【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート 作:もふもふ尻尾
ゴブリンスレイヤー、女神官、妖精弓手、鉱人道士、蜥蜴僧侶、そして疾走騎士と魔術師。
七人によって新たに結成された一党は、これからゴブリン退治へ向かう事を受付嬢に説明していた。
「──という訳でして」
「やっぱり余所からの依頼だったんですね」
疾走騎士から事の顛末を聞いた受付嬢は、納得がいった様子で頷く。
来る日も来る日もゴブリン退治に明け暮れるゴブリンスレイヤー。
彼が退治したゴブリンは数知れず。
つまり、彼に救われた人や村の数も、相応に多いという事。
そんな彼の活躍を聞いて冒険者が来たとなれば、ゴブリン退治しかないだろう。
彼の活動が実を結んでいたという事実に、受付嬢は御機嫌だった。
「ああ、それで予算が欲しい。前回の分の報酬は受け取れるか?」
「報告はまだですけど……ゴブリンスレイヤーさんならいいですよね。内緒ですよ?」
彼女はゴブリンスレイヤーに向け、ウィンクしながら人差し指を口に当てる。
本来ならば依頼の報酬は、冒険者から詳細な報告を聞いたギルド職員が、達成報告の書類を作成した後に支払われる。
……が、何事にも例外はあるという事だろう。
受付嬢にとってのゴブリンスレイヤーは、そういう存在なのだ。
「あの、すみません」
彼女が報酬を用意しようとした所で、ゴブリンスレイヤーの隣に居た疾走騎士が一歩前に出る。
ゴツンと彼の鎧が受付のカウンターにぶつかる音が響いたが、そこまで強く当たった訳ではないので受付嬢はあまり気にはしなかった。
「自分達が以前遭遇したはぐれの
「……あっ、調査は既に終わりましたので受け取れます! 少し待っていて下さいね!」
一時保留となっていた
しかし、それは本来ならば受付嬢から疾走騎士に連絡するべき内容だった。
どうやら今回の事ですっかり頭から抜け落ちていたらしく、慌てた様子で報酬の用意をしに奥へ走って行ってしまった。
「
「自分達二人で、です。北にある遺跡の地下で遭遇しました」
「遺跡! いいじゃない! また後で話聞かせなさいよ!」
「構いませんよ」
未知への探索こそ、妖精弓手が冒険者になった理由である。
疾走騎士達が達成した『遺跡の底に眠るはぐれ悪魔の討伐』は、彼女が興味を抱くには十分な
「おいおい耳長の。お主には斥候の仕事もしてもらわにゃ困るぞ」
「分かってるわよ。でもただ歩くだけなんて退屈じゃない」
目的地までかなり長い道程になるものの、通る道は殆どが街道である。
しかし彼女は銀等級の冒険者であり、警戒など朝飯前。
つまり暇になってしまうわけで、疾走騎士の話に飛び付くのも仕方の無い事だった。
「子供かお主は……」
「あーら残念! 一番の年長者よ!」
勝ち誇ったかのように宣言する妖精弓手に、そういうところが子供なのではないかと内心呆れる鉱人道士。
そうしていると、報酬が入った袋を二つ手にした受付嬢が戻って来た。
「すみません、お待たせしました。ええっと、こちらがゴブリンスレイヤーさんの分で、こっちが疾走騎士さんの分ですね」
「助かる」
「ありがとうございます」
カウンターの上に報酬を置き、ゴブリンスレイヤーと疾走騎士の前に差し出すと、二人はそれを受け取った。
「じゃあ準備が出来たら街の出口で集合って事でいいかしら?」
「そうですね、こちらも少し買い揃えたい物がありますから」
「あぁ」
用件を終えた一党が、ギルドを後にしたのを見送る受付嬢。
彼女は先程の、疾走騎士への報酬を忘れていた事にため息をつく。
それなりに長くこの職務に就いているのにこんな失敗をしていてはいけない。しっかりしなければ……と、心の中で自らを戒めている様子だ。
「ありゃ、もう行っちゃったか」
すると監督官が戻ってきた。
ゴブリンスレイヤーを部屋に案内しに行っただけの筈だが、やけに帰ってくるのが遅い。
もしやサボっていたのではないか? 疑念を持った受付嬢が問いただす。
「行っちゃったか、じゃあないですよ。一体何をしてたんですか?」
「いやー、部屋がちょっとぐちゃぐちゃになっててね? 掃除に難儀してたんだよ。 特に絨毯についた足跡なんかが──」
まいったまいったと肩を透かす彼女に対し、受付嬢はジト目を向けていた。
いつになったら自分はお昼を食べに行けるのだ、そんな眼差しが監督官へと突き刺さる。
「──っと、ゴメンゴメン! もうお昼食べに行ってオッケーだよ。これで貸し借りは無しって事で!」
「……はぁ、分かりました。それじゃあ、後はお願いします」
「行ってらっしゃ~い」
お昼を食べ損なうのはよくある事だ。
時間は過ぎちゃったけど、何か余り物でも良いから女給の人に出してもらうとしよう。
