【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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久々の投稿ですので淫夢要素はありません。



パート16 裏 中編 『小鬼喰らい』

 森人の領地にあるゴブリンの巣へと向けて、街道を歩き続ける一党。周囲には見晴らしの良い平原が広がっていた。

 しかし腰ほどの高さまで生えた雑草が所々に生えており、身を隠す事は出来るだろう。

 実際に疾走騎士は以前、この街道に陣取っていた盗賊グループを草むらからの奇襲により壊滅させている。

 つまり、同じようにゴブリンが隠れている可能性があるという事だ。

 無論、ゴブリンスレイヤーはそれを理解していた。

 故に彼は周囲に目を配らせながら、妖精弓手と共に先頭を歩いているのだ。

 

「ずっとそうしてる気?」

「奴等がいつ襲ってくるかも分からん」

 

 返す言葉を聞いた妖精弓手は、不愉快そうに口をへの字に曲げる。

 まだ会ったばかりで信頼してもらえないのは仕方がない。

 だが銀等級の冒険者として、斥候の腕を信用してもらえないのは、彼女にとって心外であった。

 とはいえゴブリンスレイヤーには悪気がある訳ではなく、そもそも信頼や信用といった問題ではない。

 彼はゴブリンに対し、決して手を抜かない。ただそれだけの事なのだ。

 

「私に任せなさいって言ってるのよ。その為の斥候でしょ」

「……そうか」

 

 渋々といった様子でゴブリンスレイヤーは妖精弓手の後ろへと下がる。

 現在の一党の隊列は、前から順に妖精弓手、ゴブリンスレイヤー、次に蜥蜴僧侶と鉱人道士が並んで二人、その後ろに女神官と魔術師の二人、そして最後に疾走騎士の順となっていた。

 

「それで、なんでシエルドルタが一番後ろなのよ? 壁役は前じゃないの?」

 

 妖精弓手が振り向いて問う。

 冒険に於いて(タンク)は先頭に据えるのが隊列の基本。しかし疾走騎士が居るのは最後尾だ。妖精弓手の疑問も尤もである。

 

「奇襲に備える為です」

「だからそれは私の役目で──」

「貴女は後ろにも目がありますか?」

「……はあ? 何よいきなり」

 

 妖精弓手の言葉を遮り発言する疾走騎士。その意味が理解できず、彼女は目を細めて首を傾げる。

 

「この人数だと後ろにも一人、斥候を置いた方が良いのではないかという話です」

 

 待ち伏せを受け包囲されたり、狭い空間に閉じ込められたりしては目も当てられない。と、疾走騎士は主張する。

 警戒の目が後ろにもあれば、後方からの不意打ちに対し迅速に対応出来るだけでなく、退路の確保も行える。全滅の確率は、間違いなく減るだろう。

 

「じゃあ逆に聞くけど、そっちはどうなのよ? 後ろに目が付いてるわけ?」

「…………」

 

 等級は既に鋼鉄となった疾走騎士だが、彼はまだ冒険者になって数日の新人である。

 背後を任せられる力量を有しているのか、そんな懐疑的な姿勢を示す妖精弓手。

 実際の所、自らを操作する神(プレイヤー)の目が後ろにあるのは事実だが、そんな話を出来る訳がない。

 疾走騎士は困った様子で言い淀む。

 

「ねえ、ちょっと良い? 口を挟むようで悪いけど、以前コイツが後ろに居たお陰で命拾いした事があるの。こっちとしてもその方が助かるわ」

「その、私も助けられました」

 

 見かねた魔術師が疾走騎士に助け船を出し、女神官はそれに同調する。

 彼女達は初めての冒険で、背後からゴブリン達の奇襲を受けたものの、後方に居た疾走騎士によって助けられた経験があるのだ。

 妖精弓手は考える。前衛には銀等級が二人居るのだ。相手がゴブリン程度なら、前方の守りは十分と言えよう。

 だが後方に関しては確かに不安がある。後ろに居る味方によって、どうしても死角が出来てしまうのだ。

 森人の耳の良さを活かせば探知は可能だが、前方に気を取られている時であれば、聞き逃す事もあるかもしれない。

 そもそも早期に敵を発見出来れば、遠距離から弓で仕留めてそれで終わりだ。現時点での一党の構成を考慮すれば、守りを主体とする彼を後方に置くのは合理的かも知れない。

 それに、後衛の彼女達もまた新人の冒険者だ。新人同士がカバーし合えるのなら、こちらは役割に専念できる。

 特にあの魔術師とは普段から一党を組んでいるらしい。恐らく彼女達からしても、その方がやりやすいのだろう。

 

