鉄血無敗の神装機竜   作:やーみん

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戦闘って難しい……


第2話 (あか)戦姫(せんき)

「それでは新王国第一王女リーズシャルテ・アティスマータ対、オルガ・イツカの機竜対抗試合をこれより執り行う!」

 

審判役の教官の声と同時に、舞台が歓声と熱気に包まれる。

学園敷地内にある、装甲機竜(ドラグライド)の演習場。

周囲を円状に石壁で囲い、中には土を敷いた広いリングがある。

その中央でリーズシャルテとオルガは対峙していた。

中心のリングは低く、外に行くほど高く盛り上がった形状は、旧時代のコロシアムを彷彿とさせる。

観戦席には強靭な格子が張られ、更に生徒の機竜使い(ドラグナイト)数名が常に障壁を展開して守っており、巻き添えの心配はない。

オルガが周囲を見渡すと、相当な数の女生徒たち、そして教官までもがこの私闘とも言うべき決闘を見物しに来ているようだった。

 

「授業しろよ……今そういう時間だろ」

 

と、溜め息をつき、ごもっともな事を呟くオルガだが、少しだけ過去を思い返す。

鉄華団を設立する直前、たった一機で本部に押しかけて来たグレイズ。

地球に降りてから、雪原の上を列車で進んでいた時に立ち塞がったグレイズリッター。

生前のみならず、リーズシャルテという少女に挑まれて、自分はどこまで決闘に縁があるのだろうとオルガは再び溜め息をつく。

 

「知りたいか?オルガ・イツカ。私が何故お前に戦いを挑んだのか」

 

オルガの目の前でリーズシャルテが不敵に笑う。

まだお互いに装甲機竜(ドラグライド)は纏っていない。

リーズシャルテは装甲機竜(ドラグライド)を纏うのに適した、『装衣』という身体にフィットする服を身につけ、リングの上を佇んでいた。

装衣の構造上、身体のラインが浮き出るため、オルガにとっては目に毒なのでやや視線を逸らしている。

逆にオルガは装衣を着ておらず、代わりにタンクトップにズボンと軽装だ。

 

「えっと……昨日の事がそれくらい頭に来たから……か?」

「それは私に勝ったら教えてやる」

 

オルガも気になっていた。

本当に、ただそれだけなのか。

確かにリーズシャルテは好戦的な少女には違いない。

狼藉を働いた相手を公の場で自ら処罰する趣味を持っているのなら、大変いい性格(・ ・ ・ ・)の持ち主だろう。

だが、あの時風呂場に落ちて彼女を組み敷いた直後、オルガに向けていた視線は――ただの羞恥だけじゃなかった。

 

「立ち話もここまでだ、始めるぞ」

 

いい加減に準備をしなければ審判に注意されると考えたリーズシャルテは、笑みこそ崩さないものの目を細め、機攻殻剣(ソードデバイス)の柄を握り、美しい装飾が施された鞘から引き抜く。

 

「――目覚めろ、開闢(かいびゃく)の祖。一個にて軍をなす神々の王竜よ。《ティアマト》」

 

柄にあるボタンを押し、声を上げる。

機竜を目の前に転送するための詠唱符(パスコード)

契約者の声を認識した刀身の銀線が、青白い光を帯びた。

リーズシャルテの前に光の粒子が集まり、朱き機竜が姿を現す。

 

接続開始(コネクト・オン)

 

更に呟くと、瞬時にその装甲が開かれ、リーズシャルテの身体を覆う。

頭、両腕、肩、腰、両脚、そして翼、武装。

機竜と同じく遺跡(ルイン)から発掘された装衣は、機竜の動力である幻想機核(フォースコア)からのエネルギーを効率的に伝導させ、通常の障壁とは別にその表面にも強力な障壁を発生させ、装着部位を守っている。

竜を模した機械の装甲は、リーズシャルテと一体化するように装着され、本人の体型より二回りほど大きな機竜使い(ドラグナイト)となった。

 

「…………!」

「新王国の王族専用機、神装機竜――《ティアマト》。この機竜はそこいらの物とはわけが違うぞ?」

 

神竜の名に相応しいその巨大な威圧感にオルガは息を呑む。

本当にあれに勝つ気でいるのか?

