【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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パート8 裏 前編 『籠城戦』

 鋼鉄等級の一党を救うべく山中の道を進み続けた疾走騎士達。

 彼らは移動の末、ようやく目的地の山砦へと到着した。

 

 しかし急いでいた事もあり、魔術師と女神官の二人は完全に息が上がってしまっているようだ。

 見かねた疾走騎士が彼女達に声を掛ける。

 

「大丈夫ですか?」

「まあ、昨日に比べれば……ね」

「私も大丈夫です。一刻も早くあの人たちを助けないと……!」

 

 それでも二人はやる気十分といった様子だ。

 目の前に助けられる命があるのだから尚更だろう。

 

「……足跡だ。もう中に入ったようだな」

 

 するとゴブリンスレイヤーが山砦の中へと続いている足跡を発見。

 見たところ恐らく四人分。跡が比較的新しい事からも、依頼を受けた彼女達の物と見て、間違いはなさそうだ。

 

「それにしては静かですね。ゴブリンはまだ彼女達に気付いていないのでしょうか」

「な、なら早く行きましょう! まだ間に合います!」

「待ってください。体力の回復も兼ねて、先ずは作戦を立てなければ」

 

 疾走騎士は女神官と魔術師の疲労を気遣っているようだった。

 そして、たった一つの選択肢が最悪の結果を生み出す事もある。

 だからこそ焦ってはいけない……と、まるで自らを戒めるかのように、彼は言う。

 

「自分が行うべき事を予めちゃーんと決めておけば、自分自身を守ることにも繋がりますからね」

 

 疾走騎士の言葉に、女神官は初めてゴブリン退治で失ってしまった二人の仲間を思い出す。

 あの時の自分達はろくに準備もせず、それどころかお互いに連携すら取ろうともしなかった。

 あれはある種、必然と言われても仕方のない結果だったのだろう。決して同じことを繰り返す訳にはいかない……。

 

「そう、ですね。すみません」

 

 女神官は手に持った錫杖を強く握り締め、顔を伏せる。

 

「で、今回の指示は? 私に出来ることならなんでもするわよ」

「えっ!?」

 

 疾走騎士の横から肘でつつく魔術師。

 前回のマンティコア討伐で少し自信を取り戻した彼女は、疾走騎士からの指示を心待ちにしているようだ。

 

 なお、彼女が『なんでもする』と口にした瞬間、隣で俯いていた女神官は、バッと向けた顔を赤くしていた。

 無論、魔術師の言う『なんでもする』には、彼女が考えているような意味は一切含まれていないのだが……──。

 

「今回は《分影(セルフビジョン)》、そして《火矢(ファイアボルト)》、この両方を行使してもらう事になるでしょう。タイミングはまた自分が指示しますので、よろしくお願いします」

「それぞれ一回ずつって事ね。うん、わかったわ」

 

 疾走騎士の言葉を聞き、魔術師は手を顎に当てて頷いた。

 

「隊列は自分とゴブリンスレイヤーさんが前衛。あとのお二人は後ろから。これは当然ですね」

「後衛が投石紐(スリング)の的になるが……どうする」

 

 前衛が二人居たとしても、上からの攻撃に対処することは不可能だ。

 そんなゴブリンスレイヤーの指摘に、疾走騎士が答える。

 

「それでしたら《聖壁(プロテクション)》があります。自分と彼女の二人で交代して行えば問題は──」

「あのっ! ですから私はっ……! 《聖壁(プロテクション)》は賜っていないんですってば!」

「…………ふぁっ?」

 

 頬を膨らませプリプリと怒る女神官。

 それ対し、疾走騎士は暫しの硬直。

 周りがどうしたのだろうかと不審に思っていると……。

 

「えぇ……」

 

 ──困惑を隠しきれないような声を上げる。

 しかしすぐ小さくため息をついた後、咳払いをして気を取り直し、再び話し始めた。

 

「ん、んんっ! 失礼。ちょっとした勘違いです」

「もう、しっかりしてよ。アンタにちゃんとしてもらわないと困るんだから」

 

 呆れるような魔術師の言葉に対し、疾走騎士は努めて普段通りの状態を取り繕う。

 

「すみません、もう問題は無いので大丈夫ですよ」

「ほんとぉ?」

 

 それでも魔術師はジトっとした視線を疾走騎士へ向けている──が、しかしその瞬間、山砦の奥から何か重い物がぶつかったかのような、大きな音が鳴り響いた。

 

