【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート 作:もふもふ尻尾
不意を打つ。罠にかける。ゴブリンスレイヤーは一党に合流してからも様々な手を駆使し、次々にゴブリン達を駆逐していった。
「全くもって無駄がない。凄いですね」
「練習をした」
魔術師を背負った疾走騎士の言葉に、ゴブリンスレイヤーが答える。
先程からゴブリンを倒してはいるが、実際に彼が行っているのは戦いではなく、もはや一方的な駆除と言える。
彼の首にかけられた銀の認識票の通り、相当な場数を踏んでいる事が伺えた。
「あれ、この剣は……」
「血脂に濡れすぎた。もう使えん」
女神官がゴブリンスレイヤーの放置した剣に疑問を抱く。どうやら破棄するつもりのようだ。
「それなら自分がもらいましょう」
「えっ」
「うん、刃は欠けていない。後で売れそうです」
ゴブリンから剣を引き抜き、状態を確認する疾走騎士に対し、女神官は驚きを隠せない。
「売るんですか?」
「えぇ、例え二束三文でも無駄には出来ません。良いですよね?」
「好きにしろ」
ゴブリンスレイヤーはそう答えながら、倒したゴブリンが持っていた槍を奪い、ロープと杭を使い罠を仕掛ける。
確かに疾走騎士達は新人だ。受けられる依頼も限られているし、その報酬も多くはない。その日暮らしになるどころか赤字になることも珍しくないだろう。
そういった意味で彼の行動はとても合理的といえる。
……しかし、冒険者になったばかりの彼がそれを理解している事に対し、女神官は違和感を覚えた。
「この穴で当たりだな。お前は待っていろ。やつらを引き付けてくる」
「成る程、待ち伏せですね」
待機の指示を受けた疾走騎士は背負っていた魔術師をその場に寝かせ、ゴブリンスレイヤーは女神官と共に奥へと進んでいった。
そこからは一瞬だった。女神官が《
串刺しになったシャーマンは倒れ、他のゴブリンがこちらへと向かってくる。
「退け!!」
指示を出すゴブリンスレイヤーと共に、女神官も来た道を戻る。
しかし先程仕掛けたロープの罠を飛び越えた際、女神官がその場へと転んでしまった。
「GOB!?」
そこへ追ってきたホブは、足元にあるロープに気付き、立ち止まる。
しかし視線を下ろした事によって、横から迫る影に気付く事ができなかった。
物陰に隠れていた疾走騎士が、全力で刃となった盾を振り下ろし、ギロチンが如くホブの首を撥ね飛ばしたのだ。
「キャア!?」
首から上が失くなったホブが女神官目掛け力無く倒れるが、ゴブリンスレイヤーが女神官を引っ張り上げ、事なきを得た。
「すみません、無事でしたか?」
「はい、何とか……ゴブリンスレイヤーさん、ありがとうございます」
「いや……」
ゴブリンスレイヤーが疾走騎士をじっと見ている。
何かが気になった様子だが、すぐに気を取り直したのか、奥から向かってくるゴブリン達へ視線を戻す。
「つ、次のが上がってきます!」
「任せてください」
女神官の警告を受け、疾走騎士が通路の正面へと躍り出る。
後続のゴブリン達を迎え撃つつもりのようだ。
「相手が正面から来るのなら、決して負けはしませんよ」
二つの盾を構えながら自信満々の様子で言い放った彼に対し、ゴブリン達は次々と襲いかかった。
しかし疾走騎士は盾を振り回し、ゴブリン達の頭を尽く潰していく。
「あの時のような失敗を、する訳にはいかない……」
あまりにも不快な光景に目を背けていた女神官の耳には、噛み締めるような彼の呟きが聞こえた──……。
───────────────
「行くぞ」
向かってくるゴブリンが居なくなった時点で、ゴブリンスレイヤーは奥へと進んだ。
女神官はその後に付いていき、疾走騎士は寝かせていた魔術師を背負い直し、後を追っていく。
奥に居るのは慰み物にされていた女性達。その中には先程ゴブリン達に連れ去られた武闘家も居た。
彼女は裸にされ、身体中がゴブリン達の体液でまみれており、どんな目にあったのかは明らかだった。
「もう……もう大丈夫ですから……」
女神官は武闘家を抱き締めた。
疾走騎士はその背後を通りすぎ、倒れたゴブリンシャーマンの前に立っているゴブリンスレイヤーの下へ向かう。
「気付いたか」
「えぇ、先程もう学びましたからね。こいつらは無駄にしぶとい」
息絶えたかのように装っていたゴブリンシャーマンは、振り下ろされた盾により、今度こそ本当にその命を磨り潰された。
「定番だな、見てみろ……」
ゴブリンスレイヤーは近くにあった骨で作られた椅子を蹴り飛ばし、その後ろに貼り付けられた木の板を引き剥がした。
奥には何匹かのゴブリンの子供が居た。
彼等は身を寄せ合い、命乞いするかの如く涙を流しこちらを見上げている。
「子供も……殺すんですか……?」
「当たり前だ」
