【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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パート5 裏 後編 『走者の神、その名は……』

 下水道。この街の地下に流れているそこには、巨大化した鼠や蟲が蔓延り、いくら狩れども沸いてくる。

 とはいえ、そいつらを放置しておく事は出来ない。数が増えすぎれば下水道から溢れ、街に逃げだす危険性があるからだ。

 故にこうして定期的に討伐依頼が出されているのだが……。

 

「……やっぱり臭うわね」

 

 そう、この悪環境こそが、良い意味でも悪い意味でも、白磁御用達クエストと言われる所以である。

 

「今からでもこういった悪環境に慣れておくと良いですよ。今後の為にもなります」

「分かってるわよ。私だってそれを承知で依頼を受けたんだから」

 

 冒険する先が快適な環境であるとは限らない。確かにこのくらい不快な環境に身を置けば、些細な事では気にならなくなるだろう。

 

「今回の依頼内容は……巨大鼠(ジャイアントラット)の討伐と、巨大蟲(ジャイアントローチ)の討伐に、下水道でのクエストを受けたまま帰ってこなくなった冒険者の捜索……ですね」

「そ、昨日下水道に潜ってたアンタから見てどう? やれそう?」

「冒険者の捜索だけが厄介ですね。探し物は盾で解決出来ませんから」

 

 二つの盾を構える疾走騎士。どこか自信ありげなそのポーズは、私の緊張を解すのに十分だった。

 

「ふふっ、なにそれ? まあでも分かったわ」

 

 つまり、討伐依頼の方に関してはなんの問題も無いって事ね。それを聞いて安心したわ。

 

「それじゃあ私が松明を持ちながら捜索するわね。その方が効率良いでしょ?」

「はい、よろしくお願いします」

 

 通った場所を忘れないようにして、くまなく探していけば必ず見付かる筈。討伐に関しては疾走騎士に任せちゃいましょ。

 

 そう思った矢先、暗闇に蠢く者が姿を表した。

 

「うわっ……」

 

 巨大鼠(ジャイアントラット)……よくもまあここまで大きくなる物よね。

 こんなのが下水道から上がってきたらと思うとゾッとするわ。

 

遭遇(エンカウント)。……貴女の魔法は切り札です。もし自分が抜かれた際は松明で応戦を」

「……え、えぇ! 分かったわ!」

 

 切り札……ね。嬉しい事言ってくれるじゃないの!

 

 巨大鼠(ジャイアントラット)が疾走騎士に対し、牙を剥きながら飛び掛かる。

 しかし疾走騎士は左手の盾で叩き落とすと、体勢の崩れた相手に右手の盾を振り下ろす。まさに一瞬での処理だ。

 その後も彼は鼠が現れる度、同じ動作をひたすらに繰り返し、次々に倒していく。

 

 鼠が群れで現れた事もあったが、彼は後退しつつ、飛び出してくる個体を一匹ずつ堅実に倒していくと、結果その全てを討伐。

 安定した彼の戦い方に感心していると、私はあることに気付いた。

 

「……あれ? これ、私の出番無さそう?」

 

 全くもって崩される様子が無いじゃない。

 手の出しようもないわね。討伐証もすぐ回収しちゃうし。

 

「さあ、先へ進みましょう」

 

 それだけ言うと、疾走騎士は再び前へと歩みだす。

 

「そ、そうね……」

 

 うーん、せめて探し物は頑張らないといけないわね。その為の松明持ちだもの……。

 

─────────────────

 

 そして下水道の悪臭にも慣れてきた頃、疾走騎士達二人は巨大鼠(ジャイアントラット)巨大蟲(ジャイアントローチ)の群れとも幾度か交戦したが、歯牙にもかけずにその全て撃退していった。

 

「行方不明の冒険者、なかなか見付からないわね」

「正直に言えば、生きているとは考えにくいですからね。痕跡が残っていない可能性もあります」

「あ、そっか。その線もあるのね……」

 