 ──でも、シエルドルタにしろオルクボルグにしろ、私達に頼ろうって気が一切無いのはちょっと癪なのよね。

 

「……まあいいわ。後ろはよろしく頼むわよ」

「はい、そのつもりです」

 

 自らの為すべき事を明確に把握し、決して迷う事無く行動しているゴブリンスレイヤーと疾走騎士。

 そんな理解出来ない未知の存在達に、妖精弓手は笑みを浮かべ、再び前へと目を向ける。

 

「……っし」

 

 後ろでは魔術師がグッと拳を握っていた。

 疾走騎士と離れずに済んだのが余程嬉しいのだろう。

 そして尚も一党は進む。日は未だ高く風向きは追い風。絶好の冒険日和と言えた。

 

 

───────────────

 

 

 草むらに身を潜め、一党に忍び寄る者達が居た。

 金色に光る眼に、白く鋭い牙を持つ獣。彼等は獲物の臭いを嗅ぎ付けた狼達だ。

 数は十。群れとしては少ないが、集団で狩りを行うには十分な規模である。

 群れの先頭に立つのは一回り大きな体躯をした灰色の狼。この大狼こそが、群れのリーダーであった。

 

(注意は私が引き付ける。お前達は隠れていろ。私の合図と共に、死角から奴等を襲うのだ)

 

 リーダーの大狼が指示を出すと、他の狼達は草むらに身を隠しながら一党の後方へと回り込む。

 逃げ道を無くしつつ距離を詰め、奇襲を狙う算段のようだ。

 

(人間か。あまり気は進まぬが仕方あるまい)

 

 ──武装した人間を相手にするのは至難だ。特に鎧兜を身に付けた人間は。

 しかし、そこに獲物が現れたのならば、こちらも生きるために狩らねばならぬ。

 遭遇(エンカウント)したのなら、戦いは最早やむを得ない。それが我々の運命なのだ。

 

(……行くぞ!)

 

 意を決した大狼は先んじて注意を引く為、単身草むらから姿を現した。しかしその瞬間、矢が放たれる。

 

(ぐっ!?)

 

 眉間を狙った一矢だった。しかし大狼は咄嗟に牙で受け止める。

 咥えた矢をすぐに吐き捨てると、正面には弓を引き絞る妖精弓手の姿があった。

 

「アイツは私が仕留めるから周りを警戒して! 他にも何匹か隠れてるわ!」

(ちぃっ! こちらが姿を現すのを待っていたのか!)

 

 狼達の気配は事前に察知されていたのだ。

 己から仕掛けたにも拘わらず先制攻撃を受けた大狼は、目の前に居る一党が格上であると認識する。

 このまま戦えば被害は甚大。全滅もあり得る。とはいえあの弓矢からは逃げる事は難しいだろう。

 

 大狼がどうするべきか悩んでいる間にも、眼前に居る弓手は矢を放とうとしている。

 先程の矢を止める事が出来たのは運が良かったに過ぎない。次はやられる可能性が非常に高いという事を、大狼自身も理解していた。

 

(…………)

 

 ──だが、それでいい。

 隠れている仲間達には予め、私がやられればその時点で逃走するよう言い聞かせている。

 この戦闘は、たった一匹の狼が冒険者と遭遇(エンカウント)し、倒されて終わるだけの戦いになるだろう──。

 

 決断を下した大狼は真っ向から牙を剥き、飛び掛かろうとする。

 

 ……しかし、踏みとどまった。

 

 

 ──わん! わん! わん!

