【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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パート9 裏 前編 『自由騎士こわれる』

 鋼鉄等級一党の救出に成功したものの、消耗により気を失ってしまった疾走騎士。

 ゴブリンスレイヤーは彼を担ぎ上げたまま、魔術師の案内で宿まで運び込んだ。

 

「こんな所に宿があったんですね……」

 

 女神官は意外といった様子で宿の中を見回している。鋼鉄等級一党の彼女達も同様だ。

 宿に入るとあの圃人の女主人が駆けつけてくる。

 

「おかえりなさ──ってうわっ! 人が沢山!?」

 

 閑古鳥が鳴くこの宿に大勢の冒険者が訪問してきた為、彼女は目を白黒させて驚いている。

 しかし残念ながらここへ来たのは客としてではない。

 

「こいつを寝かせる、部屋はどこだ」

 

 無遠慮に奥へ進もうとするゴブリンスレイヤー。

 しかし女主人は彼の前で両手を広げ、ストップをかけた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 流石に返り血塗れのまま寝かせるというのは……」

「む……」

 

 今回の冒険で疾走騎士が倒したゴブリンの数は、凡そ五十匹以上にも昇る。

 もちろん彼の鎧には返り血がべっとりと付着しており、そのままベッドに寝かせれば、ベッドもまた血塗れになってしまうだろう。

 

「しょうがないわね。ほら、これでいい?」

 

 それは魔術師が発言した瞬間の出来事だった。

 なんと彼女は、既に疾走騎士が装備していた革鎧を手にしているのだ。

 そしてゴブリンスレイヤーに担がれたままの疾走騎士は服の状態になっている。

 一体どうやったのか、いつの間に、と、鋼鉄等級一党が驚愕しているが、魔術師はそれに気付く様子はない。

 

「は、はい大丈夫です。ありがとうございます」

「部屋はここ、右のベッドがそいつのだから」

 

 そして魔術師に案内されるまま、部屋へと入る。

 そこで女神官がふと、疑問に思った事を口にした。

 

「あれ?じゃあ左のベッドは?」

 

 問いに魔術師はピシリと硬直すると、少しの間を置いて小声で答えた。

 

「…………私の」

 

 それを聞いた鋼鉄等級一党に衝撃が走る。彼女達は思わず大声を上げながら魔術師へと迫った。

 

「なっ!? 同部屋ですか!?!?」

「宿に若い二人の男女……! 何も起きない筈もなくっ……!!」

「なんてけしかうらしまん!!!」

「お、お楽しみなのですか!?」

「ち、違うっ! そうだけど違う! コイツとはただの一党で同部屋なのは節約の為! ほら! ソイツさっさと寝かせるから早く出てって!!」

 

 ゴブリンスレイヤーから疾走騎士を奪った魔術師は、ベッドに疾走騎士をぶん投げた後、全員を部屋から追い出すのだった。

 

─────────────────

 

「もうっ…………」

 

 扉を強引に閉めたあと、私はため息をつく。

 ベッドに投げられた疾走騎士は、くの字に折れ曲がった状態でベッドに転がっていた。

 

「兜も汚れてるし、後で洗っといてあげましょ」 

 

 疾走騎士から兜を外すとその顔が露になる。

 といっても前回と違い、彼は眠っているので『あの目』は見えていない。

 

「コイツの目、心臓に悪いのよね……」

 

 最初に見たときは変な声が出そうになった。一体何があればあんな目になるのかしら……。

 

「……ふふっ、こうしてみると逆に気弱そうな奴なのにね」

 

 実際そうなのだろう。彼は先日、私が臆病だと言った事を気にしていた。あれは図星を突かれた人間の反応そのものだ。

 

「っと、早く出ないとまた変な事言われちゃうわね」

 

 そして私は部屋を出た。外にはゴブリンスレイヤーと女神官の姿は無く、鋼鉄等級の一党達がここの主人と話をしている。……何をしてるのかしら?

 

「四人部屋は空いていますか?」

「勿論空いてますよ! むしろ空いてない部屋が今の所一つしかないです!」

「そ、それは逆にどうかと思うが……」

 

 え……あの人達もここに泊まるつもり?

