【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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パート7 裏 後編 『いつものこと、よくある話、彼はそれに抗った』

 魔術師の昇級審査を終え、魔術師と魔女が部屋を出てすぐ、次の審査の立会人であるゴブリンスレイヤーが入れ替わるように扉から入って来た。

 

「ここでいいのか」

 

 彼は立会人用の席の前に立ち、受付嬢に問いかける。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 私が答えると、ゴブリンスレイヤーは席へと座った。

 

 昨日の夜の事、疾走騎士達の昇級審査が決まった後、私が立会人の選定をどうするか悩んでいると、ゴブリンスレイヤーさんが依頼を終えギルドへと戻ってきた。

 私はその際、ダメもとで立会人をお願いできないか聞いてみたのだが……。

 

「急なお話を受けて頂いて、ありがとうございました」

「構わん、いつも世話になっているからな」

 

 これがなんと了承。私もゴブリン以外に興味を一切持っていない彼が、首を縦に振るとは正直思っていなかった。

 

「それに、気になることがある」

「気になること?」

「あの男、ゴブリンを知っている。……いや、戦ったことがあるという程度だろうが──」

 

 成る程、つまり彼にとっては今回の立会人も、ゴブリンに繋がることらしい。

 ゴブリンスレイヤーさんらしい納得のいく理由に安心したと言うべきか、残念だと言うべきかは……悩ましい所だ。

 ともあれ、準備は整った。私は意を決して次の昇級審査の相手である疾走騎士を部屋へ招き入れる。

 

「はぁい、では疾走騎士さん、どうぞお入りください!」

 

 すると扉から3回のノック音。そのまま扉が開き、「失礼いたします」という一声と共に入室してくる疾走騎士。

 私はこの時平静を装いながらも内心少し驚いていた。

 彼のようにマナー通りの手順を踏んで入室してくる男性の冒険者はとても珍しいのだ。

 感心する私を余所に、彼は私達の正面にある椅子までまっすぐに歩いて来ると──。

 

 ──ドンッ。

 

 椅子の後ろから体をぶつけた……。

 しかし何事も無かったかの如く椅子の正面に回りこみ、こちらを向く。

 

「ど、どうぞお座り下さい」

 

 うーん、彼も緊張してるのかな? 疾走騎士が私の言葉を聞いて着席した。

 さて、何から聞いたものか。除隊させられたみたいだけど、何か悪いことしたの? なんていきなり聞くのもまずそうだし……。

 そんな事を考えていると、隣の監督官が突然口を開いた。

 

「じゃあまず、年齢を教えてくれるかな?」

 

 年齢? なぜ年齢から? そこは普通名前からなのでは?

 

「15歳、疾走騎士です」

 

 あ、ちゃんと答えるんだ……。

 

「何なんですかその質問は……手元の冒険記録用紙(アドベンチャーシート)に書いてあるじゃないですか」

 

 というかそもそも、彼の担当は私なので質問は本来私から行うべきなんですけど?

 不服そうに私が言うも、監督官の彼女はあっけらかんとした様子だ。

 

「良いじゃない、初の昇級審査なんだし、緊張をほぐしてもらわないとね」

 

 まあ、それは確かに一理ある。さっき歩いてたら体をぶつけてたし、彼にも意外とそういう一面があるのかも知れない。

 

「おほんっ、では次からは私から質問させて頂きます。疾走騎士さん、白磁になってから実際に冒険をしてみて、どうでしたか?」

 

 魔術師にも聞いた質問、と言ってもこの質問はマニュアルにも加えられている物で、これから幾度と無く冒険へと向かう彼等が、始めに何を感じたのかを確かめるため。

 また彼等自身にも、初心を忘れないで居てもらうために必ず行う質問である。

 

「どう……とは?」

 

 すると疾走騎士は質問に対し、頭を傾げる。

 

「大変だったとか、思ったより簡単だったとか、そんな率直な感想でも構いません」

 

 私の言葉に疾走騎士はすぐに頷いて、質問に答えた。

 

「最初の冒険では残念でした。ああいった出来事はよくあることだと、分かってはいたのですが……」

 

 そう話す彼が、ゴブリン退治によって二人の犠牲者が出た時の事を言っているのだと、すぐに分かった。

 確かに彼の言う通り、新人の冒険者が命を落とすという出来事はよくある話で、こうやって生き延びた彼等は運が良かったのだろう。

 

