【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート 作:もふもふ尻尾
昼よりもまだ少し早い時間、太陽の光に若干の暑さを感じる中、私たちは受付嬢の案内でギルド近くの広場へと足を運んでいた。
ここは以前、疾走騎士が自由騎士を押し倒……手合わせをしていた時にも使っていた場所だが、どうやら今回はここでアイツの昇級審査が行われるようだ。
なんでもギルドからの要望で『彼の昇級があまりにも早すぎるから実際に力量があるのか確かめたい』との事らしい。
で、今アイツは広場の中央で大鎧を着込んだ冒険者と向き合っている。
どうやらあの重戦士が疾走騎士の力量を計る上位冒険者のようだ。
私も情報としては知っている。このギルドでも数少ない銀等級、一党の頭目として活動しており、実績も十分に積んでいる実力者。
何より目を引くのは彼が背負った大剣だ。
……それは剣というにはあまりにも大きすぎた。
大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。
それはまさに鉄塊だった。
「まあ、それは良いとして……なんでアンタ達も来てるのよ」
「そりゃあ面白そうだからに決まってるじゃん!」
「ふふ、あの男が銀等級相手にどう立ち回るか見物だな」
「しかし大丈夫でしょうか? お相手の方、とても強そうですけれど……」
「確かにあのグレートソードは脅威ですね。しかし、彼が何の対策もしていないとは思えません」
興味津々といった眼差しを広場の中央に向けながら質問に答える圃人野伏。
腕を組んで不適な笑みを浮かべる森人魔術師。
おどおどと心配そうに疾走騎士を見つめる女僧侶。
重戦士の背負った大剣を見て冷静に考察を述べる自由騎士。
彼女達はいつの間にか付いてきていた。どうやらこの戦いを観戦するつもりらしい。
他にもあの重戦士の一党や、たまたま居合わせた冒険者が何人か興味本意で足を運んで来ていたりもする。……なんとも物好きな連中ね。
とはいえ私も、彼の力が銀等級の冒険者を相手にどこまで通用するのかは凄く気になる。
まあ、流石に勝つなんて事はないと分かってはいるけれど、自由騎士がさっき言ってた通り、アイツの事だから十中八九何かやらかすと思うのよね……。
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インタビュー? 今日の昇級試験? ったく、どいつもこいつも……。
……ああ、そういやお前さんは受付嬢の穴埋めで見に来れなかったんだったな。
まあ、俺も最初は面白そうだと思ってたさ。あんなバカでかい
だが、あくまでもあの戦闘はヤツの力量を計る為の訓練だ。万が一の事があったらマズイ。当然だな。
あの受付嬢も配慮を願って、戦いの直前、俺に向かって頭を下げてきた。
もちろん俺の方もそれは重々承知してたさ。
俺は時折、ガキ共に稽古をつけたりしてるし、手加減の具合も分かってる。
今回もそれと同じようにすれば良いと考えてたし、実際にギルドからもそれで問題は無いと言われてたからな。
……まあ、今回はそんな手加減をした結果、痛い目を見たわけだが。
受付嬢が開始の合図を出した、そこまでは良かった。
しかし背負っていた剣に伸ばした俺の手は、どういうわけか剣の柄に届かなかったんだ。
後から聞いた話だがあの野郎、戦いが始まる前から《
何が「抜かせないのが信条です」だよ。お陰で武器が無いまま戦う羽目になって…………ちっ、おい何笑ってやがる。
だから話したくなかったんだ。やっぱ騎士ってヤツはろくなのが居ねぇな、クソ。
あぁ、悪いな。アイツあれからずっとあの調子でよ。
こんな事になるならショートソードも持っとくべきだったな。あの守りもコイツでぶっ叩いてやりゃあ一発だと思ってたが、まさか封じられるとは……。
……話を戻すぞ。武器を持てないと見るやいなや、あの野郎が突っ込んできた。
で、暫く俺は逃げ回った。……なんだよ、当然だろう。こっちは丸腰なんだからな。
だがこっちもやられっぱなしじゃ居られねえ。面子ってもんがある。
だから、ぶん殴ってやったのさ。
ただまあ……やっぱあの盾は伊達じゃねえな。硬いんだよ。吹っ飛びはしたものの、効いてるのか分かりゃしねえ。即体勢を立て直して、また突っ込んできやがった。
根性のあるヤツだ、そう思ってもう一回ぶん殴ったんだが……それが失敗だった。
盾の上から殴ったら、盾の向こうに居るはずのアイツの姿は無く、盾だけがすっ飛んでった。
どこに行ったかって? ……上だよ。俺が殴る直前、盾を目眩ましにして上に跳んでやがったんだ。
そんで頭に何発か蹴りをもらって……そうだ蹴りだ蹴り。
だがな、そんなんじゃあ俺は倒されねえ。すぐに反撃を…………だからうるせえぞ! 静かにしろっつってんだろうがよ!