「今の音は!?」

「ゴブリンの鳴子だ。やはり罠を見過ごしたか」

 

 今の音でゴブリン達は目覚めたはずだ。彼女達がやられてしまうのは時間の問題だろう。

 

「《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らをどうか大地の御力でお守りください》」

「《聖壁(プロテクション)》」

 

 すると疾走騎士が魔術師の杖の先端に《聖壁(プロテクション)》を設置する。

 巨大な円盤のように広がったそれは、まるで巨大な傘だ。

 

「……成る程、使えるな」

「これってマンティコアを押し潰してた奇跡よね? 大丈夫? 今度は私達が潰されたりしない?」

「えっ、なんですかそれ怖い」

「大丈夫ですよ、安心してください。平気平気、平気ですから」

 

 魔術師の言うことは間違っていないのだが、それは決して本来の使い道ではない。

 横に居た敬虔な地母神の信徒である女神官は、慈悲深い地母神様の奇跡をそんな事に使うなんて……と、完全にドン引きしているようだ。

 

「これで投石紐(スリング)による攻撃は防げます。では、行きましょう」

 

 疾走騎士の言葉に三人が頷き、彼らは山砦の中へと走り出した。

 

 

───────────────

 

 

 私のせいだ。私のせいでこんな事に……。

 

 

 鋼鉄等級一党の野伏である圃人は、心の中で己の失敗を責め続けていた。

 

 寝ているゴブリン達に気付かれないよう、罠を一つ一つ解除し、順調に進んでいた冒険が一転して絶体絶命。

 

 その原因は自身のミス。救出目標である村娘を発見した、そこまでは良かった。

 しかしその娘は既に事切れており、死体そのものが罠へと繋がれていたのだ。

 

 

 そしてそれに気付かず救助しようとした圃人野伏は、罠を起動させてしまった。

 

「囲まれないように! 私がしんがりを務めます!」

 

 撤退を試みる一党を追ってくるゴブリン達を、リーダーである自由騎士が斬り捨てる。

 圃人野伏は退路を確保するために先頭に立った。

 

「どうしてっ……こんなことにっ……!!」

 

 溢れそうになる涙を堪え、歯を食い縛りながら迫り来るゴブリンに向かって矢を放つ。

 1匹、また1匹とゴブリンを倒すが、しかし、それ以上の数のゴブリン達が次々と押し寄せてくる。

 

「もう矢が少ししかない!!」

「こっちも今撃った《火矢(ファイアボルト)》で最後だ!!」

「か、数が多すぎますっ!」

「くっ……ゴブリンめっ! 卑劣な!!」

 

 それでも決して希望を捨てず、彼女達は必死で戦った。

 しかし──。

 

「がはっ……!!」

 

 ──頭目である自由騎士が、死角から飛んできた石を頭に受け……倒れた。

 

「リーダー!!?」

 

 彼女は気絶してしまったのか呼び掛けにも答えない。

 それを見たゴブリン達はゲタゲタと笑いながら、なおも迫ってくる。

 彼女達の思考が絶望へと染まっていく。

 ゴブリンに捕まった女がどうなるかは彼女達もよく知っていた。

 だからこそ一党は、この依頼を受けたのだから。

 ……しかし、その順番が自分達にまわってくるとは想像もしていなかった。

 

「い、いやだ……くるなよぉ……」

 

 自らの運命を悟り、体が震え、涙が頬を伝う。

 恐怖で身を寄せ合う彼女達の目前までゴブリンが迫ってきて──その時だった。

 

「GOB!?」

 

 一匹のゴブリンが、どこからか飛んできた別のゴブリンに弾き飛ばされる。

 その飛んできたゴブリンは、腹を貫かれ既に死んでいた。

 

 一体何が……そう思っていると、その場に居たゴブリン達が全員ある一定の方向を見ている事に気付き、一党もまたその方を見た。

 

 

 

 

「そいつで28匹目……」

 

 

 

 

 まるで一切の感情が抜けきっているかのような声。

 

 そこには平凡な鎧兜を身に付けた一人の男が居た。

 鋼鉄等級である彼女達の方がまだ上等な装備だろう。

 ……しかし、何よりも目を引いたのは彼が両手に盾を持っているということ。

 

 ゴブリンの血にまみれたその男は、このゴブリン達にとっての絶望。そして彼女達にとっての希望。そんな相反する物が混ざり合う……混沌のように思えた。

 

 

「恐れるな、死ぬ時間が来ただけだ……」

 

