【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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パート6 裏 前編 『上から来るぞ! 気を付けろ!』

 手紙の届け先である隣町は、この峠を越えればもう目前。

 太陽は西に傾いてきているが、このまま順調に進めば夜には宿へ帰ることが出来そうだ。

 

 疾走騎士と共に歩を進める私は、多少の勾配に息を切らしながらも安堵していた。

 

「この峠を越えればやっと目的地ね……」

 

 私だってやれば出来るものよね! ……そんな事を考えていると──。

 

「きゃっ! む、むぐぅ!?」

 

 なんと疾走騎士は突然、私を羽交い締めにしたうえ更に喋れないように口を塞ぎ、近くの物陰になった草むらへと引きずり込んだ。

 

「ん、んーー!」

 

 え!? 何!? どうしたの!?

 ……も、もしかして。

 だ、だだだだダメよ疾走騎士! わ、私達まだただの一党じゃないっ! しかも宿ならまだしも、は、は、初めてがこんな……外でだなんてっ!! ダメ! 絶対ダメよ!! ダメったらだめえぇぇ!!!

 

「静かに、アレに気付かれます」

「ん……ん?」

 

 手足をジタバタさせて抵抗していると、疾走騎士が峠の頂にある岩場の方を指差した。

 その方向を見ると巨大な影が空を飛んでいるのが見える。

 あれは……マンティコアだ。

 

 

 …………………。

 

 

 静かに頷くと、疾走騎士は私を解放した。

 

「…………プハッ、そ、そう言うことね……」

 

 わ、分かってたわよ? えぇ分かってた。疾走騎士がそんな事する筈ないって私には分かってたわよ。

 …………お願いそう言うことにして。

 

「どうしました?顔が赤いですね……?」

 

 真っ赤になった顔を両手で覆い隠した私を不審な目で見る疾走騎士。元はと言えばアンタのせいでしょうがっ!!

 

「ど、どうでも良いでしょっ……! それよりも……どうするのよアレ」

 

 マンティコアは獅子の胴体とコウモリの翼を持つキメラの一種だ。

 間違っても私達みたいな白磁の冒険者が戦っていい相手ではない。

 よりにもよってそんなのと、こんな所で遭遇だなんて……。

 

「問題は無いかと」

「えっ」

 

 疾走騎士からの意外な返答に、私は一瞬の硬直の後、彼に顔を向ける。

 

「……何か策でもあるの?」

 

 私の問いかけに、疾走騎士は頷いた。

 

「合図をしたら空を飛んでるマンティコアに《火矢(ファイアボルト)》を撃ってもらえますか?」

「それだけ……?」

「あとは自分が何とかします」

 

 一体何をするつもりなのかしら? ホント肝心な事は言わないヤツよね……信頼はしてるけど。

 ……さっきの勘違いはノーカウントよ。

 

「……わかったわ」

「それではここで待機しててください。自分は移動します。ポーション関連を預かっておいてもらえますか?」

「それは構わないけど、何処へ行くつもり?」

 

 水薬が入った袋を手渡されたのでそれを受け取り、疾走騎士へ疑問を投げ掛ける。

 

「日の当たる場所へ、この盾で光を使った合図を3回送りますので、そうしたら《火矢(ファイアボルト)》をお願いします」

 

 そう言いながら鏡面の盾を掲げる疾走騎士。

 光を使うって……その鏡みたいな盾で反射させるって事かしら?

 そういう使い方もあるのね。

 

「いいですか? 3回ですよ3回」

「わ、分かったわよ」

 

 やけに念を押すわね……でもそれだけで本当にアレを倒せるのかしら?

 

────────────────

 

 3回合図を送る。そう言われ草むらに身を隠し続けていたものの、なかなかその合図は来ない。

 

「まったくもう、一体いつまで待てばいいのよ……」

 

 アイツの事だから、また突拍子もない事やらかすんじゃあ……そんな予感がしていた時の事だった。

 

「っ! 来た!」

 

 視界に一筋の光が3回明滅する。……これ結構眩しいわね。

 って、なんでアイツあんなところに居るのよ!? 反射させて来てるの、思いっきりマンティコアが飛んでる真ん前の岩場からじゃない!!