 まあ、確かに都合が良いわよね。ここ結構良いところだし。

 

「あ、戻ってきた。ゴブリンスレイヤー……だっけ? あと神官の子、あの二人はギルドに報告へ行ったよー」

 

 彼女達のメンバーの一人である圃人が私に気付くと、笑顔で手を振りながら近付いて来た。

 

「そう……」

「ところでさ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」

「……なに?」

 

 彼女は考え込んでいる様子で腕を組みながら、足のつま先を上下させている。

 

「あの彼、疾走騎士って呼んでたけど、何者? 白磁だよね?」

 

 あぁ、アイツに興味があるのね。

 でもどうしようかしら? 正直あまり話したくは無いのだけれど。

 

「うちのメンバーの一人がさ、犯罪起こして降格された冒険者じゃないのかーって疑ってて──」

「は?」

 

 苦笑いを浮かべながら発した彼女の言葉に、私はちょっと……いや、かなりムカついた。

 だから思いっ切り睨み付けてやる。

 

「助けて貰っておいて……何よそれ」

「ご、ゴメンゴメン! 幾らなんでも失礼だよね!! あとできっつーく言っとくからさ!!」

 

 彼女は冷や汗を流しながら後退り。あーもう、何で私がこんなイラついてるのかしら。

 私はため息をつき、一旦落ち着いてから彼女に話す。

 

「……いいわ、でもアイツにも後で謝っておいて」

「それは勿論! って事はやっぱり本当に新人なんだ? ……ちょっと強すぎない?」

「まあ……ね」

 

 確かに彼女の言うことも分からなくはないのよね、私も最初は疑問に思ってたし。

 ……また詮索しに来られても面倒だし、敢えてここは教えておいたほうが良さそうね。

 

「それだけ聞ければ十分! ホントゴメンね! それじゃあ──」

「……元軍属の騎士」

「えっ?」

「人の命を助けたら騎士を辞めさせられたらしいわ。私が知ってるのはここまで。……これで満足? それじゃ私はこれで」

「あ……」

 

 私は他のメンバー達も無視してずかずかと宿屋から出る。

 今日はまだ時間がある。私一人で出来ることはないか、ギルドで探してみよう……。

 

────────────────

 

 そして宿屋へと取り残された鋼鉄等級一党。

 彼女達は先程取った部屋へ入ると、反省会を開く事にしたようなのだが……。

 

「あーもう、怒らせちゃったじゃん!」

「わ、わざわざ言わなくても良かっただろう!?」

「だから疑うのは良くないって忠告したんです。これは至高神様からの天罰ですよ」

 

 ──彼女達は荒れに荒れていた。

 圃人野伏は先程話していた内容をメンバーに伝えたのだが、それを聞いた森人魔術師は頭を抱えて唸きながら蹲ってしまい、リーダーの自由騎士に至っては白目を剥いてベッドに倒れ込んでしまった。

 

「うぐぐ……有り得るのか? こんな冒険者が……」

 

 実際に居たのだから仕方が無い。

 森人魔術師に対してはもはや手の施しようが無いと判断し、圃人野伏は肩をすくめ、女僧侶は額に手を当てて頭を横に振った。

 

「見……た……」

 

 しかしその後ろ、先程ベッドへと倒れ込んだ自由騎士が、わなわなと震えている事に気付く。

 

「ん? どしたのリーダー」

「もしかしてまだ頭が痛むのですか?」

 

 彼女は突然ベッドから飛び上がると、予想もしない言葉を口にした。

 

「見付けたわ! 私の理想の騎士を!」

「……はい?」

「たとえ名誉を捨ててでも、弱き者達に手を差し伸べる、これこそ私が求めていた騎士という存在!」

 

 祈る様に両手を握り、天を仰ぎながら目を輝かせる彼女は、完全に自分の世界へと入ってしまっている。

 それを見た圃人野伏と女僧侶の二人は唖然としていた。

 

「リーダーが壊れちゃった……」

「や、やはり頭を強く打ったせいでしょうか?」

 

 彼女はいつもなら凛としていて頼り甲斐のあるリーダーなのだ。

 それがどうしてこうなったのか、二人はただただ困惑するしかない。

 

「我が騎士よ! 今こそ私はこの身をもって、貴方の正義に報いましょう!!」

「リーダーさん!?」

「ちょっと、マズイですよ!!」

 

 とんでもない事を言いながら部屋を飛び出そうとする自由騎士。するとそれを聞いた森人魔術師がぴくりと反応し、スッと立ち上がる。

 

「そうだ、それがいい……せめてこの身で詫びることにしよう」

 

 森人魔術師は頬を赤らめながら目をぐるぐると回し、明らかに正気ではない様子だ。

 部屋を出ようとする自由騎士と森人魔術師の二人に圃人野伏がしがみつく。

 

