鉄血無敗の神装機竜   作:やーみん

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プロローグ

『俺達には辿り着く場所なんていらねぇ』

『ただ進み続けるだけでいい。止まんねぇ限り、道は続く』

『俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇ限り、その先に俺はいるぞ!』

『だからよ…止まるんじゃねぇぞ―――――――』

 

『―――――――俺には、オルガがくれた意味がある』

『なんにも持ってなかった俺のこの手の中に、こんなにも多くのものが溢れてる』

『そうだ、俺達はもう辿り着いてた』

 

『俺達の…本当の居場所―――――だろ?オルガ』

『―――――――ああ、そうだな…ミカ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っくしょい!」

 

朝日が昇り、鉄格子から光が差す石畳の牢屋の中、黒い肌の男は大きなくしゃみをした。

男は顔中痣だらけな上に四肢に枷、肩から下を鎖で巻きつけられた状態のため手で覆う事も出来ない。

 

「汚いよ、オルガ」

 

隣にいた黒髪の少年、三日月が無表情で苦言を呈す。その言葉に黒い肌の男、オルガは「悪い悪い」と軽く謝罪する。

 

「はぁぁぁ……これからどうしよ」

 

更に隣では銀髪の少年が頭を抱えてオルガのくしゃみに負けないような溜め息をつく。オルガとは違い、この少年達は拘束されていないものの、所持品等は全て没収されているため脱出する事もできない。

 

「なんて声出してやがる、ライド。運が逃げちまうぜ?」

「ルクスだよ!運なんて牢屋に入れられた時点で全部逃げてるし、っていうかなんでそんな余裕なの!?」

 

銀髪の少年ことルクスはボロボロになってもあっけらかんとしたオルガにツッコミを入れる。

もしやこういう事態に慣れているのでは?とも考えるが、今は置いておくことにする。

 

「そういや俺達、どうしてこんな所にいるんだっけ?」

 

オルガとルクスのやり取りを眺めながら三日月が呟く。

 

「あぁ?そりゃお前……」

 

その問いに答えるべく、オルガは思い返す。何故自分達は投獄されたのか、そもそもどういう関係なのかを……

 

 

 

 

 

 

 

 

オルガ・イツカと三日月・オーガスは一度死んでいる。

比喩などではなく、実際に命を落としたのだ。

オルガはギャラルホルンに追い詰められながらも、どうにか生きる希望を手にしたが突然現れた刺客に撃たれ、

三日月は仲間を守るため敵の大軍を蹴散らし、屠り、薙ぎ倒すが、降り注ぐダインスレイブと疲労や出血が限界を迎えこと切れた。

壮絶に、無残に散ったこの二人だが…次に目を覚ましたのは森の中だった。

ここはどこだと困惑している内に、薬草採りの帰りで偶然近くに来ていたルクスが現れ、事情を説明する。

しかし当のルクスは火星はおろか、地球も知らないとのこと。更に戸惑う二人だがルクスの提案で街へ赴く事に。

そしてオルガ達は知った、ここは自分達の知っている世界ではないと。

文明のレベルが明らかに違う。

煉瓦や石造りの建物、自動車の代わりに馬車が走り、街灯も電気ではなく火で照らされ、英語でも日本語でもない文字(なぜか住民の言葉は解る)、ギャラルホルンに至っては名前すら存在しない。

明らかに二人の知っている火星でも地球でもない、先のルクスの返事もこれで納得できた。

ここは異世界、オルガと三日月がそれに気づくのに長い時間は必要なかった。

だがそれはそれとして、ルクスによると自分達が今いる場所…アティスマータ新王国の識字率はそれなりに高く、オルガくらいの年齢の若者は文字が読めないと就職に困るとのこと。

今のオルガ達は残念ながら根無し草、正直に言って生活がままならない。

そこでルクスは二人が仕事につけるまで面倒を見ると提案。

知り合ったばかりの相手にそんな事まで、とオルガは躊躇うが、幼い頃に生きるためならば窃盗や殺人などの犯罪に手を染めていた事を思い出し、そういった劣悪な生活を抜け出すために三日月と奮闘してきたというのに、同じ事を繰り返すわけにはいかないのでルクスの提案に乗る事にした。

 

 

 

 

それから三ヶ月後……

 

 

 

 

「俺はこのまま追いかける!ミカは裏から回れ。ライドは付いて来い!」

「分かった」

「ライドって誰!?」

 

オルガ達は全速力でポーチを咥えた猫を追いかけていた。こうなった理由は勿論ある。

三ヶ月の間にオルガと三日月は、ルクスが街の住人達から受けた仕事を手伝って過ごしていた。

ルクスはそこまでしなくても、と遠慮していたがタダで養ってもらうのは筋が通らないというオルガの熱意に押されて了承、畑仕事に掃除、料理や鍛冶と子守りなど人数が増えたおかげか仕事も捗り、三人はいつしか街では雑用三人組もとい『鉄華団』と呼び慕われることになった。

