【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート 作:もふもふ尻尾
遡ること二日前、疾走騎士が鋼鉄等級一党と共同で山賊退治を終えた後に、ゴブリンスレイヤーと共にゴブリン退治をした日の事。ゴブリンスレイヤーは日が沈む前に牧場へと帰り着いていた。
「あれ!? 今日は早いね!?」
ギィ……と、扉を開く音。てっきり共に暮らしている叔父さんだと思い、振り返った牛飼娘は彼の姿を見て驚いた。
「早く終わった」
「そっか! じゃあ、おかえりなさい!」
「あぁ、ただいま」
明るい笑顔で彼を出迎える牛飼娘。ゴブリンスレイヤーは頷いて答え、近くにあった椅子に腰を下ろした。
「お夕飯の準備が出来た所だから、一緒に食べよ?」
「あぁ」
彼が帰ってくるのは大体が夜遅く、明け方になる日も決して珍しくない。
そんな彼がこれ程早く帰ってくるというのは、牛飼娘にとって喜ばしい事だった。
「何かあったの? 確かこの前もこれくらい早い日があったよね」
もしかしたらトラブルがあったのかもしれない。
牛飼娘が心配そうに様子を伺いながら、料理をテーブルに並べていく。
「新人の冒険者と組んでいる。まだ数回だが……」
「へぇ!」
声を上げる牛飼娘。それもそうだ、彼が今までずっと一人で冒険に出ていた事を、彼女は知っている。
……そして、彼が他の冒険者に避けられている事も同様に。
だからこそ、そんな彼と一緒に冒険に出てくれる冒険者が居るというのは、とても有難い事なのだ。
「神官と騎士、早いのは騎士の方と組んだ時だ」
「そっかそっか、じゃあ助け合わないとだ」
「……そうだな」
なにやら若干の間。長い間ゴブリンスレイヤーと共に暮らしている牛飼娘は、彼のちょっとした仕草で大体の事が分かるようになっている。これは何かを考え込んでいる時だ。
「どうかしたの?」
「今までずっと一人で戦ってきたが、背中を任せられる相手が居るというのは……随分と楽だ」
「ふふ、よかったね」
「あぁ」
本当によかった。彼は来る日も来る日もゴブリン退治。ふらふらになって帰ってくる事もある。
ゴブリンスレイヤーの帰りを待つ牛飼娘にとっても、彼の負担が軽くなるのは嬉しい話だ。
「ただいま。……ん? なんだ、今日は早いじゃないか」
そこに羊の放牧を終えた叔父が帰宅。
ゴブリンスレイヤーの姿を見て、先程の牛飼娘と同様に驚いているようだった。
「はい。仕事が早く済みました」
「ほう……」
タガが外れたように連日ゴブリン退治を繰り返すゴブリンスレイヤー。
そんな彼に対して以前から余裕を持った生き方をして欲しいと願っていた叔父も、これには安心した表情を見せる。
「おかえりなさい! ほら叔父さんも座って、せっかく彼が帰って来たんだから皆で食べようよ!」
彼と一緒にゴブリン退治をしてくれる冒険者。一体どんな人なのだろうか?
