鉄血無敗の神装機竜   作:やーみん

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言わせたかっただけです。はい


第1話 どうせ後戻りはできねぇんだ、やりゃあいいんだろ!

「………っつう事があって―――ッ!?」

 

事の発端を話し終えたオルガの首を三日月が片腕で締め上げる、それもかなり強い力で。

 

「やっぱりか。駄目だよ、オルガ」

 

そんな事をぬかせば完全に変態扱いだろうが、おかげで俺もその変態の仲間入りだぞ。

と、三日月の瞳は怒りと共にそう訴えている。

取り上げられた所持品には例のポシェットも含まれており、その中に下着が入っていたため三日月は下着泥棒の烙印を押されたのだ。

 

「す、すみませ、すみませんでした……」

 

あまりの迫力にオルガはブルブル震えるしかなかった。

そんな割とよく見る二人のコントを尻目に、ルクスは再び大きい溜め息をつく。

 

「昨日も今日も仕事があったのに、どうしよう……僕の事もバレただろうなぁ……」

 

ルクスの特徴的な銀色の髪、そして新王国の恩赦を受けた『咎人』を示す黒い首輪。

これだけ証拠が揃っていれば、既に素性が特定されてしまっただろう。

かつて、アティスマータ新王国はアーカディア帝国という名前だった。

世界最強と恐れられた軍力と永きにわたる圧政により、民や他国を苦しめたがクーデターによって崩壊、

生き残った皇族であるルクスが新王国の恩赦により釈放され―――、

その条件として『あらゆる国民の雑用を引き受ける』という契約を交わしたのが、つい五年前のことだ。

当然、ルクスはこの事をオルガ達にも話したことがあるが、

 

『だからなんだ、お前は俺達の恩人で大事な仲間じゃねぇか』

『そうだよ、ちょっと甘いけど芯が強い奴だって事も知ってるよ』

 

とのこと、それを聞いたルクスは暴君の子め、と昔のように謗られるのではと不安を抱いていたため、喜びのあまり泣いて感動していた。

 

「仕事は一度でもすっぽかすと借金がまた増えちゃうしなぁ……」

「お目覚めかな?諸君」

「わっ……!?」

 

ふいに声をかけられて、ルクスはどきっとする。

いつの間にか檻の向こうに一人の少女が立っていた。

一部を黒のリボンでくくった金髪と、剣先のように鋭い真紅の瞳。

白を基調とした制服に身を包み、どこか影のある笑みを見せている。

 

「ん?おい誰だ?ソイツは」

 

少女の存在に気づき、締め上げられたままの状態でオルガはルクスに問う。

やや身長が低めのルクスと三日月より、更に小柄な色白の少女。

にもかかわらず、少女の存在感は恐ろしく強かった。

不敵で、絶対的で、それと同時に誰も寄せつけない、強烈な自信をまとっている。

まるで酒をたっぷり含んで火を点けられたケーキのような、甘さと熱さを併せ持つ印象の少女だった。

少女はソイツ呼ばわりされて眉間に皺を寄せるが、すぐに戻して「ふっ」と笑う。

 

「随分な挨拶だが、昨晩は助けてくれてありがとう。ついでに素晴らしい口説き文句だったぞ?思わず惚れてしまいそうになるほどにな」

「はぁ?あんた何言って………あ」

 

オルガは少女の皮肉が解らず、頭にはてなを浮かべるが、数秒で思い出す。

昨晩、オルガが浴場に落ちた際、勢いで組み伏せてしまった件の少女を――。

少女の怒気を孕んだ気配に、オルガとルクスは冷や汗が背筋を伝うのを感じる。

 

「ふっ、まあお前らに聞きたいことは死ぬほど(・ ・ ・ ・)あるけどな。その前に学園長から話があるそうだ、ついて来い」

どこか影のある笑みを三人に向けると、金髪の少女は牢の鍵を開ける。

「……あの、学園長って?」

牢を出ながらルクスはおそるおそる問う。

「ほう、可愛い顔をして口も立つようだな。知らずに忍びこんだとでも言うつもりか?この学園の女子寮に」

「え……、ええぇぇぇえっ!?」

少女の返答にルクスは驚きの声を上げる。

ポケットから唯一取り上げられなかった手帳を慌てて取り出し、今日の日付を確認すると……

【仕事場】城塞都市『クロスフィード』・王立士官学園

【依頼主】学園長、レリィ・アイングラム

【仕事内容】新王国・第四機竜格納庫の機竜整備

 

