【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート 作:もふもふ尻尾
見張りのゴブリンを一掃し、冒険者達一党は遺跡へと足を踏み入れた。
しかしこの先は闇に棲まう者共の領域だ。一切の光は無く、そこには暗闇だけが広がっている。
ゴブリンスレイヤーは先ず視界を確保する為に、松明を取り出した。
「《
「む」
すると直ぐ様、手にした松明に火が灯る。
ゴブリンスレイヤーは一瞬戸惑ったが、誰による仕業かをすぐに察し、後ろを振り返った。
「多分これが一番早いと思うわよ」
「……確かに」
どうやら気を利かせた魔術師が手間を省かせてくれたようだ。
ゴブリンスレイヤーは燃える松明によって照らされた通路へと視線を戻す。
「成る程」
魔術師の火点けに対し、ゴブリンスレイヤーは『使える』と、内心で評価を下す。
手間が省けるだけではない。戦闘中に松明の火が消えてしまったとしても、咄嗟に点けなおす事が容易なのだ。
多人数で一党を組んでいる際に視界を失えば、同士討ちの危険が発生してしまう。
暗がりでの戦闘に於いては、間違い無く生死を分ける要因である。
そして何より、火を点けられるのが松明だけに限らないという点でも評価は高い。
ガソリンや火の秘薬に使えば、攻撃にも利用出来る。
更に彼女曰く、この使い方なら魔術の使用回数を消費しないらしい。
彼女の師である魔女から教わった技らしいのだが……専門でなければ理解は出来ないだろう。
しかし、あまりの便利さに自身も扱えるようになりたいとすら思える程だ。
「……出来る筈もない、か」
そこまで考えて、彼は頭を横に振った。
自分は何でも出来る完璧な人間などではない。分かりきった事だ。
だからこそ考える。ゴブリンを殺す為の方法を。
それ以外の思考こそ、無駄遣いに他ならない。
「…………行くぞ。ゴブリンは皆殺しだ」
ゴブリンスレイヤーは歩みだす。
立ち止まっている暇は無い。そう言わんばかりに。
そして、一党は進み始めた。
「こんな感じでどうかしら?」
隊列の最後尾、先程ゴブリンスレイヤーの松明に火を灯した魔術師は再び呪文を唱え、今度は自身が持つ松明にも火を点けると、疾走騎士の方へと視線を向ける。
「恐ろしく早い無駄遣い。自分でも見逃す所でしたね」
「それって誉めてるの?」
彼は時折、よく分からない言葉を口にする。
蜥蜴人の様な奇妙な語り口とはまた違う、敢えて煙に巻くような、そんな言い草。
不快ではないものの、もう少し分かりやすく話して欲しい。
そんな抗議の意を込めて、魔術師は目を細め疾走騎士を睨む。
「勿論です。咄嗟の判断力は冒険者にとって、生き残る為には必須の能力ですからね」
力が有ろうと無かろうと、まず行動をしなければ何も出来ずにただ死ぬだけ。
つまり、迷えば敗れる。疾走騎士がいつも口にしている言葉通りという事だ。
「そして、その判断力は経験によって培われます。つまり『ただ優秀なだけの魔法使い』には決して出来ない事なんですよ。称賛しない理由はありません」
「………………ありがと」
誰もそこまで褒めろとは言ってない。
魔術師は仄かに赤らんだ顔を背ける。
元々は自身の優秀さを証明する為に冒険者となった彼女にとって、それはあまりにも殺し文句だった。
とはいえ、疾走騎士にとっては単に事実を述べたまでに過ぎないのだが……。
「あちらは揃って銀等級のベテラン、それに対して自分達は新米です。とはいえ、TD……ただのお荷物では居られません」
「そ、そうね。頑張りましょ」
「私も、頑張らないと……」
でなければ、ここまで付いて来た意味が無い。そう疾走騎士が意気込みを口にすると、魔術師は前方に居る銀等級の冒険者達を見据えて頷いて、その隣で二人の話をずっと聞いていた女神官も、手に持った杖を強く握りしめて息を呑んだ。
だが、そんな重い雰囲気を唐突に切り替えるようにして、疾走騎士は淡々と話し続ける。
「しかし、だからと言って焦る必要はありません。自分達に出来る事をまずは一つ一つ、こなしていきましょう」
その言葉に魔術師は、鋭く尖った目を見開いたあと、思わず顔をほころばせた。
「……ふふっ、『為すべき事を為す』でしょ? 大丈夫よ。分かってるわ」
「そ、そうですね。奇跡も集中が乱れると失敗してしまいますし……」
そして女神官も、彼の言葉に少し緊張が解れた様子だった。
──ねぇ疾走騎士。ただ優秀なだけじゃあないのは、お互い様なんじゃない?