そんな興味を抱きながら、もしその冒険者に会えたら一言お礼を言おうと、牛飼娘は心に決めるのだった──。
────────────────
そして現在、意外にもその冒険者との邂逅はあっさりと果たされた。
「キミがその騎士くんなんだね。よろしく!」
「こちらこそ、ゴブリンスレイヤーさんにはいつもお世話になっています」
ゴブリンスレイヤーと共に町のギルドへ配達に向かう途中、二人の冒険者がこちらへと近付いて来て、話し掛けて来たのだ。
彼と同じように、兜を被って顔が見えない騎士と、目付きは鋭いけれど、とってもかわいい女の子の魔法使い。
二人の冒険者は所々汚れていて、冒険を終えてきた後なのだと分かる。
目的地が同じだった為、そのままゴブリンスレイヤーと疾走騎士が前で横に並び、その後ろから牛飼娘と魔術師が並んで歩くことになった。
がらがらと牛飼娘が荷車を引く音が響く。
「ゴブリンか?」
「いいえ、幸いにも違いましたよ」
「そうか」
この会話を聞いていた牛飼娘は、この騎士が彼にとって背中を任せられる相手である理由を理解した。
『幸いにも違った』……ゴブリンではなかった事に対し、そう言える者は多くない。
何も知らない者らは声を揃えてこう言うだろう、『ゴブリンは雑魚だ』と。
しかし、実際に相手にするのは楽ではない。寧ろ厄介な相手である。
場数を踏んだ冒険者達は寧ろこう言うのだ……『割に合わない相手だ』と。
つまりゴブリン退治は基本的に新米に宛がわれている、所謂貧乏クジなのだ。
事実、ゴブリン退治の依頼を請ける熟練の冒険者は居ない。唯一、ゴブリンスレイヤーを除いて。
この騎士はそれを理解している。場数を踏んだ側の、信頼出来る冒険者……。
そしてもう一つ、ゴブリンは多くの被害を生む害のある怪物だ。
村を襲い、娘を拐い、数を増やし、別の村を襲う。
ゴブリンだと言うことは、襲われた村があるという事。
疾走騎士の言った『幸いにも違った』というのは、そういう被害は無かった、という意味も含まれていた。
成る程。言葉の少ない彼と意気投合できるのもまた、言葉の少ない者だという事か。
顔の見えない兜を被ってるし、どこか雰囲気も似ている。
彼と違って礼儀正しくて、見た目にも気を使っている様子だが、それでもやはり二人は同類と言えるのだろう。
「ねえ、貴女牧場の人よね?」
「あ、うん。そうだけれど……貴女は?」
荷車を引きながら二人を眺めていた牛飼娘に、魔術師が声を掛けた。
「アイツと組んでる魔術師よ。よろしく」
「そ、そうなんだ。よろしくね」
やっぱり目付きが少し怖い……牛飼娘は魔術師に対しそんな印象を感じていたが、その視線 が自身の引いている荷車、その中にあるミルクへと向けられている事に気付く。
「そのミルク、この前飲んだの。美味しかったわ」
「え……ホント!? ありがとう!」
その言葉を聞いて牛飼娘は喜びを露にする。
「私、都から来たけど、向こうにもそんなに美味しいのは無かったわよ?」
「そうなの?」
「ええ、自信持っていいと思うわ」
「そっかあ……えへへ」
──よかった。目付きはあれだけど、彼女自身は怖い子じゃないみたい。
牛飼娘は人差し指で頬を掻きながら照れている。
わざわざ冒険者から自身が作っている品を褒められたのは、彼女にとって初めての経験だった。
「その荷物、毎日運んでるの? 凄いわね……」
「毎日ってわけじゃあないけど、いつもこうだね。お陰で筋肉も付いちゃって」
牛飼娘が苦笑いを浮かべながら力こぶを作るジェスチャーをすると、魔術師は彼女の体力と持久力に関心していた。私もそれくらいするべきかしら……と、ぼやきながら。
「ね! 二人はどんな冒険をしてきたの?」
牛飼娘が問う。彼と似ている雰囲気を持つ騎士に、わざわざ牧場のミルクを誉めてくれた彼女。
もっと二人の事を知りたい。もしかしたら私達と二人は良い友達になれるかもしれないと、期待しながら話を切り出す。
「んー、物資を依頼人に届ける依頼だったのだけれどね? 途中
「そうなんだ。でも少し羨ましいな。私は待ってる事しか出来ないからさ」
ふう、と息をつく牛飼娘。
きっと二人で力を合わせ、困難を乗り越えて帰ってきたのだろう。
それは私には決して出来ないことだ。
牛飼娘は憂鬱そうに俯く。
「そんな良いものじゃないわよ? アイツ無茶な事ばっかりするし、後ろで見てるこっちはハラハラさせられっぱなし。今回だって死んじゃうんじゃないかって場面が何度もあって、気が気じゃあ無かったんだから!」
