【疾走騎士】ゴブリンスレイヤーRTA ドヤ顔W盾チャート   作:もふもふ尻尾

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遅くなりましたが明けましておめでとうございます!
今年も相変わらずのマイペースでボチボチ進めて参りたいと思います!
どうかよろしくお願い致します!


パート17 裏 中編 『臭い立つなぁ』

 遺跡の深部を目指し、進み続ける一党。

 長く続いた螺旋状の下り坂もようやく終わりを迎えた所で、左右への分かれ道が見えてきた。

 すると突然、先頭の妖精弓手が足を止め、後続の仲間達に手のひらを向ける。

 

「待って。罠があるわ」

 

 彼女は地面に這いつくばって床を調べた後、頭を上げて一党達の方を向きながら、指先で罠の位置を示す。

 床には石畳が敷き詰められていたが、その中に一つ、僅かに浮き上がっている敷石が道の中央にはあった。

 

「鳴子か」

「多分。踏まないように気を付けて」

 

 恐らくあれを踏めば罠が起動し、侵入者が来た事を奥に居るゴブリン達に知らせる仕組みになっているのだろう。

 立ち上がった妖精弓手は罠を避ける為、浮かび上がった敷石と壁の狭い隙間を進むと、仲間達もそれに続く。

 

「よく見付けられますよね……」

 

 女神官は仕掛けられた罠の脇を歩きながら、恐怖で身を震わせていた。

 ほんの僅かな差異だ、自分では違和感すら感じる事もなく見落として、罠に嵌まっていただろう。

 

「そうね、経験(レベル)……いや、技能(スキル)の問題なのかしら」

 

 そんな女神官の後に続いて、万が一にも罠を踏む事が無いよう、壁を背にしながら横に歩いて進む魔術師が、地面に仕掛けられた罠を見下ろそうとする。

 

(……待って、そもそも見えなくない?) 

 

 そして、魔術師は愕然とした。

 足元にあるはずの罠が殆ど見えないのだ。

 代わりに彼女の視界に映っているのは、自らが持つ、二つの豊かな膨らみである。

 これでは単純な落とし穴ですら発見する事は難しいだろう。

 

「どうかしましたか?」

「えっ? な、何が?」

 

 自らが致命的にまで罠の探知に向いていない事を自覚し、ショックを受けていた所で、罠を挟んで反対側の壁際を通る疾走騎士に声を掛けられる。

 

「俯いて難しい顔をしていたので」

「あ~、ええっと……あ、アンタならどう? この罠に気付けた?」

 

 なんとかはぐらかそうとする魔術師。

 彼女が悩んでいた理由は、『成長した胸のせいで足元が見えないから』といった、かなり恥ずかしい内容である。

 故にぎこちなくも取り繕って、適当な事を口に出してしまうが、それに対し疾走騎士は真剣に考えを巡らせた。

 

「さて、どうでしょう。罠に関してはいつも気を付けてはいるつもりですが」

「そ、そうよね。無駄な事聞いてゴメン……」

 

 ──気付かない訳がないものね。

 彼の用心深さが並大抵ではない事は、これまで共に冒険をしてきた私が、誰よりも理解できているつもりだ。

 自身のあらゆる欠点を、疾走騎士は尽く補ってくれているのだと改めて実感して、安心と、そして己の不甲斐なさが入り交じった溜め息を吐いた。

 

「いえ、何れにせよ、あの長い螺旋の通路を歩かされた直後です。見過ごしてしまう事もあるかもしれません。……いや、或いはそれこそが狙いでしょう。となるとやはりこれは、ゴブリンのやり方ではありませんね」

 

 そんな疾走騎士の言葉を聞いていた女神官が頭を傾ける。

 

「どういう事ですか?」

「奴等は間抜けではないが、馬鹿ではある──という事です」

 