 

 男は一党を包囲するゴブリンの群れへと疾走する。

 言葉の意味は分からずとも、それが自分達の死を暗示しているものだと理解してしまったのだろうか、突然のイレギュラーの乱入にゴブリン達は混乱状態に陥った。

 統率者が居ないゴブリン達は成す術もなく、一匹、また一匹と、あの男の手によって斬り裂かれていく。

 どうやらゴブリンに対して振るわれているあの盾は、縁が研いであるらしい。

 

「冒険者……! い、行きましょう!!」

「そっちを抱えてくれっ! 援護を頼む!」

「わ、分かった!」

 

 彼が味方であると認識した女僧侶と森人魔術師の二人は、昏倒した自由騎士を抱えて走った。

 混乱していたゴブリン達も、獲物が逃げ出した事に気付き彼女達を追うが、圃人野伏の放った矢がそれを阻む。

 

 生き残れるかもしれない。帰れるかもしれない。

 そんな希望を胸に、彼の下へと向かう。

 

 飛び掛かって来たゴブリンを、矢が尽きた圃人野伏が弓で殴りつけ、ようやく彼との合流を果たす。

 

「あの曲がり角の隅へ。死角を減らせます」

「し、しかしそれでは逃げ道が……」

「直に救援が来ます。うち一人は銀等級。それまでの間、時間を稼ぎます」

「救援……! 分かった! すまない!」

 

 男は彼女達の背後から押し寄せるゴブリン達を相手取りながら、淡々と指示を出した。

 彼の背後にある隙間に身を寄せると、彼はその前に仁王立ち、ゴブリン達を通すまいと立ちはだかる。

 一匹のゴブリンが来れば片側の盾を叩き付け、二匹のゴブリンが来れば両の盾を叩き付け、三匹以上のゴブリンが来れば盾の刃で薙ぎ払う。

 度々ゴブリンの投石紐(スリング)によって、石弾が背後の彼女達へ対し投げ撃たれている……が、それもまた彼が持つ盾によって弾かれていた。

 その様相はもはや正面から崩す事が不可能なほど堅牢な城壁。ゴブリン達がもたらす絶望的な結末など、もはや入り込む余地はなかった。

 

「助かる……のかな。私達」

「この方、初めて見ます。都から来たのでしょうか?」

「白磁だ……」

「えっ?」

「この男、白磁だ」

 

 森人魔術師は先程すれ違い様に、彼の首に掛かった認識票を見ていた。

 その色は白。彼女は信じられなかった。

 まるで歴戦の兵が如く戦っている目の前の男が、新人の冒険者だと、認識票が証明しているのだから。

 

「じゃあ新米ってこと!?」

「いや、降格した冒険者……という線もある」

「つまり、悪い人という事ですか?」

 

 不正や犯罪行為に手を染めた冒険者が白磁へと降格されるケースは聞いたことがあった。

 この男がそうだと決まった訳ではないが、それでも警戒してしまうのが冒険者としての性だろう。

 

「だとすれば、見返りに何を要求されるか分からんぞ……」

「で、でもさ! 銀等級が来るって言ってたよ!? 信用できる冒険者って事でしょ? そんな人と一緒に居るのなら大丈夫なんじゃないの?」

「む、それは確かに……」

「もう! 助けてくれた人を疑うのは良くありませんよ!」

「わ、分かった分かった!」

 

 怒る女僧侶をどうどうと宥める森人魔術師。

 そこで圃人野伏が辺りに散らばっている石ころに気付いた。

 先程、彼が盾で防いだものだ。

 

「でもどっちにしろさ、このまま白磁に守られてるのって……カッコ悪いよね?」

 

 圃人野伏はそれをいくつか拾い上げ、森人魔術師と女僧侶に手渡した。

 

「ん? ……あぁ、成る程。それは確かに同感だな」

「えっ? どうするんですかこれ……?」

 

 森人魔術師はそれを受け取ると不敵な笑みを浮かべ、女僧侶は渡された石の意図が分からず頭を傾げる。

 

「こうするの……さっ!」

 

 すると圃人野伏が低い体勢を維持したまま石を投げ、それが一匹のゴブリンの頭へと命中。地に倒れ伏した。

 

 

「もう許さないからね!!」

 

 

 こうして反撃の烽火は上げられ、彼女達の籠城戦が始まった。

 

 




Q.終いにゃ終いにゃガバプレイ……!! オリチャーという名のガバプレイ……!!

A.やめやめろ!!

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