【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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パート13 裏 後編 『この先、挟み撃ちがあるぞ』

 《聖撃(ホーリー・スマイト)》(物理)を受け、頭に大きなコブを作った圃人野伏と森人魔術師の二人。

 しかし彼女達はそんな事はお構い無しに酒を呷りまくっていた。

 

「──ヒュゴウッ!」

「あひゃひゃひゃ!! すごい吸引力だあ!!」

「くっふ……っ! ダメだ耐えられんっ! はははははっ!!」

 

 完全に酔っぱらいと化した二人は疾走騎士の食事を見て大笑いしている。確かにあの食事風景は想像を絶するところがあるわよね。もはや魔法の域でしょあれ。

 

「ここは私達が持ちますから、好きなだけ食べてくださいね」

「え、悪いわよそんな」

「我々の相談に乗ってもらったせめてものお礼です。遠慮なさらないでください」

 

 うーん、良いのかしら? でも折角の好意を無下にする訳にもいかないわよね……。

 

「そーそー! リーダーお金持ちだし大丈夫だって! ヘーキヘーキ! ヘーキだから!」

「貴族令嬢の鑑がこのやルルォ! 羨ましいぞ!」

「き、貴族!?」

 

 確かに育ちが良さそうだと思ってたけれど、本当に貴族だったのね……。

 

「あ、あの! あまり大きな声で言わないでくださると……」

「あっ……ご、ゴメンなさい……」

 

 私は慌てて自身の口を押さえた。自由騎士は不安そうに瞳を揺らしながら私達を見ている。

 どうやら彼女にとって、自らの出自は知られたくない事だったようだ。

 

「大丈夫ですよ。貴族だろうと何だろうと、貴女は貴女です。それに、命を預け合う冒険者同士でそんな事を気にはしていられません」

 

 彼女の心中を察したらしい疾走騎士の言葉を聞いて、彼女の曇った表情はすぐに明るい笑顔へと変わる。

 ……そっか、私達が態度を変えたりするかもって恐かったのね。

 確かに、そういう身分の人間を嫌ってたりする冒険者も居るし、そうでなくても謙るような態度に切り替えるようなのも居る。

 そりゃあ不安にもなるか……。

 

「ありがとうございます……!」

 

 貴族令嬢である彼女が家を飛び出して冒険者をしている時点で、訳ありだという事は察しがつく。

 きっと、彼女にも彼女なりの、戦う理由があるのだろう。

 

「お、お待たせしました。追加注文の品です」

「どもー!」

 

 女給から渡された料理を圃人野伏が受け取り、疾走騎士の前へと置く。いやどれだけ食うのよ、ソレもう三皿目でしょ。

 

「ところで、なぜあのような相談を自分達に? 先程はああ言いましたが、自分も貴女方は等級相応以上の力量を持っていると思います。自信を持っていいかと思いますが……」

 

 置かれた料理を一瞬で消滅させながら、疾走騎士は彼女達に対し疑問を投げ掛ける。

 なお手渡した料理がことごとく消えていく有り様を見た女給は、未知の怪物を見るかのような目を疾走騎士に向けていた。

 

「……我々は一度、ゴブリン相手に不覚を取りました」

 

 彼女達が窮地に立たされた、山砦での話だろう。疾走騎士は頷いて、耳を傾ける。

 

「準備を万全に行い、慎重に進み、貴方のように鉄壁とは言えずとも、私達なりに守りを固めながら戦って、それでも…………ダメでした」

 

 鋼鉄等級として実力も十分にある彼女達が、ゴブリンによってあわやという所まで追い詰められた。

 それは紛れもない事実であり、疾走騎士が救出に向かわなければ、彼女達は『ごくありふれた結末』を迎えていただろう。

 

「あのような事が、再び起こらないとは限りません。しかし我々は、もう同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。『運が悪かった』では済ませられないのです」

「……成る程。今後自分達が生き残る為にも、一党の問題点を洗い出しておきたかったと、そういう訳ですか」

 

 私達冒険者は、死んでしまえばそれで全てが終わってしまう。

 たとえ次の冒険者がうまくやったとしても、死んでしまった者達は……絶望へと突き落とされた者達は、もはや救う事は出来ない。

 『運が悪かった』で命を落とさない為にも、彼女達は彼女達なりに動こうとしているのだ。

 

「まあ、私が一番の原因である事には違い無いんだよねぇ~」

 