「じゃ、じゃあ、まさかここって…僕たちが今日、働きに行く予定だった……」

「どしたの?ルクス」

 

冷や汗をダラダラ流すルクスを見て、同じく牢から出た三日月が首を傾げる。

オルガは拘束されて身動きできないため、三日月がオルガを縛る鎖の垂れた部分を掴み引きずっている。

そのオルガもルクスと少女の会話を理解したためか、水たまりができるくらい冷や汗が止まらない。

 

「リーズシャルテ・アティスマータ」

「は……?」

 

ふと、目の前の少女から言葉と笑みが返ってくる。

 

「私の名だよ。新王国第一王女―――五年前に帝国を滅ぼした、新王国の姫だ。よろしくな、『色情魔』に『王子様』♪」

 

ぱちっ、とにこやかに少女は紅い瞳をウインクさせる。

その目は半分笑っていなかったが。

 

「「えぇぇぇええええっ!?」」

 

オルガ(色情魔)ルクス(王子様)の叫びが牢屋に反響した。

 

「……?」

 

が、三日月だけは首を傾げたままだった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……。それじゃあ結局、今回のは不幸な事故ということでいいのよね?オルガ・イツカ君?」

 

学園長室に通されたオルガ達は、この騒ぎに至った経緯を話すのと同時に、予定していた仕事先であるこの学園そのものの説明を、

学園長のレリィから受けていた。

ちなみにオルガはここへ来る途中、リーズシャルテに鎖と枷を外してもらったため、自由に動けるようになった。

ここはアティスマータ新王国の管理する、機竜使い(ドラグナイト)士官候補生の学園。

機竜―――装甲機竜(ドラグライド)とは、機攻殻剣(ソードデバイス)という剣型の装置を起動することで召喚され、伝説の竜を模した機械装甲を身に纏い、

一騎当千の戦力を得る古代兵器だ。

世界に七つ発見された遺跡(ルイン)

そこから発掘されたその兵器は、過去数百年で培ってきた戦争概念を一瞬にして覆すほどの威力を持つ。

その機竜を身に纏い、使いこなせる人間は機竜使い(ドラグナイト)と呼ばれていた。

しかし、装甲機竜(ドラグライド)は希少かつ高価で、王国の騎士か一部の権力者しか基本的に持つことはできない。

 

装甲機竜(ドラグライド)に携わる人間を教育する学園、ですか……?」

「そういうことになるわ」

 

ルクスの問いに、レリィは笑顔で頷く。

学園長と言ってもまだ若い。

年の頃は二十代後半ほどで、教師と言っても差し支えない風貌の女性は、レリィ・アイングラムと名乗った。

彼女自身も国家と直接関わるほどの販路を持つ財閥の令嬢、つまり生粋の箱入りお嬢様の一人、というわけだ。

そして―――元皇族であるルクスの数少ない顔見知りでもあった。

 

装甲機竜(ドラグライド)遺跡(ルイン)より発見されて十余年、私達女性は旧帝国が敷いてきた男尊女卑の制度と風潮により、

その使用は殆ど禁じられてきたわ。でも――」

 

レリィが言葉を区切ったところでオルガの隣に立っていたリーズシャルテが口を開く。

 

「新王国が設立したのを境にその認識は一変。機体相性の適正は女の方が遥かに上というデータが報告され、これを機に専門の育成機関を

設立し、他国に負けない機竜使い(ドラグナイト)の士官を揃えるべくその育成に力を注いでいる――というわけだな」

「ええ、その通りです」

 

リーズシャルテの補足にレリィが頷く。

 

装甲機竜(ドラグライド)の前には剣も銃も大砲も、それらの武器兵器が全て無へと還る。

登場以来、戦争はもちろん、外交や商工もその言葉なしでは何も語れないところまで来ている。

オルガと三日月が元いた世界では、モビルスーツが当てはまるだろう。

最も、モビルスーツは製造される物ばかりだが、発掘されたという前例はある。

機竜使い(ドラグナイト)の育成機関があることくらい、ルクスも知っていたが――。

 

「で、でも、なんで僕達が呼ばれたんですか?」

 

ルクスが困惑した表情で依頼主のレリィに聞くと、

 

「あらあら、随分と謙遜するのね。決して場違いな仕事でもないでしょう?『無敗の最弱』さん」

 

