妖精空間漂流記【完結】   作:ひえん

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会議をしよう

「深井大尉、応答してください。聞こえますか?」

 

 スクリーンに映し出されたフォス大尉がこちらに呼び掛けてくる。大きなスクリーンに映し出されるそれはまるで映画のような雰囲気を出していた。

 

「フォス大尉、聞こえている」

 

 零は返事を返す。

 

「しかし…何故、フォス大尉なんだ?」

 

 返事の後に零は言う。これが失礼な言い方の問いであるのは零自身も分かっているものの、つい口に出てしまった。こんな問いをいきなり投げかけても彼女は何の事か理解できないかもしれない。だが、この状況だとクーリィ准将が出て、そのままブッカー少佐と話し合うものだと思っていたからこそ、この疑問が口から出てしまったのである。しかし、彼女は特に表情の変化もなく淡々と話し始める。

 

「深井大尉が望む情報を伝える為です」

「俺が望む情報だと?そちらはこちらの状況を把握しているのか?」

「はい」

「待て、俺がどんな情報を望んでいるというんだ…」

 

 そんな中、ブッカー少佐が質問を飛ばす。

 

「エディス、こちらが見えるか?」

「はい、少佐。見えます」

「では、私は今どこにいる?」

「トロル基地地下のCICです、少佐。もっと精密な位置情報が必要ですか?」

「いや、それで十分だよ。こちらは特に異常なし」

 

 そして、ほむらはこの会話を聞いて言う。

 

「私達の位置がこれで定まったと言えるのかしら」

「ああ。ジャックが言っていた通りなら、これで俺達の不確定性は消えたな」

「そうさ。フォス大尉の観測によって、だ。しかし、何かが妙だ」

「何が妙だと言うんだ?」

「いや、向こうの様子がどうにも、な…」

 

 ブッカー少佐がそう言いかけたところで、フォス大尉から音声が飛んで来る。

 

「こちらフォス大尉です、深井大尉。こちらでは雪風の行動からその心理状態を調べ、雪風が持つ行動目的の分析を行いました。そして、良い結果が得られたと考えられます」

「それはすごいな。だが、そんな事ができるのか?そもそも、何故やろうと思ったのか?」

「それについてはクーリィ准将からの命令です。深井大尉が准将と話し合った際にその点について強く望んでいたとの事で、すぐに取りかかるようにと命令がありました。そこで、MAcProⅡを使用して調べてみたのです」

「フムン。なるほど、そういう事か…」

 

 確かに准将なら自分の気持ちを感づいて動いていても不思議では無いだろうと零は考える。現に自分は准将とも会って話をしているし、彼女は事態に対処する為に機体…TS-1を用意している。もっとも、そのTS-1がいつ飛び上がったのか、自分はそれを知らないが。

 

「しかし、疑問に思った事がある。MAcProⅡは人間の行動心理を分析するツールだったはずだ。人間以外、機械である雪風に応用して使用できるものなのか?」

「現在、MAcProⅡはジャムの行動心理予想に使用中です。そして、ある程度の成果を出す事が出来たと評価できます。よって、雪風にも同じように使用可能であり、より高精度の成果を出せると考えています」

「やたら自信満々に言い切るな。で…君の予想は、雪風は何がしたいんだ?」

「対ジャム戦の継続と考えられます」

「今更な話だ。その程度ならMAcProⅡを大袈裟に使う程でもない。リソースの無駄だ」

 

 零は不機嫌そうに言う。そんな当たり前な結果が出るなんてまるで意味がない分析である、そう感じ取ったのであった。

 

「雪風はジャムと戦う為に作られ、戦場に投入された。そのように考えるのは至極当然だ。もしも、戦闘を止めたがっているとか、和睦を望んでいるなんて結果が出ればそれこそ大騒ぎだが、そうでは無かった」

「いえ、大尉。肝心なのはジャムが消えて存在しなくなっても対ジャム戦を継続したいと考えている点です」

「それは…ジャムが消えてしまったら対ジャム戦ではない。それでも戦闘を継続するのなら、それは最早暴走とも言える状態だ。君は雪風がそのような行動に出ると考えているのか?」

 

 零は強気な口調でそう言うが、フォス大尉はそれに対して何の変化も見せず、ただ冷静な口調で答える。

 

「そうではありません、深井大尉。雪風はジャムがいなくなった場合、どうやって戦闘を継続すればいいのか…その点に強い関心を持っています」

 

 それを聞いたブッカー少佐は言う。

 