そんな思いが頭を過り、つい頬が緩んでしまった。
私は今回の冒険に同行するに当たって、初めは自らが足を引っ張ってしまうのではないかと内心不安を感じていた。
数日に渡る遠征。自身も自覚している体力の低さ。余所から来た銀等級の冒険者達との連携。理由は様々だ。
しかし今までの冒険で多少の体力が付いたお陰か、何とか旅程に遅れを出す事なくここまで付いて来られた為、現時点では一党に迷惑を掛けるような事態には陥っていない。
いや、寧ろ私は、ある一つの能力を用いる事で、この一党に対して多少なりとも貢献する事が出来ていた。
その能力とは……火だ。
火という物は冒険者にとって、様々な意味でなくてはならない物である。
視界を得る事が出来る。暖を取る事が出来る。食料を調理する事が出来る。その用途は様々だ。
冒険の際、私はいつも疾走騎士に松明を持たされていた。
そして師である魔女からは、無駄遣いと評される呪文の扱い方を教わった。
そうして経験と技能を得た結果、夜営では薪を燃やす事が出来たし、先程ゴブリンスレイヤーが松明を取り出した際にも呪文を唱えて、即座に火を灯す事が出来たという訳だ。
それは無いよりはあった方が良い程度の、貢献と言うにはあまりにも小さい物。しかし、間違いなく確かな貢献だった。
私には出来る事がある。その事実が、私にとっての大きな自信へと繋がっている。
疾走騎士が居るから、彼が導いてくれるから、私は前を向いて進む事が出来ているのだ。
ならば私は、私の火で、彼を照らす事だけは止める訳にはいかない。
でなければ彼は躊躇いもなく、一人で深淵へと足を踏み入れるだろうから……。
絶対に、そんな事にはさせるものか。
私が、絶対にそうはさせないんだから。
決意を新たに、魔術師は手にした松明を掲げ、他の一党達と共に、足並みを揃えて前へと進む。
全ては彼の、疾走騎士にとっての、闇を照らす
「あの様子なら大丈夫じゃろ」
「うむ、良き塩梅でありますな」
鉱人道士と蜥蜴僧侶は、冒険者となって日の浅い三人の新人達を気にかけていた。
だが落ち着いた様子を見せる彼等には、要らぬ心配だったようだ。
「とっとこ丸が元々軍におったっつうのは確かなようじゃな。よう弁えとるわい」
仲間を励ます疾走騎士の言葉からは、彼が相応に場数を踏んでいる事が伺えた。
状況を常に把握し、適時指示を出す能力は、一党の頭目には必須である。
しかし──大丈夫。心配ない。きっと上手くいく。何も知らない新人ほど、そんな何の根拠もない言葉を仲間に投げ掛ける。
だがそれは大きな間違いだ。
万が一は常に存在している。
賽子の出目次第で、お決まりの運命は容易く訪れるのだ。
そして、彼はそれを知っている……。
故に、最悪の事態を想定して、何が起きようと仲間達が混乱状態に陥らぬよう、先程の、出来る事を一つ一つこなせという言葉を口にしたのだ。
彼の首にぶら下がる鋼鉄の認識票。たった数日でその等級へ至ったという話にも納得がいく。
ただ、裏があるのではないかと疑問視する者は多いだろう。
実際、その点については未だにギルドに問い詰める者が居たりするのだが、その際には担当の受付嬢が貼り付けたような笑顔で「決してズルはしていません」と回答するか、或いは監督官が真顔で「不正は無かった」と断言する事であしらっていたりする。
とにかく、多少の贔屓があるにせよ、その道の経験者を優遇するというのはよくある話で、つまりは何の問題も無いという事だ。
「となれば、問題はあっちじゃの」
鉱人道士が正面を向くと、その先にはゴブリンスレイヤーと、更にその一歩先を進む妖精弓手、二人の後ろ姿があった。
現状では視界が確保出来ているのは松明が照らす範囲のみだが、斥候の妖精弓手は臆することも無くつかつかと足音を立てながら歩み行く。