 罠を通り抜け、道の分岐点に辿り着くと、疾走騎士は先に居たゴブリンスレイヤーへと視線を向けた。

 

「そうだ」

 

 ゴブリンスレイヤーは頷いて、持っていた松明で罠を照らす。

 奴等は自分達が世界の中心であると信じて疑わず、己こそが誰よりも優れていると思い込んでいる、どこまでも利己的な生物である。

 騙し打ちはするものの、その思考は単純であり、実際には相手の裏をかくというやり方すら知らないのだ。

 だがしかし、今回の罠は冒険者の消耗を見越して罠を仕掛けるという工夫がなされていた。

 

「何より気に入らんのはこの巧妙に偽装された鳴子だ。奴等だけではこんな機構をした罠を思い付く筈がない」

 

 つまり、ゴブリンにしてはやり方が利口過ぎるのだ。

 力を貸している、或いはゴブリンを利用している者が居ると考えるのが妥当だと、ゴブリンスレイヤーは話す。

 

「そういえば怪物図鑑(モンスターマニュアル)に『ゴブリンは原始的な罠を用いる』って書いてあったけど……」

「落とし穴に待ち伏せ、壁抜きもある。ここでは難しいだろうがな」

「……確かに、この堅い壁や床を掘るのは無理そうね」

「そろそろ話は終わった?」

 

 ゴブリンスレイヤーの解説が粗方終わった所で、妖精弓手が声を上げる。

 

「あぁ。どうだ」

「まだ敵の気配はないわね。右と左、どっちに進む?」

 

 どうやら床が石で出来ている為に、ゴブリン達の足跡が見えず、どちらが奥へ続く道なのか分からないようだ。

 

「どれ、わしに見せてみろい」

 

 すると鉱人道士が分かれ道の中央で床を観察して、左の方向を指差した。

 

「床の減り具合から見て、奴等のねぐらは左側じゃな」

「確かか?」

「そら鉱人(ドワーフ)だもの。石、金、酒なら任せい」

「そうか」

 

 話を聞いていた妖精弓手はしゃがんで、先ほど鉱人道士が調べていた床を見る。

 微かながら床がすり減っている事は確認出来るが、それがどちらの方向へ向かっているかの判断は難しそうだった。

 

「じゃあ左に進めばいいのね?」

 

 鉱人の得意分野には敵わないという事実は、癪ではあるが受け入れるしかないだろう。

 そう割りきって、妖精弓手が立ち上がって振り向くと、そこには反対側の道を進んでいくゴブリンスレイヤーの後ろ姿があった。

 

「こっちへ行くぞ。奴の後を追う」

「ち、ちょっと待ちなさいよ! あいつらのねぐらは左……って、追うって誰を?」

 

 妖精弓手が周囲を見渡す。

 仲間達を一人一人確認していくと、なんと姿が見えない人物が約一名。

 

「シエルドルタが居ない!?」

 

 一党の最後尾から付いてきていた筈の疾走騎士が、いつの間にか居なくなっていた。

 妖精弓手は驚愕する。

 仲間が居なくなった事もそうだが、何より彼女が信じられなかったのは、彼が居なくなった事に自身が気付かなかった事に対してだった。

 敵を探知しながら進む彼女は、僅かな物音や気配にすら反応する程度には全神経を尖らせていた。

 にも関わらず、気付けなかったのだ。

 相当熟達した隠密技能を有しているのかもしれない。

 そうでなければ自信を無くしかねない事態だ。

 

「あっ! もうっ、またなのねアイツは……」

 

 ──しまった、油断した。

 魔術師もまた、疾走騎士が居なくなった事に気付き、頭を抱える。

 疾走騎士が勝手に単独行動をする事は今までも度々あった。

 だが今回は銀等級の冒険者達が何人も同行している故に、無茶な事はしないだろうと考えていたのだ。

 しかし、彼の行動には必ず相応の理由がある事も、魔術師は知っている。

 一体彼に何があったのだろうか……?

