消えており、室内の全ての機械が停止しているように見える。とても静かだ。

 

「誰もいない?」

「いるはずです。これは空間がおかしいのではない…レーダーがノイズを消すように、必要な情報だけ取得できる状態になっているのです」

「どういうこと…この空間のせい?」

「いえ、空間の異常を利用しているのです。雪風が」

「雪風が?つまり、雪風もこの状況を使いこなしているという事ね…」

「ええ、私よりも適格かつ確実に。使えるものは何でも使っているのでしょうね、もちろん人間も含めて」

「私の視野もセンサとして使っていると考えられる、か…あの偵察機のコンピュータはどうなっているのやら」

 

 すると、司令センター内の電話が鳴った。着信音のコールが鳴り響く。受話器を取るべきかほむらは悩んだ。アイの言う通りであるならば、この場には見えないだけで他に人がいるという事だ。もしも、自分が電話を取れば、それが急を要する内容の電話でも他人に代わることはできないだろう。そうこうしていると、コールが止んだ。誰かが電話に出たのであろうか、それとも諦めて切ったのか。すると、室内のスピーカから声が聞こえてきた。聞き覚えがある声…これはブッカー少佐の声だ。

 

「もしもし、そちらは誰だ?」

「深井大尉だ」

「零か?どこにいる、TS-1の機内で待機しろと指示したはずだ」

「ジャック、俺はブリーフィングルームにいる。どうしてすぐに電話に出なかったんだ。そちらの状況は?」

「お前の予想した通りだった」

「何の事だ?」

「ここは無人に違いないって言っただろう」

「言った覚えはないが」

「なんだそれは。お前、まさかジャムか?」

 

 どうやら、二人の会話は噛み合っていない様子だ。どちらかが偽物か、それとも違う展開になった別の時間軸間で通話しているのか…あのような体験を味わった後だとそんな考えも浮かんでくる。しかし、何故深井大尉が地上にいるのだろう。

 

「どうなっているのかしら」

「その声、ほむらか?どうやってこの通話に入ってきたんだ?」

 

 受話器も取っておらず、ただ疑問を口にしただけなのに、通話している二人にほむらの声が伝わったらしい。どこかのマイクから音声を拾って繋げたのだろうか。

 

「今電話は使っていないのだけど…どういう訳か声がそっちに入ったようね」

「それは奇妙だな」

「大尉。奇妙な事態にはもう慣れたわ」

「ほむら、お前は今どこにいる?」

「特殊戦司令センターよ、ブッカーさん。誰もいない」

「司令センターに?妙だな、准将以外に誰も入ってきていないはずなのに…いや、待て。何かがおかしい、誰もいないはずだったが…何故准将が戻ってきた覚えがあるんだ?」

 

 明らかにブッカー少佐は戸惑った様子であった。

 

「ジャック、俺が今からそっちに行く。絶対に撃つなよ」

「こちらに来てどうするつもりだ?理由を説明しろ」

「ジャック、そのままだとこの空間で迷子になるぞ。俺というガイド役が必要だ。あんたは今他人を認識できない状態になっている。他の人間もきっとそうだ。お互いを見ることができない、俺もそうだ。多分、司令センターの中にほむらはいるんだろう…見えていないだけで。そして、ジャックはTS-1に乗って移動したように感じただけで、体は司令センターに存在しているに違いない。夢か幻想に捕らわれているようなもんだろう」

「大尉、TS-1とは何?話が見えないわ。それに何故基地に?雪風に乗っているはずじゃないの」

「そっちに行ったら説明してやるよ。ほむら、お前もその場を動くな」

「しかし、信じられん。お前もTS-1に乗っていたはずだが…」

「俺は乗っていない、そんな記憶はないからな。前席の様子は覚えているのか?」

「いや、前席に乗っていたのが私だ。操縦していた」

「では、錯覚に違いない。後席は確認したか?」

「誰か乗っていたのは間違いないが…お前という確証はないな」

 

 どうやらTS-1というのは何らかの航空機らしい。二人の会話を聞く限り、ブッカー少佐はそれに乗ってどこかに飛んだというのだろう。だが、おかしい。それに乗ったというのなら、ブッカー少佐は司令センターにいるわけがない。この事態が起きてからそんな長い時間が経過したようにも思えない為、少佐が実際に飛んだとすれば今も空の上にいるはずだ。まさか、こんな状況で基地上空を一回りする遊覧飛行に飛んで、そのままさっさと降りてきたなんて事もありえないだろう。それぞれ時系列が乱れているのだろうか。

 

「俺がTS-1に乗っていたとして、真っ先に雪風を探すだろう。それが現状の最優先事項であるし、准将からさっき正式に雪風と合流しろという命令を受けた。ジャックにもそう計画を立てるように命令が出たはずだ。よって、フェアリイ基地に降りる意味は無い。どう考えてもおかしいだろう」

「これは…直接会って事態を確認した方がよさそうだ。混乱してどうにもならん。ジャムの妨害で無茶苦茶に状況を引っ掻き回されたのかもしれん」

「ジャムのやっている事を雪風は利用していると俺は思う。ジャックをこの場に誘いだしたのは雪風だろう。これは直感だけどな。まあいい、今からそちらに行くよ。こっちは何も持っていない。もしも武装した俺が現れたら、それはジャムだ」

「分かった。いつまで待てばいい?」

「我慢できるまで。おかしいと思ったら、その時は自分で考えて行動した方がいいだろう」

「分かった」

「待った、私は武装しているわ。ジャム人間とも交戦済よ」

 

 それを聞いたブッカー少佐は仰天しながら言う。

 

「なんだって!?ほむら、そういう事はもっと先に言え。まあ、この状況なら無理も無いか」

「そうだ、ジャック。フォス大尉に腕時計を預けたが…届いているか?」

「今ここにあるよ。お前がもしジャム人間ならば、良い観察眼をしていると褒めてやるよ。いいから早く来い」

「分かった。ほむら、お前が何を持っているのか知らんが…俺を撃つなよ」

「了解、気を付けておくわ」

 

 そして、零は足早にブリーフィングルームを出て、エレベーターに乗った。司令センターへと移動する為に。

 

 




ほむらは司令センターにたどり着く。そして、零やブッカー少佐と連絡を取る事に成功した。
そして、零は動く。

二人と合流して事態を把握し、雪風を探す為に。
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