妖精空間漂流記【完結】   作:ひえん

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エピローグ


南極にて

 自称悪魔は特殊戦から消えた。一つの騒動が過ぎ去った司令センター内を一瞬の静寂が包み込む。そして、自称悪魔との繋がりが切れた為か、ほむらから魔法少女の力は消えて無くなり、今の服装は魔法少女のものから騒動前から着ていた作業着に戻っていた。

 

「服が戻った…ほむら、つまりこれは」

「ええ、力が消えて元に戻ったという事ね。ブッカーさん」

 

 一方、雪風はレイフを引き連れて無事に通路へと飛び込んだようだ。しかし、通路の先とは交信不能であることからうまくいったかどうかはまだ分からない。

 

「これで全部うまくいっていればいいのだけれど」

「魔女やインキュベーターの存在がどうなったかまでは、地球まで行って調べないと分からんだろうな」

 

 そして、続けてフォス大尉が言う。

 

「これで狙い通りに通路が魔女やインキュベーターのいない地球に繋がった場合、ジャムはその手の存在がこの戦いには邪魔な存在だと判断したって事でいいのでしょうか?」

「うむ。その場合、FAFとの戦いに首を突っ込まれたくないと考えた可能性は大いにある」

「逆に、狙い通りにならなかった場合はジャムにとって魔女やインキュベーターは許容できる存在と言えるわけですね」

「そうだ…我々にとってはとても許容できないが」

 

 フォス大尉とブッカー少佐の会話を聞いていたほむらにある問題が思い浮かぶ。そして、心配そうにその浮かんだ問題について言う。

 

「しかし…今回の成否は抜きにして、ジャムは私への興味をこのまま持ち続けるかしら…」

「うーむ…そればかりは難しい。判断材料が少ないからフォス大尉とMAcProⅡでも予想できるかどうか」

「判断材料か…これという物が無いわ」

 

 フム、とブッカー少佐が考え込む。すると、フォス大尉が一つ案を出した。

 

「そもそも、ジャムが何に対して興味を持っているのか考えたらどうかしら」

「なるほど。その興味の対象がどうなったかという方向性で考えれば、ジャムがこのままほむらに興味を抱き続けるかを予測する事ができるか」

 

 それを聞いたほむらは考える。

 

 ジャムは自分の何に興味を持っているのか…最初にジャムに遭遇したのは、いつものように敗北からやり直す為に他の時間軸へ移動している最中の事だ。その時、ジャムは自分に興味を持ったと考えられる。そして、前に深井大尉が考察していたが、ジャムの興味はまさに並行世界へと移動できる人間という存在であろう。しかし、体は普通の人間で記憶のみを持った中途半端な状態で自分はこの世界に飛ばされた。ジャムはこの世界の自分…今の自分を見て、足りないものが何なのか探っているのかもしれない。その足りないもの…つまり、魔法少女としての自分である。そして、ほむらはその考えを述べた。

 

「おそらく…ジャムの興味は並行世界に移動できる能力の正体、魔法少女としての自分だと思うわ」

「フム。だが、ほむらは一時的にでもその能力を得て、フェアリイ星で動き回った…それをジャムは見ていたはずだ。その力を見てそこからどうするか…読めないな」

「そういえば、インキュベーターが前に言っていたけど…私にはいろんなものを引き付ける程の強い力があると言っていたわね。それもまさかジャムの仕業かしら?」

「分からんな。だが、他の世界でそんな力を持っていたのか?」

「いいえ、そんなに強い力を持った事は無いわ。では、やはり…」

 

 そんなことを話していると、STCからアイへ音声で質問が飛んだ。

 

<STCからアイへ、先程外部へ送信した情報は何か?>

 

「アイ、何かしたの?」

 

 ほむらも気になったのでアイに聞く。

 

「ええ。これは、そうですね…あの自称悪魔に対するささやかな報復といったところでしょうか」

「報復?何をしたのかしら」

「あの悪魔が作ろうとしたこの世界への通路の座標ですよ。それを外に向かって飛ばしました。『暁美ほむらの持つ力に興味があるのなら、ここを調べよ』と。ジャムなら間違いなく嗅ぎつけるでしょう」

 

 それを聞いた一同はポカンとした表情を見せた。そして、ブッカー少佐は言う。

 