受付嬢は空腹の音を鳴らすお腹を手で擦りながら、酒場へと向かうのだった……。
「……さて、と」
仕事を再開する監督官は、まだ処理の終わっていない書類に手を付けながら、数日前の事を思い出す──。
───────────────
──これは、疾走騎士が冒険者となった翌日、彼が魔術師と共にマンティコアを討伐した日の出来事である。
殆どの冒険者達が冒険へと発った頃、ギルドへとやってきたゴブリンスレイヤーは一直線に受付へ向かうと、監督官へ声を掛けた。
「おい」
「あ、ゴブリンスレイヤーさんですか」
受付嬢は残念ながら休憩中。後で何を言われるか分からないので、用件なら後程彼女が戻ってきてからにして欲しいのだが……監督官がそんなふうに考えていた所で、ゴブリンスレイヤーが口を開く。
「五年前、あの
「ええっと、確か資料になりそうな物は本部に送られて、残りは保管してありますけど……どうかしたんですか?」
「探したい物がある」
その言葉に監督官は考え込む。確かに五年前、大量の書物をゴブリンスレイヤーが運び込んできたことを監督官は記憶していた。
しかしその書物が置いてあるのは、彼女達職員しか立ち入れないギルドの奥であった。
「あー……すみません、書物は職員区域に保管されてるのでゴブリンスレイヤーさんは入れないんですよ。私で良ければ探しておきますけれど?」
「そうか。頼む」
「ちなみにどういった書物ですか?」
「……RTAだ」
「あーるてぃーえー?」
初めて聞く言葉に、監督官は首を捻りながらゴブリンスレイヤーの言葉を復唱した。
「あぁ、確かに奴はそう言っていた」
「うーん、よく分かりませんが、もし見付けたら後でお渡ししますね」
「あぁ」
「あ! ゴブリンスレイヤーさん!」
そこで休憩を終えて戻って来た受付嬢が、ゴブリンスレイヤーの姿を見て駆け寄ってきた。
どうやら私はもうお呼びでないようだ。丁度良いし、このまま休憩に入らせてもらおう。
冒険者達も殆どが冒険に出て、暫くは暇な時間だろうし問題は無い。そう判断した監督官は、ゴブリンスレイヤーの言っていた書物を探すため、奥の職員区域へと足を運んだ。
監督官の趣味は読書である。特に小説は大好物。それこそ日頃から仕事の合間に暇な時間を見付けては読む程だ。
その為、彼女はギルド内に置かれている本の場所は大体覚えていた。
「あったあった。あるとすればこの中だね」
ゴブリンスレイヤーがギルドへ寄贈した
木箱を開き、詰め込まれた本を無造作に一冊一冊取り出していく。
「お? これは……」
一冊の本を手に取った所で彼女が気付く。……いや、これは本というよりは
束ねられた羊皮紙に、ピンを通して一まとめにしただけの物。
しかしその表紙に書かれていたのは『RTAについて』という文字。これがゴブリンスレイヤーが探していた書物に間違いはないだろう。
「……ふむ」
ここで彼女の好奇心が疼いた。あのゴブリンにしか興味の無いゴブリンスレイヤーが、書物を探しているという事実。きっと受付嬢も驚く事だろう。
そしてその書物に書かれているのは、RTAという聞いたこともない事柄について。これで好奇心が疼かない訳がない。
それにゴブリンスレイヤーも、別に中身を読むなとは言っていなかった。つまり私は何も悪い事はしていない。寧ろ冒険者の役に立つ事をしているのだから称賛されても良いくらいだろう。
ニヤリと口を緩ませ、彼女はその手記を開く。
『やあ、これを読んでいると言うことは、君はRTAの《走者》なのかな? それとも、ソレに近しい者なのかな?』
『もし、そのどちらでもないのであれば……回れ右だ。世の中には知らない方が良いこともあるからね』
1ページ目に書かれていた文章であった。
……ふむ、《走者》というのが何なのかは分からないが、私がコレを読むべきではないという事だけは理解した。
とはいえ、そんなふうに書かれては逆に気になってしまうのが人の
監督官は意気揚々とページを捲る。
『好 奇 心 は 猫 を も 殺 す』
「ヴェッ……」
ぱたん……と、監督官は反射的に手記を閉じた。
こちらの動きが完全に読まれている。開いた先のページにあった警告文、そこに書かれた《猫》が自分の事を指しているのは明白であった。
……これ以上読むのはやめておこう。
わざわざパンドラの箱を開ける必要はない。それは冒険者の領分なのだ。
ゴブリンスレイヤーに渡して、彼がこの書物を欲している理由をそれとなく聞いて、受付嬢をからかうネタに出来ればそれで十分だろう。
そう結論付けた監督官は、RTAの手記の他に何か面白そうな本は無いか、更に木箱を漁り続ける。
そして、一冊の本を見付けた。
「……ん? なにコレ、『真夏の夜の淫夢』?」
それは木箱の底、他の本の下敷きになるように置かれていた。題名からして官能小説だろうか?