……ああそうだ、その時に砂をぶっかけられたんだよ。残ったもう片側の盾をスコップみたいにしてな。
お陰で鎧が砂まみれ。今バラして手入れしてもらってる訳だ。
それから? ……それで終わりだ。砂埃に紛れて何か仕掛けて来るかと思ったら、あの野郎尻尾巻いて逃げやがった。
……訳のわからねぇ奴だ。何もかも見透かしたかのような戦い方しやがって。
おまけに恐怖なんて感じないと言わんばかりに突っ込んできたかと思えば、手のひらを返したみてぇに引きやがる。
あの兜鎧といい、気味の悪さといい、二号と言われるのも納得だな。まあ次はただじゃ済まさんが。
……生き残って欲しいもんだな、ああいうのは。
…………ところでお前、その話し方何とかならねぇのか。うちのガキ共にも移ってきて困ってんだよ。
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疾走騎士の昇級審査……もとい銀等級との手合わせは意外にもあっさりと終わった。
ある程度の戦闘をこなした所で、ギルドを納得させる力量を見せたと判断した彼は、相手の重戦士に砂をぶちまけて撤退……というていで受付嬢の下へ行き、戦闘の終了を提案したのだ。
彼女はそれを受理。あそこまで見事な立ち回りを見せられれば、ギルドも納得せざるを得ないだろう。
そして昇級手続きの為、私達はギルドの受付に戻ってきた。
「力量を見せる事に拘って、無茶をするのではないかと心配していました」
「多分あれが一番早かったと思います」
どうやら今回の様な戦闘訓練による昇級審査は、受付嬢にとっても初めての事だったらしい。
しかし何事もなく無事に終わった事に、彼女も一安心といった様子を見せていた。
「でも、今回は疾走騎士さんだけですみません。貴女の功績も高く評価されていますので、きっとすぐにお声が掛かると思いますよ?」
「ん? あぁ、いいのよ。コイツ一人で散々稼いでるもの。仕方ないわ。……それに、そっちの方が都合が良いもの」
「あはは……確かにそうですね……」
気遣うように話す受付嬢だったが、私としては寧ろ好都合だった。
今回疾走騎士が先に昇級した事で、彼が私のオマケだという間違った認識は無くなるはずだ。
この前の圃人みたいな、守るしか出来ない臆病者なんて言う馬鹿なヤツも居なくなるだろう。
「では改めて、この度は昇級おめでとうございます。こちらが鋼鉄等級の認識票になります。これからも頑張って下さいね!」
疾走騎士が手渡された鋼鉄等級の認識票を受け取り、元々身に付けていた黒曜等級の認識票は受付嬢へと返却。
これで疾走騎士は正式に、鋼鉄等級へと昇級した事となる。
「あれ? そういえば今回は作ってあるんですね。認識票」
「前回の昇級はあまりにも唐突でしたから」
「ああ……確かにね」
前回、黒曜等級へと昇級した際、認識票を渡されたのは審査の翌日。
あの時は不意に遭遇した
今回の昇級は、『はぐれ』の
真面目で優秀な新人、かつ対人関係も良好。昇級に値する人物である事は明白だったのだ。
実のところ、昇級審査として戦闘訓練を行うよう通達が出された時には、書類と共に認識票も発行されていたのだという。
へえ、ギルドは相当疾走騎士を高く買ってるのね。
……そうよ! 他の新人どころか、並の冒険者とは比較にならないくらいコイツは頑張ってるもの! それくらいは評価されて当然なのよ!
