【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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パート7 裏 前編 『攻めは左、受けは右』

「おはようございます」

 

 疾走騎士の声で目が覚めた私は目をこすりながら体を起こし、ぼやける視界のなか、枕元に置いていた眼鏡をかける。

 視界が鮮明なものへと変わると、疾走騎士は既にいつもの兜と鎧を身に付けていた。

 どうやら昨日とは逆に、今回は私の方が寝坊してしまったらしい。

 

「ふぁぁ……おはよう」

 

 欠伸をしながら挨拶すると、疾走騎士がカップに淹れられたホットミルクを差し出してきた。

 

「貰ってきました。飲めば目が覚めるかと」

 

 どうやらあの女主人が用意した物らしい。私は少し警戒したが、流石に彼女も飲み物に何かを仕込むなんて事はしないだろう……多分。

 いつもの要らぬ気遣いではなく、こういった事なら大歓迎なのだが……。

 

「ありがと」

 

 私はそれを受け取り、口を付ける。

 ミルクの甘さと暖かさが心地よく、そのままこくこくと飲み干してしまう。

 

「おいしかった……」

 

 空になったカップを疾走騎士に返す。

 女主人の彼女にも後で礼を言わないとね。

 

「ではカップを返してそのまま外で待っていますね。身支度を整えたら来てください」

「ええ、分かったわ」

 

 そして疾走騎士はカップを手に部屋を出ていった。

 ああいった立ち振舞いは騎士っていうより執事みたいね……。

 

「……あ」

 

 そこでようやく私は自身の状態に気付く。

 肌着一枚に、寝癖だらけの髪型。目も当てられない有り様だ。

 

 とはいえ私は以前のゴブリン退治で彼に助けられた時、装備を引き裂かれ、殆ど裸の状態だった。

 つまり彼には私の体を既に見られていると言うわけで、そのせいもあって今更という感もある……けど、それはそれ、これはこれなのよ。

 

「まあ、同じ部屋にしちゃったのは私だけど……」

 

 疾走騎士が信用出来る男だと言うことは、一党を組んだ時既に分かっていた。だからこその行動だったのだが……。

 

「でも何の反応も無いっていうのも、それはそれで納得いかないのよね……」

 

 再びベッドに倒れ込む。乙女心は複雑なのだ。

 マンティコア討伐の報酬を使って、私も師匠みたいに露出が多い装備にするべきかしら?

 

「……はぁ、バカな事考えてないで準備しないと。アイツを待たせる訳にはいかないわ」

 

 私はため息を吐きながらベッドから立ち上がり、ローブと帽子を手に着替えを始める。

 そして身支度を終えた私が部屋から出ると、外で疾走騎士が待っていた。

 

「お待たせ。それじゃ行きましょう」

 

 頷いた疾走騎士と共に女主人の下へ行く。

 ホットミルクのお礼も言わなければ……。

 

「おはよう、さっきのホットミルクおいしかったわ。ありがとう」

「おはようございます! お口に合ったようで何よりです。私の祖母直伝なんですよ?」

 

 そういえば彼女の祖母がこの宿を建てたんだったわね。

 しかし体調を崩している為、今は寝たきりとの事だ。彼女も苦労しているのだろう。

 

「それじゃあ行ってくるわね」

「はい! いってらっしゃいませー!」

 

 そして私は疾走騎士と共に、ギルドへと向かうのだった。

 

────────────────

 

「はいはーい! 朝の依頼張り出しのお時間ですよー!」

「待ってました!!」

 

 受付嬢の声に冒険者達が沸き上がる。

 朝のギルドで毎日行われる依頼争奪戦。

 もはやいつもの風景と化したそれを、遠巻きに見ている冒険者が居た。

 

「ま、待ってくださいゴブリンスレイヤーさん!」

 

 薄汚れた鎧兜を身に纏う銀等級の冒険者、ゴブリンスレイヤー。

 彼は依頼争奪戦に参加することは無い。何故ならゴブリン退治に人気は無いからだ。

 残った依頼を受付嬢から受注し、消化する。それが彼のいつもの請け方だった。

 

 しかし、今回彼がギルドを訪れたのは依頼を請ける為ではない。

 

 後ろから付いてくる女神官を意に介さず、ゴブリンスレイヤーはギルドの隅にある椅子へと真っ直ぐに歩く。

 そこには疾走騎士と魔術師の二人が座っていた。

 ちなみにそこは、いつもならゴブリンスレイヤーが座っている定位置でもある。

 

「あ! お二人ともご無沙汰してます!」

 

 近付いてくる二人に気付き立ち上がる疾走騎士と魔術師。

 それに対し女神官が挨拶をしながら会釈すると、疾走騎士も頭を下げる。

 

「どうもご無沙汰してます。えっと……何か?」

「昇級審査か?」

 

 女神官と共に現れたゴブリンスレイヤー。

 相変わらず不器用な彼は挨拶も無く、用件だけを話し出す。

 

