【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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パート12 裏 後編 『彼は勇者か、それとも……』

 ──どうして……。

 

 

 疾走騎士からの報告を受けた受付嬢は、筆を持つ手を震わせながら、頭を抱えていた。

 

「……すみません、もう一度お願いします。『はぐれ』の……ゴブリンですか?」

 

 その報告内容はとても信じられるものではなく、自身の聞き間違いなのではないかと僅かな希望にすがり付くようにして疾走騎士に聞き直したのだが……。

 

悪魔(デーモン)です」

 

 そんな希望は脆くも一瞬で砕け散った。

 

「しょ、少々お待ちを!」

 

 ああああああもうやだああああああ!!

 受付嬢は心の中で悲鳴を上げながら、監督官の下へと走る。

 

「おっ、大丈夫か大丈夫か?」

 

 ギルドの奥、少し早い昼休憩で小説を読んでいた監督官が、慌てた様子で飛び込んで来た受付嬢を見て何事かと立ち上がった。

 

「ま、また彼が……」

 

 涙目でぷるぷると震える受付嬢に縋り付かれた監督官は、その様子を見て大体の事情を察する。

 

「また彼か壊れるなぁ」

 

 日々やってくる新人の冒険者達。最近、その中でも特に『面白いの』が一人現れた。

 きっと彼がまた何かやらかしたのだろう。とても愉快だ。

 自身の担当でないのは残念だが、結局こうして私の前へとやって来てくれるので良しとしよう。

 先程まで読んでいた本を自身が座っていた椅子に置き、彼女はニヤニヤと口元を緩めながら受付へと向かうのだった。

 

─────────────────

 

「うんうん、つまりその遺跡の地下に、太古から生き残ってた『はぐれ』のデーモンが居た訳だね? なんだそれはたまげたなあ」

「おっ、そうですね」

 

 監督官は疾走騎士の報告を愉しげに聞いていた。

 その隣に立つ受付嬢は二人の会話に若干癖の強さを感じつつも、彼の報告から状況を把握しようと努めている。

 

「その遺跡に向かったのも依頼人が待ち合わせ場所に来なかったのが原因で、君達が来なければ彼女も危なかったと。これって……勲章だよ?」

「やったぜ」

 

 本当に危ないところだったのだろう。彼等が帰ってきて本当によかったと、受付嬢は自身の胸を撫で下ろした。

 

「そのデーモンの身長は君達の数倍。横もそれと同じくらいの大きさ。しかも自身より大きな斧を手に持ってたと……はえ~すっごい大きい……」

「すっげえキツかったですよ~」

 

 監督官は両手を大きく広げる動作で表現しているが、本物はそれどころの大きさではないらしい。

 ゴブリンとは違い、デーモンの『はぐれ』はあまり馴染みが無いものだが、受付嬢も古いデーモンの生き残りの話は聞いたことがあった。

 既に滅んだ混沌の勢力が生み出したデーモンの生き残り。

 勇者と遭遇(エンカウント)する事なく、放置されたその(シンボル)が、永い時を経て発見される事が稀にあると。

 

「デーモンは斧の先端から爆発を起こしたり、背中に生えてる羽で飛んだりしたと。あ~もうメチャクチャだよ~」

「辞めたくなりますよ冒険者~」

 

 しかし話を聞く限り、銀等級数人がかりでようやく倒せるレベルなのではないかと疑いたくなるほどの相手だ。

 黒曜に上がったばかりの彼等が、よくそれほどの相手を倒せたものである。一体どうやったのだろうか?

 

「攻撃をやり過ごし続けてるとデーモンが空を飛んで逃げようとしたから、こっちも空を飛んで盾を突き刺したと。ちゃんと二本咥え入れた~?」

「当たり前ですよねぇ!」

 

 やはりマトモな方法ではなかった。どうしてデーモンに空中戦を仕掛けたんですか?

 そもそも依頼人を見付けた段階で連れて逃げるのが普通ではないのか?