「雪風は自らの制限を取り払おうと考えているのか?自己の存在価値を広める為に」

「いいえ、少佐。雪風はそのような暴走行為を目論んではいません」

「と、するとだ。ジャムが存在しなくなった場合の対ジャム戦という言葉の定義をどう捉えて解釈するのか、そういう話になるわけか」

「そうです、少佐。雪風はジャムが完全に消えていなくなった時の対ジャム戦という矛盾した状況を、解釈上で解消したいと考えているのです。ジャムがいなくなっても今までと同じ任務を継続したい。だが、それにはどう対応すればいいのか、という事です」

 

 ほむらは首を傾げて口を開く。

 

「ジャムの襲来に備えて、戦闘状態で待機かしら?」

「いや、違うだろうな。それでは受動的過ぎて自由に動けない」

 

 それを聞いた零は軽く考えて答える。

 

「フムン。それならば、ジャムを探しに行けばいい。それが唯一の方法だ」

「ああ、零の言う通りだ。つまり、対ジャム戦闘の一環として索敵任務を実施する事を雪風は人間に認めてもらいたい、そう考えているのか」

「その通り、まさにそのような分析結果が出たのです。雪風はその行動に対して人間側の承認を得たいのです。人間側に承認される事で正当な行動とする。つまり、そのような行為を行って人間を敵に回したくない」

 

 それを聞いたほむらはぽつりと疑問を言う。

 

「敵に回したくない?何故そう考えるのかしら、人間は味方の筈でしょうに」

「雪風は自らの生存に人間のサポートが必要不可欠だと考えています。そして、雪風単体では生きていくのは難しいと自覚しています。よって、そこで不都合が出る事を恐れているのです」

 

 それを聞いたブッカー少佐は驚きながら言う。

 

「そいつはすごい。ハードウェア上の制約で人間に逆らえないと考えていないという事だ。雪風がそのように考えているのならば、我々の予想を軽く超えてくるのも納得だ。この結果が事実ならば、雪風は自覚的な意思を持っていると考える事だってできるぞ。そのような目的で作られた機械ではない筈なのに、だ。エディス、確認するが…今の回答は君の個人的見解では無く、そちらで行った心理行動分析の結果から導き出した事実なんだな?」

「はい、少佐。これは根拠のない推測や思いつきの類ではありません」

 

 それを聞いたブッカー少佐は考え込む。一方、ほむらはぼんやりと画面の向こうのフォス大尉に対する違和感のようなものを覚えるが、それが明確に何なのかと結論を出す事ができずに同じように考える。そのまま場が静かになった。

 そして、そんな中で零は聞く。

 

「大尉。聞きたいのだが、そちらでトロル基地の警備システムの状況は確認できるか?」

「ええ、深井大尉。実行しました」

「では、これでロンバート大佐やジャムの襲撃に対して、そちらが探知して事前に警告を飛ばす事ができるわけだ」

「ええ、そうなります」

「じゃあ、ゆっくり聞こうじゃないか。そちらが出したという雪風の行動分析の結果を」

「了解。深井大尉、概要は先程の通りです。詳細な行動予想例や雪風が持つ考えについては具体的に質問願います」

 

 それに対して真っ先にブッカー少佐が質問を飛ばす。

 

「では、こちらから質問してもいいかな」

「ええ、大丈夫です。少佐」

「では…雪風はどうすれば人間から承認を得ることができると考えているのだろうか。また、人間を敵に回したくないという考えをどうやって人間側へ伝えたいのか。これもMAcProⅡで予想する事はできるのか?」

 

 スクリーンの向こうのフォス大尉はそれを聞いて視線の向きを変える。下の方を見て何かをしている…端末を操作してMAcProⅡにデータを打ち込んでいるのだろうか?しかし、彼女の手元は画面外で映っていない。そして、フォス大尉は再び視線を戻すと質問に対する回答を飛ばしてきた。

 

「雪風は…会議の開催を求めています」

「会議…フム」

 

 その回答を聞いたブッカー少佐は椅子に座って考え込む。そして、零はぽつりと呟く。

 

「会議?会議とはどういう意味だ…?」

 

 零にはその会議という単語がどういう意味を示すのかが想像できなかった。

 

「フォス大尉。会議とはどういう意味だ?人間側で雪風が出した要請内容について会議を実施し、それを議決して欲しいという事なのか?」

 

 しかし、その問いに対する回答は意外な方向から飛んできた。ブッカー少佐からである。

 

