【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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パート1 裏 『剣士くんなんですぐ死んでしまうのん?』

「冒険者ギルドへようこそ! どういったご用件でしょうか!」

「冒険者登録がしたいのですが、字が書けないので代筆もお願いします」

「分かりました。では、いくつか質問をさせて頂きますね」

 

 初めてギルドを訪れた彼は、サレットを被り顔が見えず、盾を二つ背負うという異質な風貌でした。

 最初は私も警戒していましたけれど、それもすぐに杞憂である事が分かります。

 礼儀正しく話をしてくれる彼は冒険者としてだけではなく、人として、とても好印象だったんです。

 

「職業は疾走騎士……ですか」

「残念ながら、没落してしまいましたけどね」

 

 そう言いながら苦笑いしている様子の彼。

 ……といってもそのサレットで顔はみえないですね。

 成る程、彼も訳ありの一人ということなのでしょう。

 

「はい、ではこれが冒険者ギルドでの身分証となります。冒険の最中に何かあった時に身元を照合するのにも使いますから、無くさないでくださいね」

「了解です」

 

 癖なのだろうか? 手渡すなり素早く首に身分証をかける彼は、動作がとても素早かった。 

 いや、そんなことはどうでもいいか。

 

「依頼はあちらの掲示板に貼り出されています。等級に見合った物を選ぶのが基本です。決まりましたら受付にいらしてください」

「ありがとうございました。また後で伺います」

 

 彼はそう言って頭を下げて、掲示板へと向かっていきました。

 ああいう素直な冒険者はこちらとしてもやりやすいですね。

 あのサレットと盾のせいで見た目がとても怪しいのは玉に瑕ですけど……。

 

「次にお待ちの方どうぞー!」

 

 出来れば彼にも生き残って欲しいなあ。そう思いながら私は再び職務へと戻りました──。

 

───────────────────────

 

「すみません、貴女も新人の方ですか?」

「え、はい。そうですけど……」

 

 冒険者登録を終えた私は直後、兜を被った兵士のような人に声を掛けられた。

 最初は軍の人かと思ったけれど、どうやら違うみたい……。

 

「こちらもつい先程冒険者になったばかりなんですよ。自分は疾走騎士。同期として、よろしくお願いします」

「あっ、はい! 私は神官です! こちらこそよろしくお願いします!」

 

 頭を下げて挨拶をしあう。とても礼儀正しい人だ。

 冒険者と言ったら怖そうな人も多いイメージだけど、こんな人も居るんだなあ……。

 

「いざ冒険者になったは良いものの、どの依頼を受けるべきか悩んでいるんですよ。最初はあまり危険な依頼は避けたいですからね」

 

 疾走騎士さんが眺めている掲示板を見上げると、様々な討伐依頼が貼られている。多分そのどれもが恐ろしい怪物なのだろう……。

 

「確かに、私達まだ冒険については右も左もわからないですからね……」

「なので初めはベテランの人に先導してもらうか、あるいは大人数でと考えていたんですけど──」

「なあ! 君たち新人だろ?」

 

 突然声をかけられ、私と疾走騎士さんが振り向く。

 そこに居たのは剣士の青年と、武闘家の少女に、そして魔術師の少女という構成の一党。

 どうやら私達と同じく駆け出しのようだ。

 

「はい、そうですが……」

「あなた方は?」

「俺の一党に来てくれないか? 急ぎの依頼があるんだ!」

 

 青年剣士の言葉に、疾走騎士は頷いた。

 

「丁度いいですね。貴女はどうしますか?」

 

 そう言って私の方を見る彼。

 確かにこのまま一人で居るよりは、この人達についていく方が良いかもしれない。

 

「じゃあ……私もよろしくお願いします」

「決まりですね。それで、急ぎの依頼とは?」

「ゴブリン退治さ!!」

 

 でもその結果、あんな事になるなんて……私はこの時、考えもしていなかった──……。

 

───────────────────────

 

 退路の確保の為と言い、隊列の最後尾に位置した疾走騎士。冒険を始めてからの彼の姿勢は、慎重の一言に尽きた。

 警戒を強めながら進む彼に対し、一刻も早く拐われた村娘を助けたい一党。

 ゴブリン退治にそこまでの警戒は必要ないだろうと他の皆は言うが、それでも彼はその姿勢を崩さない。

 

「ゴブリン退治なんて一~二回こなして新人卒業! ってのがセオリーだろ? 心配無いって! な!」

「騎士なんて言ってもただの臆病者ね」

「ち、ちょっと! それは流石に言い過ぎじゃない?」

「そうでないと、盾を二つも持ちませんよ」

「お、臆病なのは否定しないんですね……」

 

 自信満々な様子で盾を二つ両手に構える疾走騎士と、苦笑いを浮かべる女神官。

 マイペースを崩さない疾走騎士に対し苛立ちを感じながらも、一党はゴブリンの居る洞窟の奥へと進んでいく。

 彼のその慎重さが、決して間違いではないのだとも知らずに……。

 