 言いたい事が山ほどあるが、とにかく職務を遂行する為に二人の話を聞き続ける。

 

「デーモンが半ば自滅する形で気絶したから、頭を一突きにしてトドメを刺したと。やりますねぇ!」

「やっぱ彼女の……呪文を……最高ですね!」

 

 どうやら魔術師の彼女がサポートしたお陰で彼はデーモンを倒せたそうだ。

 やはり彼等の実力は、他の新米の冒険者達とは一線を画しているのだろう……。

 

「その後、目が覚めた依頼人に物資を渡して依頼は達成。こうして帰ってきた……と。冒険者の鑑だねこのやルルォ……!」

「パパパっとやって終わりっ!」

 

 どうやら報告は以上のようだ。

 大きくため息を吐き、何とか気を持ち直して彼等へ報酬を手渡した。

 

「申し訳ありませんが、悪魔(デーモン)の討伐報酬に関しましては後日こちらで調査を行ってからとなります。何しろ『はぐれ』……太古の悪魔(デーモン)が生き残っていた事も、それが討伐された事も稀でして……」

「しょうがないですね」

 

 彼等も納得して、僅かな報酬を受け取った。

 すると後ろに控えていた魔術師が口を開く。

 

「ギルドの評価はどうなるの?」

「そ、それに関しましてはもちろん従来より上乗せさせて頂きます!」

 

 今回の件を受け、ギルドは二人の昇級を急ぐ事となるだろう。

 既に彼等の実力が等級に見合っていないのは明らかなのだから。

 

「ねねねね~、キミもしかして『勇者』だったりする?」

「ファッ!?」

 

 唐突な監督官の言葉に対し、受付嬢は声を上げた。

 冒険者になったばかりの新人が大きな功績を挙げるのは珍しいが、前例はいくつもある。

 だが彼の場合は度が過ぎているのだ。異常とも言っていい。

 もし彼が『勇者』なのであれば、それらの辻褄が合ってしまう。

 だから受付嬢はまさかと思いつつも、ごくりと息を呑んで彼の答えを待った……。

 

「(勇者では)ないです」

「あっそっかあ」

 

 あっさりとした否定に受付嬢はずっこけるも、受付のカウンターに肘を付きながらなんとか立ち上がった。

 

「も、もうっ! 変な質問しないでくださいよ!」

 

 受付嬢が不服を露にして監督官に抗議する。

 しかし彼女はそれを意に介さず、疾走騎士の兜の……深淵の奥に沈む目をじっと見詰めていた。

 

「ふぅん? 嘘じゃないけど、案外外れてないかもね」

「?」

 

 彼女の意味深な言葉に疾走騎士は頭を傾げていると、そこへ一人の少女が現れる。

 

「あっ……どうも」

 

 女神官だ。新たな奇跡を賜る為に、数日前から神殿に籠っていた彼女がようやく戻ってきたようだ。

 

「行けるのか?」

「は、はいっ!」

 

 それを見たゴブリンスレイヤーが声を掛け、女神官が返事をする。

 

「ゴブリンスレイヤーさん、こちらの用件は終わりましたよ」

「ならゴブリンだ。今日は何件ある」

 

 疾走騎士の言葉を聞いて、早速と言わんばかりにゴブリンスレイヤーは受付嬢に問う。

 すると彼女は引き出しに纏められたゴブリン退治の依頼書を取り出した。

 

「えっと、ちょっと少ないですが三件ですよ三件。西の山沿いの村に中規模の巣、北の河沿いの村に小規模の巣、南の森に小規模の巣。以上ですね」

「他が請けた箇所はあるか」

「南の森は新人さんが受けましたね。近くの村からの依頼です」

「先程ロビーに居た戦士、魔術師、神官戦士の三人ですね?」

 

 突然口を挟んだのは横で聞いていた疾走騎士だ。受付嬢は困惑しながらも頷いた。

 

「え、えぇそうです」

「ふむ、バランスは悪くないな」

 

 しかし、それでも新人の一党だ。戦力としてはあまりに心許ないだろう。

 

「さっきロビーに居た……三人で勝てるわけないですよ!」

 

 何も知らない新人達が、ゴブリンの巣へと向かった。

 それがどれ程に危険な事なのか、身をもって知っている女神官が声を大きく上げると、受付嬢は肩を落として呟く。

 

「私共としても止めたかったんですけれどね……ヘーキヘーキ! ヘーキだから! って言われちゃうと、その……」

「助けに行きましょう! 今ならまだ間に合うかも──」

 

 彼女は地母神に仕える神官だ。見捨てる事は出来ないとゴブリンスレイヤーに訴える。

 だが──。

 