「はい、黒曜への昇級審査です。しかしそれを何故貴方が?」

 

 彼等二人の昇級審査が決まったのは昨日の夜のことだ。

 あの場にゴブリンスレイヤーは居なかった筈。

 疾走騎士は首を傾げる。

 

「俺は立会人として呼ばれた」

「あぁ成る程、そういう事でしたか。本日はよろしくお願い致します」

 

 納得した疾走騎士はゴブリンスレイヤーに対し、深々と頭を下げた。

 こういった真面目な所もギルドは評価しているのだろう。黒曜への昇級も頷ける。横から眺めていた女神官はそう感じていた。

 

「マンティコアを討伐されたなんてすごいですね!」

「ありがとうございます。まあ、彼女の魔法があってこそ、でしたけどね」

 

 そう言って疾走騎士は魔術師の方を向く。

 先程まで鋭い視線で見ているだけの彼女だったが──。

 

「べ、別に私はアンタの指示に従っただけよ……」

 

 魔術師は恥ずかしげに帽子を深く被り、顔を隠してしまった。

 それに対し疾走騎士は肩を竦め、女神官はくすくすと笑う。

 

「マンティコアとは……なんだ」

「えっ……」

 

 突然のゴブリンスレイヤーの言葉に、女神官は困惑した。

 彼はゴブリン以外の事には一切の興味が無い為、マンティコアの事を知らないのだ。

 

「あ ら? お揃い ね?」

「師匠!?」

 

 するとそこへやって来た魔女。相変わらず扇情的な装備とプロポーションで人を魅了する彼女は、柔らかな笑みを浮かべている。

 それを見た魔術師が、慌てて彼女の下へと駆け寄った。

 

「聞いたわ よ? マンティコア 討伐 おめで とう」

「あ、ありがとうございます!」

 

 魔術師は魔法を行使する者としてだけでなく、冒険者としても一流である魔女を、心から尊敬するようになっていた。

 それを見ていた女神官は、以前は魔術師から感じていた棘のある雰囲気が、いつの間にか無くなっている事に気付く。

 

「あんな事もありましたけど、立ち直ってくれたようで、良かったですよ」

 

 女神官の思いを察して、疾走騎士が呟いた。

 魔女と表情豊かに話をする魔術師。それを見て女神官はくすりと笑う。

 

「ふふ、本当ですね」

 

 あんな恐ろしい事があっても、それを乗り越え、彼等は前に進んでいる。

 ──私も負けていられないなあ……。

 そんな思いに、女神官は満たされていた。

 

「えっ!? 師匠が私の審査の立会人!?」

「そうな の ちゃんと 見て る から 頑張って ね?」

「ど、どうしよう疾走騎士……」

 

 魔術師は自らの昇級審査の立会人が、魔女であることを聞いて驚愕した。

 彼女は不安気な表情で疾走騎士にアドバイスを求める。

 

「どうするも何も、いつもどおりで良いんですよ。その為の昇級審査です」

「そ、そう? ……そっか、そうよね。うん、ありがとう」

 

 どうやら彼の助言によって、すぐに持ち直したようだ。

 

「ん? あれは……」

「どうしたの?」

 

 そこで疾走騎士が、受付でゴブリン退治の依頼を受注している一党に気付く。

 

「ゴブリンに拐われた村娘の救出か」

「放棄された森人の山砦を根城にしたらしいです……」

「でも報酬は少ないね」

「とはいえ、見逃す事は出来ないわ」

 

 彼女達は騎士、僧侶、野伏、魔術師、以上の4名で構成された鋼鉄等級の一党。冒険者としても一端に値する部類だろう。

 

「ゴブリ「ダメですよ、今日は立会人として呼ばれてるんですから」……む」

 

 ゴブリンと聞けば直ぐに動こうとするゴブリンスレイヤーを女神官が嗜める。

 

「ゴブリン退治……ね。まああの一党、見たところ鋼鉄等級だし何の問題も無いんじゃない? 私達と違ってね」

 

 白磁で何も知らなかった自分達とは違う、ある程度の経験を積んだ冒険者達の一党。

 そんな彼女達がゴブリンなんかに負ける筈が無いだろう。

 そう思い発言した魔術師に対して、疾走騎士は何の反応も示さず黙り込んでしまう。

 

「ちょっと……聞いてる?」

「えぇ、少し考え事を……」

 

 あの一党に何か問題があるのだろうか? 魔術師は不審に思い、疾走騎士に声を掛けるも、曖昧な返事が返ってきた。

 ……あっ! ま、まさかあの4人の中に疾走騎士の好みのタイプがっ!? そんな事を考え唐突に焦りだす魔術師。

 明らかに的はずれなのだが本人はいたって大真面目であった。

 

 そして、疾走騎士と魔術師とゴブリンスレイヤーが三人揃って遠巻きに睨み付けるという異様な光景のなか──。

 