 意気消沈といった様相で机に突っ伏した圃人野伏。そもそも一党を窮地に陥らせた原因が罠の見落としである事を、彼女自身も理解している様子だ。

 

「斥候の屑がこのやルルォ……!」

 

 そこへ森人魔術師が追い討ちをかけた。

 流石にショックだったのか、勢いよく立ち上がり抗議する。

 

「ひどっ! 結構気にしてんだからね! そっちだって一番最初に魔法を撃ち尽くして、戦力外になったくせに!」

「ぐっ……ああいった雑魚の大群は苦手なんだ! ちゃんと大物相手だったら私だってなあ!」

「どうだかねー。このまえトロル相手にぶっ倒れてたじゃん」

「試しにやってみた技の消耗が激しかっただけだ! それにちゃんと相手は倒せてただろう!」

「それをガバって言うの! 第一《火矢(ファイアボルト)》を指先からいっぺんに撃つだけでしょ!? なんの利点があるのさ!」

「《五指火矢撃ち(フィンガーフレアボムズ)》だ! 今はまだ同時に三発までだが、いつか必ず五発同時に撃ってみせる!」

「やっぱガバ呪文じゃん!?」

「何だとぉ!? オリジナル呪文と言え!!」

 

 そして二人はギャアギャアと喚きながら取っ組み合いを始めてしまった。

 しかしその間には疾走騎士が居る訳で、彼女達の体に挟まれる形で揉みくちゃにされてしまう。

 

 話は変わるが、圃人という種族の背丈は只人の子供程度が平均的である。

 しかし圃人野伏の胸はアンバランスにも只人の平均並みの質量を備えており、それが女性としての彼女を強調していた。

 

 対に位置する森人魔術師に至っては一目で分かる程に豊満。平均に比べて十二分だろう。恐らく等級に換算して銀等級程度だと思われる。なお師匠は金等級。

 

 なぜ唐突にそんな話をしたかと言えば、現在疾走騎士の頭には、そんな彼女達の立派なモノが左右から押し付けられているのだ。

 ノーリアクションを貫く彼の兜に合わせて形を変え、その柔らかさが見てとれる。

 

 ──どうしてこうなった? 疾走騎士は虚空を見つめる。

 

 二人は完全に酔っているし、取っ組み合いに夢中で疾走騎士に気付いている様子もない。席の位置も最悪だ、二人はただ単に疾走騎士の隣だという理由だけであの場所に座ったのだろうが、それが結果的にこのような惨状を作り上げた。

 つまり冷徹に真実を告げるとすれば、一重に運が悪かったのだ──。

 

 

 ……よし、この二人燃やそう。私は足元に立て掛けてある杖に手を伸ばそうとした。すると刹那、私の左右に座っていた二人がゆらりと立ち上がる。

 自由騎士は兜を被りながら圃人野伏の頭を掴み、女僧侶は杖を振り上げ森人魔術師の背後に立った。

 

「ファッ!?」

「オォンッ!?」

 

 鈍い打音と甲高い打音が重なって鳴り響くと、言い争いは静寂へと変わる。

 片や頭突きを受け、片や杖で殴られ、その頭には二段目の大きなこぶが完成し、煙を立ちのぼらせていた。

 

「失礼しました」

「いえ……」

「二人ともお酒が回って酔い潰れたようですし、そろそろ御開きに致しましょうか」

「……そ、そうね」 

 

 白目を向いて倒れ伏す二人は酒で酔い潰れた訳ではないのだが、そもそもの原因は彼女達の悪酔いである。そういった意味では間違っていないのだろう。

 仕方ない。私は杖を持って席を立った。

 

 そして現在、疾走騎士の両肩には意識を失った圃人野伏と森人魔術師が担がれており、宿へ運んでいる最中である。

 

「その、貴方にはいつも御迷惑をお掛けして……本当に申し訳ありません」

 

 恩人である彼に対して一党が数々の無礼を働いている事に対し、頭目の自由騎士は頭を下げた。

 

「いえ、食事をご馳走になったんですから、これくらいは構いませんよ」

「し、しかし……」

「気にする事ないわよ。コイツ遠慮も無くとんでもない量食ってたし、働いて返させるべきね」

 

 その言葉が刺さったのか、疾走騎士は小さく呻ったあと、何も言わず足を早めた。

 私達はそれを見てくすくすと笑いながら、彼の後をついて歩く。

 

「今日は楽しかったわ。ありがとう」

 