「好きにしろ」

「……えっ?」

 

 カウンターに並べられた三枚の依頼書のうち、ゴブリンスレイヤーが手にしたのは新米達が向かった南ではなく、西のゴブリン退治の依頼書だった。

 

「何を勘違いしているかは知らんが……こちらを放置するわけにはいかん」

「そ、そんな……!」

 

 中規模にまで成長したゴブリンの巣。今叩かなければ危険だ。そう説明するゴブリンスレイヤーに女神官は愕然とした。

 ゴブリンスレイヤーの言っている事は何ら間違ってはいない。

 しかし彼女は、そんな『よくあること』に対して納得が出来なかった。

 とはいえ、たった一人でゴブリン退治に向かう力は女神官には無い。

 新米の一党を救う事が出来ない絶望に、彼女が打ちひしがれていると──。

 

 

「なら、自分達が行きましょう。それで良いですね?」

 

 疾走騎士が南のゴブリン退治の依頼書を手に取った。

 

「え……いいんですか?」

 

 疾走騎士の実力は、女神官もよく知っている。

 もし彼が引き受けてくれるのであれば、彼女の気も和らぐだろう。

 

「いずれにせよ、ゴブリンは殺さなければならない。そうでしょう?」

「……あぁ」

 

 疾走騎士の言葉に、ゴブリンスレイヤーは頷いた。

 

「となるとあと一つ、北側が後回しになってしまいますが……」

 

 残された北のゴブリン退治の依頼書。小規模ではあるが放置は出来ないだろう。

 

「西を潰したら向かうつもりだ」

「しかし距離が少し離れています。負担が大きいのでは?」

「アンタが言うと説得力が無さすぎるわね……」

 

 疾走騎士が指摘するも、すかさず呆れたように魔術師がツッコミを入れた。

 一応言ってる事はもっともなのだが……受付嬢も頷いて同意する。

 

「他に受けてくれる一党が居れば──」

 

 その言葉を皮切りに、とある一党が飛び出した。

 

「話は聞かせてもらったよ!」

「そちらは我々にまかせてもらおう!」

「ゴブリンは私達にとっても許されざる怪物です」

「という訳です。構いませんか?」

 

 現れたのは鋼鉄等級一党だった。

 どうやら彼女達は隠れて話を聞いていたらしい。

 

「今日は依頼を受けていなかったんですか?」

「いやー、それが寝坊してさぁ!」

「二日連続とは何たる様だ……」

「残っている依頼があって良かったです……」

「あはは……まあ、そういう事でして」

 

 苦笑いを浮かべる自由騎士。一度の失敗を経て成長した彼女達の実力は、十分信用に足る物だろう。

 

「ふむ、何はともあれ有り難いですね。ゴブリンスレイヤーさん、構いませんか?」

「……任せる」

 

 一言、発した声には間違いなく疾走騎士への信頼があった。

 

「では、皆さん御武運を」

「今度のゴブリン退治は楽勝で終わらせるから、見ときなよ見ときなよ~!」

「おいヤメルルォ! そういう油断が前回のような失敗を生むんだぞ!? 分かってるのか!?」

「おっ、大丈夫ですか大丈夫ですか? 《聖撃(ホーリー・スマイト)》(物理)しましょうか?」

「すみません騒がしくて……そちらもどうかお気をつけて」

 

 こうしてそれぞれの一党が冒険へと発つ。

 女神官は疾走騎士に頭を下げ、ゴブリンスレイヤーは牛飼娘に気を付けて帰るよう一声掛け、揃ってギルドを後にした。

 鋼鉄等級一党はいつものように圃人野伏がおどけ、森人魔術師が突っかかり、女僧侶が嗜め、自由騎士が律する。この流れを繰り返しながらギルドから出る。

 そして疾走騎士と魔術師も、同じくゴブリン退治へ向かおうとする……が──。

 

「ね、ねぇ君!」

 

 牛飼娘が二人を呼び止める。扉に手を掛けていた疾走騎士が振り返ると、牛飼娘は薄い布に包まれた大きなチーズを手渡した。

 

「コレあげる。二人で食べてよ」

 