「成る程、では一党を組んでからは?」

「彼女と一党を組んでからは助けられてばかりです。自分には勿体ないほど、彼女は優秀ですからね」

 

 ふむふむ、お互い信頼し合いながら、うまくやってるみたいね。

 嘘も言っていないみたいだし、人格に関しては問題無しっと。

 これはやっぱり、彼の過去に関して聞いていくしかないか……。

 

「お生まれはどちらですか?」

 

 先ずは当たり障りのないところから、そう考えて私は出身を聞いてみた。

 

「生まれ……ですか」

 

 自身がどこで育ったのかを聞かれた彼は、ばつが悪そうにする。あまり話したくない事だったのだろうか?

 

「はい、何か話しにくい事でも?」

 

 しかし、話してもらわなければならない。

 今後、ギルドが彼を信用する為には、必要な情報なのだ。

 

「いえ、そういう訳ではないんです。都の方面にある小さな農村でした。……ただ、もう無くなっていまして」

「無くなった……?」

「ゴブリンか?」

 

 突然隣に座っていたゴブリンスレイヤーさんが口を開いた。

 ゴブリンに襲われた村が滅びる。確かによくある話だ。

 しかし疾走騎士はこれに対し、首を横に振り否定した。

 

「流行り病ですよ。都から来た医師に綺麗サッパリと焼き払われ、村に居た者は、自分以外全員……」

「そう……でしたか。申し訳ありません、話しにくい事をお聞きして……」

 

 思っていた以上に辛い内容だった。

 しかしそこで一つの疑問が生まれた。

 彼の経歴は没落した騎士とある。

 農村で生まれたというのは、辻褄が合わないような気もするが……。

 

「いえ、なんなら続きをお話しましょうか?」

「あ、えと……お願いします」

 

 正直、ありがたい申し出だった。

 今みたいな重い内容を聞いておいて、更に根掘り葉掘り聞き出そうとする程に、私は図々しくはないのだ。

 

「実は、母方の父、自分の祖父は元騎士でして。その伝手を当たり、何とか騎士の見習いとして受け入れてもらったんです」

「そのお祖父さんは今は?」

「流石にもう年でしたからね。残念ながら──」

「う……その、本当にすみません……」

 

 つまり彼は今、天涯孤独の身。

 何から何まで……まるで私が悪い事をしている気分だ。

 しかしまだ疑問は残っている。

 それならどうして彼は騎士を辞めたのだろうか、と言うこと。

 任務を放棄し、その地位を奪われるというのは、その祖父を裏切る事と同義になるのでは? 私はそう考えた。

 そして私の謝罪を気にせず、彼は話を続ける。

 

「しかしまあ、やはりと言うべきか。農村から出てきた人間を騎士として認めない者も多く、あまり居心地が良いとは言えない環境でしたね」

 

 迫害されていたという事だろうか?

 騎士の位を持つ者は、プライドの高い人間も多いというのはよく聞く話だ。そうなるのも無理はないのだろう。

 両手を祈るような形で握り締め、疾走騎士は静かに語り続ける。

 

「周りから避けられた結果、一人で遂行する事の出来る『伝令』の任務を言い渡された自分は、それでもその役割をこなし続けました。……いつか騎士として認められる為にも、必死で……」

 

 伝令、部隊と部隊の間で命令を伝達する兵の事だ。

 伝達する情報には『早さ』と『正確さ』を求められ、常に走り続けなければならない。

 それもたった一人でだ。敵に見付かれば一貫の終わり。

 厳しいながらも、重要な任務である事に間違いはない。

 

 しかしそれならどうして──。

 

「どうしてそれを放棄してしまったんですか?」

 

 私は思わず聞いてしまった。

 疾走騎士は少し驚いた様子を見せたが、自らの経歴が既に調査されている事を察したのだろう。

 小さくため息をつき、椅子に背を預けて天井を見上げた。

 

「魔神復活の調査へ向かった先遣隊への伝令、それが自分の最後の任務です」

 

 魔神。今、都ではその影響で悪魔(デーモン)が増えているという話だ。冒険者達のなかでもよく話題になっている。

 

「二日、或いは三日走り続けた先に立ち寄った街で、つい1時間程前に先遣隊がここを発ったという話を聞き、自分は急ぎ後を追いかけました」

 