そして長く尖った耳をピクピクと動かし、床、壁、または天井を見回した後、深く頷いた。
「この辺りに罠は無さそうね。ゴブリン達も居ないみたい」
「分かるのか」
「当然でしょ。森人が優れてるのは聴覚だけだと思わないでよね」
「そうか」
妖精弓手が胸を張って得意気な表情を浮かべていると、ゴブリンスレイヤーは短く返事だけをして、それを追い越し、歩みを速めていく。
そんな素っ気ない態度が気に食わなかった妖精弓手は、膨れっ面でゴブリンスレイヤーの隣へと並んだ。
「ふんっ! 誰かさんが私にゴブリンの内臓なんかをぶちまけてたら、まともな探知なんて出来なくなってたでしょうけどね!」
「必要な処置だ。奴等に気付かれては意味がない」
「やり方ってもんがあるでしょうが!? 常識ないの!?」
妖精弓手は今にも噛み付きそうな勢いだが、ゴブリンスレイヤーは気にも留めない。
「少なくとも、ゴブリンの巣でわめき散らす常識はないな」
「う……ぐ……ぎぎぎ!」
周囲に敵の気配は無いにしても、今自分達の居る場所が敵地である事に変わりはない。
彼の言っている事が至極尤もである事は、妖精弓手にも理解出来ていた。
故に彼女は顔を耳の先まで真っ赤にしながらも、爆発寸前の怒りを堪えているのだろう。
「うぅむ、さすがに耳長が気の毒に見えてくるわい……」
「はっは! 信頼できる御仁で何よりですな!」
そんな彼等のやり取りを見て、困惑しつつも自らの髭を撫でる鉱人道士と、愉快そうに笑う蜥蜴僧侶だった……。
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そうして暫く歩いた通路は、螺旋状かつ下り坂の構造になっていた。
壁面には人の手によって彫られた絵が並んでおり、この遺跡が相当に古い建造物であることが伺える。
しかし長い年月が過ぎた今では、ゴブリン達の巣へと成り果てたのだ。
残酷ではあるが、これもまた、よくある事だった。
「ずっとぐるぐる回ってて気持ち悪くなってくるわね。ペースもちょっと早いし……」
「あの、大丈夫ですか?」
「ええ、これくらいなら平気」
そう答えながらも魔術師は僅かに息を荒くして、眉間を押さえている。
長旅による疲労の影響だろうかと女神官が心配していると……。
「先程からチラチラ見回していましたが、こんな道で余所見をすると余計に平衡感覚を失って、下手をすれば転ぶかもしれません。ちゃんと前を向いて歩いた方が良いですよ?」
背後から疾走騎士が声を掛ける。
彼曰く、魔術師はこの遺跡に足を踏み入れてから、何かを探すように、度々周囲を見回していたという。
周囲の警戒は斥候の役割であって、彼女が態々慣れない事をする必要は無い筈だが……。
「ご、ごめん疾走騎士。でも、ちょっと気になった事があるのよ」
「気になった、とは?」
つい先程、出来る事を一つ一つこなしていこうと言われたばかりの魔術師は、ばつが悪そうにしつつも疾走騎士の隣へと下がり、無理をしてしまった理由を彼に述べる。
「トーテムが無いの。ずっと注意して見てたつもりだけど」
「……成る程」
疾走騎士を含むこの場に居る三人の新米達は、ゴブリンのトーテムによって痛い目を見た経験がある。
特に魔術師は毒の短剣を突き刺され、命を落としかけたのだ。
そんな彼女だからこそ、トーテムが一つとして見当たらない事に違和感を覚えたのだろう。
「ええっと、シャーマンが居ない、という事ですか?」
「うん、でもそうなると説明がつかないのよ」
女神官が首を傾げる。
トーテムが無いという事は、この巣にはシャーマンが存在していない可能性が高いという事だ。
しかし、だからこそ現在の状況は余計に不自然なのだと魔術師が言う。
「ゴブリンはリーダーが居なかったらそもそも入り口で見張りなんてしないでしょ?」