 この下水道で命を落とせば、まず間違いなく鼠と蟲の餌だ。

 せめて遺体が残っていれば良い方だろう。

 

「……ねぇ」

「なにか?」

 

 魔術師は辺りを捜索しながら疾走騎士に問いかける。

 

「アンタは冒険者になる以前、何をしていたの?」

「以前? 何故です?」

「だって、やけに戦い慣れてるもの」

 

 疾走騎士は昨日冒険者登録を終えたばかりの白磁の冒険者。にも関わらず、戦い方が安定している。

 そしてそれは本来、長い訓練や実戦の末に到達する領域である。

 魔術師はそこに疑問を抱いたのだ。

 

「まあ……自分は、元々国に仕える騎士でしたから」

「軍人ってこと?」

 

 疾走騎士が頷く。

 成る程、道理で。

 私は彼の強さに納得がいった。

 戦いの基本という物が、彼には既に備わっているのだ。

 何も知らずにゴブリンの巣へと飛び込んだ私達とは……違う。

 

「見習いの使いっぱしりでしたし、結局没落しましたけどね?」

「そ、そう……」

 

 苦笑いで場を濁す疾走騎士に対して、彼が訳ありである事を察し、それ以上深入りしていいのか迷う魔術師。

 すると見かねたのか疾走騎士が口を開く……。

 

「……貴女は、見知らぬ誰かの命を助ける為に魔術師を辞めなければならないとしたら、どうしますか?」

「え……」

 

 唐突な質問に対し、困惑する魔術師。その問いかけはとても難しい内容だった。

 

「……まあ、出来れば助けたいわよね。でも……」

「難しいですよね。だってその選択には『成功』も『失敗』も、存在しないんですから」

 

 明るい口調ではあるものの、まるで諦めているかのような疾走騎士の言葉を聞いて、魔術師はこの質問の意味を理解した。

 

「助けたのね……アンタは」

「そう言うことです」

 

 疾走騎士は、誰かの命と騎士としての肩書きを天秤にかけ、命を選び、己の剣を捨てたのだろう。

 そして騎士を辞めて、こうして冒険者になった。

 その答えに魔術師は納得がいったものの、何とも言えない表情で疾走騎士の後ろ姿を見ていたが……。

 

「あ、居たわ。疾走騎士」

「? ……あぁ、やはりダメでしたか」

 

 損傷の激しい遺体を発見した。それは曲がり角の隅で横たわっていて──どうやら群れに追い詰められ、そのまま命を落としたようだ。

 

「疾走騎士。アンタが居なければ私はこの冒険者と同じ結末を迎えてたの」

「……」

 

 魔術師は遺体の首に掛かっている認識票を回収しながら、疾走騎士に語りかける。

 

「アンタのした選択が『成功』だったのか、『失敗』だったのか、それは分からないけれど……私はそれを『間違い』だとは思わない。だから胸を張りなさい! アンタは私にとっちゃあ、立派な騎士なんだから!」

「!」

 

 魔術師は回収した認識票を疾走騎士に渡し、疾走騎士はそれを受け取った。……微笑みを浮かべる彼女の、心からの激励と共に。

 

「……ありがとうございます」

 

 そうして下水道での依頼を全て終え、二人の冒険者は下水道の出口に向かうが……。

 

「ちょっとどこ行くのよ。出口はこっちよ?」

「あっ……すみません。道順を忘れてしまいました」

 

 たまに抜けた所のあるこの騎士に、魔術師は不安を覚えるのだった。

 

───────────────

 

「ね、ねぇ、疾走騎士?」

「なんでしょう?」

 

 下水道での依頼を終え、ギルドに報告した後、報酬を受け取った私達は手紙配達へ向かう準備を整えたのだけれど……。

 

「私の目にはこの依頼が単なる手紙配達の依頼にしか見えないのよ。アナタには一体何に見えてるの? 悪魔(デーモン)退治?」

 