 たった一人で、調査に向かった部隊の後を追う。あまりにも危険すぎる任務だ。

 やはり彼が迫害されていたというのは、事実なのだろう。

 考えながらも、静かに彼の話を聞き続ける。

 

「もうすぐこの任務を終える事が出来る。これでまた一つ、騎士に近付くことが出来る。そう思った時……見付けてしまったんです」

 

 

 

 

「ゴブリンに襲われている、小さな農村を……」

 

 

 

 

 私がハッと目を剥くと同時に、ぴくりとゴブリンスレイヤーさんが反応した。

 私は息を呑み、疾走騎士へと問いかける。

 

「それで、どうしたんですか?」

 

 ……暫くの沈黙、俯いたまま何も話さない彼。それを見かねたのか、ゴブリンスレイヤーさんが口を開く。

 

「ゴブリン相手には軍は動かせない。いつものことだ」

 

 そう、その時彼は軍に就く騎士だった。本来であれば重視するべきは任務、その農村を見捨ててでも、先遣隊を追うのが正解だったのだろう。

 

 ……そうか、ここで私は気付いてしまった。彼が自ら騎士としての役割を捨てた、その理由に……。

 

「見捨てられなかったんですね?」

「はい」

 

 私の言葉に頷いて答えた疾走騎士。

 ここで彼は任務を放棄し、農村の救助へと向かったのだ。

 そして彼は、村で起きた惨状について語りだす。

 

 

 

 ──既に村は酷い有り様でした。幾つもの死体が転がっていて……しかし僅かながら残っていた生存者を見付けて、それに襲いかかろうとしていたゴブリンを斬り捨てました。

 すると周囲にいたゴブリン達が狙いを自分に定め、囲む様に襲って来たので、それを何とか潜り抜け、壁を背にして応戦。

 十か二十か倒した頃には剣が折れてしまい、まだ何匹か残っていたゴブリン達は好機と見たのか一斉に襲い掛かってきました……が、それも盾で殴り付け、そしてようやく全滅させる事に成功。

 自分も多少の怪我を負いましたが、それでもなんとか村を守る事が出来ました。

 

 

 

 

 ……そう思ってホッとしたのも束の間、助けた村人達が自分に向けて言うんです──。

 

 

 

 

 ──何故さっきは我々を見捨てたんだ!

 

 ──お陰でこの村は壊滅だ!

 

 ──たった一人しか寄越さなかったのか!?

 

 ──弱きを護るのが騎士じゃないのか!?

 

 

 

 

「……まさかその先遣隊は、襲われている農村を無視して先へ?」

 

 その問いに疾走騎士は諦めたかのように力無く頷いた。

 魔神の復活は世界の危機。それと一つの農村を天秤にかければ、どちらが重いかは歴然。そう、これはいつものことだった……。

 

「その後は……どうされたんですか?」

「それからの事はあまり覚えてません。逃げるようにその村をあとにして、探していた先遣隊も怪物と遭遇し、既に引き返していましたから」

「隊に帰ると、元々自分を疎ましく思っていた彼らは、調査中に受けた損害の責任を全て、任務を放棄した自分に押し付けて……その結果が除隊処分。今に至る……という訳です」

 

 救われない、あまりにも救われない……。

 一体彼が何をしたと言うのだろうか? その答えは誰にも分からない。

 

「自分の身の上話は以上になりますが……どうですか? 納得して頂けたでしょうかね?」

 

 私は監督官へと視線を向ける。

 彼女もこちらを向き、まるで辛い現実を目の当たりにしたかの如く表情を曇らせ……頷いた。

 

 つまり彼が話した出来事は、全て真実だということだ。

 

「はい、貴方の経歴に関してはよく分かりました。ありがとうございます」

 

 であるならば、我々冒険者ギルドが下す結論はたった一つ。

 私は精一杯の笑顔を作り、彼にそれを言い渡す。

 

「では審査は以上となります、特に問題はありませんでしたので、明日には黒曜への昇級となり、その際に認識票もお渡し致します。お疲れ様でした!」

 

 彼は多くの苦難を乗り越え、ここに居る。どれほどの絶望を前にして来たか、想像も出来ない。

 しかし、彼はそれでも前へと進もうとしているのだ。それに対して私達が出来ることは、その背中を押してあげる事なのだろう。

 すると疾走騎士は立ち上がり、私達に向かって一礼。

 そのまま退室するのかと思いきや、彼はゴブリンスレイヤーさんに対して話し掛けた。

 