───────────────

 

 私は賢者の学院を優秀な成績で卒業した魔術師だ。

 賢者の学院とは、都にある魔術師の育成機関で、卒業した者は大成間違い無しと言われている。

 そんな学院を優秀な成績で卒業した私は、自らの優秀さをより多くの人に知らしめる為に冒険者となった。

 始めての冒険となったこのゴブリン退治も、私にとってはただの通過点に過ぎないだろう。

 ……そんな当初の予想とは裏腹に、私達の冒険は、徐々に雲行きが怪しくなってきていた。

 

「全く、後衛を置いていくなんて何を考えてるのよあいつら」

「し、仕方ないですよ。拐われた人を一刻も早く助けてあげないといけませんから……」

 

 巣穴らしき洞窟へ入ってからというもの、剣士と武闘家の二人が先行し過ぎるせいで、隊列が乱れてきている。

 二人の姿はこちらから殆ど見えなくなっていた。

 

「アイツはアイツでマイペースよね……まあお陰で楽だけど」

 

 冷静に考えてみればあの疾走騎士は、私達後衛が進むペースに合わせた上で、可能な限りの警戒を行っていたように思える。

 もし私達二人だけで前衛に置いていかれていたら、松明の光も届かないなか、急いで追いかける必要があった。

 壁役が側に居るというのは、後衛にとってそれほどに安心感を与えるという事なのだろう。

 

 ──彼はそこまで考えていたのかしら? だとすれば、何だかんだ二人を加えて正解だったかも……あれ?

 

「……これ、横穴?」

 

 洞窟に入る前に疾走騎士から渡された松明が、剣士と武闘家の二人が進んでいった道とは別の横穴を照らしていた。

 

「下がれっ! ゴブリンだ!」

「えっ──きゃっ!」

「GOBURR!?」

 

 叫んだ疾走騎士が、いつの間にか私の眼前まで迫って来ていたゴブリンを盾で弾き飛ばす。

 吹っ飛んだゴブリンは何度か跳ねた後、地面に転がってそのまま仰向けになり、動かなくなった。

 顔面からぶち当てたのだろう。鼻が完全に折れ曲がっていた。

 

「大丈夫ですか!?」

「な、なんなのよ一体……」

 

 ゴブリンに驚き尻餅をついた私に対し、女神官が心配そうに駆け寄って来る。

 私は先ほどのゴブリンを見ると、その手には短剣が握られていた。

 あのまま疾走騎士が割って入らなければ私は間違いなくアレで刺されていただろう。

 全くもって理解が追い付かない。

 まさか、待ち伏せされていたというの?

 

「まだ来ます! 二人はそのまま下がっていてください!」

「くっ!」

「わ、分かりました!」

 

 彼は本来防具である筈の盾を武器として駆使していた。

 ゴブリンごと壁に叩きつけ、あるいは盾の縁でゴブリンを斬り裂き、横穴から出てくるゴブリン達を次々と倒していく。

 その姿は凡そ新人には見えない戦いぶりだった。

 

「剣を振り回さないで! 一緒に戦えない!」

「こいつらは俺が倒してやる!」

 

 そんな時に聞こえてきたのは、剣士と武闘家の声だった。

 暗くてよく見えないが、恐らく前方でゴブリン達と戦っているのだろう。

 ……しかし、どうにも様子がおかしい。

 だが、こちらも手一杯な上に距離がある。彼等と合流しようにも疾走騎士から離れれば襲われる可能性が高い。

 向こうが退いて来てくれなくてはどうしようもないのだ。

 

「疾走騎士さん! あの二人が!」

「分かっていますがこちらも手が離せません! くっ、何故二人とも退いてこない!?」

 

 何故? それは私には、すぐに理解できた。

 

 

 

 

『ゴブリンなんかに負ける筈がない』

 

 

 

 

 そう、この油断があの二人から撤退という選択肢を除外し、今の状況を産み出しているのだ。

 ……そして、突如鳴り響いた鈍い金属音によって、状況は更に悪化する事となる。

 

「あっ……あああ! がああああああ!!」

 

 剣士の叫び声が聞こえる。そして固い物を叩く音が何度も何度も響き、徐々に濡れた柔らかい物を叩く音へと変わっていく。

 

「いやああああああ!!!!」

 

 次に武闘家の悲鳴。しかしそれは、先程とは違う種の悲鳴。

 そしてその悲鳴は何時までも止まない。

 私はこの暗闇の先で、何が起こっているのかが容易に想像出来てしまった。

 

「嘘……」

「そ、そ……んな……」

 

 血の気が引いて、体が震える。

 私達二人もああなってしまうのだろうか? そんな絶望が脳裏によぎる。

 するとそんな私達二人に見かねたのか、疾走騎士は無慈悲な選択を下した。

 

「……一旦退く。殿は自分が」

「で、でも……」

「このままでは全滅だっ!! いいから退けっ!!」

 

 私達を叱責するように、彼は声を荒げて叫んだ。

 横穴からはまだゴブリンが這い出てきている上に、正面の二人がやられた事で、前方からもゴブリンの群れが向かってくるだろう。

 私達だけではとても持ちこたえられない……。

 

「っ! ごめんなさい!」

 

 そう言って神官の子が外へ走り出す。私もそれについていこうとした、その瞬間──。

 

 

 

 ──ドスッ!