と、一瞬だけ考えてしまうがすぐにその弱気を振り払う。

三日月とルクスの処遇も掛かっている以上、負ける訳にはいかない。

 

「オルガ選手、接続の準備を!」

 

審判に促され、オルガも機攻殻剣(ソードデバイス)を抜く。

元から鞘が無かったため、森の獣を獲って作った革の鞘から取り出したそれは特徴的な外見をしている。

鋭く尖ったオルガ自身の前髪に酷似しており、それを一回り大きくして柄を付けたような形状だ。

リーズシャルテ同様、柄のボタンを押し、オルガは口を開く。

ルクスに頼みこんで装甲機竜(ソードデバイス)の練習をしていた当初、手探り感覚で試し、偶然発見した詠唱符(パスコード)

生前、MS乗りの仲間たちが口にした、出撃の際の発進シークエンスを――。

 

「オルガ・イツカ、《獅電》―――行くぞ」

 

オルガの声に応え、機攻殻剣(ソードデバイス)の刀身が光りを帯びる。

その光から現れたのは――白い甲冑だった。

左肩に小盾(シールド)、背中に備えられた背嚢(バックパック)には赤い花のエンブレム。

装甲機竜(ドラグライド)とかけ離れた外見のそれだが、構わずにオルガの全身を包む。

頭からつま先まで、白い装甲が取り付けられ、機攻殻剣(ソードデバイス)は手元を離れて浮いた後に柄が消え、角ばった形に変形する。

それがオルガの頭――兜に装着され、辺りから光が消えたので接続完了だ。

装甲機竜(ドラグライド)は通常、剥き出しの操縦席で機械の四肢を操るという形状だが、オルガのこれは本当の意味で全身に纏う、まさに鎧をそのまま一回りほど大きくした形状をしている。

 

「それがお前の装甲機竜か?珍しい外見だが……」

 

地上から3m程浮き、オルガを見下ろしていたリーズシャルテが少しだけ驚く。

観客席からも、同様の反応が聞こえてくる。

 

「ああ、こいつが俺のMS(モビルスーツ)……じゃなかった。装甲機竜の《紫電》だ!」

 

前世にて、オルガはテイワズから自分専用のMSを貰った事がある。

それがこの《獅電》だ。

量産機の外見を少し変えた程度のMS(モビルスーツ)だが、それでも専用機なので当時のオルガは時間に余裕がある時、シミュレーターで操作技術を磨き、初陣でも活躍できるよう意気込んでいた。

しかし鉄華団の団長という立場上、自ら出撃する機会が全く訪れず、実質お飾り扱いで、結局最期まで乗る事は叶わなかった。

オルガの死後、代わりに副団長のユージンが操縦していたのだが、それはまた別の話である。

今自分が生きているこの世界で、遂に乗れたこの《紫電》にオルガは内心胸踊り、《ティアマト》の威圧感を物ともしない。

 

「……いや、待て。確か前に遺跡(ルイン)から発掘された物に……まあいい、見かけ倒しではない事を期待しているよ。――そろそろだ」

 

話しを途中で終わらせたリーズシャルテは真剣な表情に切り替え、眼前のオルガに鋭い視線を送る。

互いに準備が完了した以上、試合は今にでも始まるだろう。

賑やかに騒いでいた観客も静まり返る。

ぴりぴりとした緊張の空気、それを破るように甲高いベルの音がリングに響いた。

 

「模擬戦、開始!」

 

審判の声と同時に、二機の機竜が動き出す。

先に飛翔したのは《ティアマト》を纏ったリーズシャルテだ。

遺跡(ルイン)より伝わる、女神の名を冠する朱の機竜は、上空へ飛び上がると同時に右腕に持っていた機竜息砲(キャノン)――機竜専用の武装である大砲を構える。

《ティアマト》と違い、永続的な飛翔能力を持たない《獅電》を駆るオルガは手に持つライフルをリーズシャルテに向け、照準を合わせていたが、その構えを見て動きを止めた。

 

「アイツ、いきなり撃つ気か……!」

 

機竜息砲(キャノン)

