【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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パート9 裏 後編 『賽子』

 依頼により盗賊退治に赴く事となった疾走騎士達。

 彼等は今回の作戦を話し合いながら、盗賊達が陣取っている街道へと向かっていた。

 

 依頼の情報によれば、盗賊達は街道を通りがかった者達に襲い掛かり、金品を奪うのだという。

 その人数もハッキリと分かってはいないが、恐らく二十人程度だという話だ。

 

「で、どう攻めるつもりなの? 相手は街道で待ち伏せしてるんでしょ?」

「もちろん普通に攻めるつもりはありません。不意を突きます」

 

 魔術師の問いに疾走騎士が答えると、同じ前衛として隣を歩く自由騎士が首を傾げる。

 

「ですが、この街道でどうやって不意を突くのですか?」

 

 街から街へと繋ぐこの一本道は広く、見張らしも良い。普通に接近すれば間違いなく発見され、逆にこちら側が襲われる事になるだろう。

 

「街道から少し逸れ、草むらや岩に身を隠しながら接近します」

 

 疾走騎士はそう言うと、マントでその身を覆い隠す。

 街道から逸れてしまえば周囲には人の腰程まである草が生い茂っている。

 深緑色に染められたマントは草むらと同化する為、発見するのはかなり困難だろう。

 ……しかし、それが可能なのは疾走騎士一人だけだ。

 

「……アンタ、まさか自分だけで斬り込むつもりじゃあないでしょうね」

 

 疾走騎士の意図を察した魔術師が、鋭い目付きで睨みつける。

 しかしそれに対し疾走騎士は──。

 

「単騎でも敗率は殆ど有りません」

 

 抑揚の無い声で自信満々に言い放つ。

 その返答を聞いた魔術師は、また一人で無茶をやるつもりなのかと頭を抱えたくなった。

 

「認められません。あまりにも危険過ぎます」

 

 そこで自由騎士は疾走騎士の案を断固拒否する構えを取る。

 どうやら彼女は正義を担う騎士として、疾走騎士を犠牲にするような方法は認められないようだ。

 

「まあまあ、話は最後まで聞いてください」

 

 しかし、疾走騎士には更なる策略があった。

 彼の示した作戦はこうだ。

 まず疾走騎士が単独で盗賊達に対し奇襲を仕掛け、相手に気付かれた所で直ぐ様撤退。

 そこへ鋼鉄等級一党のうち、森人魔術師を除いた三人が合流し、盗賊達と交戦しつつ誘き寄せ、予め待ち伏せをさせていた呪文使い二人が不意を突き、魔法の集中放火を浴びせ、致命的な打撃を与えるというもの。

 しかし疾走騎士が危険な役割であることに変わりはなく、鋼鉄等級一党は未だ納得がいっていない様子だった。

 すると、終始考え込みながら話を聞いていた魔術師が問い掛ける。

 

「無茶はしないのよね? 疾走騎士」

「ハイ、そのつもりです」

 

 歩みを止めず進み続ける疾走騎士。その横へ魔術師が並ぶと、兜に隠れた彼の目を覗き込み、そして溜め息をついた。

 

「それなら良いわ。じゃあ……行くわよ」

 

 状況を眺めていた自由騎士が、魔術師にこっそりと話しかける。

 

「良いのですか?」

「他に作戦は思い付かないでしょ? これ以上は時間をロスするだけだわ」

 

 その言葉に自由騎士は黙り込んだ。しかし彼女は知らないだろうが、魔術師からすれば疾走騎士が話をしてくれるだけまだ良い傾向なのだ。

 あとはこちらが全力でサポートしてやればいい、魔術師はそう結論付けたのである。

 

「ただ、もしアイツが無茶しようとしたら無理矢理にでも止めようと思うの。良いかしら?」

「成る程、わかりました」

 

 自由騎士にとっても、後輩である疾走騎士に負担を強いるのは本意ではない。彼女は魔術師の提案に同意した。

 そこで疾走騎士が立ち止まり、振り返る。

 

「そろそろ盗賊が居るポイントに到着します。呪文使いのお二人はここで待機を」

「わかったわ」

「あぁ、任せておけ」

 

 二人が街道沿いにあったくぼみに身を隠したあと、疾走騎士は他のメンバーと共に警戒しながら先へと進む。

 すると圃人野伏が何かに気付いた様子で、近くにあった木に登り目を凝らすと、街道の先に一人の男を発見した。

 腰には剣が差してあり、周囲の様子を伺っているところを見ても、おそらくあれがここで待ち伏せをしている盗賊だろう。

 