 

「あぁもう! やればいいんでしょやれば!」

 

 今回はこの前のゴブリン退治の時とは違う。

 相手は1匹、落ち着いて呪文を唱える事も出来る。私の力を最大限発揮できる状況だ。

 大きく深呼吸をし、全神経を集中させ《火矢(ファイアボルト)》の詠唱を開始する。

 

「《サジタ()》 《インフラマラエ(点火)》……」

 

 お願い、当たって!!

 

「《ラディウス(射出)》!!」

 

 マンティコアへ向けた杖の先端から、《火矢(ファイアボルト)》が撃ち出される。

 すると直後、マンティコアは疾走騎士が盾で反射させた太陽の光を目に受けて怯み、その動きを止めた。

 

「GYAU!?」

 

 そこへ《火矢(ファイアボルト)》が命中。

 一瞬で炎に包まれたマンティコアはパニックになり、そのまま真下へと墜落していく。

 

「GUROOO!?!?!!?」

「えっ!?」

 

 横たわる形で地面に叩きつけられたマンティコア。

 するとその直後、地面に転がったマンティコアを上から押し付けるように、光の壁が突然現れた。

 まともに動くことが出来なくなったマンティコア。

 しかしその身を炎に焼かれながらも力尽きる様子は一切無く、呻きながら必死にもがき続けている。

 

「これって……アイツの奇跡?」

 

 相手を地面に押さえ付ける奇跡なんて聞いたこともないわね……。

 そんな事を考えながら疾走騎士が居た岩場を見上げる。

 

 ……その瞬間私の目に入って来たのは、アイツが岩場から飛び降り、マンティコアへ向かって落下していく光景だった。

 

「えっ……嘘でしょ!!」

 

 思わず立ち上がり、草むらから飛び出してしまった私を、マンティコアの双眸が捉える。

 

「……《トニトルス(雷電)》」

「はっ! 呪文!? しまった!!」

「《オリエンス(発生)》」

 

 マンティコアが唱えているのは稲妻の呪文。

 私は魔法を使える怪物がいる事を失念していた。

 《分影(セルフビジョン)》を……いやダメだ、間に合わない!

 

「《ヤGU!?───」

 

 ……しかし詠唱が終わろうとしたその瞬間、落下してきた疾走騎士の盾がマンティコアの頭部に深々と突き刺さった。

 

「えっ……あ! 疾走騎士!」

 

 声を上げる間も無く絶命したマンティコア。

 余りにも一瞬の出来事に呆然とするが、すぐに正気を取り戻し、疾走騎士の下へと駆け寄る。

 

「ちょっと! 大丈夫!?」

「っ……!」

 

 未だ燃え続けるマンティコアの上でうまく立ち上がれない様子の疾走騎士。

 あんな高さから飛び降りたのだから当然だ。

 私は彼に手を伸ばす。

 

「ほら! 捕まって!」

 

 炎の熱気に苦しみながら疾走騎士の手を掴み、何とか引っ張り出す事が出来たものの、彼はそのまま前のめりに倒れ、私は尻餅を付いてしまった。

 

「なんで……なんであんな無茶したのっ!?」

「………ンを」

 

 うつ伏せになった疾走騎士の側へ這いながら近寄る。

 彼は呻くように何かを言っているが、それに気付かない私は感情のまま怒鳴ってしまう。

 

「アンタが居なくなったら……私はどうすれば……っ!」

 

 彼が飛び降りた瞬間私は、前回のように何も出来ないまま仲間を失ってしまうのではないかと思った。

 私はもう……あんな思いは二度としたくないのに……。

 

 

 

 

 

 すると疾走騎士は私の肩を掴み、微かに聞こえる程度の声を絞り出した。

 

 

 

 

 

治癒の水薬(ヒールポーション)を……っ!」

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

「あっ! ご、ゴメンっ!」

 

 

 

 

 

 そう言えば水薬預かってたんだったわ!

