妖精空間漂流記【完結】   作:ひえん

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つかの間の平穏

 この部隊に放り込まれてから最初の朝が来た。巴マミは目を覚ます。

 

 特に忙しいタイムスケジュールでもない為、のんびりと起きる。飾り気もないシンプルな部屋で身支度を整えた。とりあえず、さなとフェリシアの二人と合流し、食堂へと移動する。そして、その途中に同じくらいの年齢の少女と出くわした。暁美ほむらである。

 

「おはよう。眠れたかしら?」

「ええ、私はぐっすりと」

「そちらの二人は?」

「そりゃあ、同じくぐっすりと」

「ええ、私も…」

「そう、それはよかった。じゃあ、行きましょうか」

 

 こうして一日が始まった。

 

 まずは勉強としてブッカー少佐から数学等の課題が配られた。更に語学学習、これらの学習には先に渡されたタブレットを使う。タブレットのAIが学習内容を解説してくれるのだ。

 ラッシュ時が過ぎて暇になった食堂の一角で勉強を進める。そして、マミが興味本位で隣のテーブルのほむらを見ると、自分達とは異なる課題をやっている様子であった。何枚もの用紙にひたすら何かの文章を書いている。課題に飽き気味のフェリシアがそれに興味を持って訪ねる。

 

「なあ、何書いてんだ?」

「レポートよ」

「レポート?」

「そう。昨日偵察機で空を飛んで、その時に学習した内容と感想を書くように、って」

「ほほう。面白そうだ」

 

 それを聞いて、フェリシアだけでなく他の2人もキラキラとした目でほむらを見つめてきた。非日常な体験をした相手に興味津々といった様子だ。

 

「読んでみる?つまらないわよ」

 

 諦めてほむらはレポート用紙を手渡す。無論、内容は全て英語で書かれている。当然三人はそのままでは読めない為、タブレットのAIが内容を翻訳していく。

 搭乗時の安全確認手順から始まり、各チェックリストの重要性、空中での周囲確認、主要な計器の位置と見方、各アビオニクスの簡単な操作、機長との無線交信手順、緊急時の脱出手順確認、着陸前の確認作業…ただひたすら事務的であり、夢も希望も冒険要素もない淡々としたレポートであった。それを見た三人はどことなくがっかりした様子を見せる。冒険活劇のような山あり谷ありの体験記でも期待していたのだろう。

 

「まるで説明書みたい」

「レポートだもの。面白く書いても仕方ないでしょう」

「あー、なんだ。つまんねえ」

 

「皆さん、課題を進めましょう」

 

 フェリシアが完全に飽きたような態度を見せると、AIが勉強を進めるように促してくる。お節介な機械だ、そうほむらが考えながらレポートの続きを書く。しかし、そこでふと興味が湧いた。過去、散々会ってきた巴マミはともかく、他の二人はどこから来たのだろうという疑問からであった。

 

「ねえ、あなた達は日本のどこから来たのかしら?」

「んー、オレは神浜。あ、日本に来たことないんだっけ。場所は分かるか?」

「ええ。まあ、だいたいのイメージは」

「奇遇ですね。私も神浜なんです」

「おお、マジか!」

「私は見滝原よ」

「へー、あそこかー」

 

 マミからは予想通りの返事が返ってくる。他の二人も馴染みのある地名の出身だ。それを聞いていてほむらはふと考えた。自分が必ず救うと決心した彼女はこの世界にいるだろうか。そして、その身は無事であろうか、と…今まで混沌とした状況と緊張で考える余裕すらなかったのだ。こういう考えが浮かぶという事はやっと心に余裕が持てるようになったのだろうか、それとも心身ともに特殊戦に慣れてしまったのだろうか。しかし、調べる手段はない。フェアリイ星と地球との間に電話線のような通信ケーブルは存在せず、地球との連絡方法は昔ながらの手紙か宅配物しかないのである。

 

「筆が止まっているぞ」

 

 ぼんやりそんな事を考えていると、背後から声を掛けられた。声の主は深井大尉だ。

 