年上らしい悪戯っぽい笑みが返ってきた。

『無敗の最弱』。

最弱と語るが、レリィのこの発言は決してルクスを貶すものではない。

王都でのコロシアムで月に一度行われている、装甲機竜(ドラグライド)を用いた『公式模擬戦(トーナメント)』。

戦績次第で賞金も出るその場で最多の出場回数を誇り、その戦闘スタイルからつけられたルクスの異名であるが―――。

 

「そ、そうじゃなくて、ここって女学院ですよね?男の僕達じゃ……」

「残念ながら、人手が足りないのよね」

 

ルクスが反論する前にレリィが口を開く。

 

機竜使い(ドラグナイト)の歴史はまだ浅いでしょう?旧帝国の使い手も五年前のクーデターで大半が死んでしまったし、不本意だけど男の協力者を招くしかないのよ。整備士も機竜使いもね」

「僕は整備の方はほとんどできませんよ?オルガ達は……」

「ええ、俺もミカもです。装甲機竜(ドラグライド)に触ったのもつい最近ですし」

「予備知識があるだけでも貴重なのよ、これから覚えていけばいいわ。………オルガ君達は少し不安だけれど」

 

笑みを浮かべてレリィは即答するが、そのあとでやや汗を垂らす。

本来はルクスだけに頼む予定だったが、オルガと三日月と行動している事を最近になって知り、仕方なくこの二人も呼ぶことにしたのだ。

安酒場を溜まり場にする荒くれ者といった風貌ではあるが、ルクスが信頼しているようなので意外と見かけによらないのでは、とレリィは考える。

 

「学園の敷地にある新王国第四機竜格納庫。今日から週に三回、あなた達にはそこに通ってもらうわ。汚れるし、重労働だし、怪我の危険もあるけれど、良家のお嬢様たちにそんな事はさせられないでしょう。あなた達も男冥利に尽きると思わない?」

 

からかうような声で、レリィが微笑んだ。

 

「「…………」」

(なぁ、このおばさんちょっと強引じゃねぇか?)

(あはは……そこがレリィさんらしいというか。一応、まだ二十代だからお姉さんって呼んであげて……)

 

オルガとルクスは周囲に聞かれないよう小声で話す。

が、会話のある件でレリィの眉が一瞬、ピクッと動くが、誰もその事に気付かない。

 

機竜使い(ドラグナイト)としてのお仕事はまだ考えてるから、それもいずれ―――ね」

 

一つ深呼吸をしたレリィが話をまとめようとした時、

 

「学園長、少しいいか?」

 

ふいにリーズシャルテが手を突き出し、話に割り込んできた。

 

「話はわかった。だが、私達(・ ・)はまだこいつらを―――とくにこの男を認めたわけではないのだが?」

 

鋭い眼差しで三人に、特にオルガを強く睨みつけて言う。

その口端はかすかな笑みを作っていた。

 

「…………」

 

住居不法侵入及び器物損壊、全裸の少女を押し倒すという端から見なくとも完全な婦女暴行。

しかもその少女が一国の王女とくれば、オルガの罪状は計り知れないだろう。

最悪、二度と日の出を見る事はないかもしれない。

沈黙するオルガだが、内心では不安と絶望と恐怖が入り混じる。

自分だけがそれを被るなら素直に受け入れよう、しかし、三日月とルクスにまで罰が下るのはどうだ。

彼らは自分についてきただけで、とばっちりを受けてしまった、言わば被害者だ。

 

「私の疑いは晴れていないぞ。この男どもは覗き魔、痴漢、下着ドロの変態で犯罪者だ。そんな奴らをこの学園で働かせるなどありえない!というか、まずは軍に突き出す方が先だ。司法の場で裁かれ、臭い飯を数年食ってから外の空気を―――」

「こいつらは、俺の命令であの場にいただけなんだ!!」

「――っ!?」

 

興奮し、まくし立てたリーズシャルテの話しを遮り、頭で床を叩き割るような勢いでオルガは土下座する。

突然の行動にリーズシャルテは驚き、思わず一歩下がってしまう。

 

「俺ならどうにでも殺してくれ、何度でも殺してくれ!首を刎ねて、そこらに晒してくれてもいい!!こいつらだけは……!」

「あ、いや、別にそこまでは……」

 