 元々お礼をするつもりで、先程納品した物のうちから一つだけ取っておいた品だ。

 今回のやり取りで、牛飼娘はゴブリンスレイヤーの周囲の環境が変わりつつある事を知った。

 それは疾走騎士を中心としていて、間違いなく良い変化なのだ。……女の子ばかりなのが少し気にかかるが。

 

「その、彼の事……これからもよろしくね?」

 

 この騎士が、今後も彼の助けになってくれる事を彼女は祈る。

 疾走騎士は差し出されたチーズを受け取って、首を大きく縦に振った。

 

「こちらこそ。チーズ、有り難く頂きます」

「また会いましょ。今度はミルクでも飲みながらね」

 

 そして二人は行ってしまった。牛飼娘もギルドを出て、空を見上げる。

 ……今日も良い天気だ。晴れやかな気持ちに満たされながら、彼女は牧場へと帰るのだった。

 

───────────────

 

「つまるところ、『ちょっとだけ勇者』ってところかな? やっぱり面白いよね~」

 

 疾走騎士達を見送った監督官は受付で頬杖をついていた。こういった雑談も人が疎らなこの時間帯だからこそ出来ることである。

 

「まだ言ってるんですか? 彼は違うって言ってたじゃないですか。嘘じゃ無かったんでしょう?」

 

 書類を纏めながら呆れる受付嬢に対し、監督官が指を振る。

 

「ちっちっち、なりたくてなるんじゃない。なってしまうのが『勇者』なのだよ。例え自覚が無くてもね」

「え……じゃあ本当に?」

「な~んてね。勇者だったらもっと何でもかんでも成功に導いて、彼はきっとここには居ないよ」

 

 監督官は肩を透かして受付嬢をからかった。今度はなんとかずっこけずに持ちこたえる。

 

「もう! いい加減にしてください!」

「……でもさ、成功だけの物語よりも……失敗ばかりだけれど、それでも頑張って這い上がるお話の方が、私は面白いと思うんだよね」

 

 常に『成功(クリティカル)』を引き続けるのが勇者だとすれば、彼は寧ろ真逆の存在なのだ。唐突な真顔でそう語る監督官に、受付嬢がジト目を向けた。

 

「……つまり、いつも通りオモチャにしたいだけって事ですよね?」

「人聞き悪いな~。私はただ楽しんでるだけだよ~?」

「はあ、休憩中に呼び出してすみませんでした。どうぞ戻ってください」

 

 これ以上話していても疲れるだけだ。そう判断した受付嬢は後ろを向いてギルドの奥を指差す。

 

「そうさせてもらおうかな~。あ、受付はちゃんと前を見なよ~?」

「前? ──ファッ!?」

 

 前へ顔を向けると、受付嬢の目前に疾走騎士が立っていた。

 

 万が一に備え、解毒の水薬(アンチドーテ)を買っておきたいという疾走騎士に、受付嬢が強壮の水薬(スタミナポーション)をオマケにして差し出すと、彼は頭を下げて受け取った。

 

「では、行ってきます」

「はい! お気を付けて!」

 

 災難にばかり見舞われてしまう彼にも、少しは良いことがあって然るべきだろう。これは受付嬢なりの『よくあること』への抗いだった。

 

「ぐぬぬぬぬ! なんで俺には貰えないんだ!」

「そういう とこ よ?」

 

 今のは聞かなかった事にしよう。

 

─────────────────

 

 邪魔な草木を掻き分けて、森の中を進んでいく。

 正直、疾走騎士があの新米達を助けに行くと言い出したとき、私は止めようか悩んだ。

 彼を嘲るような物言いをしたあいつらの為に、どうしてここまでしなきゃいけないのか……と。

 

「勇者……ね」

 

 疾走騎士は決して勇者ではない、それは間違いない。

 特別な力があるわけではないし、しょっちゅう失敗もする。

 先程も水薬を買い忘れていたし……。

 しかし彼は私を救い、あの鋼鉄等級一党も救って、そして今回はあの新米の一党を救おうとしている。

 その姿勢は、確かに勇者(ヒーロー)と言って良いのかもしれない。

 

 しかし、それなら彼はどうして──『あの二人』を助けなかったのだろう。

 

「…………」

 

 そこで彼は突然立ち止まり、こちらを振り向いた。

 

「……な、何よ? 急に立ち止まったら驚くじゃない」

 

 彼は突然不自然な行動を起こす時がある。マンティコアと戦う前は私を押し倒し。あるいは遺跡で足元を蹴ってまわったりと……。

 しかし前者はマンティコアから身を隠すため。後者は依頼人を助け出すための最短ルートを進むためだった。

 つまりこの行動も何かしらの理由があるからだろう。……多分。

 

 ……だからって人の体をまじまじと見詰めるのは良くないと思う。

 咄嗟に自身の胸と腹部を腕で隠すと、彼は納得したように頷いて再び歩き出した。……え? 今の何だったの? 私の何を確かめたのよ。ねえ?