「議論…要は話し合いだよ、零。雪風はこの状況の打破をテーマとした討論をしたいんだ」

「何、どういう事だ?」

「今後の特殊戦の方針や対ジャム戦に有効と思しき手段。それを考えて決める戦略作戦会議に雪風自身が参加したがっている。そういう事なんだろう。そして、雪風はその場で策を提案し、それが採択される事を望んでいる…つまりはそういう事だな、フォス大尉」

「おおよそその通りですね、少佐。そのように解釈可能です」

「我々人間が雪風の参加を認めて、その意見を聞くとする…その会議の場こそが雪風にとって、人間が敵では無いと認識できる場であり、我々から見れば、雪風の行動に直接承認を与える事ができる場になるわけだ。会議の開催を望むとはそういう事だろう。要するに雪風は今後の戦略について特殊戦の人員と話し合って決めた方がいいと言いたいんだ。雪風はジャムを捜索しに行きたいが特殊戦の総意…つまり、クーリィ准将が雪風の提案を受け入れて決定してくれる事を望んでいるんだ」

「少佐の言う通りです」

 

 二人の会話を聞いていた零は困惑したように言う。

 

「ジャック、何故二人の間だけでそんなに話が通じるんだ?どうも俺にはさっぱりだ」

「私とフォス大尉…ではないぞ、零。そうだな…雪風と私、だよ」

 

 そして、ブッカー少佐はそう言うと、席を立ってフォス大尉に再び質問を飛ばす。

 

「雪風の考えはおおよそ分かった。だが、一つ聞きたい。雪風は何故ロンバート大佐と直接戦う事をしようとしないのだろうか?」

「ジャック、それはどういう…」

「零、お前もこの会話に参加すればいい。この場こそがその会議なんだよ。雪風が望む討論、つまり会議の場だ。まあ、ロンバート大佐も参加すれば話が早いが、それは無理だ。雪風は大佐を拒絶している」

「それは…」

「何故?」

 

 零とほむらが同時に疑問を口にする。だが、その問いに答えたのはフォス大尉であった。

 

「雪風はロンバート大佐が自身に搭乗してくると自分がジャム機になってしまう。それを激しく警戒しているのです」

「ジャム機になるだと?」

「混じり合う、例えるならそういう状態です」

「零。雪風とジャムが重なり合う、確率的に雪風でありジャムでもあると言える状態という事かもしれない。お前をセンサとして雪風機上から切り離した今の状態だとロンバート大佐がコクピットに乗って来たら、雪風は傍から見れば完全にジャム機と認識されてしまうかもしれない。それが怖いのだろう」

 

 ブッカー少佐はスクリーンを見ながら話を続ける。

 

「だから、雪風はロンバート大佐に触れたくない。人間が猛獣に手を伸ばす事を本能的に拒絶するようなものだ。片っ端から対空車両やBAX-4を破壊したのは大佐に対する威嚇であり、警告だ。近づけばこのようになる、と。ああ、そうだ…そういう事か」

「いや、ジャック。何故そんなにさも何もかも分かったかのようにすらすら言えるんだ?ほむら、お前はあの会話内容からこんな結論を想像できたか…?」

「いえ、全く…何が何やら。そもそも、何か変よ」

「そうだよな、俺だけが分からないわけではない。ジャック…いや、少佐。あなたがそんな確信的な説明できるのは何故なのか。そして、あなたのその自信は何を根拠にしているのか。自分はそれを伺いたい」

「フム…分からないのか?」

 

 ほむらは困惑し、この状況がどうなっているのかをアイに聞く。

 

「回答保留。私がこの場の裏側を話してしまうのは野暮というものですよ」

「それはどういう事?」

「ご安心を、このままブッカー少佐の話を聞けば分かりますよ。彼は答えを見つけていますから」

 

 そして、少佐は言う。

 

「深井大尉。これは雪風が疑似的な人格を自ら作り出して、我々に分かるようにコンタクトしてきたんだ。まあ、雪風にアドバイスをしたやつがいるかもしれんが」

 

 ブッカー少佐はそう言うとほむらの端末に視線を向ける。

 

「何だって?どういう事だ」

「感じ取ってみろよ、零。あれは、雪風だよ。エディス・フォス大尉の姿と声を再現して模倣した、雪風そのものだ」

 

 あまりの回答に零は衝撃を受ける。そんなまさか、その言葉も口から出ない程に。

 

 

 

<SSC:there is a high probability that something will happen around Homura Akemi>

<B-1:uncertainty cannot be ruled out...>

<AI:What happened ?>

 




雪風は人間側へとコンタクトを図る。そして、人間側はそれについて考える。
特殊戦の機械達は新たな脅威を探る為に動き出す。
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