 袋から慌てて治癒の水薬(ヒールポーション)を取り出し、疾走騎士に手渡した。

 疾走騎士はそれを一息に飲み干す。

 

「ふぅ……もう一本下さい」

「う、うん」

 

 そして疾走騎士は残った2本目の水薬も飲み干し、うつ伏せの状態から立ち上がった。

 どうやら落下した際の負傷は回復したようだ。

 

「ねぇ、疾走騎士」

「はい」

「もしまたあんな無茶をしなきゃならない時は……私に相談して。いい?」

 

 毎回あんな無茶をしていては疾走騎士がいつ死んでもおかしくない。

 あとついでに私の心臓ももたない。正直言って勘弁して欲しいわ。

 

「…………」

 

 暫く間を置いた後、疾走騎士は何も言わずにただ頷いた。

 本当に分かってるのかしら?

 

「手紙は私が届けてくるわ。もう届け先の町は目と鼻の先だし、帰りも考えてアンタは一旦ここで休んでて」

「分かりました」

「それじゃあすぐ戻るから、くれぐれも無茶な真似はしないでよ!」

 

 念を押して言い聞かせると、疾走騎士は近くにあった岩にもたれかかりながら座り込んだ。

 

 それを見届けて、私は町へと走った。

 まだ強壮の水薬(スタミナポーション)の効果は切れていない。急いで届けに行こう。

 

─────────────────

 

「早かったですね」

 

 手紙を届けて戻って来た私が見たのは、討伐証であるマンティコアの尻尾を、盾の刃で切り取る疾走騎士の姿。……もう、無茶しないでって言ってたのに。

 

「丁度町の入り口近くの家だったのよ。そっちはもう大丈夫みたいね」

「ええ、では帰りましょう」

 

 私は頷いて、疾走騎士と帰路につく。

 何とか無事に依頼を完遂したものの、今回私にとって反省する点は多くあった。

 まず道中で調子に乗った結果、すぐにバテてしまった事。自身の体力の無さを自覚し、ペース配分を考える必要があるだろう。

 マンティコアに気付くのが遅れたのも、場合によっては命取りになっていた可能性がある。警戒を怠ってはいけない。

 迂闊に物陰から出てしまい、マンティコアに狙われてしまったのも失敗だ。敵の前に出る際は予め《分影(セルフビジョン)》を使うべきだった。

 まだまだ私は……弱い。

 

「ありがとうございました」

「えっ……?」

 

 突然、前を歩く疾走騎士に礼を言われ、私は戸惑った。

 今回も色々と助けられて、お礼を言うのはこっちの方なのに…。

 

「貴女が居たお陰で、マンティコアを倒す事が出来ました」

「倒したのはアナタじゃないの……」

 

 彼の言葉に対し、小さくため息をもらしながら私は首を横に振った。

 あのままマンティコアに魔法を使われていたらどうなっていたか分からない。

 少なくとも私一人では為す術もなく、餌になっていたことだろう。

 しかし疾走騎士は、そんな私の思いを否定する。

 

「自分一人ではアレに勝つことはおろか、戦う事すら出来なかった。貴女の《火矢(ファイアボルト)》が奴を撃ち落としてくれたお陰ですよ」

「そ、そう……」

 

 私の功績を率直に称賛する疾走騎士。

 嬉しい気持ちもあるが、私としてはこの男に誉められるのはやはりどうにも恥ずかしい……。

 

「やはり貴女の魔法は切り札としての力があります。これからもどうか、よろしくお願いします」

 

 私は赤く染まった顔を見られないよう、帽子で顔を隠しながら、彼に対して言葉を返す。

 

「ええ、私の方こそ……よろしく」

 

 私は弱い。弱いが、彼と一緒ならきっと強くなれる筈だ。

 まだまだ先は長いだろう。それでも私は、歩みを止めるつもりは無かった──。

 

 




Q.マンティコアの尻尾とか重くないの?

A.魔術師ちゃんよりマシ、ハッキリ分かんだね。
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