 

「奴は先程、俺に話を振って、そのままこの道を進んで行った」

「それ気付いてたのに止めなかったの!?」

「問題は無い。恐らくはこれが一番早いのだろう」

「もうっ、あんた達そればっかり。ちゃんと説明しなさいよ……」

 

 妖精弓手は足を止めて、うんざりという様子で項垂れてしまった。

 そこへ女神官と魔術師の二人が歩み寄り、慰めるように声を掛ける。

 

「あの、とにかく追いかけませんか?」

「まあその、うちらのが迷惑掛けて悪いわね……」

「……あいつらいっつもあんな感じなの?」

 

 ゴブリンスレイヤーを後ろから指差す妖精弓手。

 勿論『あいつら』というのは、ゴブリンスレイヤーと疾走騎士の二人を意味する。

 同情の眼を向けられて、女神官と魔術師はお互いに一度見合ってから、同時に深く頷いた。

 

「嘘でしょ……よく付いていけてるわね」

 

 それは本当にそう。

 女神官は苦笑いを浮かべ、魔術師は腕を組んで悩ましげに眉間に皺を寄せている。

 思った以上に、彼女達は苦労している様だ。

 どうやら諦めがついたらしく、妖精弓手は大きく溜め息を吐いて進み始めた。

 しかしそこで、ある異変が起こる。

 

「うっ、何なのよこの臭いっ……!」

「ぬおっ!? こ、こひゃあはまはんはい!」

「むぅ……」

 

 突如通路の奥から悪臭が漂い、妖精弓手が口元を押さえ、鉱人道士が鼻をつまみ、蜥蜴僧侶は苦悶の表情を浮かべる。

 一歩進む毎に、その臭気は強くなっていくばかりだ。

 

「すぐに慣れる」

 

 それでもゴブリンスレイヤーは振り返らず、進み続ける。

 

 

 ──そういう事なのね。

 

 魔術師は心の中で納得した。

 この臭いを、私は知っている。

 ゴブリンの巣穴の……それも奥深くで嗅いだことのある、『あの臭い』だ。

 あと、下水道……いや、汚物の臭いも混ざっているだろうか?

 いずれにせよ、この先にあるのはおぞましい惨状なのだろう。

 隣の女神官は、かたかたと歯を鳴らしている。

 あぁ、決して慣れたくはなかった臭いだ。

 だからこそ、彼は一人で進んだのだろう……。

 

 

 そして、進んだ通路の奥にあった一室。

 木で作られた扉は既に破られ、部屋の内側へと倒されていた。

 中を覗けば、地面は糞尿とゴミのような物で埋め尽くされており、正気であれば、自ら進んで足を踏み入れようとはしないであろう、そんな空間が広がっている。

 

「来ましたか。あぁ、中へ入る必要はありませんよ」

 

 しかし、そんな部屋の奥に……疾走騎士は居た。

 腹部を貫かれ絶命し、地に伏せているゴブリンを傍らに、そして布を被された、森人の捕虜を抱き抱えて。

 

─────────────────

 

「《いと慈悲深き地母神よ、どうかこの者より病毒をお清め下さい》」

 

 部屋から出てきた疾走騎士が、抱えている森人の捕虜に《解毒(キュア)》の奇跡を行使した。

 本来は輝いていたであろう金色の髪も、透き通るような白い肌も、今は薄汚れてしまっている。

 だが、それだけならばまだ良かった。

 ぶら下がった手足には深い傷跡があり、腱が断たれている。

 被された布から覗く顔は、左半分は白い肌のままだが、右半分はまるで葡萄のように腫れ、皮膚は赤黒く爛れていた。

 

「化膿の毒は取り除きました。治療をお願いします」

「え……あっ、は、はい!」

 