「ところでゴブリンスレイヤーさん」

「なんだ」

「先程のゴブリン退治に向かった鋼鉄等級の一党、どう思いますか?」

 

 先程の……? あっ、山砦を根城にするゴブリン達に拐われた、村娘の救出依頼のことかな? 彼女達はそれなりにゴブリン退治の経験もあるし、一党としてのバランスも取れている。問題ないと思うのだけれど……。

 

 そう考えていた私に対して、ゴブリンスレイヤーさんが出した結論は真逆といっていい物だった。

 

「……助からんだろうな」

「えっ……そんな! どうしてですか!?」

 

 驚愕と共に私はゴブリンスレイヤーさんに詰め寄り、その見解を求めた。

 

「麓に村があるのなら、もはや拐われた娘も生きてはいまい。次も奪えばいいと奴等は考え、使い捨て、死体を罠に利用されている事だろう。鋼鉄等級……いや、普通の冒険者が見破る事は困難だ」

「も、もしかしたら逃げ切れるかも……」

「奴等は高所の拠点を構えた際には投石紐(スリング)を使う。兜持ちが居ないのは致命的だ」

 

 つまり砦の中へと誘き寄せられた彼女達は、ゴブリン達に囲まれ、石の雨が降る中脱出をしなければならないという事だ。

 ……正に絶望的。彼女達は散々に玩ばれた挙げ句、無惨にも殺される事だろう。

 

「分かりました、ありがとうございます」

 

 ゴブリンスレイヤーへと向かって頭を下げた疾走騎士はそのまま部屋の出口へと向かう。一体どうするつもりなのだろうか?

 

「……行くのか?」

「はい、構いませんよね?」

 

 願ってもない話だ。私が断る理由はない。

 しかし、大丈夫だろうか? 何だかんだ言っても彼はやはり新人の冒険者、誰か他にベテランの冒険者も居れば──。

 

「ゴブリンなら俺も行こう」

 

 ──居た。都合良く私の横に対ゴブリン戦略兵器が座っていた。

 

「は、はい! よろしくお願いします!」

 

 悩んでる暇はない。私が二人に頭を下げてお願いすると、ゴブリンスレイヤーさんは席から立ち上がり、疾走騎士と共に部屋を出ていく。

 それを見送った私は力無く、まさに疲労困憊といった状態で机へと突っ伏した。

 

「うー、こんなに疲れた昇級審査初めて……」

 

 隣に居た監察官はいつも通り飄々とした様子で伸びをしている。

 

「んーっ、ふぅ! まあお疲れお疲れ! でも私も彼みたいなのは初めて見たかな」

「ホントですよ……もう」

 

 ため息をついた私は突っ伏した状態のまま、彼女へ疑問を投げ掛ける。

 

「村を助けた彼の行動は、本当に間違いだったんでしょうか……」

 

 私は納得がいかなかった。

 彼のお陰で村は滅びずに済み、命を救われた者もいるだろう。

 だから本来なら感謝されるべきなのに、彼は責められ、挙げ句の果てには騎士としての道を閉ざされた……。

 ……そんなの、納得いくわけがない。

 

「……さあねぇ、多分それを確かめるために、今も彼はああやって走り続けてるんじゃないのかな?」

「そうかも……しれませんね」

 

 私は再び大きく溜め息を吐く。

 心配の種は増えるばかりだ。

 それを見た監督官はなにやら悪戯な笑みを浮かべている。

 

「おやおや~? 浮気かな~?」

「ちっ違いますっ!! そもそも浮気って何ですか!?」

 

 私は机を両手で叩きながら勢い良く立ち上がった。

 顔が熱くなるのを自身でも感じているのが余計に恥ずかしい……。

 

「ひゃー逃げろー!」

「あっ! もうっ!!」

 

 すると彼女は両手を上げて部屋から退散する。

 私は度々彼女にからかわれており、もはやこういったやり取りはお馴染みのものだ。

 

「でも、一つだけ気になるのよね……」

 

 私が疑問に感じたことはもう一つある。それは彼があまりにも『まともすぎる』ということだ。

 あれほどの目に遭ったというのなら、本来恨み辛みの一つや二つが表面化してもおかしくはないだろう。

 ……ゴブリンに対して並々ならぬ執念を持つ、ゴブリンスレイヤーさんのように。

 

 しかし、彼が恨むとしたら何だろう? 故郷を焼き払った炎? 農村を襲っていたゴブリン? 彼を迫害した騎士達?