「考え事ぐらいいいじゃない」

「フムン」

「大尉は何を?」

「朝飯だよ。機内で作業をしていたらこんな時間だ」

「なるほど。仕事熱心ね」

「熱心じゃないと生き残れない」

「ごもっとも」

「で、課題やりながら子守か」

 

 零が朝飯を載せたトレーを机に置きながら呟く。

 

「子守って…相手はほぼ同年代よ」

「フム、新人の研修という表現に変えよう」

「それもなんか嫌ね」

「まあ、気にするな。で、課題は順調か」

「なんとか。あともうちょっとで片付くわ」

 

 朝飯に手を付けながら零がレポートを一瞥する。ほむらは結構な枚数を書いている様子だ。おまけで出てきた課題なのにきっちりこなすとは律儀なやつだ、そう内心で考えた。

 

「しかし、ジャックは面倒だ。見て分かるように屁理屈が多いからすんなり通るかどうか」

「それは困るわ。ここまで書いてやり直しは嫌よ」

「覚悟を決めるんだな。しっかりやらんとそこの連中に示しが付かんぞ」

「私は責任者ではないわ」

「フムン」

 

 ほむらは周りを見渡して、誰もこちらを見ていないことを確認してから話題を変える。

 

「…大尉、昨晩アイツが現れたわ」

「インキュベーターか」

「ええ、地球から放り込まれた集団の中に魔法少女はいないそうよ」

「それは残念、それでは実演できんな。しかし、信用できるのか?」

「さあ、少なくともジャムに魔法少女は見せたくないって強調している。いざとなれば魔法少女を消してでも機密保持するとか言っていたわ」

「何故だ」

「自分たちの資源がジャムに見つかって食いつぶされるのを恐れているとかそんな所かしら。連中が何を考えているかはさっぱり」

「フムン。面倒な異星人だらけだな」

 

 そう言うと零はサッと席を立つ。いつの間にか朝食を完食したのである。

 

「まあ、せいぜい頑張って宿題を片付けるんだな」

「言われなくとも」

 

 軽口をたたきながら零はさっさと食堂を出ていく。それを目線で見送るとほむらはささっと文章を書きこんでレポートの残りを片付ける。そして、隣のテーブルに移動。気になった為、三人の課題が終わったかを確認する。すると、フェリシアが大苦戦中であった。それを見た途端、先ほどの零との会話やブッカー少佐から言い渡された任務を急に思い出す。別に勉強まで助ける義理はないが、妙な責任感に苛まれてつい手助けしてしまった。そして、なんとか課題を片付けるべく、ほむらはフェリシアに解き方を教えながら奮戦する。敵は数式だ。

 一方、一足先に課題を終えたさなはタブレットのAIと楽しそうに会話していた。同じく課題を終えたマミはそれを見て会話に加わった。

 

「あら、ずいぶん楽しそうね」

「ええ、楽しいです。久々に他人とじっくり話せましたし…マミさんもどうです?」

「じゃあ、せっかくだから話してみようかしら…あなたは今までどういう人の所で使われてきたの?」

「私は過去、実用で使用されたことがありません。これが初めてのミッションなのです」

「なるほど。それにしては会話がなめらか」

「私は人と会話する為に開発された為、必要十分なコミュニケーション能力を備えるように作られています。人との会話から学習し、更なる性能向上を目指すようにも作られています。よって、このような会話は私にとって必要な要素となります」

「へえ…やっぱりすごい」

「あ、そういえばこの子の名前を決めるように言われたような…」

「あっ、そういえば」

「どうしたものかしら」

「うーん…」

 

 二人は顔を見合わせて考える。ああ、そうだ。と呟きながら、さなが一つ案を出した。

 

「それはいいわね。正にシンプルで覚えやすいし、呼びやすい」

 

 そして、二人の手によってこのAIの名前…パーソナルネームが決まった。

 

 一方、ほむらはフェリシアの課題をなんとか片づける事に成功。そして、ブッカー少佐の元に自分のレポートを提出すべく食堂を立ち去った。

 