女神官の問いにゴブリンスレイヤーは即答し、無慈悲に幼いゴブリン達を叩き潰していく。
小さな悲鳴と共に、鈍い音が洞窟に響き渡る。
「ぜ、善良なゴブリンが居たとしても……?」
「善良なゴブリン、探せば居るかもしれん。だが、人前に出てこないゴブリンだけが良いゴブリンだ」
最後のゴブリンを殺し終わったゴブリンスレイヤーが戻ると、魔術師を背負った疾走騎士は生きていた女性達に布を羽織らせ、帰る準備を整えていた。
「終わりましたね。さあ、彼女らを連れて帰り報告致しましょう」
「あぁ、そうだな……」
ゴブリンに対して異常とも言える徹底さを見せるゴブリンスレイヤーと、常に最善の行動を取る疾走騎士。
彼らに対して女神官は歪な何かを感じるが、今の精神状態でそれがなんなのかを考える余裕はもう残っていない。
彼女は何も言わず、彼らに付いて行くしかなかった──……。
───────────────
痛い……。
「出発前に受付から聞いた!ゴブリンは武器に毒を仕込む!その短剣は毒だ!まずは解毒が必要だ!」
「う……あ……」
苦しい、誰か……。
「そ、そんな!私には解毒剤も解毒の奇跡も……!」
苦しい、誰か、誰か私を……。
私を……。
「《いと慈悲深き地母神よ、どうかこの者より病毒をお清め下さい》」
「《
「う……ここは?」
「目が覚めましたか?」
「あぁ! 良かった!」
「ほう、運が良い」
私は疾走騎士に背負われた状態で目を覚ました。
辺りを見回すと、皆が一様に安堵している様子だった。
「私……生きてる?」
「ギリギリでしたが何とか、調子の程は?」
「まだ少し気分が悪いわね……」
疾走騎士に問いかけられるものの、まだ意識がはっきりしない私は頭を横に振った。
「でも……その、助けてもらった事は覚えてるわ。……ありがとう」
「一党ですから、お気になさらず」
あの時、私は完全に油断していた。ゴブリンが死んだふりをして襲ってくるなど考えた事もなかったのだ。
彼が居なければ、私は間違いなく死んでいたのだろう。
全く役に立てなかった事に対して、私の胸には悔しさが湧き出てくる。
……ん? 胸?
「…ん? えっ!!?? あっ!?!!?? な、なんで私裸なのっ!?!?!?」
やけに肌寒いと違和感を感じていたら、なんと元々着ていたローブは前面が完全に引き裂かれており殆んど残っていない。
唯一被せられた薄手の布だけが私の肌を隠している有り様だった。
「そこは覚えてないんですか? ゴブリンにやられたんですよ」
「え……じゃあ、私はゴブリンに……?」
全身から血の気が引いていくのを感じる、私が覚えているのはゴブリンに毒の短剣で刺された所までだったのだ。
もしや私はあのまま薄汚いゴブリンに犯され──。
「だ、大丈夫ですよ! すぐにこの人が助けましたので!」
「えっ? そう……なの?」
女神官の声で正気に戻る。この時、私は内心とても安堵していた。
……そう、安堵してしまったのだ。
「でも……彼女達は……」
「あ……」
そう言いながら後ろを見やる女神官につられ、私も後ろを向いた。
そこにはゴブリン達から助け出された女性達が荷車に乗せられていたのだ。
無惨に乱暴された痕を全身に刻まれた彼女達は、茫然自失といった有り様で……そしてその中には……あの武闘家も居た。
「っ!」
直視出来なかった。疾走騎士の背中に視線を戻すも、様々な感情が私の中で渦を巻く。
彼女達と私、一体何が違ったというのか? 何も違わない。たかがゴブリンだと高を括り、その結果がこの惨めな姿だ。
「よくある話だ」
「ゴブリンスレイヤーさん……」
「……誰?」
そういえばいつの間にか増えていた一人の冒険者。
救い出された女性達を乗せた荷車を引く彼は、私を背負う疾走騎士と同じような、顔が見えない兜を被っている。
「自分達の救援に来てくれた銀等級の冒険者さんですよ」
「銀等級……」
薄汚い防具を身に付けた彼は凡そ銀等級には見えないが、しかしその首にかけた認識票は間違いなく銀のもの。どうやら事実らしい。
「ゴブリンによって村が襲われ、娘がさらわれ慰み物にされる事も、新米の冒険者が初めての冒険としてゴブリン退治へ赴き全滅する事も、この世界にとっては日常茶飯事な……よくある話だ」
私は疾走騎士の背中に顔を埋める。
恥ずかしい等と考えている余裕は無く、この感情を抑える事も出来そうに無い。
「……お前達は運が良かった。だからこれからどうするかは……お前達が決めろ」
自分が無事だった事への安心感。
何もする事が出来なかった悔しさ。
二人の仲間を無惨なものへと変えたあのゴブリン達への怒り。
溢れる様々な感情とともに私は……ただ歯を食い縛りながら、涙を流し続ける事しか出来なかった……。
Q.なんで魔術師ちゃんも荷車に乗せなかったの?
A.完全に忘れて背負ったままだったからです。