「お待たせしました!では昇級審査を始めさせて頂きますのでこちらへどうぞ!」

 

 ようやく手が空いたのだろうか、受付嬢がやって来た。

 彼女に案内され、昇級審査を行う部屋の前へと到着する。

 

「それでは始めさせて頂きますので、どうぞお入りください」

 

 そう言って受付嬢、監督官、魔女の三人が部屋の中へと入って行った。……と言うことはつまり。

 

「わ、私から?」

「そう言うことになりますね。頑張って下さい」

 

 疾走騎士が励ますと魔術師は頷いて答える。

 

「うん……行ってくるわ」

 

 そして意を決したように、魔術師は部屋の扉をノックしたのだった──。

 

───────────────

 

 ノックの音が扉から聞こえると、私はその向こう側に居る相手に入室を促した。

 

「どうぞ」

 

 そう私が言うと、魔術師が扉を開け部屋へと入って来る。

 

「そちらへお座り下さい」

 

 彼女は緊張しているのか、力が入ったままのぎこちない動きで私達の正面にある椅子へと座った。

 視線がちらちらと立会人の魔女に向いているのが分かる。

 

「ふふ、そう緊張しなくて大丈夫ですよ? 普段通りにして下さい」

 

 昇級審査というのは相手が冒険者として信用するに値する人間かどうかを確かめるためのものだ。

 

 具体的な物としてはまず『経歴』が挙げられるだろう。もし今まで虚偽の申告をしていた場合や、犯罪等を隠していた場合、監督官の《看破(センス・ライ)》によってこの場で暴かれ、冒険者としての活動を禁止される事もある。

 

 万が一ギルドの派遣した冒険者が不正行為等を行ったり、罪を犯した場合、その信用を取り戻すことは難しい。

 そういった事態を防止する為の昇級審査という訳だ。

 

「普段通り……疾走騎士にも同じ事を言われたわね」

 

 とはいえ、彼女にその心配が無いであろう事は担当の受付嬢である私には既に分かっている。

 冒険者登録を行っている者の身辺調査は、既にギルド側で行われているのだ。

 

 これは謂わば形式上の物と言っても過言ではないだろう。

 なので今回行う事といえば……。

 

「ではまず、白磁になってから実際に冒険をしてみて、どうでしたか?」

 

 彼女は最初のゴブリン退治で仲間を二人失った。

 もしその結果、冒険者としての活動に忌避感を感じるようになっているのであれば、冒険者を辞める事も選択肢として与える事が出来る。

 私達が確かめたい事は主にそこなのだ。

 

「そう……ね。私は最初の冒険で失敗して、途方に暮れたりなんかもしたけれど──」

 

 俯いて話し出す魔術師。その表情は帽子によって隠れてしまう。

 

「今は……自分の選んだ道に満足してるかな」

 

 しかし、顔を上げた魔術師は微笑みを浮かべていた。それを見た私は、彼女なら大丈夫だと結論を出す。

 私は次の質問へと移った。

 

「では、疾走騎士さんと一党を組んでみてどうでした?」

「アイツには感謝してる。最初の失敗で命を救われたのもあるし、それに冒険だとすごく頼りになるの。私の足りない所を補ってくれてるわ」

 

 念のため監督官の方を見ると何も言わず頷いている──が、その手元の紙には『魔術師×疾走騎士』と書かれていた。

 私が確認したかったのは決してそんな事ではない。この人は審査中に一体何をしているのだろうか……。

 

 その後も幾つかの質問を行う。

 その結果、彼女は自らの優秀さを証明するために冒険者になった事や、都に弟が居る事など、様々な事が分かった。

 その全てに不審な点は見られない。黒曜に値する人物として合格という訳だ。

 

「では昇級審査は以上となります。問題無しとして報告させて頂きますので、黒曜への昇級、及び認識票の発行は明日、受付にて行わせて頂きます。大変お疲れ様でした」

「……ありがとうございました」

 

 立ち上がり、私達に一礼した魔術師は部屋を後にした。

 それに続いて、立会人の役目を終えた魔女も席を立つ。

 

「それ じゃあ ね」

「あ! お疲れ様でした! 謝礼金は受付に言えばお支払いさせて頂けますので!」

 

 退室しようとする魔女は扉の前で足を止め、私の方を振り返る。

 

「大変 なのは 次の子 よ? 頑張って ね?」

「……はい」

 

 そう言い残し、彼女は部屋を出ていった。

 私は手元にある書類のうちの一枚を手に取る。それはギルドによる冒険者の身辺調査報告書。

 しかしそれは魔術師の物ではなく、次に審査を行う疾走騎士の物である。

 

 そこに書かれている一文に、私は不安を感じていた。

 

 

 

 

『騎士として軍に所属、伝令任務遂行中にそれを放棄』

 “罰則内容:除隊処分”

 




Q.女神官ちゃんの出番少ない……少なくない?

A.お姉さんゆるして!!
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