ちなみにこの『鉄華団』の名付け親は当然オルガである。

仕事が無い時はルクスが教鞭を執り、二人に文字や地理を教えていた。

見慣れない文字に最初こそ四苦八苦していたが元から頭の回転が速いオルガは徐々に覚えていき、三日月もかつてクーデリアに教わった時の要領を活かして瞬く間に知識を吸収し、半月でルクス自身が教えられる分を殆ど覚えた時には大変驚かれた。

しかしその生活に転機が訪れた。

ある日、顔馴染みの酒屋の娘と談笑していると近くにいた野良猫が彼女のポシェットを咥えて走り去ったのだ。

 

「あはは…無理しなくていいよ?」

 

酒屋の娘はそう言うが、知り合いの所持品が盗まれて放っておける『鉄華団』ではなく三人は必ず取り戻すと決意、追う事になった。

しかし野良猫の方もかなりのやり手で入り組んだ路地裏を走り回り、物を倒し転がすなどの足止めを何度も行い、オルガ達は苦戦を強いられる。

それでも三人は諦めず猫の妨害に耐えて追い続け、高い外壁を乗り越えてどこかの施設の敷地に入ってしまうがオルガ達は後で事情を説明すれば、と深く考えることはなかった。

三日月はオルガが先に命令したため敷地の中にはおらず、裏側へ向かっているだろう。二人は辺りを見渡して猫が建物の屋根へと登っていくのを発見、助走をつけ近くの塀を蹴って屋根に飛び乗り追いかける。もはややりすぎという自覚はあるがそこは男の意地、ここまで来たなら果たすしかない。

 

「ようし、あと少しだ。これで……!」

「も、もう限界……」

 

オルガとルクスはぜえぜえと息を切らしながら走るが、猫も体力が切れたらしく動きが遅くなった。

もう少しで咥えられたポシェットの紐に手が届く、オルガは残った力を振り絞り紐を掴むため手を伸ばすが、

 

べきっ

 

という、不穏な音が聞こえた。

 

「あ?」

 

突然の事に二人の足は止まる。音の発生源はオルガの足元、嫌な予感を感じつつもオルガは視線を下に向ける。

 

「……離れろ、ルクス!」

 

オルガが今踏んでいる屋根の部位には亀裂が走り、それが段々と広がっていく。

オルガの言葉を聞きルクスは後ろに下がり、オルガもこのままでは危険と前方に退避しようとする。

が、遅かった。

ビシビシッと屋根の亀裂は思った以上に勢いを増し、砕け散る。

 

「うわああああぁぁぁぁぁっ!?」

「お、オルガーーー!?」

 

後退したルクスは巻き込まれずに済んだが、オルガは体重が消える感覚と共に落下してしまった。

 

 

 

バッシャアァァァン……

そして一秒後、着水する。どうやら下は水だったようだ。

 

「わぷっ、げほっ、はあ、はあ……あ?」

 

頭から落ちたが水のおかげで怪我をせずに済み、安堵するオルガだが直後に別の違和感に気付く。

 

(なんだこれ……湯か?)

 

自分の腰から下に浸かった水が温かい。

白い湯気の向こうには、高級感のある大理石の柱と壁が、ランプで淡く、オレンジ色に照らされているのが見える。

 

「ここはまさか……――ッ!?」

 

オルガが現状を把握しかけた矢先に、それが見えた。

自分が落ちてきた天井の破片。

その塊が落ち、すぐ近くにいた小柄な少女の上に――。

 

「危ねぇっ!」

 

オルガは反射的に飛んで少女を突き飛ばし、覆い被さった。

そのためこの場に大きな水飛沫が再び飛ぶ。

 

「ッ……!?」

 

湯気の向こうでびくっとした少女達をなるべく見ないように、そのままの姿勢でオルガは顔を下に向けた。

 

「…………ふっ」

 

服を着たまま湯に浸かっているオルガの下で、少女は笑う。

鮮やかな金髪に、勝気な赤い瞳が印象的な少女。

か弱い体躯とは裏腹に、ある種の老成した笑みがその口元に浮かんでいる。

色白の滑らかな肌は入浴のせいで上気し、頬まで赤く染まっていた。

可愛い。

と、傍から見れば言えたのだろうが、目の前の少女から立ち上がる湯気と剣呑な気配に、オルガは言葉どころか身じろぎひとつできずに固まってしまう。

 

「……おい変態、死ぬ前に何か言うことはないか?」

 

引きつった愛らしい顔から、物騒な言葉が飛んでくる。

しかし、彼女が怒るのも無理はない。

何故なら―――見えてしまっていたからだ。

広い浴槽の中で、彼女が巻いていたタオルがはだけて、艶めかしい裸身が。

湯を弾いてふるふると震える、可愛らしい膨らみかけの胸。

浮き出た鎖骨ときゅっと引き締まった腰のくびれ。

そして、つるつるしたお腹の下までがくっきりと……。

 

「…………」

 

次の一言で下手な事を話せば確実に殺されるだろう、この状況で混乱したオルガの脳は危機を回避するために高速回転する、もはや手遅れだろうが。

 

(―――そうだ、大将も言ってたじゃねぇか、とにかく褒めろって!)