「アイ。まさか、あの別世界のほむらにジャムをぶつけようとしているのか?」

「ええ。あれだけ苦労したんですからね…それぐらいやってもいいでしょう?それに、ジャムも興味を向こうに持ってくれればほむらさんに対しての干渉をやめるかもしれません。あれこそ、まさにジャムの興味の対象である魔法少女の力の塊ですからね。そして、ジャムのリソースが少しでも向こうに向けば、我が特殊戦に対するジャムのリソースも減る…なんて戦略的効果が出るかもしれません」

「今頃あの自称悪魔の所に超空間通路がそびえ立っているかもしれない、と…なんてえげつない。しかし、そういえば…あの悪魔の侵攻をどうやって止めたのかしら?」

 

 想定以上の話に頭を抱えるほむらの問いにアイは答える。

 

「ああ…ジャムが最初にやろうとした事を利用しました。自称悪魔が作ろうとした出口の座標…今回はそれを座標Ωと呼称しましたが、そこをちょっと弄ったのです。その座標だけ空間の状態を雪風やSTC、SSCが可能性を確定させた前の状態に戻したのです。要するにジャムが最初に起こした騒動そのままの状態に変えました。そして、ジャムが変動させたままの異常空間に自称悪魔が作った出口の先が繋がって、相手は目指すべきこの空間の位置を見失った…つまり、無数の可能性の数だけ出口ができてしまった、という感じでしょう」

「つまり…妨害から報復までみんなジャムの力を借りたと」

 

 ほむらは唖然としながら言う。

 

「自力で全部やるよりは手間がかからないでしょう?そして、厄介な連中が潰しあってくれるなら幸いですし…これでジャムからこの世界のほむらさんに対する興味が無くなれば無事解決です」

「ジャムが私に興味を持ったのは並行世界へ移動した事だとして…あの悪魔はそれが霞むような規模の存在、そう考えるとジャムは向こうを調べようとする、か…あなた、とんでもない事を考えたわね」

 

 それに対してアイは返事を返す。

 

「平穏を取り戻す為に最適な選択肢を選んだだけですよ。これでうまくいけば私はただのしがない人工知能に戻る事ができますから…そうすれば、皆さんと楽しい日常を過ごす事ができますし。さて、残るは雪風が狙い通りの結果を出してくれたかどうかですが」

「そればかりは戻ってくるまで分からないでしょうね。そうでしょう、ブッカーさん」

「ああ、あいつらの帰りを待つしかないな」

 

 司令センターからは雪風がどうなったのかは分からない。ただ結果を待つのみだ。だが、ほむらには不思議とうまくいったように思えた。だが、確証は無い。ただ、自然とそんな気が心の内に芽生えていたのである。

 

 

 

 

 

「…海軍があなたを優遇するのは、あなたがジャムやFAF内情に関する詳しい情報を持っているという期待。そして、それを得ることができるかもしれないという事情からでしょう」

「ええ、そうでしょうね。こういうものは知名度と信用がものをいいますから。一日二日でどうにかなるものではない…ジャーナリストとしてのその実績がその根拠と言って理解していただけるかしら?岩坂さん」

「それは十分承知しています。私はあなたの本を読んで南極行きを決意したぐらいですから。しかし、ジャムがあなたに関心を持っているという、そういう事を何故信じる事ができるのか。その根拠を知りたいと思ったのです。もしや、既にジャムは地球に入ってきているとか…そういう事実をつかんでいるのでしょうか?」

「その可能性は捨てきれない…と言ったところですね。ジャムの先遣隊が侵入している可能性は私の本を読めばお分かりになるでしょう。今回、ここに来たのはその検証の為。そして、続編執筆の為の取材活動です。根拠についての情報は持っていますが、それが何かは秘密です。…あら、大丈夫?難しい話ばかりになってごめんなさいね」

「いえ、大丈夫です。半ば無理を言って付いてきたようなものですから」

 

 ここは南極、日本の国立極地観測研究所のあずさ基地から少し離れた辺りの雪上車車内である。現在、通路を観測する無人観測機器のメンテナンスをするために移動中。その観測機器は基地から30km程離れた位置に設置してあった。

 そして、この雪上車には5人乗っている。ジャーナリストのリン・ジャクスン、日本海軍中佐の犬井広報官、極地観測研究所技官の岩坂と若手技官の櫛引。そして、もう一人の客人。