いわゆる、竜の吐く、強烈な炎を想起させる主砲。

動力たる幻創機核(フォースコア)からエネルギーを充填して放つ、高熱と衝撃を込めた一撃は、家屋一軒をゆうに吹き飛ばせる威力を持つ。

だが、発射までに『溜め』を要する分、回避行動までに十分な距離を開けられるか、防御の態勢を取られてしまう事が弱点だ。

現に今のオルガも、十分に回避可能な間合いを取っている。

故に、一対一での開始早々、狙っていくものではないはずだが――。

 

「ふっ……!」

 

そんなオルガの思惑を読んだように、リーズシャルテが笑う。

そして、オルガに合わせていた照準を、すっと、少し横に逸らし、

 

「……?」

 

 

 

ドウンッ!

 

 

 

発射した。

 

うねりを帯びた高熱の光芒(こうぼう)が、上空から地上のリングへ、直線に放たれる。

だが、当然オルガを狙ったものではないため、動かなければ当たることはない。

威嚇か、肩慣らしのつもりなのか?

しかしどうであろうと隙ができた、今の内に相手を撃ち落とそうとライフルを向け直すが、その刹那――。

 

「はっ」

 

遥か上空にいるリーズシャルテが、オルガを見下ろして、口元に弧を浮かべた。

右手には、たった今発射したキャノン。

そして、左手は――、機攻殻剣(ソードデバイス)の柄に添えられていた。

機攻殻剣(ソードデバイス)は、機竜とその武装を操作するための操縦桿のひとつ、つまり――。

 

「――っ!?」

 

ふいに、大型の(ハンマー)を振り抜かれたような衝撃が、オルガの横腹に走った。

《獅電》ごと側方に弾かれ、突き飛ばされる。

すなわち、リーズシャルテがあえて照準を逸らして撃った、本来の砲撃。

その軌道上へと、オルガは押し出されたのだ。

 

「なっ、しまっ――!」

 

完全に虚を突かれた、回避不能のタイミング。

たとえ装甲が厚めにチューニングされた装甲機竜(ドラグライド)でも、最大充填された主砲を防御態勢も取らずに受ければ一撃で終わる。

オルガは砲撃を防ぐため、肩の小盾(シールド)を構えようをするが、それは間に合わない。

《紫電》の頭部、辺りを見渡す為のバイザーの中の顔が光に包まれる。

《ティアマト》が放った砲撃は外れる事なく《獅電》に命中、大きな爆発と煙を引き起こした。

 

「……ふん、やはり見かけ倒しだったか。少しは楽しめると思――」

 

立ち上る煙を眺め、呆気ない決着にリーズシャルテが溜め息をつく。

が、不満は最後まで漏らせずに、大きな衝撃が《ティアマト》に走る。

煙の中から一筋の閃光が放たれ、それが命中したのだ。

リーズシャルテ自身は装甲機竜(ドラグライド)の障壁によって守られるが、何度も受け続ければ障壁は消滅、試合においては敗北となる。

続け様に二筋の閃光も煙から発射され、一つは命中、もう一つは機体を横に逸らして回避した。

これは一体どういう事かとリーズシャルテは煙の方に顔を向けるが、すぐに違う物に目が行く。

背嚢(バックパック)から火を吹かして飛翔し、同じく背嚢(バックパック)から取り出した棍棒(パルチザン)を振り上げる《獅電》がこちらに迫っていたのだ。

右手にはライフルが握られたままであり、先程の三筋の閃光はそれの射撃だと瞬時に把握する。

リーズシャルテは咄嗟に《ティアマト》を操作し、機竜息砲(キャノン)を《オルガ》に向けるが、エネルギーの充填もしていないので撃てる筈もなく、

 

「オラァッ!」

 

オルガの掛け声と同時に振り落とされた棍棒は右腕を直撃、その拍子に機竜息砲(キャノン)は手元から離れ、そのまま地上に落下してしまった。

 

「ッ!?」

 

予想外の展開にリーズシャルテは動揺を隠せないが、されるがままという訳にはいかない。

すぐさま《ティアマト》を後退させ、距離を取る。

《獅電》も棍棒(パルチザン)を構え直して追撃を試みるが、両者の間に複数の何かが高速で飛び、《獅電》の動きを止めた。

これ以上は踏み込めないと判断したオルガはライフルを向けつつ、《ティアマト》から離れる。

 