「それは見張りでしょうね。近くに他の仲間も隠れているはずです。こちらが発見された様子は?」

「今のところは大丈夫かな。盗賊如きの目には負けないよ」

 

 疾走騎士が圃人野伏の登った木を見上げる。

 彼女は斥候として優れた技能を持っているようで、相手に気付かれない範囲から索敵を行う事も容易らしい。

 

「わかりました。では当初の予定通り行きましょう」

「アタシも着いてこうか?」

 

 圃人野伏が木の枝に足を掛け、逆さまにぶら下がる。

 

「いえ、貴女はそこから監視を続けて下さい。その目が届いているのであれば、自分も安心して動くことが出来ます」

 

 小柄である圃人野伏なら、この草むらに身を隠しながら疾走騎士に同行することも可能だろう。

 しかし彼女の職は野伏であり、接近する事自体のメリットが少ない。離れたこの位置から状況の把握に努めてもらうのが最善だと疾走騎士は考えていた。

 

「オッケー! まっかせて!」

 

 圃人野伏が逆さの状態から起き上がり、盗賊達に目を向ける。

 

「では、奴等を引き付けて来ます」

「御武運を」

「決して無理はしないで下さいね」

 

 疾走騎士が草むらに足を踏み入れる。自由騎士と女僧侶は彼の無事を祈りながら見送るのだった。

 

─────────────── 

 

「ま~だ時間掛かりそうなのかな~?」

「大丈夫でしょうか……やはり私達も向かった方が良いのでは?」

「……もう少し待って、動きがなければ突入します」

 

 私達は先程の疾走騎士の作戦に従い、盗賊達が監視できるギリギリの距離で待機していた。

 撤退してきた彼と合流する手筈なのだが、暫く待っても未だ盗賊達に動きはみられない。時間の経過と共に、私達の不安も大きくなってくる。

 もしかすると捕まったのかも……そんな考えが頭をよぎった時だった。

 

「リーダー!来たよ!」

 

 疾走騎士が街道に飛び出し、盗賊達を引き連れこちらへと向かってくる。

 いくら彼でもこの広い場所であの数を相手取る事は不可能だろう。

 

「出ます! 後に続いてください!」

 

 私は先頭に立ち、逃げてきた彼と合流し盗賊達へと剣を向けた。

 

「お前達の悪行もここまでだ!」

「私はやりますよぉ! やりますともぉ!」

「大丈夫ですか!?」

 

 圃人野伏が矢を放ち、盗賊の一人を撃ち抜く。続いて女僧侶は疾走騎士に奇跡を使い、彼の消耗を回復させたようだ。

 そして疾走騎士と共に前衛に立った私は、盗賊達を相手取りながら徐々に後退。

 予定通り、決して悟られないよう適度に剣を交えながら盗賊達を誘き寄せる。

 

 隣に目を向けると、彼は盗賊が振り下ろした剣を片側の盾で受け流しながら、反対に持った盾の刃で盗賊の首を貫き、致命の一撃を与えていた。

 一切の迷いがない流れるような動作、私は彼の頼もしさに感銘を受けた。

 

 私の一党は前衛が私しかおらず、私自身をカバー出来る存在は居なかった。それはつまり、私が倒れる事は一党の崩壊を意味している。

 事実前回の冒険ではそうなってしまった。彼が居なければ私達はあのゴブリン達に辱められ、殺されていた事だろう。

 

 しかし、今私の隣にはもう一人の前衛が居る。

 それがどれ程心強いことか、私はこの時初めて知ることが出来た。

 

「いざという時は自分を盾にしてくださいね」

「! ……はい、貴方の心遣いに感謝します!」

 

 私はこの瞬間、彼の言葉によって自らの心に力強い何かが満たされていくのを感じていた。

 ああ……やはり貴方は──。

 

 

───────────────

 

 

「来たぞ、備えるんだ」

「……ようやくね」

 

 疾走騎士達が盗賊と交戦しつつ、こちらへと向かってきているのが見える。

 

「《サジタ()》 《インフラマラエ(点火)》──……」

 

 私は《火矢(ファイアボルト)》の詠唱状態を保持し、射出のタイミングを待った。

 すると疾走騎士が私達の存在を確認し、《聖壁(プロテクション)》の奇跡を発動させる。

 盗賊達は不可視の壁に阻まれ、何が起こったのかも分からずに、すし詰めの状態になった。それに対し私達は《火矢(ファイアボルト)》を放つ。

 

「……《ラディウス(射出)》ッッ!!」

 

 森人魔術師もこちらのタイミングに合わせて行使したようだ。盗賊達は炎に包まれ悲鳴を上げる。

 

「ボサッとするな! 二の矢だ!」

「わ、分かってる!」

 