 

「ゴブリンスレイヤーさん! 囲まれています!」

「ゴブリンではないようだな」

「だーもう! さっきから狼だって言ってるでしょ!?」

 

 配下の狼達が草むらから飛び出すと、冒険者一党を取り囲んだのだ。

 

(お前達……何故出てきた!)

 

 不意を打つ形で襲わせる為に潜ませていた狼達が、どういう訳か指示を無視し、合図を待たずに姿を現した。

 わざわざ出てこなければ、逃げる事も容易だった筈。大狼は困惑した。

 

 ──わん! わん! わん!

(ふざけるな! お前達を犠牲にする訳にはいかん!)

 

 彼等の行動の目的は、身を呈してでも大狼が逃げるまでの足止めを行うという、自己犠牲に他ならない物であった。

 大狼は憤怒する。仲間の命を犠牲にし、自身が生き延びるなど、決して許される事ではないのだと。

 実の所、この狼の群れはこれまで人との戦闘を極力避けるようにしていた。

 街道に来たのも以前に一度、ここで賊の死体にありつけたからだ。

 冒険者に討伐されたのであろうか、中には燃やされ炭になっている物もあったが、大半は喰える状態で転がっていた為に群れの腹を満たす事が出来た。

 しかしそれからまともな食事を取れぬまま、数日が経過していた。

 日中は人通りの多い街道だ。人に討伐された何かが居ればよし。居なければ致し方無しとして、人を狩る算段を立てたのである。

 

 しかし、今回は運が悪かったのだ。冒険者として在野最上級である銀等級の冒険者、それを四人も含んだ一党と出会うなど、誰が想像出来ようか。

 冒険者側が全滅するか、怪物の群れが倒されるか、遭遇(エンカウント)の結果は二つに一つ。いずれにせよ、狼達に抗う術は無い。

 

(やはりこれが……我々の運命だという事なのか?)

 

 そして無慈悲にも、妖精弓手の矢が、狼へと放たれようとしていた。

 

「わん!」

「ひゃっ!?」

 

 だが突然、後方に居た筈の疾走騎士が、妖精弓手の耳元で叫んだ。

 驚いた拍子に妖精弓手の放った矢は狙いが外れ、大狼の足元へと突き刺さる。

 

(……今、なんと言った?)

 

 大狼は自身の耳を疑った。

 何故なら犬の鳴き声を真似ているようにしか聞こえないであろう疾走騎士の声が、狼達には言葉として聞こえていたのである。

 そしてその言葉は、冒険者側と狼側、その両者が傷付かずに済む第三の選択肢を提案していた。

 

「わん!」

(『見逃す』だと? 本気で言っているのか?)

 

 敵である者に見逃されるなど、本来であれば屈辱だ。

 我々が弱者であると、見下されているという事なのだから。

 

「わん!」

(……成る程。そうか、わかった)

 

 だが、大狼は提案を受け入れた。

 ゴブリンであれば泣いて赦しを乞い、相手が油断したところで襲いかかる事もするだろう。

 しかし我々は狼だ。誇りも、仲間を思いやる心もある。

 仲間の為に、ここは退こう。

 判断を下した大狼が一党に背を向けると、ゆっくりと歩いてその場を離れていき、配下の狼達もそれに続く。

 そうして──。

 

 

 まもののむれはにげだした。

 

 

───────────────

 

 

「ちょっと! どういうつもりよ!?」

 

 妖精弓手が涙目で耳を抑えながら、疾走騎士を怒鳴っている。

 森人は耳が良いが、妖精弓手の場合は特に秀でている。今回の場合はそれが仇となってしまった様だ。

 

「これが一番早いと思いました」

「早いって……別にやっつけちゃってもよかったじゃない! 皆もコイツに何か言ってやりなさいよ!」

 

 狼の群れを逃がした事に納得がいかない妖精弓手は、一党の面々に意見を求める。

 

「ふむ、拙僧としては善き結果であろうかと思いますが」

「そ、そうですね。私も神官なので、倒さずに済んだのならそれはそれで……」

「正直、囲まれた状態からあの数を相手にするのはちょっと辛かったかしらね。ほら、私達新米だもの」

「うぐぐぐ……!」

 