「今の言葉は撤回するよ、オルガ・イツカ。なかなかやるじゃないか」

 

一粒の汗が顔から流れるが、ひとまずの危機を回避したリーズシャルテは不敵な笑みを見せる。

彼女の周りには四つの物体が集まり、主人を守るように浮かぶ。

 

「アイリ達から聞いたぜ、そいつがあんたの特殊武装ってやつなんだろ?」

「その通り。これが《ティアマト》の特殊武装、《空挺要塞(レギオン)》だ」

 

神装機竜のみが使える、専用の兵器。

《ティアマト》が持つ特殊武装についてはオルガも把握している。

それは《ティアマト》が制御する、小型の流線型金属で、それ自体が推進力を持つ遠隔小型兵器だ。

平常時は四つほど機体に装備され、発射したユニットを自在に動かし、直接ぶつけて敵を破壊する。

その厄介な性質故に、オルガも当然警戒していた。

しかし、開幕と同時にリーズシャルテは飛翔しつつ、《空挺要塞(レギオン)》をオルガから隠して側方へ発射。

更に機竜息砲(キャノン)をオルガに向けたのだ。

いきなり主砲を向けられれば、誰だって注意がそこに向かう。

次に側方に照準を外して発射し、オルガにとっての右側を意識させたところに、視界に入らないよう迂回させた《空挺要塞(レギオン)》を左側からぶつけ、最大出力の主砲の、本来の軌道上のへと押し込んで攻撃する。

一撃必殺の計略。

オルガも唸る、一切の容赦もない悪魔じみた戦術。

何より恐ろしかったのは、その一連の動作に、まるで淀みがなかったことだ。

装甲機竜(ドラグライド)を駆る、正式な対人戦は今回が初めてなオルガだが、目の前の相手はまさしくエースパイロットに匹敵すると確信できる。

オルガの見た限り、王都の模擬戦でルクスが戦った機竜使い達(ドラグナイト)でも、ここまでの手合いはいなかった。

故に思う、本当に新王国のお姫様なのか?この女は――と。

 

「ちょっとだけ驚いたよ。だからな、その褒美にもう少し、《ティアマト》の力を見せてやろう」

 

絶対の自信と、威圧の笑み。

優雅な声を上げ、リーズシャルテが機攻殻剣(ソードデバイス)を構える。

 

「踊りは得意か?私のダンスは少々荒っぽいが……楽しませてくれよ」

 

その周囲には、機攻殻剣(ソードデバイス)により先ほどまで四つだった《空挺要塞(レギオン)》が追加転送され、四倍の数――計十六機に増え、宙を舞っていた。

武装の数に比例して、負担や操作難度も倍増するが、それでも強力な事に変わりない。

対するオルガの《獅電》の武装はライフルと棍棒(パルチザン)、元はその二つだけだったがあまりに少ないため、ルクスの装甲機竜(ドラグライド)から幾つかの武装を借り受けたが、流石に《ティアマト》に並ぶ事は難しい。

しかしオルガは諦めない、彼の眼は勝機を掴むべくリーズシャルテを見据えている。

 

「上等だ。踊りなんざ一度もした事ねぇが、満足させてやるぜ」

「――フ、そう来なくてはな」

 

オルガの啖呵が気に入ったのか、リーズシャルテはニヤリと口元に弧を作る。

瞬間、辺りを浮遊していた投擲兵器――、一六機の《空挺要塞(レギオン)》が、一斉に攻撃を開始した。

それと同時に、《獅電》のライフルの銃口から火と発砲音が連続して放たれる。




「オルガ、決闘に勝つ方法思いついたんだけど」

「ん?どういう方法だ?それは」

「相手が機竜出すより先に《獅電》出して、叩き潰す」

「ちょっ、反則じゃないですか!?」

「の、No.流石に引きますよ……それにリーズシャルテ様を殺す気ですか?」

「ミカ、こいつらの言う通りだ。ちと癪だが正々堂々やらなきゃいけねぇ」

「よかった……オルガにはそういう良識があるんだね」

「『前』みてぇな不意打ちはダメだ。いいな?」

「「「前歴アリ!?」」」
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