 隣に居た森人魔術師に檄を飛ばされ、私は再び呪文の詠唱を始めた。

 

「《サジタ()》 《インフラマラエ(点火)》 《ラディウス(射出)》!」

 

 更に撃ち出される《火矢(ファイアボルト)》をまともに受けた盗賊達は、その殆どが炎に呑まれ倒れていく。

 残ったのは僅か二~三人。それも疾走騎士が討ち取り、その場に居た盗賊達全員を討伐することが出来た。

 

「終わった……のよ、ね?」

「はい、恐らくは」

 

 残ったのは焼け焦げた死体の山。人が焼ける臭いに不快さを覚えて鼻を押さえる。

 

「いや~、なんかあっさりだったな~」

「こちらも隠れて魔法を撃ってただけだぞ」

「私は奇跡をあの方に使って、後ろに付いていたくらいですね」

「それだけ見事な策だったと言うことね」

 

 鋼鉄等級の一党を見ると彼女達は笑顔だったが、私の手は震えていた。

 ……いや、手だけではない。足もだ。

 

「お疲れ様でした。それでは帰りましょう」

 

 全員が揃って帰路に着く。私は震える足に力を込めて、疾走騎士の傍へと駆け寄った。

 

「初めて人を殺したわ……」

「自分もですよ」

「! そう……よね……」

 

 相手が盗賊だとしても、同じ人間である事に違いはない。

 先程の人が焼ける臭いも、まだ鼻に残っているような気がする。

 今まで感じた事の無い不快な感覚が、私の胸の中で渦巻いていた。

 

「……変わりませんよ」

「え?」

 

 そんな私を見かねたのか、ぽつりと疾走騎士が呟いた。

 

「殺して奪う、彼らのやっていたことはゴブリンと変わりません」

「……そっか」

 

 そう考えた方が良いんでしょうね……これからも盗賊退治なんて幾らでもやる事になるでしょうし。

 今回もコイツと生きて帰れた。それだけで十分よね。

 

 

──────────────

 

 

 そして疾走騎士達はギルドへと戻り、報酬を受け取った。

 

「我々は折半で構いません。実際、盗賊を討伐した数も凡そ半数ずつでしたからね」

「というか、盗賊達の親玉も先に倒してただなんてさあ? 道理で遅いと思ったよ」

「上手く奴等を出し抜いたという訳か。流石だな」

「疲れているなら仰って下さい? また《賦活(バイタリティ)》を使いますので」

「ありがとうございます。そちらの一党は、剣術、狙撃、魔法、奇跡、それぞれの特技がとても高いレベルに纏まっているように感じました。とても頼もしかったですよ」

 

 鋼鉄等級に素直な称賛を送る疾走騎士。

 彼女達はその言葉にそれぞれの反応を見せる。

 

「ほ、ほんとぉ? でへへへへ」

「ふっ、当然だ。寧ろ私の全力はあんな物ではないぞ?」

「私の奇跡が助けになれたようで良かったです!」

「貴方の方こそ、見事な戦い振りでした」

 

 右手を頭の後ろに回し気恥ずかしそうにする圃人野伏。腕を組んで微笑む森人魔術師。杖を手に満面の笑みを浮かべる女僧侶。そして疾走騎士に対して称賛を返す自由騎士。

 彼女達はそれぞれが鋼鉄等級相応の……いや、それ以上の実力を持っていた。

 前回彼女達が危機に陥ったのは、ただ単に運が悪かっただけなのだろう。

 

「また困った時には声を掛けさせて頂いても構いませんか?」

 

 疾走騎士の問いに自由騎士は頷いて、自らの手を差し出した。

 それが何を意味するのか察した疾走騎士は、その手を握る。

 

「勿論です。我々がお力添え出来る事があるのでしたら、いつ何時でも駆け付けましょう」

 

 二人の手は、まるで互いの絆を現すかのように繋がれたのだった。

 

 そして鋼鉄等級一党と別れた後、疾走騎士と魔術師は次の予定について話し合う。

 

「今日の魔法は悪いけど打ち止めよ。どうすればいい?」

「また呪文を学んで頂きたいのですが、構いませんか?」

「必要なんでしょ? 何でも言いなさい」

 

 そして二人がギルドに佇んで煙管を吸っている魔女を見付けると、彼女もこちらに気付いたようで、柔らかな笑みを浮かべた。

 

「ふふ また かし ら?」

 

 どうやら魔女は疾走騎士達が来た理由を既に察しているようだ。

 

「はい、お願い出来ますか?」

 

