神様転生という仕事   作:煮込み雑炊

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第1話

「……申し訳ありません。こちらのミスですね」

 

 白い空間だった。

 神聖な雰囲気が漂うその場所には。

 カウンターと椅子。ついでに発券機が置かれていた。

 

 どう見ても役所である。

 

 発券機の順番待ちを終え、カウンターの前に立った俺に言われた台詞がこれだった。

 パソコンから目を動かさないまま、受付に座っていた少女は。深いため息をつきながら話をすすめる。

 天使の輪と翼。美しくつややかな金髪と蒼い瞳。まさしく天使と呼ぶにふさわしい少女だった。

 そんな彼女が着こんでいるのは、役所の人間が着そうなスーツだったわけだが。

 

「どうやら、本来貴方はこのタイミングで死ぬべき人ではなかったようです」

「マジか」

「ええ、確かにあなたの死に方は想定外の物でした」

「よしっ。何か補填はあるんだろうな?」

「まことに不本意ながら。そうなりますね」

 

 パソコンから目を離して、こちらを見つめる少女。

 その目には深いクマが刻まれている。

 普通に見れば美少女であろうに、仕事疲れが刻んだそれが生み出すやさぐれきった雰囲気がすべてをぶち壊しにしていた。

 

「まさか、空中に存在する当たり判定にタライが命中して死ぬとは」

「モデリングが甘かったんだろうな」

「……はぁ」

 

 ため息をもう一度つきながら少女は状況を手元のパソコンで再確認する。

 映っているのは何もない場所に命中するタライ。首の折れる音。

 そして倒れた俺だった。

 

「ターゲットチェンジを3回使ってさらに幻影を発動した後。幸運値を下げて。さらに序盤のスライムに戻った後幸運値を変更するとこうなるとは……」

「見えない幻影だからな」

「想定外でした」

「……だろうな」

 

 天使の羽根をうっとうしそうにばさりと鳴らし。少女は手元にあった書類の束をどさりと投げてよこした。

 何度も使われているのか、書類のはしは丸く。茶色になっており。幾度となく使いこまれているのが分かるそれをめくると。『転生特典』と書かれた目次が目に入る。

 

「さっさと選んでください。転生するんでしょう?」

「ああ、そうさせてもらう」

 

 ページをめくれば出てくる「HPマックス」「Lvマックス」「回避マックス」に始まり、「洗脳」「誘惑」など並ぶ強力極まりないスキル群。

 これがあれば、どんなボスに挑んでも間違いなく勝てるのが分かる代物。

 俗にいう『チート』という奴だ。

 

「じゃあ、この『当たり判定消失』を貰うとするか」

 

 俺が選んだのはその中でも強力な『当たり判定の消失』というもの。

 任意のタイミングで発動することが出来、ありとあらゆる攻撃を回避することが出来る。さらに、相手からの視認性も失わせることで一方的に攻撃を行うことも可能な逸品だ。

 攻防一体。新しいゲームをはじめるにあたって十分な代物だろう。

 

「本当にそれでよろしいですね?」

「ああ、問題ない」

「では転生してください。ここの裏手のゲートから行けますから」

 

 疲れた目の少女の言葉に頷くと。俺は建物の外に出る。

 天界のような清浄な雰囲気の空間に浮かぶ、明らかに役所の建物の裏手に回ると、チープな外見のゲートがあった。ガムテープのようなテープで補強してあるのが、哀愁を誘う。

 

「今度こそ俺が頂点に立ってやる!」

 

 一言叫んで。ゲートをくぐる俺。

 神様転生をした同期達に追い抜かれた俺だが。同じ土俵に立てば。

 今度こそ英雄を名乗れるはずだ。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「やっと終わりましたか」

 

 『転生支援所』通称、役所での仕事を終えた私は。一つ伸びをした。

 ずっと椅子に座っていた身体からぽきぽきと背骨が鳴る音。

 5時間の残業が作り足した音に眉を顰めつつ立ち上がり、書類をバッグに詰める。

 

「あのデバッカーどもめ……」

 

 悪態をつきながら。役所の外に出る。

 天界に夜の概念こそないものの。よろよろと飛び回る同期の仲間たちの姿が時間を教えてくれる。

 最近はいつもこんな調子である。

 『異世界チート系』と呼ばれる小説。

 産みだした人間にとっては想定外なのだろうが。アレのルールは。まさしく天界のルールそのものだった。

 すなわち。

 神が想定外の死に方をした人間に望んだ生き方を出来る転生を提供しなければならないというものである。

 以前であればほとんどそんな死に方をするものはいなかったのだが。

 異世界チートに憧れた人間がとんでもない死に方を狙ってくる昨今においては。日常と化してしまったのだ。

 世界の当たり判定をずらす、意味不明な挙動をする。果てはデバックルームに突入しようとする。

 異世界転生狙いのバグに対する情熱はそこまでの物なのか。対応不可能な行為をする人間が毎日のように現れる。

 ついたあだ名がデバッカーである。

 対応したところでゲームの出来を褒めてくれる人間がいないところが違うところだが。

 

「……今日も、とりあえず一杯やりますか」

 

 財布の中身を考えながら、空を飛ぶ。

 給料日は遠い。居酒屋で一杯やる懐ではない。

 スーパーのPBで買えるストロング系チューハイでお茶を濁すことにする。  

 せめて、肴にと思って適当なするめでも買うとしよう。

 タウリンが含まれているので肝臓にも悪くないだろう。

 酒を飲むこと自体健康には悪そうだが、心が先に死ぬよりはマシだろう。

 

「よし」

 

 天界の店で酒とスルメを買い込み。再び空へと飛び上がる。

 最近は買い物袋すら金が必要らしい。

 そんな金はないのでそのままバッグに冷たい缶を入れると結露で書類がぐしゃりと鳴った。

 転生特典を書いた紙のHP関連の部分だ。

 どうせとる転生者もいないし関係ないと開き直って。家路を急ぐ。

 今の私にはアルコールの方が大事だ。

 

「あ、れ?」

 

 その時の私は気が付かなかった。

 風を切る音が私に迫っていたことを。

 

「よけ……ら……」

 

 そして、それに気が付いた時には。既に手遅れになっていて。

 それが、たまたま神に反発していた悪魔がなげやりに天にぶち込んだ槍で。

 

「がはっ」

 

 直撃した槍に。羽根を砕かれた私は。

 

 そのまま地上に落下して。命を終えた。

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

「……と、いうわけで。お主はどうしようもない死に方をしたようじゃな」

「はぁ」

 

 白い空間だった。

 清潔さを感じさせるが、どことなく無機質さを感じさせる空間。

 テーブルと、パソコンと。椅子。

 カウンターと発券機が置かれていた。

 

「……あの、ここは」

「お主は想定外の死に方をしてしまったようだな」

「あの」

 

 私の前に居るのは、白い髪と、白いひげの老人。

 頭の上には天使のような輪がついていた。

 

「--まさか。これは」

 

 

 

「……想定外の死に方をしてしまったからには。謝らなければならんな。何かチートスキルを与えて転生させてやろう」

 

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