 

「ええと…七海やちよさんでしたっけ?」

「ええ、そうです。どうせ、撮影の仕事も終わって時間が余っていましたし、マクマード基地から出る帰りの輸送機は明後日ですから」

「撮影?」

「ああ、ファッションモデルなんです。南極で仕事と聞いて驚いていた上に、まさかここであの有名なリン・ジャクスンさんに会えるとは思いませんでした」

 

 それを聞いたリン・ジャクスンは軽く驚きながら言う。

 

「あら、もしかしてジ・インベーダーを読んだことが?」

「翻訳版ですけど、高校生の頃にちょっとだけ」

「読んでもらえてうれしいわ。見たところ学生さんかしら?」

「大学生です」

「へえ。大学生と仕事の掛け持ちなんて大変でしょう」

「まあ、なんとかこなしています」

 

 その会話を聞いていた運転手の櫛引技官が笑いながら冗談を言う。

 

「しかし、彼女がいて助かった。我々4人だけだったら…きっと目的地まで永遠と難しい話が続いて、この車内はさぞ息苦しい空間になっていたかもしれない」

 

 そして、犬井広報官が呆れ気味に言う。

 

「流石に危険は無いでしょうけど、よく同行の許可を出したわね」

「うちだって広報活動は重視していますからね、その一環ですよ。海軍さんだってそうでしょう?まあ、おかげで南極の風景や地形の説明もできるし、自分としては気楽ですが」

 

 櫛引技官の呑気な返事に犬井広報官はため息をつく。彼女のため息の理由はそれだけではない。プロばかりの中に一人だけ素人がいる、そんな状況にちょっとしたやりづらさを感じているのだ。この場の会話があまりにも専門的になり過ぎては、当然やちよだけ浮いてしまうだろう。広報官という立場としてそこの匙加減は重要である。話題を変えてやちよに質問を飛ばす。

 

「そういえば、マネージャーさんはついてこなかったの?」

「気候のせいか、時差ボケか…マネージャーは体調を崩して布団の世話になっています。なので、私一人」

「なるほど。しかし、仕事とはいえ家族と離れてはるばる南極まで来るなんて大変でしたでしょう」

「ああ、いえ。普段離れて暮らしているので慣れています」

「大学の寮かしら?」

 

 リン・ジャクスンも質問に加わった。

 

「ああ、いや。私が経営している下宿です」

「まあ。まだ若いのに下宿を?凄いわ」

「元々は祖母の下宿でしたが…まあ、住んでいた私がそのまま受け継いだ形です」

「でも、立派よ。じゃあ、留守は下宿の皆さんに任せているのね」

「ええ。南極で仕事って言ったらペンギンの写真を撮ってこいって、みんな大騒ぎで…」

 

 車内は笑い声に包まれる。すると、ブザーが鳴った。

 

「お、うちの観測機器が何か捉えたらしい」

 

 雪上車が停止する。

 

 通路を観測する機器には光学カメラと気象観測機器が載せてある。だが、それとは別に試作の観測機器も増設されていた。レーザー計測機器である。それは通路の表面を観測する為に設置されたのであった。以前から通路を航空機が通過する際にある変化が起こる事が知られていた。それは地球から航空機が通路に入る直前、通路表面の霧が盛り上がり、逆に通路から地球に航空機が出てくる直前には通路の霧が窪むのだ。気圧の影響とは逆の変化が生じるのである。岩坂技官はこれを空間の歪みによるものではないか、と説明していたが…この現象を正確に捉える事で通路から航空機が飛び出してくる予兆を確立しようという試みであった。これが実用化すれば、ほんの数秒でも通路の向こうから飛んでくるジャムの襲来に備える事ができるかもしれないのだ。しかし、問題もあった。それは他の基地からは同じ観測結果が出ないのである。この謎が解けない限り、実用化はできないであろう。

 

「もしかしたら、ジャムが干渉した結果がその独自の観測結果なのかもしれない。実際は通路の変化なんて存在せず、観測機器のシステムに直接影響を与えているとしたら…」

 

 説明の内容を思い出したリン・ジャクスンはポツリとそう呟いた。

 