……いやいや、官能小説がこんな所にあってはマズイぞ。風紀を乱すような書物は間違いなく処分されてしまうだろう。
とはいえ、コレは本当に官能小説なのだろうか。題名が少しアレなだけで、内容は普通の小説かもしれない。念の為にも、読んで確かめなければ。
なんて仕事熱心な職員なのだろうと自身を自画自賛しつつ、若干鼻息を荒くしながら小説を紐解く。
それこそが真のパンドラの箱であるという事も知らずに。
「…………なんだこれはたまげたなあ」
暫し読み耽った後、本を閉じた彼女が呟いた言葉であった。
───────────────
ゴブリン退治の準備をする為、疾走騎士と共に商店で必要な物を買い揃えた私は、一党の合流場所である街の出口へと向かっていた。
購入した物を詰め込んだ袋を背負い、両手に盾を持った疾走騎士。私はその後ろから付いて歩く。
「ねぇ、なんでこのゴブリン退治に参加したのよ? もしかして、また
今回の依頼の内容は、ゴブリンスレイヤーを含む、それぞれ種族が違う銀等級の四人を一党として、ゴブリン退治を行えというもの。
そこへ更に、いつもゴブリンスレイヤーと組んでいる女神官が一人加わる訳で、言ってしまえば戦力が過剰過ぎるのだ。わざわざ疾走騎士までもが参加する必要は無いように思える。
だが、それでも疾走騎士は今回のゴブリン退治に同行を申し出た。何か理由があるのだろうか? そう考えた時、真っ先に思い当たったのが彼へ宣託を下す神の存在だった。
「ええ、その通りです」
「あぁ……やっぱり」
私は半ば諦めたようにがっくりと肩を落とす。
彼がこうして脇目も振らずに行動を起こした場合、その冒険では大体イレギュラーが発生する。
つまりこの冒険でも同じような事が……って、なんかもうパターンが読めてきてるわね。
「必要になる物も指定されていたので、急いで買い揃えた訳ですが……」
「え、それも宣託だったの? てっきりアンタの好みで選んだんだと思ってたわ」
今回買ったのは食料と、あとは匂い消しの香袋に、クッキーとイカスミ焼きだったかしら?
クッキーとイカスミ焼きに関してはまるで意味が分からないわね。とても冒険に必要な物とは思えないし……。
「あの銀等級の方々と親睦を図れという事でしょう。一党を組む上で、信頼関係は築いておかなければなりません」
「成る程ね」
クッキーはあのお子様森人に渡してやれば機嫌は良くなりそうね。
イカスミ焼きは酒のつまみだし、鉱人に対しての土産には丁度良さそうかしら。
でもそうするとあの蜥蜴人の分が足りないわね。
蜥蜴人の好物なんて私にも分からないし、下手な物を渡したら却って機嫌を損ねるって事なのかしら?
それにしても、やけに細かいところまで気を配る神様よね。
人間関係までサポートしようとするなんて、やっぱり神官の子が言ってたような、悪い神様って線はなさそうだけど……。
……でも──
「どうしました?」
「う、ううん何でもないの! ちょっと考え事してただけ。ほら、早く行きましょ!」
──でも、宣託は本来、『駒が進むべき道を指し示す光』の筈なのに、疾走騎士の宣託はまるで、『彼を縛り付ける鎖』のように思えてならないのよね……。
Q.くっ! 監督官さえたまげなければこんな汚い四方世界にはっ……!
A.ダメだ、幾ら周回してもたまげてしまう! たまげさえ……たまげさえしなければセーフなのにっ!