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 先程まで倒れていた鼻の折れたゴブリンが、私の腹を短剣で貫いたのだ。

 

──────────────────

 

「あ゛っ!! ぐっ!!」

「あぁ! そんなっ!」

 

 女神官の目の前で魔術師の腹部を刺したゴブリンは、短剣を抜いた後、そのまま彼女を押し倒し、衣服を引き裂いた。

 そして下卑た薄ら笑いを浮かべ、露になった胸へと手を伸ばす──。

 

「うおぉっ!」

 

 が、その瞬間、ゴブリンは駆け付けた疾走騎士の盾によって横から叩き付けられる。

 そのゴブリンは頭蓋が砕かれ、絶命しながら転がっていった。

 

「次から次へと!」

 

 しかし前方からは次々とゴブリン達が迫って来ていた。

 疾走騎士は直ぐ様前へ出て、迎撃を続ける。

 

「あ……うぐ……!」

 

 腹部を刺され、痛みに悶える魔術師。

 女神官は急ぎ、倒れた魔術師に駆け寄る。

 出血の量からして傷はそこまで深くない。急いで治療すれば間に合うはずだと彼女は考えた。

 

「だ、大丈夫です! 傷は治せますよ! 癒やしの奇跡を──」

「待つんだ!」

 

 しかし魔術師に治療を施そうとした女神官を疾走騎士が止める。一体何故?

 

「出発前に受付から聞いた! ゴブリンは武器に毒を仕込む! その短剣は毒だ! まずは解毒が必要だ!」

 

 そう、毒を取り除かなければ治療は意味を成さない。女神官には彼女を助ける事は出来ないのだ。

 

「そ、そんな! 私には解毒薬も解毒の奇跡も……!」

 

 それでは魔術師は助からないのだろうか? ……いや、どうやら今回は運が良い。

 何故ならそこに《解毒(キュア)》を使える者が居るからだ。

 

「解毒の奇跡なら地母神から授かっている! しかしこいつらの相手で手が放せない! 十秒……いや五秒でいい! 隙を作れるか!?」

 

 ──解毒の奇跡? この人も地母神の信徒? いや、今はそれを考えている暇はない。とにかく今すぐにやらないと彼女が死んでしまう。そう考えた女神官は立ち上がり、錫杖を強く握りしめた。

 

「わ、分かりました!」

「頼む!」

 

 疾走騎士は眼前のゴブリンをシールドバッシュで四匹程巻き込みながら弾き飛ばし、直ぐ様倒れた魔術師に駆け寄って膝をついて奇跡の詠唱を始めた。

 

「《いと慈悲深き地母神よ、どうかこの者より病毒をお清め下さい》」

「GORRB!!」

 

 しかし、尚もゴブリンの群れが迫る。

 だがそこへ、女神官が覚悟を決めた表情で立ち塞がった。

 

 ──怖い。逃げたい。でも背後には守るべき仲間が居る。私がやるしかない!

 

「《いと慈悲深き地母神よ、闇に迷えるわたしどもに聖なる光をお恵みください》……《聖光(ホーリーライト)》!」

「GOB!?」

 

 突然の発光に目が眩んだゴブリン達は怯み、隙だらけとなる。

 

「《解毒(キュア)》」

 

 そして、疾走騎士も奇跡を行使に成功した。

 

「終わった! 急ぎ彼女の治療を!」

「は、はい!!」

 

 疾走騎士は突撃し、目を抑えて混乱しているゴブリン達に対し、盾を振り下ろして一匹ずつ叩き潰していった。

 そして、この隙に治療をする為に、女神官は癒しの奇蹟を魔術師へと行使する。

 

「《小癒(ヒール)》!」

 

 出血が止まり、傷が目に見えて癒えていく。なんとか治療は出来たようだ。

 苦しんでいた魔術師の表情が、ようやく穏やかなものへと変わる。

 しかし状況は依然として悪いまま。急ぎこの場を離れなければ……そう考えた瞬間だった。

 

「成る程。変わった戦い方だ」

 

 銀の認識票を身に付けた冒険者がそこには居た。

 彼は視力が戻りつつあるゴブリン達の下へ駆けると、剣で片っ端から切り裂いていく。

 

 そうして、彼等はその場に居たゴブリンを全て片付けた。

 一段落ついた後、疾走騎士が問いかける。

 

「銀の認識票……貴方は?」

小鬼を殺すもの(ゴブリンスレイヤー)だ」

 

 神官にゴブリンの血を塗りたくりながら、男はそう答えるのだった。




Q.もはや音ゲーなんですがクォレハ……。

A.音ゲーと化したチャンバラ死にゲーもあるし、まあ多少はね?

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