「そんなまさか。いや、待てよ…ジャムが侵入した際に、痕跡を残さないように欺瞞しようと周囲に干渉した過程をうちの観測機器が捉えていたと…?」

 

 岩坂技官が雪上車に載せてある観測機器を準備しながら独り言を言い、途中で言葉を失った。もしかすると、とんでもない事象を捉えていたのかもしれない可能性を知ってしまったからである。そして、雪上車の屋根に据え付けられたカメラが動き、通路の方角へと向けられる。

 

「でも、理屈はどうであれ…それが前兆現象であることに変わりはないでしょう。さて、定期便の飛ぶ時間じゃないから何が出てくるか。この反応…スピードが速い。戦闘機?それが三機…出てくる」

 

 そして、三機の黒い影が通路の靄を突き破って飛び出してきた。雪上車のカメラはその姿を一瞬だけ捉えた。

 

「あれは…ジャム?」

 

 その一瞬の影を見たやちよはそう呟く。

 

「駄目だ、撮影できない。カメラが映らないぞ!」

 

 そして、犬井広報官が叫ぶ。

 

「基地経由でアドミラル56に緊急連絡を!急いで!!」

 

 しかし、櫛引技官が悲鳴のような返事を返す。

 

「駄目だ!ノイズだらけで通信不能。どのチャンネルも駄目。故障か?」

「いや、違う。これは妨害電波だ…」

「ECM…こちらの通信に対してのスイープジャミング?いや、切り替えても既に妨害されているから違うか…もしかして、広域の周波数帯に対するバラージジャミングなの?そうだとしたら、なんて出力なの…」

 

 犬井広報官が呆然とした表情で呟いた。そして、一つの考えが浮かび、櫛引技官に指示を飛ばす。

 

「いや、国際緊急バンドならいけるかも…切り替えて」

「こっちもひどい雑音が…む、雑音が切れた?」

 

 突然、無線の雑音が消えた。すると、無線に音声が飛び込んでくる。

 

「こちらFAF特殊戦所属B-1…雪風。誰か応答してくれ。現在、機位不明。ここの現在位置を教えてほしい」

 

 リン・ジャクスンはとっさに無線機のハンドマイクに手を伸ばした。そして、無線を飛ばす。

 

「雪風へ。こちらリン・ジャクスン。今、私は日本の極地観測研究所あずさ基地所属の雪上車に搭乗中、超空間通路の方向へ移動していたところです。そちらの現在位置はロス氷棚上空よ」

 

 そして、雪風から無線が帰ってくる。

 

「ジャクスンさん、了解。という事は、ここは地球で間違いないか。こちら深井大尉、そちらの姿を確認したい。こちらを見つけたら手を振ってほしいのですが」

「分かったわ、深井大尉。私がここにいる事には驚かないのね」

「あなたがここにいるって事は、そちらにロンバート大佐からの手紙…宣戦布告の知らせが届いたのですね」

「あれはやはり事実?」

「クーデターは事実です。しかし、実際はもっと面倒な事になっています。我が特殊戦はその状況を生き延びる為に行動中。本機は地球がどうなっているのかを偵察する為にやってきた。なお、ジャムが何をしたいのかは現在まだ不明です。ああ、そうだ。一つあなたに依頼したい事が」

「何かしら?」

「ジャムとは別件で調べてほしい事があります。地球である噂が出回っていないか、それを知りたい。魔女と白い小動物、そんな題材の噂や都市伝説が存在している場合、自分かブッカー少佐にその内容を知らせてほしい。ああ、見つからなかった場合も連絡願います」

 

 意外な依頼内容にリン・ジャクスンは一瞬戸惑うが、すぐに返事を返す。

 

「分かったわ。調べてみるわ」

「ありがとうございます。あなたの姿を肉眼で確認したらこちらは帰投します」

「了解、今出るわ」

「対空ミサイルの発射を確認。電子戦を開始するので、そろそろ通信を終わります」

「頑張って」

「そちらも。では、通信終わり」

 

 無線から再び猛烈な雑音が鳴り響くようになった。無線のスピーカーを岩坂技師が切った。そして、リン・ジャクスンに質問を飛ばす。

 

「妨害が止まった間に観測しましたが…おかしいな、三機いたはずなのに二機しかいない。もう一機はどこかに飛び去ったか。しかし、ジャクスンさん。今の通信はあの三機からですか?」