 自由騎士と女僧侶に対し、私は率直に礼を述べた。

 二人は一瞬驚いた表情になるが、すぐに微笑んで首を縦に振る。

 

「それは良かったです。お二人が冒険から戻ってきた時、雰囲気が暗かったので何かあったのかと……」

「う……気付いてたのね」

 

 正直に言えば、良い気分転換になったのは間違いない。

 あんな大人数での食事は久々だった。

 

「……でも、周りが少し気になったわね」

「あぁ……やはり……」

 

 実は私達が食事をしている間、いや、正確には席に着いた時から、私は周囲の冒険者達からの視線を感じていた。

 わざわざ気にする程の事でもないと敢えて何も言わなかったが、不快に感じる視線も中にはあったのだ。

 

「いつもあんな感じなの?」

「いつもという訳ではありませんが、女性だけの一党というのは注目を浴びてしまうようでして……」

「声を掛けてくる人だって居るんですよ!? 本当に非常識というかなんというか……!」

 

 ため息をついて肩を落とす自由騎士と、憤慨する様子を見せる女僧侶。

 彼女達一党はメンバー全員が容姿端麗。

 同じ女性である魔術師から見てもそれは間違いない。

 そんな彼女達が放って置かれる筈もなく、軟派な男性冒険者からそういった目で見られる事も少なくは無いのだろう。

 

「それに比べ、今日は平和でした」

「あの人が居たからでしょうね!」

「そうね。でもそのせいでアイツ、かなり睨まれてたけれど」

 

 容姿端麗な彼女達の中に一人男が交ざれば、それは嫉妬の対象となる。

 実際色んな事言われてたわね。チキン盾野郎とか、ハーレム野郎とか、ゴブリンスレイヤー二号とか……覚えておくわよ、あいつらの顔。

 

「やはりそうでしたか……本当に申し訳ありません」

「まあいいんじゃない? アイツ、メンタル強いし」

 

 でも人付き合いはきっちりする奴なのよね。

 礼儀正しくて、誠実で、優しくて、頼り甲斐があって…………って、いけないいけない、そんな事を考えてる場合じゃあなかったわ。

 でも、そういう所を彼女達も好ましく思ってるんでしょうね。

 それに関しては同意だわ。

 

 

 

『────この世界は、当然の権利のように、我々を絶望へと突き落とします』

 

 

 

 アイツは恐らく、とても大きな何かに抗おうとしている。

 それが何なのか想像もつかないし、私に何が出来るのかも分からない。

 

「ですがそれでは……」

「そもそも、アナタ達が謝る事じゃあないでしょ? それにさっき言ったように私は楽しかった。だから──」

 

 だとすれば、私がするべき事は一つだ。

 

「──また今度、誘ってもらえる?」

 

 アイツを助けるためには私だけの力じゃあ足りないかもしれない。

 彼女達の力が必要になる事もあるかもしれない。

 そう考えると、彼女達との協力関係は維持していくべきよね。

 

「え、良いのですか?」

「賑やかな食事なんて、冒険者になって初めてだったわ。ほら、アイツの食事ってあまりにあっさりしすぎじゃない? 楽しむ余裕も無いのよ」

「で、ではまたお誘いします!」

「ええ、よろしくね」

 

 ただあんまり近付けすぎて今回みたいな事になるのは良くないわね……気を付けないといけないわ。

 

 

 そして、宿へ戻った私達を圃人の女主人が出迎えた。

 

「よかった! お二人共帰って来たんですね! 昨日は心配してたんですよ?」

「ただいま。一日空けただけで心配しすぎよ? 私達冒険者だし、何日も開く事だってあるわ」

「だからですよ。冒険者の方はいつ帰って来なくなってもおかしくないですから……」

 

 残される側は不安になるものだ。私は今日の冒険でそれを実感し、疾走騎士に辛く当たってしまった事を思い出した。

 アイツには後で謝らないといけないわね……。

 

「二人を部屋まで運んで来ます」

「ん、わかったわ」

 

 疾走騎士が担いでいる二人を彼女達の部屋へ送り届け、私達は自分達の部屋へと戻る。ホント、昨日も今日も疲れたわね。

 

「風呂入ってさっぱりしましょう」

 

 確かに昨日は野宿だったし、色々と心配になってくる……特に臭いとか。

 でもその前に、今日の事をちゃんと謝っておこう。

 

「ねぇ、疾走騎士。今日はごめんなさい。私、つい怒鳴っちゃって……」

 

 私が謝ると、彼は首を横に振る。

 

