【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート 作:もふもふ尻尾
「二十……二十一……」
ゴブリンスレイヤーは山砦の中を進みながら、既に道中に倒れていたゴブリンに対し、順繰りに剣を突き立てていく。
死んでいるならば良し、生きていたならこれで死ぬ。
彼が行っているのはただの確認作業だ。
「あの、ゴブリンスレイヤーさん。良いんですか? 疾走騎士さん、行っちゃいましたけれど……」
山砦に乗り込んだ一党だったが、今この場に疾走騎士の姿はない。
彼はゴブリンスレイヤーが確認作業を行い始めたのを見るや否や、一人で走りだして行ってしまった。
今ゴブリンスレイヤーが突き刺しているゴブリン達は、先行した疾走騎士が倒したものだろう。
「あぁ、俺達の役割は退路の障害を全て排除しておく事だ」
ゴブリンスレイヤーは突き刺した剣を引き抜かずそのまま放置し、ゴブリンが持っていた槍を拾い上げ、再び歩き出す。
「え……退路って事は、一度撤退するんですか?」
「この巣に棲むゴブリン共を全て直接倒すつもりはない。この山砦ごと、纏めて焼き払う」
「えぇっ!? そんなの目茶苦茶ですよ!」
「あの男もそのつもりだったようだが?」
そう言ってゴブリンスレイヤーが後ろの魔術師を見ると、彼女は小さくため息をついた。
「まあ、多分そういう事なんだろうとは思ってたけれど……」
魔術師が疾走騎士から受けた指示は《
つまり《
「その《
追ってくるゴブリン達を《
「俺でも同じような事をするだろう。ただあの男の場合は……一度似たような経験をしたのかも知れん」
「え、それってどういう……!」
そこへ突然、物陰に潜んでいたゴブリンが短剣を手に飛び出してくる。
それに気付いた魔術師が杖を突き出すと、不可視の壁がゴブリンを阻み、衝突。
後ろへと転がったゴブリンの心臓を、ゴブリンスレイヤーが槍で一突きにした。
「二十二……撤退の際にこういう事があっては困るからな」
大人数であればあるほど撤退の際には多くの危険が伴い、故にしんがりという役目を負う者が必要になってくる。
しかし、先に逃げた者達が待ち伏せを受ければどうなるか?
当然挟み撃ちという圧倒的不利な状況を強いられる事となるだろう。
故にゴブリンスレイヤーは迅速に撤退が行えるよう、道中のゴブリン達を殲滅しながら進んで行っているのだ。
「まだ居る筈だ。一匹たりとも見逃さずに進むぞ」
女神官と魔術師は頷いて、ゴブリンスレイヤーの背後からついていく。
その後も倒れて動かないゴブリンを見付ける度に確認作業を行い、進み続けた。
途中
《
放たれた矢は
「三十五……居たぞ」
「思った以上に大丈夫そうね。まあアイツの事だから問題ないとは思ってたけれど」
そして尚も進んだ先、遂にゴブリンの群れと相対する疾走騎士を発見。
その背後には四人の冒険者達。
しかしそのうち一人は気を失っているのか横に寝かされ動く気配がない。
「俺が注意を引く。奴等の視線が集まったら《
「はいっ!」
女神官は自らの錫杖を握りしめ、力強く返事をした。
────────────────────
「ねぇ……救援って、まだ時間かかりそうなのかな」
鋼鉄等級一党である彼女達の籠城戦は、既に膠着状態へと持ち込まれていた。
「さあな。そもそも本当に救援が来るのだろうか?」
何せゴブリン達がどう攻めようとも、二つの盾を持ったあの男を突破する事が出来ないのだ。
既に男の前にはゴブリン達の死体が山になって積み重ねられている。
「き、来ますよ! 私達を守ってくれてる人の言葉を信じないんですか!?」
ゴブリン達は目の前の獲物へ手が出せないこの状況に、焦りを感じていた。
しかし、彼等は馬鹿だが間抜けではない。
この盾持ちに向かって行ったとしても、あの死体の山が更に積み上げられるだけなのだという事も既に理解している。