二人も牢獄行きなど絶対に阻止しなくてはいけない痴漢(オルガ)の必死の懇願に、リーズシャルテも一瞬で冷め、困惑する。

覗き魔(ルクス)とレリィも困惑の表情を見せるが、下着ドロ(三日月)だけは普段のポーカーフェイスで見つめている。

 

「……と、とにかく、リーズシャルテさんの気持ちはもっともよね。けれど、オルガ君達が本当に故意にやったのかまでは誰にもわからないわ。………逆も然り、だけれど」

 

我に返ったレリィは柔らかく、凛とした態度をとり、年長者としてこの場を仕切る。

その目は若干泳いでいるが。

 

「というわけで、本件の被害者であるリーズシャルテさん。ここは彼らの処分を貴女の裁量に任せてもよろしいかしら?」

(なんで任せちゃうんですか!?)

 

という魂の叫びを、ルクスは必死に飲み込んで堪える。

新王国の恩赦で釈放されたルクスだが、同時に交わした契約で国家予算のおよそ五分の一に相当する額の借金を負わされている。

そんな『咎人』のルクスが更に咎を受けるのは大変都合が悪い。

 

「そうだな……………オルガ・イツカ。と言ったか、お前に……いや、お前達にチャンスをくれてやる」

 

リーズシャルテが少し考えこみ、オルガを一瞥するとニヤリと笑う。

 

「お前達が機竜使い(ドラグナイト)として価値があるのか、ただの変態なのか、この私が直々に試す」

「は?そりゃどういう……」

 

そう告げて、オルガの問いに答えずリーズシャルテは帯剣の柄に触れ、同時にゆっくりと扉の前に歩いて行く。

 

「私に勝てば全員無罪放免、負ければ牢獄行き。勝負は装甲機竜(ドラグライド)を使った短時間一騎打ちの模擬戦、相手はオルガ・イツカを指名する。――それでいいな?野次馬達!」

 

リーズシャルテがそう言って、ドアノブをひねった瞬間、

 

「きゃあっ……!?」

 

ばたばたと、ドア越しに集まっていた女生徒たちがなだれ込んで山を作った。

どうやらオルガ達の処遇が気になり、聞き耳を立てていたようだ。

 

「学園の皆に伝えろ、人数は多い方が良い。私の勇姿をまた見せてやる」

「ま、待ってください!オルガは装甲機竜(ドラグライド)を使いこなせるようになってまだ――」

 

きゃああああっ。

 

ルクスの抗議も空しく、それを聞いた女生徒たちは楽しそうな声を上げて去っていく。

 

「大変な事になったわよ!リーズシャルテ様が今回の痴漢と装甲機竜(ドラグライド)で決闘を――」

「相手は三人の内の肌の黒い男だって、あの怖そうな」

「貴族の方には無い野性味があって、正直好みなのですけれど……惜しいですわ」

 

部屋から出ていくリーズシャルテと共にそんな声が聞こえてきて、オルガは絶句する。

あの勢いだと決闘の前に、学園中に話が伝わっているだろう。

 

「教育体制を見直す必要があるかしら?一応、真面目な学校なのよねぇ、ここ」

「……学園長、まさかこうなると分かってあいつに決めさせたんじゃ……」

「あら、何のことかしら?()()()()、ちょっとよく分からないわ♪」

「…………」

 

口は災いの元である。

 

 

 

 

 

 

 

「オルガさん、とんでもない事してくれましたね」

「返す言葉もございません……」

 

学園の来客用応接室。

高級感のある家具や調度品が並ぶこの部屋に、オルガとルクスはレリィの言伝でそこへ向かい、待っていた二人の少女と話しをしていた。

一人は先ほどから無言を貫くおとなしそうな黒髪の少女、もう一人はルクスと同じ銀髪を持ち、同じ首輪をつけた少女だった。

高級なアンティークドールのように端正な顔つきをしているが、それが台無しになるくらい眉間に皺を寄せて、正座をさせられたオルガを見下ろしている。

その威圧感にルクスもたじろぎ、何も言えなくなってしまう。

三日月は途中まで共に廊下を歩いていたが、「行きたい所ができた」と言い出し、この場にいない。

 

「――ま、まぁまぁアイリ、オルガもこうやってきちんと反省してるんだし、もう許してあげて?」

「………はあ、兄さんはホントお人よしと言うか、甘いと言うか」

 