「あーもうめちゃくちゃだよ! 仕方ない! この二人目覚めさせて! 荒療治で!!」

「わ、分かりました!」

 

 そして女僧侶は杖を手に握りしめ、目一杯振り上げると──

 

「《聖撃(ホーリー・スマイト)》(物理)!!」

 

 ──全力で振り下ろした。

 

 

「わっ! ぴゃっ! …………な、何の音?」

 

 硬い物を思いきり叩いたような音が二回ほど宿屋内に響き渡り、別の部屋を掃除していた女主人が驚いて飛び跳ねた。

 

 

「取り乱しました」

「同じく」

 

 そして正気を取り戻した自由騎士と森人魔術師は、横に並んで正座をさせられていた。ちなみに二人の頭にはそれぞれ大きなコブが出来ている。

 

「全く! 自分だけ良い思いしようなんて、そうはいかないんだからね!」

「そう! ……って違いますよ! そんな理由で止めたんですか!?」

「当たり前じゃん! 私達は一蓮托生! ヤるときは一緒だよ!」

「死ぬときは一緒の間違いでは!?」

 

 人差し指と中指の間に親指を挟み込み、ニヤリと笑う圃人野伏に対し、顔を真っ赤にする女僧侶。

 すると正座をしていた自由騎士と森人魔術師がおもむろに立ち上がり、圃人野伏を後ろから羽交い締めにして拘束する。

 

「え……な、何?」

「あとは貴女が正気に戻る番ですね」

「おっ、そうだな」

 

 そこで圃人野伏はその意図に気付く。彼女の額から一滴の汗が頬へと伝った。

 

「は、流行らせコラ! どこ触ってんでぃ! 私は正気だってぇの!!」

 

 圃人野伏がもがくが、それはもはや無駄な抵抗だった。

 

「余計質が悪い……」

「弁解の余地は無いな、やれ」

「分かりました……《聖撃(ホーリー・スマイト)》(物理)ッ!」

「ンアッーーー!!!」

 

 辺境の街、その路地裏にて、小気味良い打音と汚い悲鳴が響き渡ったのだった────。

 

──────────────────

 

「で、何の用よ……ゴブリンスレイヤー」

 

 ギルドでこれといった依頼を見付けられないで居た魔術師は、ゴブリンスレイヤーに声を掛けられていた。

 神官の子は見当たらない。どうやら彼だけが魔術師を待っていたらしい。

 

「これを渡す。うまく使え」

 

 すると彼が手渡してきたのは、黒い液体が入った瓶だった。

 

「これって確か」

 

 この黒い液体を被ったゴブリン達は凄まじい勢いで燃えていた。

 恐らくそういう性質を持っている液体なのだろう。

 

燃える水(ガソリン)だ」

「……これをどうして私に?」

 

 確かに私からすれば有難いが、彼からこれを貰える理由が見当もつかない。

 すると彼は俯いたまま口を開いた。

 

「俺は、奴の行いを間違いだと思わんからだ」

「間違い? ……あ」

 

 私はつい先日、全く同じ言葉を自分自身が口にしていた事に気付く。

 

「ゴブリンを殺しても何かが変わることは無い、俺はそう思っていた。しかし、奴はそれで全てが変わってしまったらしい」

「……だから、これでアイツを助けてやれって事?」

「あぁ」

 

 成る程ね、何となく分かってきたわ。

 疾走騎士はゴブリンから人を助けた結果、騎士を辞める事になったのね。

 この瓶を私に渡したのは、そんなアイツに対して何かしら思うところがあるからってところかしら。

 

「分かったわ、有り難く貰っとく」

 

 黒い液体の入った瓶を受け取ると、ゴブリンスレイヤーは場を後にしようとする。

 

「用はそれだけだ」

「あ、ちょっと待って」

 

 私は背を向けたゴブリンスレイヤーを呼び止めた。

 

「……何だ」

「ここに牛乳の配送してる牧場ってどこか知らない? すっごく美味しかったのよ」

 

 それなりに長い間ここへ在籍している彼なら知っているだろうかと考え聞いてみた質問だったが、意外な収穫が得られたというのは……また別のお話である。

 




Q.魔術師ちゃんの防具を奪う技能を戦闘で活用すれば、大幅なタイム短縮を図れるのでは?

A.確認したところ疾走騎士くんにしか効果を発揮しない技能だったので、寧ろ弊害になるかもしれませんね(憤慨)
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