 しかし、彼等が疾走騎士を批難する事は無かった。

 たとえ相手が狼と言えど、万が一は確かに存在しているのだ。

 賽子を振らず、確実に場を切り抜けられる手段を取った疾走騎士の選択は、決して間違いではない。

 

「ゴブリンでは──」

「あんたは何言うか分かるからいいっ!!」

 

 それにしてもゴブリンスレイヤーの答えを聞かずに怒鳴るのは、完全にただの八つ当たりである。

 見かねた鉱人道士が、荒れる妖精弓手を嗜めようとする。

 

「まあまあ耳長の、そこまでにせんか。わしらが先を急いどるのは間違いないじゃろうて」

「あーあーもうっ、わかったわよ! でも二度と私の耳元で犬みたいに吠えないこと! いいわね!?」

「分かりました」

 

 これ以上駄々を捏ねても無意味だと理解した妖精弓手は、ビシッと人差し指を疾走騎士に向けた。

 

「今んとこキャンキャン犬のように吠えとるのは耳長の方じゃがのう?」

「聞こえてるわよ鉱人! こっちは鼓膜が破れるところだったのよ!?」

 

 すると二人は言い争いを始めてしまった。森人と鉱人の仲が悪いのはもはや伝統である。

 とはいえ、そろそろ先へ進まねばならない。これ以上のロスは、旅程の遅れに繋がってしまうだろう。

 

「お二人とも、我等が冒険者の手本となるべき存在だという事をお忘れなく」

「う……」

「ぐ……」

 

 蜥蜴僧侶が背後から双方の肩を掴み、喝を入れる。

 心情的に逆らえないのだろうか、二人は押し黙り、それ以降喧嘩をする様子は無かった。

 そうしてようやく、一党は再び先へと進みだす。

 

「ねえ疾走騎士。あの狼達、本当に逃がして良かったの?」

「そうですね。私も先程はああ言いましたけれど、また人を襲ったりするかもと考えると……」

 

 隊列の後方に戻った疾走騎士に、魔術師と女神官が話しかける。

 どうやら彼女達は、逃がした狼達が再び人を襲うのではないかと、不安を抱いている様だ。

 だがそれは杞憂だと疾走騎士は頷く。

 

「狼は頭が良いですから、今回の件で学習し、人を狙う事はまず無くなると思います」

「本当ですか? それなら……」

 

 疾走騎士の答えに女神官は安心し、ホッと一息。

 

「ふぅん、やけに詳しいのね?」

 

 しかし、魔術師はまだ納得していない様子だ。

 先程一党を取り囲んだ狼達は、今にも飛び掛かって来そうな状態だったが、疾走騎士が吠えた途端に背を向けて帰って行った。

 単に追い払ったと見るのが普通だが、ある呪文の存在が、彼女に別の可能性を思わせる。

 

「私はてっきり《獣心(ビーストマインド)》を使ったんじゃないかと思ったけど」

 

 《獣心(ビーストマインド)》とは、動物との意思疏通を可能にする呪文だ。

 疾走騎士がこの呪文を使っていたならば、狼達との和解も出来るだろう。

 

「自分は呪文を使えませんが」

「……分かってるわよ」

 

 そう、疾走騎士は呪文を使う事が出来ないのだ。

 だが彼は何かを隠している。

 あの狼達がもう人を襲わないという話は、決して確実ではない。

 彼がそこまで自信を持って言う理由がある筈なのだ。

 

「……ただの経験則ですよ。農村の生まれですから、害獣には度々困らされていました。それに──」

「それに?」

 

 魔術師は首をかしげる。

 少しの間を置いて、疾走騎士は頭を横に振った。

 

「……いえ、なんでもありません」

「何よ、気になるじゃない」

 

 なんでもないとは言うが、本当に何も無い訳ではない。

 ただ伝える必要の無い情報だと、疾走騎士が判断をしただけ。

 しかし、たとえ重要な情報ではなかったとしても、共有はしてもらいたいのだ。

 すると魔術師は前かがみになり、俯いて考えを纏めている疾走騎士の視線に割り込む。

 