 すると魔女が煙管を深く吸い、疾走騎士に白い煙を吹き掛ける。

 疾走騎士の周りに甘い香りが纏わり付いた。

 

「……う、吸いすぎると酔いそうですね」

 

 疾走騎士は兜の上から口の辺りを腕で押さえると、それを見て魔女は持っていた煙管をくるっと半回転させ、疾走騎士へ差し出した。

 

「吸って みる?」

「えっ!?」

 

 突然の魔女の言葉に、驚いて声を上げたのは魔術師だ。

 魔女が差し出した煙管を疾走騎士が吸えば、間接的な口付けになってしまう事に気付いたのだろう。

 

「冗談 よ?」

「あ……ぅ……」

 

 魔女は煙管を再び半回転。

 どうやら彼女の行動は魔術師をからかうためだったようだ。

 顔を赤くして俯いた魔術師を見て、魔女は微笑みながら頷いた。

 

「いい わ よ? ただ ちょっと高くなる かも?」

「大丈夫です。前回が安すぎました」

 

 疾走騎士の返答に満足した魔女は、近くにあったテーブルの席へと座る。

 

「じゃあ はじめましょ?」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 魔術師が魔女の向かい側の席に着くのを見届け、疾走騎士は次の依頼を受けるためにその場を後にした。

 

 そして受けれそうな依頼がないか探すため、掲示板の前へとやって来ると、そこへ一人の男が歩み寄る。

 

「ゴブリンか?」

「! ……ゴブリンスレイヤーさん」

 

 疾走騎士が振り返ると、そこに居たのは薄汚れた鉄兜と革鎧を身に着けた銀等級の冒険者、ゴブリンスレイヤーだった。

 

「違うのなら構わんが」

「いや、丁度次の依頼を探していた所です。行けますよ」

「そうか」

 

 言葉を飾ることに意味はないとばかりに、早速二人はギルドから出てゴブリン退治へと向かう。

 

「神官の彼女とは別行動ですか?」

「神殿に籠っている。暫くは単独(ソロ)だ」

「成る程」

 

 そして、ゴブリンの巣に正面から足を踏み入れた二人は前に進みつつ、目についたゴブリンを叩き潰していく疾走騎士と、背後や横穴からの奇襲を警戒するゴブリンスレイヤーに分かれ、ゴブリン達を駆逐していく。

 

「十……気になっていた事がある」

「?」

 

 ゴブリン達が横穴を掘り挟み撃ちを仕掛けるも、彼等にとってはなんの問題も無かった。

 二人は互いに背中合わせに武器を構える。

 あとは……目の前から来るゴブリンを殺すだけだ。

 

「お前は賽子を振らない」

「……それはお互い様では?」

 

 一匹、また一匹と、二人が刃を振るい、ゴブリン達の命を狩り取っていく。

 

「十三……俺はあくまでも練習によるものだ。お前は自らの動作一つ一つにパターンを作り、それを実行する事だけに専念しているように見える」

 

 ゴブリンスレイヤーが剣でゴブリンの首を斬り裂くと、別のゴブリンがここぞとばかりに手斧を振るう。

 しかしそれも容易く盾で弾き、ゴブリンの心臓を剣の切っ先で貫いた。

 

「確かに……斬る、払う、殴る、突く。他にもありますが、自分は基本的な動作をタイミングよく用いているだけです」

 

 その反対側では槍持ちのゴブリンが穂先を疾走騎士へと突き出した。

 それに対し疾走騎士は左手に持った盾を正面から叩きつけ、槍ごとゴブリンを弾き返すと右手の盾を縦に持ち、縁の刃を振り下ろし、まず一匹。

 そこへ三匹程のゴブリンが飛び掛かるが、彼が体を捻り、遠心力を用いて盾を薙ぎ払うと、纏めて上下に両断された。

 

「人は息をするのに失敗をしませんからね」

「……違いない」

 

 何かやると決めてぶん回した時点でてめえの勝ち。ゴブリンスレイヤーは自らに戦い方を教えてくれた圃人の老人が言っていた言葉を思い出す。

 

「なら……息をするように、ゴブリンを殺せるようになると思うか?」

「それは……どうでしょう? 状況は常に変わってきますからね」

「あぁ」

 

 ゴブリンの数、装備、地形、ありとあらゆる要素が絡み、最善の方法は常に変わってくる。

 疾走騎士の様に正面から押し潰す戦い方でもなければ、それは難しいだろう。

 

「一つ一つに対応するというだけであれば、それ程難しい事ではないのですが……」

「そうか」

 

 その場に居たゴブリンを全て殺し終わると、二人は再び奥へと歩み出す。

 