 助け出した森人を石畳の上へ寝かせると、呆然としていた女神官が戸惑いながらも慌てて手当てを始める。

 すると疾走騎士は再び汚物溜めの部屋へと足を踏み入れ、積み上げられたゴミの山から何かを拾い上げた。

 それは小さな背嚢だった。

 囚われていた森人の持ち物だろうか。

 そして部屋を出た疾走騎士は、背嚢に手を突っ込んで中を探る。

 

「あったか」

「はい、この中にちゃーんと」

 

 背嚢から疾走騎士が引っ張り出したのは、乾燥させた大きな葉を丸めた物。

 広げて見れば、今自分達が居る遺跡の内部構造が、細かに描かれていた。

 疾走騎士はこれが地図であると確信し、ゴブリンスレイヤーへと手渡す。

 

「うぶっ……んぐっ!」

 

 妖精弓手は壁にもたれかかってへたり込んでしまっていた。

 同族の無惨な姿を目の当たりにしたショックが、余程大きかったのだろう。

 唐突に、胃から喉まで不快感が逆流し、しかし右手で口を押さえ、何とか飲み込んで押し戻す。

 

「わけ、分かんないっ! これがあいつらのやり方って訳!?」

 

 あの森人の右半身に刻まれた傷跡は、ただ痛め付けられただけの物ではない。

 捕虜を弄び、嘲る為だけの、残虐な遊びの痕跡だ。

 ゴブリンスレイヤーと疾走騎士の話から、ある程度の心構えはしていた。

 しかし、これはあまりにも惨過ぎる。

 何故こんな事が出来るのか、ゴブリンという生物の悪辣さに、妖精弓手はまるで理解が追い付かないでいた。

 疾走騎士が気を利かせて被せた布の下は、もっと酷い状態なのだろう。

 もし、彼女が受けた仕打ちの全てを目の当たりにしていたならば、堪えられずに吐いていたかもしれない。

 たった一人、こんな場所で、ゴブリンに蹂躙され続ける。

 それがどれほどの地獄か、想像も出来ない。

 妖精弓手の綺麗な顔は、既に涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。

 

「ええ、これこそが本来のゴブリンのやり方です」

 

 そこへ疾走騎士が歩み寄り、膝を突いて、背嚢を妖精弓手へと差し出した。

 

「これは貴女が持つべきでしょう。彼女の失敗を、無駄にしない為にも」

 

 彼の視線が、囚われていた森人に向けられる。

 断たれた腱の傷は塞がったものの、その手足を動かせるようになるまでは暫く掛かるだろう。

 しかし、目を背けたくなる程に膨れ上がっていた皮膚は、今は赤い痣が残っている程度だ。

 疾走騎士の《解毒(キュア)》と、女神官の《小癒(ヒール)》による治療の甲斐あってのものだろう。

 しかし、これはあくまでも応急処置。

 何より彼女は憔悴しきっている。

 早急に森へ帰らせる必要があった。

 

「であらば、拙僧の出番ですな」

 

 蜥蜴僧侶が腰に下げていた袋から何本かの牙を取り出し、足元にばら蒔く。

 

禽竜(イワナ)の祖たる角にして爪よ、四足、二足、地に立ち駆けよ」

 

 すると牙が形を変えていき、蜥蜴のような姿をした骨の兵へと変化する。

 従順な駒を生み出し、使役する事が出来る。それが《竜牙兵(ドラゴントゥースウォリアー)》という奇跡だ。

 

「この竜牙兵であらば、森人の森まで彼女を送り届けられましょう」

「それでしたら手紙も一緒に! 事情を知らせないと……」

 

 森人の捕虜を助け出した事や、この遺跡に混沌の勢力が潜んでいる可能性がある事も知らせなければ。

 そう思った女神官が、紙と筆を取り出した。

 

「なら手紙は私が書くわよ。字は得意だし」

「あっ、はい! お願いします……!」

 