 いや、いずれも違うだろう。

 彼の一党である魔術師は、火の魔法を扱っている。

 そしてゴブリンに対しても、特段執着しているようには見えない。

 騎士というものに対しては、寧ろ彼はまだ、憧れのようなものを抱いているように思える。

 

 それならもし、もしも彼が恨むとすればそれは……。

 

 

 

「この世界そのもの……?」

 

 しかし私は頭を横にぶんぶんと振って、その結論を頭から放り出す。

 

「もうっ! 変に勘繰るのは良くないですね! さあ、戻ってお仕事再開しなくっちゃ!」

 

 そう思いながら私は手元の書類を片付け、職務へと戻るのだった。

 

───────────────

 

 

「で、あんたはゴブリンスレイヤーに付いていってたって訳ね」

「はい」

 

 疾走騎士とゴブリンスレイヤーを待つ間、私は女神官の彼女と近況を報告し合っていた。

 彼女には最初こそ苦手意識を持っていたが、初の冒険で共に苦難を乗り越えた事もあり、こうして雑談する程度には仲が良くなる事ができたのだ。

 

「で、どう? 銀等級と一緒なんて楽じゃないでしょ?」

「あはは……まあ、そうですね。そちらはどうですか?」

 

 初め、二人での冒険と言われた時は心踊ったものだが、下水道は臭いうえ、鼠と蟲は気持ち悪いし、その後の手紙配達ではすぐにバテて汗だくになった挙げ句、マンティコアに遭遇……。

 私が思っていた冒険とは違う。言いたいことは山ほどあった。

 しかし実際、下水道は効率よく依頼を消化できるうえ、実績を積むにはもってこいの場所である。

 

 そして何より、マンティコアを仕止めた時は……いや、その後疾走騎士からお礼を言われたことが、私は何よりも嬉しかった。

 

「まあ、ね……でも──」

「でも?」

「自分で決めたから、アイツに付いていくって」

「そう……ですか」

 

 私が笑ってそう言うと、彼女は少し俯いて、考え込んでいる様子だ。

 そこでようやく、昇級審査を終えた疾走騎士とゴブリンスレイヤーが部屋から出て来た。

 

 私と女神官が立ち上がると、私達に気付いた疾走騎士がこちらへ歩いてくる。

 

「お待たせしました」

「遅かったじゃない、何かあったの?」

「ゴブリン退治だ」

 

 ゴブリンスレイヤーがそう答えると、疾走騎士は頷いた。

 彼等の話によれば、先程ゴブリン退治に向かった一党は全滅の危険があり、二人はその救援へと向かうらしい。

 

「死体を罠に……ゴブリンって本っ当にムカつく事ばっかり思い付くわねっ!」

「わ、私も行きます! 放っておけませんからっ!」

 

 やる気になった私達は彼等の後に付いていく事を決める。

 あいつらには仲間を二人もやられて、私も一度殺されかけた。

 やられっぱなしではいられない。これは復讐(リベンジ)なのだ。

 

「これで4人、心強い限りですね。奴等の投石紐(スリング)も、自分と貴女の《聖壁(プロテクション)》があればなんとかなるでしょう」

「……え? 私、ですか?」

 

 疾走騎士の言葉に、なにやら困惑している女神官。

 しかし彼女の様子に気付く事無く、疾走騎士は話を続ける。

 

「では急ぎ準備をして出発しましょう。間に合わなくなるかも知れませんからね」

 

 疾走騎士の言葉に魔術師とゴブリンスレイヤーは頷いて、彼等はギルドの出口へと向かっていく。

 

「あのぅ、私……《聖壁(プロテクション)》は覚えていないんですけど……」

 

 慌てて後を追う女神官の声は、誰にも届くこと無くギルドの喧騒にかき消されてしまうのだった───。

 




Q.白磁として実際に冒険をしてみて、どう思いましたか?

A.最初の冒険では(魔術師ちゃんが刺されるガバをやらかしてしまい)残念でした。ああいった出来事(多少のロス)はよくあることだと、分かってはいたのですが……。

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