「う、それは確かに辛いかも……」
怒りを露にして不満を漏らす魔術師。しかしどうやらいつもの事らしい。
そんな場面を毎日のように見せられれば確かに心臓に悪いし、そもそも私が着いていった所で足手まといにしかならないのだ。
「だから、助けてやらないとって思ったの。自分の出来る範囲でね」
「そっか……そうだね」
本当、その通りだ。私は彼にとっての帰る場所で、それが私の出来る事なのだから……。
牛飼娘は頷いて、魔術師と談笑しながら町へと向かう──。
───────────────
「お待たせっ!」
「あぁ」
ギルドの裏手から厨房へと荷物を置きに行った牛飼娘はすぐに戻ってきた。
荷車とはいえ、あれだけの量の荷物を平然と一人で運びきるなんて……やっぱり私も見習うべきね。
「二人もごめんねー、待たせちゃって」
「これが一番早……いや、気にしないでください」
待つ方が早いってどういう事かしら。そんな疑問を抱きながら、そのまま連れだってギルドの表側へと回る。
先頭のゴブリンスレイヤーが扉を開けホールへ足を踏み入れると、四人で真っ直ぐ受付へと向かった。
「あれ? あの人って確か師匠と組んでる……」
そこには受付嬢ともう一人、首から銀の認識証をぶら下げた槍使いの冒険者が居た。
槍使いは報告という名目で、自身の活躍を受付嬢に対し、熱弁している様子だ。
受付嬢はなんとか営業スマイルを維持しつつも、少し困ったような表情を浮かべている。
「あっ! ゴブリンスレイヤーさん!」
「うげ! ゴブリンスレイヤー!」
しかし近付いてきているゴブリンスレイヤーの姿を視認すると、受付嬢の表情は満面の笑顔へと変わり、そして槍使いの方は顔をしかめた。
「この前はありがとうございました! とっても助かりました!」
「問題ない」
「そうだ! お茶を淹れますから詳しく報告を聞かせてください!」
「ぐぬぬぬぬ……!」
受付嬢とゴブリンスレイヤーを交互に見て、歯軋りをする槍使い。
辺りを見回すと、近くの長椅子に座っていた師匠と目が合った。
ごめんなさいね? と、言いたげに彼女は苦笑いを浮かべている。
あぁ、師匠も苦労してるわね。
「ほ ら 報告は 終わった で しょ? 邪魔に なる わ」
「ちぇっ! ちぇっ!」
師匠は潮時とばかりに立ち上がると、舌打ちを繰り返す槍使いを掴んで引き摺って行った。流石師匠、意外と力あるのね……。
「悪い事をしただろうか」
「あの方はいつもあぁなので大丈夫ですよ」
「……そうか」
ゴブリンスレイヤーも意外と気にしている様子だったが、受付嬢はこれを一蹴。
彼女は悩まされてる立場だし、当然と言えば当然の対応なのかもしれない。
あの槍使いが少し哀れな気もするけど……私としては師匠を応援したいし、まあいっか。
……気持ちを切り替えた所で、背後から微かに話し声が聞こえて来た。
「やれやれ、あれが私達と同じ銀等級とはな。雑魚狩り専門でもなれるとは……等級審査も緩くなったものだ」
「放っておけよ、俺達とは関わることも無いヤツだ」
声の主は、少し離れた場所からこちらの様子を伺っていた女騎士と、身の丈はあろうかという巨大な剣を背負った重戦士。二人共、これまた銀の認識証を下げている。
そして、私に聞こえていたという事は、当然この二人にも聞こえていた訳で──。
「荷物の受け渡し印をお願いします!」
「はい! いつもありがとうございます!」
笑顔……しかし、目は一切笑っていない二人が、今の会話を快く思っていない事だけは確かだ。
凄まじい威圧感が二人から放たれていて、つい一歩引いてしまう。
……そこでふと聞こえてきた、また別の話し声。
「おい、見ろよ見ろよ。あんな小汚ない装備見たことないぜ」
「俺たちだってもうちょっと良い装備してるのにな。しかもあの両手に盾持ってるやつ、どうやって戦うんだ? 壁になるだけか?」
「やめなさい。きっと怪物が怖いのよ。聞こえたら悪いわ」
燃やしてやろうかしら。或いは吹き飛ばしてやろうかしら。
そんな事を本気で考えていると、二つの視線がこちらへと向けられているのに気付いた。
「…………」
──わかりますよ、その気持ち。
──わかるよ、その気持ち。
こうして私は、志を同じくする彼女達の仲間入りを果たすこととなった──。
Q.やはりミルク……女神官ちゃんにもミルクを飲むよう啓示を送るべきか……。
A.時既に時間切れ、もう勝負着いてるから。