 疾走騎士は今まで背負っていた小型の騎士盾よりも大型の盾を両肩に携え、更に水薬をいくつか購入。昨日と今日の稼ぎをほぼ全て費やしたのだ。突然の行動に私は困惑を隠せない。

 

「実は、嫌な予感がしてまして……」

「……嫌な予感?」

 

 疑問を抱く私に対し、疾走騎士は話を続ける。

 

「備えあれば憂いなしと言いますし、なるべく最大限の準備をしていこうかと」

「でも、流石にやりすぎなんじゃない?」

 

 心許なくなった残りの資金、普通に考えれば明日から火の車……まあ彼の働きぶりなら幾らでも挽回は可能そうではあるが、厳しい事に違いはない。

 

「……自分は臆病ですからね」

「あ、アンタもしかしてアレ根に持ってたの!? わ、悪かったわよ! あの時の私は何も知らなかったんだし、仕方ないじゃない!!」

 

 そう言えばこいつに『騎士と言ってもただの臆病者ね』なんて言っちゃってたわ……。

 まあ確かに、冒険には思いもよらない危険が潜んでいる事をつい先日経験したばかりだものね……ここは彼の言葉を信じる事にしましょうか。

 

 そして私達は手紙配達の依頼へと出発。

 配達先の隣街を目指して街道を歩みだす。

 

「ほんと、下水道に比べれば天国よね」

 

 日光とそよ風の心地よさを感じながら、大きく伸びをして深呼吸。

 下水道という悪環境を体験したからこそ、この有り難みが実感できる。

 

「今のところは……ですけどね」

「ち、ちょっとやめてよそんな不安になること言うの……」

 

 先程、疾走騎士が言っていた嫌な予感。

 疑う訳ではないが、根拠も無しに鵜呑みには出来ない。

 何が彼をそこまで警戒させているのだろう?

 

「……ねぇ、アンタ自身何かしらの確証を得てるように見えるけど、なにか理由があるんでしょ? 教えなさいよ」

 

 暫く迷う仕草を見せる疾走騎士は、やがて決心したかのように口を開いた。

 

「……《宣託(ハンドアウト)》です」

「はぁ……それならそうと早く言いなさい」

 

 ホントいつも肝心なところで言葉が足りていないんだから……。

 

「知ってるんですか?」

「当たり前でしょ? それくらいの知識なら持ち合わせてるわ」

 

 宣託(ハンドアウト)とは神からの指示である。

 特に信心深い信者に与えられると聞くが、実際のところはよく分からない。

 何せそれは理の外から送られてきているのだ。

 

「それで? 何て言ってたの?」

「ええっと……『守ったら負け! とにかく攻めろ! ミスったら逃げ! 以上です』」

「……はい?」

 

 一瞬疾走騎士なりの冗談なのかと疑ったが、彼はいたって真面目であり、本気で言っている事が伺える。

 

「とてもまともな怪物が出てくるとは思えませんよね……」

「いやいや、そんな宣託(ハンドアウト)送ってくる神の方がまともじゃないでしょ……」

 

 彼は一体何の神に目をつけられてしまったのだろうか。

 不安を覚えた魔術師が目を細め、疾走騎士を睨む。

 

「そうですか? 大体いつもこんな感じですよ。ちゃんと……? が壊れる……? だとか、なんだかよく分からない事ばかり言ってきますけど」

「えぇ……? それ言ってきてるのって地母神?」

 

 疾走騎士は頭を横に振り否定する。

 確か彼は地母神の奇跡を使っていた。にもかかわらず彼に指示を送っているのが地母神ではないとすると、その神は一体何者なのだろうか?