 魔術師が手を出して、女神官から紙と筆を受け取ると、伝えるべき内容を簡潔に、分かりやすく、必要最低限の文字数ですらすらと綴っていく。

 

「ほう、見事なもんじゃわい」

「学院に居た頃は必死で勉強したもの……」

 

 魔術師の筆の早さに、鉱人道士は髭を撫でながら思わずうなる。

 学院を卒業した彼女にとって、これくらいは朝飯前なのであった。

 

「……ん、こんなもので良いかしらね」

「う……」

「あっ、起きましたか!? もう大丈夫ですよ。無理はなさらないで下さい!」

 

 魔術師が手紙を書き終えた所で、意識を失っていた森人が目を覚ました。

 女神官が安静にするよう促すが、しかし森人は一党達の姿を見て、自らが助け出された事を理解し、それでも尚、縋り付くように、一切の力が入らない手を震わせて彼等へ伸ばそうとする。

 

「お……お願い……あいつらを……殺してよ。でないと……皆が……森が……」

 

 悲痛な声が辺りに響く。

 すると疾走騎士が妖精弓手の肩をぽんと叩いた。

 顔を上げて疾走騎士の方を向くが、兜に覆われていて、その表情は分からない。

 しかし、彼が何を言わんとしているのかは──理解出来た。

 妖精弓手は背嚢を強く握り締め、腕で自らの顔を拭い、立ち上がる。

 そして微かに震えている足で森人の下まで歩き、その手を取った。

 

「大丈夫よ。後は全部任せて頂戴。その為に私達はここへ来たの」

「あ……あり……がと……う……」

 

 先程まで泣いていたせいで、その目は赤いまま。

 それでも無理をして微笑んで見せた妖精弓手。

 彼女の言葉を聞いて安心したのだろうか、森人は感謝を述べて、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

「やはり左の道が正解のようだな」

 

 ゴブリンスレイヤーは地図に描かれていた遺跡の構造を見終え、丸めて自らの雑嚢へとしまう。

 

「行くぞ、ゴブリンは皆殺しだ」

「えぇ、こんな事を当然の権利のように行える奴等を、許せるわけがありませんからね」

 

 淡々とゴブリンスレイヤーが言い、疾走騎士が重々しく返事をする。

 二人の言葉は、ゴブリンを生かしておく理由など一つとしてありはしないのだと、そう仲間達に改めて認識させ、全員を一様に頷かせた。

 

───────────────

 

 魔術師が書き上げた手紙を渡すと、竜牙兵は助け出した森人を担ぎ、走り去っていった。

 

「この先に回廊がある。奴等はそこを寝床にしているはずだ」

「なんじゃ、信じとらんかったんかい」

「いや、ただ確証は多い方が良い」

 

 そして一党は分岐点まで引き返し、今度は反対側の、左の道へと進んでいく。 

 

「それで、囚われてる人が居るって分かったから、一刻も早く助けようとしたのね?」

 

 隊列の最後尾で、魔術師は疾走騎士が一人で捕虜の救出に向かった訳を聞いていた。 

 

「はい。臭い立っていましたから」

 

 彼が言うには、あの分岐点に辿り着いた時点で、捕虜が居る事に臭いで気付いたらしい。

 ──私ですら部屋の前まで来てようやく気付いたんだけど……やっぱり犬なんじゃないの?

 

「あの汚物溜めに私達がわざわざ足を踏み入れる必要は無いと思ったから、一人で進んだって言うのね」

「汚物溜めの中なんて、えずくじゃあないですか。それに、あれが一番早いと思いました」

「……確かに、わざわざ説明して全員に付いて来てもらうより、さっさと一人で助け出した方が早かったわね」

「理解が早くて助かります」

「前みたいに手遅れになる可能性もあった。まあ、気持ちは分かるわよ。あの時は私も一緒だったから……」

 