「!」

 

 びくりと一瞬、疾走騎士がたじろいだ。

 兜の隙間から彼の目に映ったのは、不機嫌そうにジトっと自身を睨んでいる魔術師の顔。

 そして彼女が前かがみになった事により、ゆさりと主張を強める、今もなお健やかに成長中の豊かな胸であった。

 

「……保険を掛けてみたんです」

「保険? あの狼達が?」

 

 顔を背け視点を逸らしつつも、疾走騎士はぽつりと答える。

 しかしその足取りは目的地へ向け、尚も真っ直ぐに進み続けていた。

 魔術師は隊列を崩さぬよう姿勢を戻し、疾走騎士の傍を歩く。

 

「ええ。自分に与えられる権限はごく僅か。その中でも出来る限りの事をしたかった」

 

 彼は宣託(ハンドアウト)を受けている。

 そして勿論の事だが、神から下された指示は絶対だ。

 故に逆らえない、自由は無いと、そういう事なのだろうか。

 だがしかし彼は同時に、出来る限りの事をしたいと言った。

 全力を尽くし、神の期待に応えようとしているのだ。

 

「……ええっと、つまり?」

 

 彼の言葉は、ただ聞くだけならば簡単だ。

 だがその真意は深く、深く、深淵の底にある。

 何とか理解しようと考えを巡らせて、更なる話を聞き出そうとする。

 彼は突然ちらりと背後を見やり、淡々と言い放った。

 

「ガバ対策です」

 

 そうして魔術師は匙を投げた。

 

───────────────

 

 街道から逸れた位置にある高原、冒険者一党から離れた狼の群れは、その真中で屯していた。

 

(とにかく、別の獲物を探そう。何はともあれ、先ずは腹を満たさねばならん)

 

 命拾いをしたものの、群れは未だ飢えている。状況は何一つとして変わっていなかった。

 すると高原から周りを見下ろしていた配下の狼が一匹、──わん、と一吠え。何かに気付いた様子だ。

 知らせた狼の目線の先を見てみると、遠い位置の草むらの中でゴブリンが数匹眠っていた。

 はぐれと呼ばれているゴブリン達だ。

 

(ふむ、小鬼か)

 

 至る所で現れるゴブリン達は時折、狼を使役し、人を襲う事がある。

 それは狼の誇りを穢す行いだと、大狼は以前から目に余る様に感じていた。

 

 ──ここらで弱肉強食の摂理を教えてやるのも悪くはない。あの様子ならば、容易く狩れるだろう。

 所詮狩った所で、食せるのは皮と臓くらいだろうが……──。

 

(まあこの際だ。味に文句は言うまい)

 

 大狼の決断に配下の狼達も同意して、群れは高原を下って行く。

 

(何よりも、借りが出来てしまったからな)

 

 窮地に立たされた我々を敢えて逃がした、鎧兜を身に付けた奇妙な人間。

 一体何者なのか見当もつかないが、恩人には違いない。

 その恩人は、我等狼に対してこう言っていた。

 

『この辺にぃ、美味いゴブリンの群れ、来るらしいっすよ? じゃけん今度狩りましょうね』

 

 ゴブリンにも食い出のありそうな個体がたまに居る。ホブと呼ばれる大物だ。

 その大物の群れを狩る協力を、あの人間は申し出たのである。

 

 ──借りは返さねばならない。我等狼の誇りに掛けて。それがこの四方世界に於いて、我が我である唯一の確証なのだ──……。

 

───────────────

 

 それから暫くして、ゴブリンを狩る狼の群れが度々目撃される様になる。

 彼等は特にホブを好んで食し、何よりも人間には危害を加えない為、ギルドも要観察として実質放置。

 そんな狼の群れを、冒険者達はこう呼んだ。

 

 

 『小鬼喰らい(ゴブリンイーター)』と──。

 





Q.なんか疾走騎士くんが狼と会話してるんですけど?

A.疾走騎士くんは犬。狼も犬。つまり同じ種族。よって会話が可能である。Q.E.D

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