「……ありがとうございます。心配してくれたんですよね?」

 

 意外にも、返ってきたのは感謝の言葉。

 いつものように抑揚の無い言葉。

 しかしその声には、どこか感情が込められている様な気がして、私の胸に熱い物がこみ上げた。

 

「自分は正面から行くしか脳がないですから、これからも心配させてしまいますが、それでも良ければ今後もよろしくお願いします」

「……つまり、止める気は無いって事ね。もう、仕方ないんだから。アンタは」

 

 悪びれる様子の無い彼に怒る気も起こらず、寧ろ笑ってしまう自分がそこに居た。

 

「──じゃあ、どこまでも付いていくわね」

 

 きっと、止めても無駄なんだ。それを理解した私は、自身も止まらぬ覚悟を決めた。

 

「え……流石にあの一人用の風呂に二人は無理では?」

「そ、そういう意味じゃないわよっ!」

 

 そして長い一日が終わる。

 いつか必ずコイツと希望を掴み取ってみせる。私は絶対に諦めないんだから。

 

 

 

───────────────

 

 

 

 あの二人は助けられなかった……本当にそうだろうか?

 

 

 

 助けようともしなかったのは事実だろう?

 

 

 

 そうだ、彼等が迎えた最悪の結末は、決して運ではなかった。

 

 

 

 賽子すら投げなかったのは……自分自身。

 

 

 

 《宣託(ハンドアウト)》に従い、あの剣士と武闘家を囮にした自分自身が、彼等にあの結末をもたらしたのだ。

 

 

 

「正に人間の屑……だな」

 

 自らにそう吐き捨て、隣のベッドで眠る彼女へと目を向ける。

 

 同じ事が再び起こらないとは限らない。あの自由騎士が言っていた言葉は……正に自身が危惧している事そのものだった。

 

 もしまた同じ事が起きたら、自分はまた繰り返すのだろうか?

 

 

「迷えば敗れる……か」

 

 ……幾度も、いや、何十回と言われた言葉。祖父に一本取られる度、この身に思い知らされたその言葉は、無慈悲で、しかし希望への細い糸を手繰り寄せる為の心構えとして強く根付く。

 

 

 ──人の縁とは、つくづく面白い。お主も、巡ってここに至った。

 のう、捨てるでないぞ、縁を。そして己の心を。

 それを捨てれば、人は修羅となるのだからな。

 ……お主の目にも、修羅の影があるぞ。

 それが出れば儂が斬る、と言いたいところじゃが……そうはいかんだろうな。老いには敵わん。今日は遂に一太刀受けてしまったわい。

 

 ほれ、祝いの……酒じゃあ! 飲め! …………ほう、お主、儂のやった酒を儂に飲めというのか? カカカッ! 気に入った! もらおう!

 

 ──……どこまでも豪胆な人だった。後継ぎが居るとの事だったが、恐らく会うことも無いだろう。会ったとしても、関わる理由がない。

 

 だが、今得ている縁は失うわけにはいかない。

 

 共に一党を組む魔術師の彼女。

 鋼鉄等級一党の自由騎士、圃人野伏、森人魔術師、女僧侶。

 ゴブリンスレイヤーと、それに付いていっている女神官。

 魔術師の実質的な師である魔女。

 ギルドの受付嬢や、監督官。

 そして牧場の牛飼い娘……。

 思えば、既に多くの縁を結んでいて、その全てが自身にとって、大きな存在となっていた。

 

 ……もしこれらを失えば、自分は修羅になるのだろう。

 

 絶望が常に付き纏うこの世界で、抗い続ける為にも、自分は修羅ではなく、走者でなければならないのだ。

 

 その為にも──……そうして彼は瞳を閉じて、意識を闇に沈めた。

 




Q.何でとは言いませんが、彼女達を等級別に分けるとどうなりますか?

A.未登場キャラ含めて現時点でこうなります。勿論今後昇級する人も居ます。魔術師ちゃんに至っては今後二階級くらい上がった筈ですね。
白金:牛飼い娘さん、剣の乙女さん
金:魔女さん
銀:魔術師ちゃん、森人魔術師ちゃん
銅:自由騎士ちゃん、受付嬢さん
紅玉:武闘家ちゃん
翠玉:圃人野伏ちゃん
青玉:監督官さん
鋼鉄:女僧侶ちゃん
黒曜:女神官ちゃん
白磁:妖精弓手さん

※これはこのSSに限った解釈であり、原作に正式な資料があるわけではありません。

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