 一瞬の判断で、誰かを助けられない時がある。

 初めての冒険で失ってしまった、二人の仲間のように。

 それを考えれば、彼が囚われていたあの森人を一目散に助けに向かった事も理解出来る。

 出来るんだけれども──……。

 

「ねえ、疾走騎士?」

 

 ──こっちの気も知らないで勝手をされると、やっぱり腹が立つわね……。

 

「なんでしょうか」

 

 私は足を止めて振り向いて、笑顔を貼り付けながら、兜の奥の、闇に沈んだ彼の目を覗き込む。

 

「私はまだ、アンタにとって足手纏いなの?」

「は? えっと……そんな事はありませんが……」

「そ、う、聞、こ、え、る、の! 置いていかれたうえに『これが一番早い』なんて言われる気持ちにもなりなさい!」

 

 腰に両手を当てて彼を叱りつけてやると、疾走騎士はようやく自身が無神経な発言をした事に気が付いたようだ。

 

「そ、それは……確かに、……本当にそうですね。すみません……」

 

 しゅんと小さくなって、頭を下げる彼の姿がまるで子犬のようで……くっ、いきなりそういう仕草しないでよ。かわいいじゃない。

 彼は何の躊躇いもなく、一人で深淵へと足を踏み入れようとする。

 そんな予想をしていた矢先のコレだもの。

 私も流石に怒っちゃうわよ。

 

「と、とにかく! 出来ない事はやらないから大丈夫だって、アンタは前にそう言ってたわよね?」 

「はい」

 

 以前、逃げたゴブリンを追うために疾走騎士が一人で飛び出して、それを私が問い詰めた時に言われた言葉だ。

 彼を信用していない訳ではない。

 彼を信頼していない訳がない。

 でも、だからといって放ってはおけない。

 賽子の目一つで、全てを失ってしまうかもしれない。そんな恐怖と隣り合わせの冒険に於いて、ただ唯一私の心に安らぎをくれる存在を、放っておける訳がないのだ。

 だから私は、彼に一つ釘を刺しておく事にする。

 

「じゃあ何も言わないし、何も言わなくてもいいから、せめて私を連れて行きなさい。それなら時間も無駄にならないで済むでしょ」

 

 彼の前に立ったまま、腕を組んで人差し指を立てる。

 ……あ、コレ胸が持ち上がって肩が楽でいいわね。

 

「……え?」

「え? じゃないわよ。ほら、早く頷かないと置いてかれるわよ?」

 

 先陣を歩くゴブリンスレイヤーや銀等級の冒険者達に立ち止まる様子はなく、徐々に距離が離されていく。

 女神官だけがおろおろと、こちらと向こう側を交互に見ていた。

 

「わ、わかりました」

「ん、それでいいのよ。じゃ、行きましょ」

 

 疾走騎士が頷いたのに満足し、小走りで一党を追いかける。

 ちょっと卑怯なやり方だったかも知れないけれど、悪いのは疾走騎士の方だもの。

 私にもやれる事はあるはずなのに、その機会すら与えようとしないんだから。

 いっその事、首輪でも付けてしまおうかと思ったけれど……それは流石にね。

 言質は取れたし、今はこれで良しとしましょ。

 

「どうした?」

「何でもないわよ。敵の気配が近づいてるから、注意して」

 

 ゴブリンスレイヤーに声を掛けられるも、探知に集中し続ける妖精弓手。

 先程まで取り乱してしまっていた彼女だが、疾走騎士に励まされたお陰か、今では驚くほど落ち着いていた。

 

「ふふっ、ほんと苦労してるのね」

 

 妖精弓手がぴくぴくと耳を震わせる。

 どうやら疾走騎士も、あの魔術師の前では形無しの様子。

 それがとても愉快で、妖精弓手は思わず笑みを溢してしまうのだった。

 





Q.時間のロスを人質に言質取られてて草。

A.卑怯だぞ! 彼女はきっとスリザリン生徒だったに違いない! グリフィンドールに810点!!
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