 

「確か『ソゥシーヤ』と名乗っていましたね。騎士の地位を失った自分に冒険者になれと、正解を教えてやると言ってきました」

「ソゥシーヤ……聞いたこと無いわね」

 

 古い文献でも漁ってみようかしら? でも、伝えられていないような神なんて、調べた所で時間の無駄になりそうよね……。

 

「そういう訳で、この準備はその為です。納得して頂けましたか?」

「まあ、一応……」

 

 未だ腑に落ちない点が多くあるけど、考えていても仕方の無い事ね。思考を切り替えましょう。

 

「それでは急ぎましょう。先はまだまだ長いですよ」

「そうね……よし! それじゃあ体力をつける為にも走りましょ!」

 

 これだけ空気が綺麗な外なら、ちょっとくらいじゃ疲れないでしょ!

 

「ほらほらほらほら! 置いていくわよ!」

 

 後衛の私がアイツの前を走るっていうのも、なんか悪くない気分ね! さあ、張り切って手紙配達よ!

 

 

─────────────────

 

 

 疾走騎士は魔術師の後を追いながら、ソゥシーヤから初めて宣託(ハンドアウト)を与えられた時の事を思い出す……。

 

 

『はいはいランダムランダム。おっ? 君がかぁ、やっぱり壊れてるじゃないか』

『混沌の勢力に堕ちかけている。ハッキリ分かんだね』

『そうそう、こういうボッチ君はパッと見ハズレ枠に思えますが、実は大当たりなんですよね。ちゃんと言うことを聞いてくれます』

『じゃけん冒険者に、なりましょうね~。正解はちゃーんとチャート通りに教えてやるから、大丈夫だって安心しろよ~。ヘーキヘーキ、ヘーキだから!』

『それじゃあRTA、はぁじまぁるよ~』

 

 

 まるで意味が分からない。そもそも正解と言いながら失敗する事が多々あった。動かされている身にもなって欲しいものだ。

 

 ……だが、自分がこの宣託(ハンドアウト)に背く事はないだろう。

 

 自分にはもう、これ以外には何も残されていないのだから……──。

 

 

─────────────────

 

 

 

「も、もう……そろそろ、着くかしら……?」

 

 す、少し……はしゃぎ過ぎたわね……思ったより息が続かなかったわ……。

 

「まだ半分にすら到達していませんね」

 

 そんな! あれだけ走ったのに!? 辞めたくなるわね冒険者……。

 

「す、強壮の水薬(スタミナポーション)ちょうだい……」

 

 走ったのは完全に失敗だったわね。

 汗のせいで服が肌に張り付いて気持ち悪い……特に胸の間が。

 

「出来れば半分まで進んでからにしようと思っていたのですが……なんならおぶりましょうか?」

「う……」

 

 そんな事したらまたアンタの背中をべちゃべちゃにしちゃうじゃない! 今度は私の汗で! 昨日より余計恥ずかしいわよ! 今の私絶対汗臭いし!

 

「や、やっぱりいいわ……」

「それが良いでしょう。ここで頑張らないと、いつまでも体力なんて付きませんからね」

 

 ……そうよね。それが一番よね。もっと頑張らないと。

 よし! もう一踏ん張りよ! 私!

 

 ………。

 

 そう思って頑張ってはみたのだけれど……。

 

「もう無理ぃ……」

 

 流石にもう限界。峠が見えてきた辺りでもう足が動かなくなったわ……。

 

「……そうですね。届け先まで半分を過ぎてますし、ここで回復しておきましょうか」

 

 そう言うと疾走騎士は私に強壮の水薬(スタミナポーション)を差し出す。

 

「あ、ありがと……」

 

 それを受け取り、一気に飲み干した。

 

「あぁ~生き返るわぁ~」

 

 全身に活力が漲るのを感じる。

 そう言えばこの峠を越えればもう目的地の街まで目前なのよね。何かあるとしたらここかしら? 

 気を張り詰めて行かないとね……。

 




Q.疾走騎士くん、RTA始めてなかったらどうなってたの?

A.混沌の勢力にでもなってたんじゃないすかね?

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