「それこそ、『終にゴブリンは滅びた』とでも記してしまえばいいのでしょうがね……」

「? 何の話だ」

「こちらの話です。……いや、『あちら側の話』かもしれません」

 

 要領を得ない疾走騎士の言葉にゴブリンスレイヤーは頭を傾げるが、恐らくゴブリンとは関係のない話だとだけ理解し、再びゴブリンへ対する警戒へと集中する。

 

「儘ならないものだ。この世界は……」

 

 諦めるように、しかし抗議するかのように疾走騎士が小さく呟いた言葉は、闇の中へと溶けていった──。

 

 

───────────────

 

 

「では、ひとまずお疲れ様でした!」

 

 依頼を終えたゴブリンスレイヤーと疾走騎士に対し、受付嬢が労いの言葉と共に頭を下げる。

 

「やはり一人よりお二人の方が、こちらも安心出来ますからね」

「……そうか」

「と言うわけで疾走騎士さん、今後もよろしくお願いしますね?」

 

 いつもの営業スマイルではなく、心からの笑顔を浮かべる受付嬢。

 彼女はいつもゴブリンスレイヤーに肝を冷やされている人物の一人だ。

 疾走騎士という壁役が居れば、ゴブリンスレイヤーの負担も相応に軽くなるだろう。

 

 それに、いつも女の子と二人っきりというのは受付嬢にとって、ほんの僅かだが不安があった。

 勿論聖職者である女神官との間違いは無いと思うが……。

 疾走騎士と組んでいる内は、そういった意味でも安心できるのだろう。

 

 ──万が一、彼等がそういった趣味でなければの話だが。

 

 なので彼にはこれからも、ゴブリンスレイヤーと共に組んでもらいたいのだ。

 

「お願いするのはこちら側だと思いますが……」

「評価、おまけしちゃいますよ?」

「よろしくお願いします」

 

 即答で返す疾走騎士にくすくすと笑う受付嬢。

 疾走騎士の実力が信頼に値する人物である事は報告から既に把握している。ちょっと優遇するくらいは問題ない筈だ。

 

「では俺は戻る」

「それじゃあ、自分もこれで失礼します」

「はい! お気をつけて!」

 

 その不器用さが何となく似ている彼らは、兄弟じゃないかと言われても違和感が無くて、そんな事を考えて微笑みながら、受付嬢は二人を見送った。

 

───────────────

 

 ゴブリンスレイヤーと別れてすぐ、魔術師の様子を見に行こうとした疾走騎士を、鋼鉄等級一党の自由騎士が呼び止めた。

 

「すみません、少し宜しいでしょうか?」

「はい、どうされました?」

 

 どうやら他の仲間達とは別行動のようだ。

 神妙な面持ちの自由騎士を見て、疾走騎士が何事かと様子を伺うと、彼女は真っ直ぐに疾走騎士を見詰めて声を上げる。

 

「あ、貴方の戦い方を、私に指南して頂けないでしょうか……!」

 

 あまりにも唐突な自由騎士の願いに呆然とする疾走騎士は、少しの硬直の後、困った様子で聞き返す。

 

「えっと、何故自分に? 等級も下ですし、そもそも今日の依頼で見た貴女の剣術は見事な物だったと思いますが……」

 

 疾走騎士の言葉に自由騎士は俯いて、自らの腰に携えた剣に、手を添える。

 

「私は先のゴブリン退治で、仲間を護ることすら出来ませんでした……。そんな私の前に貴方は現れた!これは神からの啓示(ハンドアウト)に違いありません!」

 

 今の自分の力だけでは足りない。自らの正義を貫く強さが欲しい。『決して賽に運命を委ねない力』が欲しい。

 彼女はその決意と共に目を煌めかせ、疾走騎士へと詰め寄る。

 疾走騎士はその圧に耐えかねて一歩下がった。

 

「申し訳ないですが、教えられる程の物ではないですよ? 真似をするのは構いませんが……」

「本当ですか!? ありがとうございますっ!」

「えっ……」

 

 やんわりと断るつもりで言った疾走騎士だったが、残念ながら言葉というのは難しい。

 どうやら自由騎士は真似をするのは構わないという言葉を、間近で見せてもらえるという意味で受け取ってしまったようだ。

 

「では早速手合わせをお願い致します! それが一番手っ取り早いですからね!」

「えぇ……」

 

 そうして自由騎士に手を引かれ、困惑を隠せない声を漏らしながら引き摺られて行く疾走騎士なのであった。

 




Q.盗賊と戦っていた自由騎士ちゃんが疾走騎士くんに声を掛けられた瞬間パワーアップした!? 走者神! これは一体……。

A.知らん……何それ……怖……。

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