おそるおそる口を開いてアイリをなだめるルクスに、アイリはため息をついて表情を戻した。

少女の名はアイリ・アーカディア。

ルクスの実妹であり、旧帝国の生き残った皇族の一人、つまり元王女でもある。

互いに違う場所で過ごす兄妹は週に一度、近況の報告として手紙を出し合うため、アイリはオルガ達の事を知っている。

実際に会うのは初めてだが、決して穏やかなものではない事は言うまでもない。

 

「そういえば、彼女の事を話してませんでしたね。紹介します、名前は――お願いできますか?」

「Yes.一年のノクト・リークレット……と、申します。アイリの同居人兼クラスメイトです」

 

アイリが隣の少女に視線を移し、少女は自己紹介する。

 

「僕の名前はルクス・アーカディア、妹がお世話になってます」

「俺は、鉄華団団長……オルガ・イツカだぞ…!」

「なんで苦しそうに言うんですか?」

 

ルクスの後にオルガも自己紹介するが、ぜえぜえと息切れ気味に言ったためアイリにツッコまれる。

しかしそれはそれとして、アイリはコホン、と咳払いして話を戻す。

 

「今のオルガさんはリーズシャルテ様に勝ちさえすればいい。とお考えなのでしょうが、はっきり言って甘すぎます」

「Yes.アイリの言う事はごもっとも。ですが、つけ忘れていますよ?大好きなお兄さんを厄介事に巻き込んだ相手に、文句の一つでも言いたいのですよね」

「の、ノクト!余計な事は言わないでください!」

「けどよ、要は勝てばいいんだろ?」

 

途中でノクトの茶々が入ったものの、リーズシャルテを相手に簡単には勝てないぞ。と告げるアイリにオルガは反論するが、アイリは声のトーンを少し落として続ける。

 

「私達学園の生徒はトーナメントへの参加が認められません。ですが代わりに校内戦というのがあるんですけど、リーズシャルテ様は現在無敗です。更に、神装機竜を使い始めてからは圧倒的な連勝を続けています」

「しんそーきりゅー?そいつは確か……」

 

神装機竜。

この世界でそれぞれ一種しか存在を確認されていない希少な装甲機竜(ドラグライド)で、その性能は並みの装甲機竜(ドラグライド)を遥かに凌ぐ。

しかしその分機竜使い(ドラグナイト)に求められる操作技術、消耗する精神力と体力も桁違いであるため、新王国の法律で所持が厳しく制限され、相応の実力を持つものしか使用を許されない。

MS(モビルスーツ)に例えるなら、ガンダム・フレームが該当するだろう。

オルガも神装機竜の事をルクスから教わっていたが、滅多に見られる機会もないだろうと、記憶の片隅に追いやっていたが、今思い出す。

 

「………マジかよ」

 

片や一週間前に乗りこなせるようになった機竜使い(ドラグナイト)。片や神装機竜を駆り、勝利を絶えずに重ねる機竜使い(ドラグナイト)

その差は歴然、この現実を突きつけられたオルガはつい頭を抑えてしまう。

 

「それでも、オルガさんには何としてでも勝って頂かなくてはなりません。負けたら兄さんまで牢屋に入ってしまいますし」

 

新王国との契約で、もしルクスが不祥事を起こせばアイリも処分を受ける事になっている。

そのためルクスは亡命する事も出来ないが、そのような事をする気も無く、むしろアイリが無事に暮らせるなら構わないと考えている程だ。

故にオルガは考える。自分の不始末でルクスと三日月が巻き込まれると、アイリはどうなるか。

最悪の展開を避けるには勝たねばならないが、そのハードルがあまりに高すぎる。

 

「お、オルガ?僕さ、リーズシャルテ様の所に行ってお願いしてくるよ、僕も参加させてほしいって。流石にオルガだけじゃ―――」

 

事の重大さ、負うべき責任の重さに意気消沈するオルガを見かねてルクスが声をかける。

が、言い終わる前に応接室の扉がぎい、と不意に開く。

部屋にいた全員が扉の方へ顔を向けると、別行動をしていた三日月が立っていた。

 

「三日月?一体どこに行って……それは?」

「オルガの機攻殻剣(ソードデバイス)、格納庫にあるって聞いたから返してもらった」

 