「そうね」

 

 リン・ジャクスンはぼんやりとした返事を返す。彼女は急いで外に出ようとしていたのだ。分厚い手袋を付け、ドアに手を伸ばす。だが、そこで待ったがかかった。犬井広報官がその手を掴んで止めたのだ。

 

「外に出ないと」

「何故出る必要があるのですか?」

「ジャムに対抗する為よ。彼らと雪風は私を必要としているのだから」

 

 そして、リン・ジャクスンはそう言うと雪上車の外へと飛び出す。そして、空に向けて手を大きく振った。南極の晴れた空へ。しかし、晴れていても気温は低い。寒さで皮膚が痛いぐらいだ。

 そして、その刹那、轟音が鳴った。黒い機体が低空を駆け、こちらへと突っ込んでくる。初めて見る機体、あれがFFR-41という新型機の体を手に入れた新しい雪風なのだ。機体はこちらに背を向けるように緩く旋回する形で低空飛行。コクピットに座るパイロットの姿も見えた。深井大尉だ…彼と視線が合う。そして、彼はラフな敬礼をしてきた。それに対して、リン・ジャクスンは大きく手を振り返す。そして、轟音が通り過ぎていく。雪煙を巻き上げて雪風は飛び去った。アフターバーナーの炎が遠くに見える。そして、音速を超えた際に生じた轟音と衝撃波が伝わってきた。この間、10秒も経過していないだろう。ほんの僅かな時間の事であった。機影は既に通路へ向かって飛んでいた。

 

「今のはいったい…あれがフェアリイ空軍機なのですか?」

 

 やちよがいつの間にかリン・ジャクスンの隣に立っていた。

 

「そう。あれこそフェアリイ星でジャムと戦っている本物のフェアリイ星人よ」

「もう帰っていった…結局、何をしに来たのかしら…」

 

 犬井広報官が困惑したように言う。そして、雪上車の中から驚きの声が響いた。声の主は岩坂技官である。彼は車内のモニタで先程カメラが捉えた観測記録を見ていた。

 

「あの、雪風以外の二機が一つに重なって一機になった…いったい、何が起きたんだ?そして、犬井さんの言ったように彼らは何をしに来たんだ…」

 

 その一言にリン・ジャクスンはぼんやりと言う。ほぼ無意識に言葉が出ていた。

 

「雪風は…祓いに来たのかもしれない。何か良くないものを」

 

 岩坂はその言葉を聞いて、南極の空を見た。彼女の言葉は何故か説得力があるように思えたのだ。それが彼女のジャーナリストとしての実績によるものか。それとも、あの異質な航空機を間近で見た事によるものかは分からない。だが、もう一つ分からない事があった。

 

「あのパイロットがあなたにした依頼は何だったのでしょうか?」

「今はまだ分からない。でも、きっと意味がある筈よ。しかし、魔女と白い小動物の都市伝説か…」

 

 やちよはその話を聞いて考え込む。

 

 魔女と白い小動物…何か忘れているような気がする。それは何だ?なんだか、薄ぼんやりとだが何か掴めそうな気がする。思考の奥底、そんなところに眠っているような何か。だが、それは…

 

「大丈夫?冷えてしまったかしら」

 

 リン・ジャクスンの声で意識がハッと戻る。自分は何を考え込んでいたのだろう。こんなよく分からない話をただ考えても、答えが出るわけが無いではないか。

 

「いえ、大丈夫。ちょっと驚いてしまったみたいで」

 

 では、寒いし車内に戻りましょうか。と、犬井広報官が言い、皆は雪上車へと乗り込んだ。そして、リン・ジャクスンはそのまま手帳を取り出して筆を執る。

 

 地球人として、ジャムの脅威に立ち向かうために。

 




妖精空間漂流記、完


ご愛読ありがとうございました。以上で完結となります。

あとがきはあまりうまく書ける気がしないので手短に…

夜中にふと浮かんだネタから完結まで持って行けた事に自分で驚いております。これも皆様からのたくさんの感想や評価のおかげです。



原作の雪風が連載再開したり、今年でまどマギ放映10周年だったり…タイミング良く両作品とも続編に期待できるかもしれない状況です。この作品でどちらかを初めて知ったという方は是非とも原作をどうぞ。

では、またどこかでお会いしましょう。
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