「初めてにしては上出来だ。よく書けているじゃないか」

 

 ブッカー少佐は提出されたレポートを読み終えてそう言った。

 

「それはよかった」

「でも、ちょっと足りない箇所がある」

「なにかしら?」

「感想が薄いな。思った事を正直に書いていいんだ。特にこの部隊ではそこを重視する、相手があのジャムだからな。数値以外も必要な要素なんだ」

「では、書き足した方がいいかしら?」

「いや、次でいいさ。これなら合格点だ」

「次…特殊戦機ではあまり飛びたくはないわ」

 

 ブッカー少佐が紅茶を用意しながら尋ねる。

 

「どうだ、あの三人は?」

「さっき課題を終わらせていたわ。今頃は自由時間を満喫しているかもしれない」

「フム、それはなにより。あんな騒動に巻き込まれたから心配していたが、大丈夫そうかな」

「どうかしらね。人の心は難しいってエディスさんが前に言っていたわ」

「まあ、相手の内心なんて一目じゃ分からない事が常だ。何か気になった事があればすぐ言ってくれ」

「ええ」

「すまんな、押し付ける形になってしまって」

「いいのよ、いつもお世話になっているのだから」

 

 ほむらは紅茶を受け取った。そして、紅茶を見て食堂にいるマミを思い浮かべる。ああ、久々に彼女の紅茶を飲んでもいいかもしれない、とも思いながら。

 

 

 

 フェアリイ星のとある空域では今日も戦闘が行われていた。相手はジャムのタイプ1の編隊。前線の航空基地を狙って侵攻してきたのである。それを迎え撃つのはシルフィードの1個飛行隊である。

 

「グールからウィッチウォッチ、現在タイプ1…四機と交戦中」

「ウィッチウォッチ了解。それで最後だ…いや、ちょっと待て。ポイントAX7682にアンノウン一機、IFF応答無し。極めて小型低速だが、恐らくジャム。攻撃許可」

 

 シルフィードのレーダーがAWACSから指示された目標をすぐさま捉える。

 

「了解、こちらでも捕まえた…妙だな、通路の方角じゃないか。味方のUAVか何かではないのか?」

「いや、IFFに応答がないし、フライトプランもない。敵であることは間違いない」

「了解。では、グール6。そちらに任せた」

「グール6了解。グール4へ、射程内まで近づくからカバーしてくれ」

「了解、後ろは任せて安心して撃て」

 

 シルフィードのフェニックスエンジンが轟音を鳴らす。その轟音と共に機体は急加速、目標を射程内に捉えた。

 

「フォックス3!」

 

 シルフィードから中射程空対空ミサイルが二発放たれる。目視外の距離の為、標的の姿は直接見えないが、レーダー上で捉えた標的のスピードは極めて遅い。まるでホバリング中のヘリコプター並みだ。超音速で飛翔するミサイルはそんな遅い目標を逃がすこともなく近接信管が作動。命中確実、破片と爆風が目標を引き裂いたはずだ。そして、反応が消えた。

 

「よし、グッドキル!」

「ウィッチウォッチより、グールへ。空域はクリア、よくやった」

「了解!助かったよ。グールはこのまま帰投する」

「帰投コースを指示する」

 

 フェアリイ星の日常は続く。しかし、このありふれた戦いを見ていたものがいた。

 

「魔女が通路を超えてくるか、今までになかった現象だ。ある程度、力がある魔女でないと超えられないようだけど…これは暁美ほむら、彼女に引き寄せられた結果かな。まあ、魂が変質し尽くした存在である魔女がジャムに知られても困りはしない。だけど、それで起きるかもしれない面倒事は避けたいな。彼女を地球に連れていければそれで話が済むけど…さて、どう手を打とうか」

 




フェアリイ星の日常。しかし、FAFは大作戦を実施していた。そして、それには無論特殊戦も投入される。
この大作戦の成否を問わず、FAFの日常は大きく変わるであろう。
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