それを何も知らないヤツが影でグチグチと……! ぐぬぬぬぬぬぬ!
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「……え? あ、あぁ何でもないわ! とにかくこれでアンタも晴れて鋼鉄等級よね! おめでと!」
「はい、ありがとうございます」
そして疾走騎士が鋼鉄等級の認識票を身に付けた後、私達は受付を離れ、昼食を取るために酒場へと向かった。
「それにしても、あの重戦士の背中と背負った剣の間に《
料理が来るまでの時間、先に出されたミルクを飲みながら今回の昇級審査を振り返る。
まずは疾走騎士の《
脅威と思われていた重戦士のグレートソードを一手で封じた奇策。
身を守る為に使う奇跡の器用な使い方に、ギャラリーの冒険者達も面白いものを見たと言わんばかりに彼を称賛していた。
あの重戦士は少し気の毒だったわね。一党の女騎士には大笑いされていたし。
それにしても《
怪物を地面に押し潰したり、ゴブリンを閉じ込めたりと、そんな発想が一体どこから出てくるのだろうか。
「想像力は武器ですからね」
いや流石に限度って物があるでしょ……こいつの頭の中が一体どうなってるのか、一度覗いてみたいわね。
……そういえば相手の思考を読み取る魔術があったはず。今度師匠に聞いてみようかしら?
「全くもってその通りだね! 相手の想像を上回る戦術の数々! いやーシビれたよ!」
「まさか銀等級を手玉に取るとは……ふふ、そうでなくてはな!」
「奇跡にあんな使い方もあるなんて、考えもしませんでした!」
「まだまだ私達も想像力が足りていないという事ですね!」
いつの間にか同席している鋼鉄等級一党は、興奮冷めやらぬ様子でそれぞれが自身の思いを口にしている。
「いや、だから何でアンタ達付いてきてるのよ……」
実は疾走騎士の昇級審査が終わってからも、彼女達は何故か私達にずっと付いてきていた。一体何の用なのだろうか。
「そりゃあ頼まれたこっち側のインタビュ……じゃなかった。かわいいかわいい後輩の昇級を祝う為だよ!」
……怪しすぎる。頼まれた? 一体誰に? 彼女達が疾走騎士にとって不利益になる行動は起こさないとは思うけれど……気になるわね。
「……まあいいわ。で、次はあの蹴り技ね」
気を取り直して話を戻す。
疾走騎士は重戦士が放った正拳突きを跳躍によって回避し、蹴りによる反撃を行った。
それはまさに流れる様な連撃。ギャラリーに紛れていた銀髪の武闘家らしき女性の冒険者が『おおー! せんぽーきゃく!』とか言っていたけれど、あれは技の名前なのだろうか?
「というか、いつの間にアンタは武闘家に転職したのよ」
「盾以外にも攻撃の手段を持っておこうかと思いまして。実際、回避から攻撃に素早く移る事が出来ます。……ただ、本職には遠く及びません。付け焼き刃ですよ」
「ほう? まるで拳法の流派を学んだかのような動きだったが?」
疾走騎士が頭を横に振るのを見て、森人魔術師はグラスを揺らしつつ中のミルクを飲み干した。
どうやら昼間から酒を飲むのは流石にまずいと思ったようで、彼女達も今はミルクを口にしている。
「あ、流派の技である事に間違いは……ないです」
「そうなのですか? 一体どちらの流派なのでしょう?」
「あっちです」
女僧侶の問いに対し、疾走騎士は突拍子も無く何もない方向を指差した。
私達は全員彼が指差した方向を向くが、そちらには壁があるだけだ。
「あっち……ですか?」
「あっちです」
いや、確かにどちらとは聞いたけれど、指だけ差されても全然分からないから。
困惑する私達を余所に、彼は届いた料理をいつものように一瞬で消滅させていた。
Q.鋼鉄等級一党もミルク飲み出しましたよ?
A.こ、今回はお酒の代わりだっただけだし(震え)