 

以前、オルガ達は酒場のウェイターとして働いていた時、そこの店主に女性を口説くテクニックを教わった事があった。

ルクスは「あはは……」と苦笑いしながら聞き流し、三日月は元より聞く気ゼロであったが、生前に浮いた話が全く無かったオルガだけは真剣に聞いていた。

 

(メモまで取ったんだ、負ける気がしねえ!コイツの場合、ええと……)

 

オルガは返答の為、少女を再び一瞥した後に立ち上がる。

彼女の魅力は先に説明した通り、ならば言うべき言葉はこれしかない。

 

「ほぉ……やはり抜群のプロポーションだ。だが問題は光に照らしてみた時の………ハハハッ!なんてこった、完全なる黄金比かよ!?ヤバい、達する達す―――

「この……痴れ者がァーーッ!!」

 

オルガのあんまりなコメントが終わるより先に少女の怒りがふんだんに籠った右ストレートが炸裂、オルガは頬に拳の痕を残して吹っ飛ばされた。

 

「キャアアアァァァアァッ!?」

 

このやりとりが合図となったのか、浴場の全体から無数の黄色い悲鳴が上がる。

裸身の少女達がその場にあった物を、全力でオルガに投げつけてきた。

風呂桶や石鹸に椅子など、疲弊しきったうえに殴られたオルガに避ける気力などなく、それらが悉く命中する。

薄れゆく意識の中、オルガは思った。

 

(だからよ…迂闊な事は言うもんじゃねぇぞ…)

 

ちなみに酒場の娘によると、父のアドバイスは当てにならないので無視していい、との事。

 

 

 

 

 

 

「お、オルガ、大丈夫……うわっ!?」

「屋根の上に誰かいるわ、きっとコイツの仲間よ!」

 

ルクスはオルガの身を案じて下を覗き込み、浴場だった事に気づいて驚いた所を少女達に気付かれる。

この場に留まっては不味い、しかしオルガを見捨てる訳にはいかないと尻込みしている内に駆けつけた衛兵に捕まってしまう。

 

 

 

 

 

 

一方、その頃……

 

「捕まえ……たっ!」

 

追手が勝手にいなくなり、勝ち誇っていた猫は敷地の裏へと出て行くが、草むらから突然現れた三日月に捕まってしまう。

自分達の目的はあくまでポシェット、人間相手ならともかく猫に落とし前などつけさせれる訳がなく、三日月はポシェットを取り上げると猫を解放した。

 

「……なんかさっきから、騒がしいな」

 

そそくさと逃げて行く猫を尻目に、三日月は取り戻せて笑みを浮かべるのと同時に敷地の方へと見やる。

外壁に身を乗り出して覗いてみると、一つの建物から大勢の人間が集まっているのが見える。

内容までは分からないがこちらからも声が聞こえるので只事ではないだろう。

 

「オルガ、また無茶やったんだな」

 

オルガとルクスが勝手に敷地内にへ入ったのは知っている、であればトラブルの原因になりかねないのは明白だ。

であれば、あの騒ぎもオルガ達が絡んでいるのだろうと、三日月は確信する。

 

「こんばんは、こんな所でどうしたの?」

 

それでもオルガ達を助けに行こうと壁をよじ登ろうとすると、不意に後ろから声をかけられた。

声の主は蒼い髪の細身な少女で、端正な顔つきと立ち姿から育ちの良さが伺える。

 

「アンタここの人?オルガ達が中にいるから迎えに行きたいんだけど」

 

三日月は登るのを止めて降り、少女に事情を話す。もしかしたら案内してくれるかもしれないと考えて。

 

「友達が中に?確かにそれは心配ね……ところで、貴方が手に持っているそれは何かしら?」

「これ?これは昼間……――っ」

 

少女に掴んでいたポシェットの事を指摘され、三日月は説明とそれを見せるべく掌を差し出すが、少女は突然三日月の腕を掴む。

一瞬の出来事の上、敵意を全く感じなかった三日月は不意を突かれるが、抵抗を試みる。

しかし、それより先に足を払われ視界が反転する、少女の背負い投げが決まって三日月の身体は地面に激突してしまう。

 

「いきなりごめんなさい。でもね、貴方も見逃す訳にはいかないの、覗き魔のお仲間さん」

「……は?」

 

その後、三日月は少女の攻撃が応えて身動きできず、彼女の呼んだ衛兵達に連行された。

 

 

 

 

こうして長い一日が終わり、始まる。

 




「そういえば、オルガと三日月って何歳なの?」
「あ?俺は……十九だな、確か」
「やっぱり年上だったんだ、道理で背も高い訳だよ、三日月も十九歳?」
「十七」
「えっ、僕と同い歳?オルガと同じくらいムキムキなのに……」
「別に、普通でしょ」

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