だから今もゴブリン同士で、お前が行け──、いやお前が──、そんな言い争いをしているのだろう。
故に安全な場所からの攻撃、つまり
「まっ! アタシは信じてるけどねっ! ……くぅ~外れた!」
「わ、私は単に最悪の事態を想定しているだけだ! ……よし! 当たった!」
「もう、さっきまでの緊張感はどうしたんですか? ……えいっ! ……あ、あれ?」
それも彼女達へ攻撃手段を与えているだけなのだ。
盾で防がれ、地に落ちた石を彼女達が投げ返し、ゴブリン側だけが被害を受けている。
……そこへ突然、ゴブリンの絶叫が響き渡った。
「な、なに!?」
「救援です」
男がそう言うと、ゴブリン達の向こう側に三人の冒険者の姿が見える。
「三十六……」
そのうちの一人、薄汚れた鎧兜を身に纏った冒険者は倒れたゴブリンの股間を踏み潰していた。
成る程あれは痛そうだ。絶叫するのも仕方のない事だろう。
「砦の外まで走り抜けます。準備をしてください」
「わ、分かった!」
先程の絶叫を聞いたゴブリン達は全員が向こう側を見ている。
その隙に森人魔術師と女僧侶の二人は自由騎士の両肩を抱えて立ち上がった。
すると眩い光が辺りを真っ白に照らす。
「走れっ!」
それを合図に男が走り出し、鋼鉄等級一党の彼女達もその後に続いた。
────────────────
「GOBROOO!!!?!?」
「うっわ、痛そう……」
疾走騎士達と睨み合いを続けていたゴブリンの群れ。
ゴブリンスレイヤーはそこから離れていた一匹を見付けて忍び寄り、槍を突き刺しそのまま押し倒すと、もがくゴブリンの股間を思い切り踏み潰した。
その場に居た魔術師と女神官は顔をしかめると同時に、絶叫を聞いたゴブリン達が何事かとこちらへ振り向く。
「やれ」
「は、はい!」
「《いと慈悲深き地母神よ、闇に迷えるわたしどもに聖なる光をお恵みください》……!」
「《
辺りに閃光が広がり、ゴブリン達の視界を奪う。
するとその直後、疾走騎士が盾でゴブリン達を薙ぎ払いながら道を作り出し、包囲網の一点を突破して来た。
「疾走騎士!」
「《
こちらへと走りながら指示を出す疾走騎士。それに魔術師は頷き、呪文の詠唱を始めた。
「《
「《
魔術師の魔法により、ゴブリン達の前へ五つの分影が生み出された。
「これで時間稼ぎになる……! 全員砦の外へ!」
それを置き去りにする形で、全員が山砦の出口へと向かって駆ける。
「では諸君、さらばだー!」
「おぉい! お前もリーダーを運ぶのを手伝え!」
「け、結構重いんですよ!? 鎧のせいですけど……」
「あぁっ! ご、ゴメンゴメン!」
仰向けに寝た自由騎士の両足を圃人野伏が両脇に抱え、その後ろで両肩を森人魔術師と女僧侶が支える形を取り、疾走騎士達の後に続く。
そしてじきにゴブリン達の視界が戻り、先程まで居た冒険者達の姿を探そうとする……が、その顔はすぐに醜悪な笑みへと変わった。
目の前には女の姿が五つ。それも衣服の上からでも分かる程に、極上の肉付きをしている人間の女である。
彼等は自らの欲望を満たすため、何も考えずに飛び掛かった。
「GOB!?」
しかし、目の前の女に手を伸ばし、触れた瞬間、その姿が霧散した。
勢いのまま地面に顔を打ち付けたゴブリン達は、何が起こったのか理解できず辺りを見回している。
すると既に遥か遠く、山砦の出口へと走る冒険者の姿が見えた。
騙された。それだけを理解したゴブリン達は怒りの声を上げながら、逃げる冒険者達へと走り出す。
「うわ! 追ってきたよ!?」
「大丈夫です、ここから抜け出せさえすれば……!」
圃人野伏が叫ぶが、ゴブリン達がすぐそこまで迫って来ていたものの、そこでようやく全員山砦から抜け出す事に成功。
疾走騎士がすかさず魔術師に指示を出す。
「その杖で奴等が出られないように塞いで下さい!」
「えぇ!」
そしてすぐさま、魔術師が杖に設置された《