「じゃあ、そのリーダーがホブという可能性はありませんか?」
「だったら見張りと一緒に居た狼は端から餌ね。飼い慣らすなんて知能はホブには無いわ」
「あ、確かに」
以前読んだ
そして現在の状況が、その内容とは異なっている部分が多い事を説明をすると、女神官も納得した様子で頷く。
「ねぇ疾走騎士、アンタがここまで付いてきたのって、
彼が今回の依頼に同行した理由が神からの指示、つまり
しかし、この依頼が本当にただのゴブリン退治であるならば、銀等級が四人も居るなか、彼がこの依頼に参加する必要性は無い筈だ。
つまり……今回の依頼には『イレギュラー』が存在する。
毎度疾走騎士と冒険を共にして来た魔術師がその考えに至るのは、もはや当然とも言うべき事だった。
「いえ、この依頼への同行は指示されましたが、今の所他には何も。……ただ、貴女のように気になった事は一つあります」
「ん、教えて」
魔術師が頷いて話の続きを促す。
「ちょっとそこの新人達、こそこそしてないで私達にも聞こえるように話しなさいよ」
すると前方、一党の先頭に居た妖精弓手が声を上げた。
やはり森人、耳ざとい。そんな心象を抱くが、一党内の情報共有が重要である事は確かだ。
もし疾走騎士が何か重要な事に気付いているのであれば、これ以上進む前に聞いておくべきだろう。
そして彼はゆっくりと頷いた後、妖精弓手を含む銀等級の冒険者達に語り掛ける。
「あなた方はこの近辺で多種族の王や長が集まり、軍儀を開くのだと。そう仰っていましたが」
「うむ、確かに」
蜥蜴僧侶が肯定すると、疾走騎士はギルドで彼等から受け取っていた地図を取り出し、それを広げた。
「やはり森人の領地だけあって、この周辺には森林が多いですね。ここからであれば、その軍儀の最中、奇襲を仕掛ける事が容易に出来るでしょう」
「!」
ゴブリンスレイヤーと疾走騎士を除いた全員の足が一瞬止まる。
しかし銀等級の三人は動揺を見せる事なく即座に再び歩き始め、魔術師と女神官も隊列を崩さないよう慌ててそれに着いていく。
「誰も足を踏み入れない、過去に戦争で使われたであろう砦。身を隠すにはうってつけです」
「ふむ……つまり、混沌の陣営の何者かがゴブリン共を指揮し、意図的にこの場所へ巣を拵えさせたと、そういう訳ですかな?」
「まだ確証は得られていません。しかし、自分が駒の指し手であれば、多種族の王達を一網打尽にするこの好機を、みすみす逃しはしないでしょう」
疾走騎士は地図を丸め、再び懐にしまい込む。
元々、軍儀を行う拠点の背後に、偶々都合が悪く発生したゴブリンの巣を、多種族の冒険者達で結成させた一党を以て潰すというのが、今一党が引き受けている依頼だ。
だがこのゴブリンの巣は、偶々発生した物などではないと、そう疾走騎士は推察していた。
「……考えすぎじゃないの? 私達森人の領地にそんなのが入り込んでるなんて信じられないけれど」
肩をすくめる妖精弓手。
可能性が無い訳ではないが、普通に考えればあり得ないと、彼女は言いたいのだろう。
「勿論、確証はありません。先程、そう言った筈です」
「だったら別にそこまで考える必要は──」
「……ですが」
だが疾走騎士には確信があった。
この砦に、混沌に連なる者が潜んでいるという確信が。
彼はその言葉に、呆れ、諦め、そして怒りの感情を込め、吐き捨てる。
「ですが、ゴブリンに軍は動きません。ゴブリンの巣という形を作れば、決して軍が動く事はないのですよ」
冒険者が送り込まれる事はあるだろうが、だからこそ軍からは放置され、軍儀が開かれるまでの時間を稼ぐ事が出来るだろうと、彼は言う。
「つまり、奴等の狙いは『遅延行為』だっていうの?」
妖精弓手に、疾走騎士が頷いて答えを返す。