 

 そして暫く進んだ先、私達はゴブリンの巣穴の入り口を発見した。

 

「着きましたか。見張りの死体すら無いですね」

「……中で待ち伏せかしら? 芸がないわね」

 

 少し離れた木々の隙間から様子を伺うが、辺りにゴブリンの気配は無い。

 

「きゃああああああ!!!」

 

 警戒しながら近付くと、そこで人の……女性の悲鳴が巣穴の奥から響き渡った。

 

「っ! 明かりは任せます!」

 

 彼は私に松明を放り渡し、盾を構えて巣穴の奥へ駆け出す。

 

「ああもう忙しないわね! 《インフラマラエ(点火)》!」

 

 私は松明に火を灯し、左手に持って彼の後に続いて走る。

 その先に居たのはゴブリンに囲まれた新米の冒険者達だ。

 一人の魔術師が腹部から血を流し倒れ、あとの二人が顔を青くしながら闇雲に武器を振り回している。

 あのままではダメだ、間違いなくあの剣士の二の舞になる。そう判断した私は杖を構えた。

 

「《突風(ブラストウィンド)》を!!」

「任せて!《ウェントス()》《クレスクント(成長)》──」

 

 そこまで詠唱した所で、疾走騎士が声を上げて新米達に注意を促す。

 

「ゴブリン達を吹き飛ばす! 伏せろ!」

「えっ!? 誰!?」

「《オリエンス(発生)》!!」

「な、何だ!? 風!? うわあぁっ!!」

 

 ゴブリン達は突然の突風に為す術もなく吹き飛ばされて地に伏せる。新米の一党も体勢を崩し、悲鳴を上げてごろごろと転がった。……ふぅ、気持ち良かったわ。

 

「《いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らをどうか大地の御力でお守りください》」

「《聖壁(プロテクション)》」

 

 そして、不可視の巨大な壁がゴブリン達を踏みつけた。

 

「ぺっ! ぺっ! 砂が口に入った!」

「な、何するのよ貴方達!」

 

 不可視の壁をすり抜けて立ち上がった二人の冒険者。助けてもらいながら物言いしている事が私は気に食わなかったが、疾走騎士はそんな事はどうでも良いとばかりに解毒の水薬(アンチドーテ)を彼等へ手渡した。

 

「彼の治療が終わったら手伝ってください」

「早く解毒しないと間に合わないわよ」

 

 私達がそう言うと、彼等はようやく仲間が死にかけている事に気付き、治療に取り掛かった。やれやれと頭を振るが、ついこの間まで私も彼等と同じレベルだったのだ。強く言うことは出来ない。

 

「松明でも奴等は殺せますので。そっちの端からお願いします」

 

 《聖壁(プロテクション)》に押し潰されているゴブリン達。身動きが取れずにもがく者、壁を叩いて壊そうとする者、地面を掘って抜け出そうとする者、その一つ一つに対し、疾走騎士は盾を振り下ろして潰していき、私は松明を押し付けゴブリンの顔を焼いた。

 

 ……ゴブリンの悲鳴が一々煩いわね。《沈黙(サイレンス)》が欲しくなるわ。

 

「あ、あんたらは一体……?」

「そんな事はどうでも良いから、治療が終わったなら早く手伝って。無駄は嫌いなのよ」

 

 ゴブリンの血で真っ赤に染まったアイツの盾を見せつけられたのは満足だけれど、彼等は私達の作業的なゴブリン退治を見ながら唖然としているだけで、結局手伝ってはくれなかった。

 

 




Q.女神官ちゃんの影が薄い……薄くなってない?

A.ゴブリンスレイヤーさんの相棒枠が疾走騎士くんに奪われつつある、ハッキリ分かんだね。

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