ゴブリン達が杖を持つ魔術師目掛け襲いかかるも、その全てが不可視の壁に衝突し跳ね返るように後ろへと転倒。
そしてゴブリンがいくらぶつかってこようとも、魔術師が押される事はない。それが地母神がもたらす奇跡の力なのだ。
「ゴブリンスレイヤーさん、お願いします!」
「……良いだろう」
疾走騎士の言葉を聞いたゴブリンスレイヤーは、瓶をポーチから取り出すとゴブリン目掛け投げつける。
割れた瓶の中に入った
自らに被せられた液体の悪臭に狼狽えながら、ゴブリンは尚も《
「終わりです。奴等に《
そして、疾走騎士の死刑宣告が言い渡された。
「《
魔術師の《
何が起こったのか分からず彼等は狂ったように走り回り、その火を消そうとするが……それは寧ろ逆効果。
自らの火が辺りへと燃え移り、更に火の手は広がっていく。
そうして《
「っ……ハッ! ゴブリンっ……?」
疾走騎士達がゴブリンを燃やしていた後方では、女神官が自由騎士に《
しかし彼女は状況を把握できていない様子で辺りを見渡している。
「リーダー! この人達が救援に来てくれたんだよ!」
そこへ彼女の一党のメンバー達が駆け寄り、圃人野伏が事の顛末を説明した。
「そう……でしたか。危ない所を有り難う御座いました……」
自由騎士はまだ痛むのか、頭を手で押さえながら、疾走騎士達に礼を述べた。
「話が済んだら言え。見逃した脱出路がないか探す」
他にも砦を飛び降りたり、死に物狂いで穴を掘ったり、そうやって生き残るゴブリンが居るかもしれない。
ゴブリンスレイヤーがそう告げると、自由騎士が立ち上がる。
「私達も協力します。助けて頂いたのですからそれくらいは!」
彼女は自らの義憤を露にしながら申し出ると、ゴブリンスレイヤーと共にゴブリンの生き残りを始末しに向かった。
そして事を終え、戻ってくる彼等を見た疾走騎士が《
これで……全てが終わった。
鋼鉄等級一党の全員が無事にゴブリンの魔の手から逃れ、ここに居る。
彼女達に絶望的結末が訪れる事は終ぞなかった。
しかし……。
「え……疾走騎士! ちょっと大丈夫!?」
──疾走騎士はそこで糸が切れたかのように倒れてしまう。
「どうしたんですか!?」
魔術師が彼に駆け寄り、鋼鉄等級の一党も慌てて彼の下へと走った。
女神官が疾走騎士の容態を確認するが、どうやら怪我をしている訳でもなく、呼吸も安定しているとの事だ。
「お、恐らく精神力を使い果たしたんだと思います。奇跡をあれだけ使い続ければ無理もないかと……」
本来奇跡の発動は、祈りを捧げるために多大な精神力を消耗する。
彼は長時間に及び奇跡を発動したまま、更にゴブリンとの戦闘までこなしていたのだ。
それを意識を失うまで……或いは、既に限界を迎えていたのかもしれない。何れにせよ、まともでは出来ない事だと彼女は述べた。
「彼、私達を庇いながらずっと戦ってたんだ……」
圃人野伏は、彼が居なければ自分達はゴブリンに辱しめを受けていたであろう事を、頭目の自由騎士に話す。
「どうやら、とても大きな借りが出来てしまったようですね……」
彼女は、法と正義を担う至高神に仕える騎士だ。
誰かを助ける為ならば、自らを犠牲にすることも厭わない心を持っている。
……故に、彼女は疾走騎士に対して強い尊敬の念を抱いた。
「仕方あるまい……」
そこへゴブリンスレイヤーが歩み寄ると、疾走騎士を担ぎ上げる。
「帰るぞ……」
そうして、全員が帰路についた。
山砦の炎はやがて雲へと変わり、黒い雨を降らせる。
確かにそこに救いはあった。
あったがそれでも……その救いをもたらした者こそが、未だに救われてはいないのだった……。
Q.オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!
A.無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!
※セッション中のリアルファイトは……やめようね!