ゴブリンの巣へ向かった冒険者が帰って来なかったとしても、それはいつもの事。また次の冒険者が送り込まれるだけだ。
もし軍が対応していれば、すぐに調査隊が派遣され、混沌の勢力の狙いも明らかにされるだろう。
しかし、そうはならない。それがこの世界の摂理であるが故に。
それこそが混沌の勢力の狙いなのだ。
「因みに、軍儀の方を延期にする事は出来ないでしょう。各種族の王や長が集まるというのに、ゴブリン程度で延期など……面子が立ちませんからね」
皆が一様に黙するなか、ゴブリンスレイヤーが突然、口を開いた。
「いつもの事。それを利用したか」
「ゴブリンスレイヤーさんは、どう思いますか?」
「違和感は入り口のゴブリンを見た時から感じていた。上位種が居るのは間違いないだろう。だがゴブリンでない以上、それが何者なのかは分からん」
「成る程」
疾走騎士の推理に対し、ゴブリンスレイヤーもおおむね同意見の様だ。
いよいよ信憑性を増してきた話に、一党達の空気が張り詰める。
すると、鉱人道士が肩を回しながら、わざとらしく溜め息を吐いた。
「もしそうだとすりゃあ、復活した魔神直属の配下……の可能性が高いのう。やれやれ、こいつは骨が折れそうじゃわい」
「結構結構。徳の類いは積むものですからな」
蜥蜴僧侶も余裕のある笑顔を浮かべ、掌を合わせている。
やはり、こういう時こそ銀等級としての経験が物をいうのだろう。彼等が臆する様子は一切ない。
「……」
しかし、妖精弓手は何も言わず、ただ俯いていた。
彼女が一党の先頭を歩いている故に、皆からは後ろ姿しか見えないが、特徴的な長い耳は垂れ下がっている。
「先程、信じられないと、そう仰いましたね。実際には『信じたくない』の間違いだったのではありませんか?」
「ちょっ、疾走騎士!?」
普段は温厚な相棒から突如、煽りとも取られかねない言葉が飛び出し、魔術師が驚愕の表情を浮かべる。
「っ……私の故郷、ここから近いのよっ! 悪い!?」
どうやら図星を突かれたらしく、妖精弓手が激高して怒鳴るが、疾走騎士は首をゆっくりと横に振った。
既に故郷を失った彼には、それが悪いなどとは口が裂けても言えなかったのだ。
「いいえ。しかしそれならば、我々は一刻も早く、何としてでも、この拠点を潰さなければなりません。お分かりですね?」
癇癪を起こした子供をあやす様な声色だった。
妖精弓手が特別な事情を抱えている事を察していたのだろう。
暫くの沈黙の後、彼女は自らの頭を掻き毟って、そしてようやく踏ん切りがついたらしく、深呼吸をしてから頷いた。
「……えぇ。その通りね」
新人に励まされるってのは癪だけど……と、最後に言葉を付け足して、再び顔を上げた彼女はそれ以降何も言わず、ただ探知に専念しながら歩き続ける。
先程まで垂れ下がっていた彼女の長い耳は、既に上を向いていた。
「アンタがあんな言い方をするなんて珍しいわね……どうしたの?」
魔術師に小声で話しかけられる。
檄を飛ばす為に仕方がなかったとはいえ、銀等級の冒険者に向けてあの様な言い方をするのはあまり褒められた事ではない。
もし受付嬢に聞かれでもしたら、長時間の説教を受ける事になるであろう事案だ。
「あぁ、驚かせたのでしたらすみません。ですが多分、これが一番早いと思いました」
より集中しているのだろう。妖精弓手は先程より幾分かペースを上げて進んでいる。
疾走騎士は安堵の息を漏らし、本来なら誰も居ない筈の背後を見やる。
『
──こんな曖昧な指示に従う身にもなってよ……。
自身を操る神に、そう内心で懇願しながらも、仲間達の後ろから付いていく疾走騎士であった。
Q.ゴブリンの巣を作って遅延行為しようとしたらゴブリン絶対殺すマンとRTA走者がやって来た件について。
A.なんて事だ、もう助からないゾ♥️