ルクスは行き場所も話さなかった三日月に問うが、彼が握っている革製の鞘に収められた短剣に気づく。

これはオルガが森で目を覚ました時、傍にあったもので、当初のオルガはどういう物なのか分からなかったが、ルクスが調べたら機攻殻剣(ソードデバイス)だと判明した。

簡単に手に入らない機攻殻剣(ソードデバイス)をどうして、とルクスは疑問に感じたため、オルガ達の面倒を見ると同時に監視していたが、共に過ごしていく内に二人に危険性はないと判断して今に至る。

三日月はこれを回収するためにこの場にいなかったのだ。

 

「ねえオルガ、次はどうすればいい?」

 

生前、幾度も三日月がオルガに放った台詞を、機攻殻剣(ソードデバイス)を突きつけながらこの世界でも再び放つ。

本来はオルガの指示を仰ぐものなのだが、今回は意味合いが違う。

どうすればいいか分かっているな?という行動を再確認させるための台詞に置き換わっている。

 

「勘弁してくれよミカ、俺は……」

「ダメだよ、オルガ」

 

オルガは顔を俯き弱音を吐くが、三日月はそれを聞きたくないと遮る。

 

「俺はまだ止まれない」

「待ってろよ……」

「教えてくれオルガ」

 

三日月は淡々と告げ、ゆっくりとオルガに歩み寄る。

表情は変わっていないがその存在感は一層に増し、オルガの前にいたアイリは思わず横へと道を開ける。

 

「待てって言ってるだろうが―――ッ!?」

「「ッ!?」」

 

何度も問う三日月にオルガは怒鳴り散らそうとするが、それすら叶わず、目の前まで来た三日月に襟を掴まれ締め上げられてしまう。

突然の事にアイリとノクトは固まってしまうが、ルクスだけはなぜか落ち着いていた。

 

「ここが俺たちの場所なの?」

「…………」

「そこに着くまで俺は止まらない、止まれない。決めたんだ、あの日に……決まったんだ」

「…………!」

 

夕日が差す路地裏、動かない男、流れる血、巻き散る紙幣、硝煙の匂い。

オルガは思い出す。

生前にて、幼かったオルガと三日月が踏み出したあのスタート地点を―――。

 

「ねえ、何をすればいい?何をすればそこへ着ける?教えてくれオルガ―――オルガ・イツカ」

「――――――」

「連れて行ってくれるんだろ?俺は次、どうすればい――」

「――離しやがれ!!」

 

オルガは逆に三日月の襟を掴み返し、壁へと突き飛ばす。

三日月は態勢を整えることなく激突し、大きな衝撃音を響かせた。

 

「ちょ、ちょっとお二人とも!喧嘩はやめてください!」

「い、Yes.そんなことをした所で状況は何も――」

「あー、大丈夫だよ二人とも」

 

アイリとノクトは慌てて止めようとするが、ルクスは穏やかな口調でそれを制止する。

 

「兄さん!?何を言ってるんですか!」

「僕も最初は驚いたけどさ、ほら」

 

非常識な事を、と睨むアイリにルクスはオルガを指差す。

アイリはその方向に視線を向けると、

 

「ああわかったよ!やるよ!どうせ後戻りはできねぇんだ、やりゃあいいんだろ!!」

 

このままでは殴り合いが起きるのでは、と考えていたアイリとノクトの不安は外れ、オルガは先ほどまでの弱気な姿勢が消え去った。

二人のこのやりとりはルクスも幾度か目の当たりにし、今ではオルガを奮い立たせる方法と認識している。

 

「負けてどんな地獄が待っていようとも、勝って、お前らを―――俺が連れてってやるよ!!!」

「あぁそうだよ、連れてってくれ。次は何をすればいい?何を壊せばいい?オルガが目指す場所へ行けるんだったら、何だってやってやるよ……!」

「へっ……!」

 

二人は見つめ合い、ニヤリと笑う、もう互いの顔しか見えていないだろう。

そしてオルガは意を決し、三日月が差し出した機攻殻剣(ソードデバイス)を受け取る。

これからやるべき事はただ一つ、もうオルガの目に迷いなど無い。

 

 

 

 

 

「………あの、なんですか?これ」

「No.私に聞かれても困ります」

「あはは……オルガと三日月のスキンシップ。みたいなものかな?」

 




「そういえば、どうしてオルガは僕の事をライドって呼ぶの」
「あー、それはだな……似てんだよ、お前の声がライドに」
「俺たちの昔の仲間だよ」
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