「小隊本部は」
「依然応答がない」
無線をいじくり回す自分に向けた部下の不安げな声にそれだけを返すと、ヴラッドは手にしたハンドマイクから流れる音がないか耳を傾けた。
降下地点での交戦から一時間が経過し、日付変更時刻が近づきつつあるというのに、外の喧騒は未だ収まる気配もない。まだ至るところで悲鳴や銃声が鳴り響き、ときたま、爆発音や車両事故の耳障りな金属音が空気を揺らした。
しかし、見かける市民の数は少ない。ほとんどが大きな街路から住宅地へ逃げ、いっときの安全を求めてどこかへ立てこもっているのだろう。
それは自分たちも同じであり、軽傷ではあるものの負傷者二名、戦死一名の状態で、途中で拾い上げた民間人五名を匿って古物商店に身を潜めていた。店正面の窓に降ろされたシェードには、ふらふらと歩き回る影が写り込んでいる。ここもそう長くは持たないだろう。早急に移動しなければならない。
「中隊本部に撤退を打診してヘリをよこしてもらうべきです」
ヴラッドの班員であるチャベスが、玄関へM4をむけたまま顔をこちらへ向けた。汗が滲み、緊張で張り詰めた意識が一時的に緩んでいるのか、視線はどこか胡乱だ。
「バカ、そのためにゃ小隊本部の野外無線機が必要なんだ」
ダニエルがガーゼを当てて消毒を施した肩に触れながらチャベスの頭を小突く。
彼の言う通り、分隊長以下、通常の隊員に配布される無線は小型で携行性に優れるぶん出力が低く、送信距離は短い。郊外に敷設されているはずの中隊本部との交信のためには、小隊本部である第一分隊と合流する以外に方法がない。
もし野外無線機が確保できない場合、脱出用のヘリすら要請できないのだ。当然、その場合は自力でヘリを探して街を出るか、陸路で州兵が封鎖を行っているラインまで移動しなければならない。
前者は可能性が低く、後者は明確に作戦中の禁止事項に含まれている。
「あんたら、上と連絡すらとれんのか」
この店の店主である老人が、こちらの会話に怪訝な顔で割り込んできた。深いシワが刻まれた丸メガネの老人は、本来は売り物だったという骨董品の散弾銃を手に、カウンターの内側の椅子に腰掛けている。
その向こう、老人の居住スペースを兼ねる店のバックヤードでは、負傷した部下と裏口警戒に当たる隊員らが民間人を囲んでいる。保護した市民は不安げな眼差しをこちらへ向けていた。
「ええ、そうです。現在小隊の他分隊が応答しません」
「あんたら、何人でここに来た」
「詳細は答えかねますが、自分の小隊の他にもいくつか」
事務的に返し、イヤホンに接続した分隊内無線とは別に、スピーカー兼用のハンドマイクに接続された小隊内無線装置の周波数を確かめる。各分隊指揮官用周波数に呼びかけてみるが、やはり応答しない。
「まったく、ひきこもりの老人にゃ、なんでこんなことになっとるのかさっぱりだよ。物騒な世相だとは思っとったが、暴動なんてうそっぱちじゃないか」
にっちもさっちもいかないこちらの状態に心底呆れたとばかりに首を振る老人は、自分の散弾銃をしっかりと握ったままため息をこぼす。
「ここもそうかからず
ダニエルが言った。噛まれた傷口が気になるのか、しきりに血のにじむガーゼをいじくり回している。
「合流地点まで移動するしか無い。生き残りがいればそこに向かうはずだ」
そう返して、ヴラッドは自分の言葉に眉根を寄せた。生き残りがいれば、などと、他の分隊が壊滅している前提の話をしている。自分たちは戦死が一名出ているが、いまだ戦力は十分。状況の不透明さを考えれば心もとないが、他分隊も同じように戦力を残している可能性があるんじゃないか?
もちろん、無事であれば無線に応答があって然るべきであり、応答がない以上壊滅したとみなすのが現実的な思考というものだ。が、どちらも予想の範囲を出るわけでなし、不確定である以上、部下を不安にさせるような事を言うべきではない。
「道路はあちこち封鎖されとるよ。昨日から何度か、警察がパトカーで走り回ってそうふれまわっておった。暴徒対策で道路を封鎖する、市民は最寄りの避難先へ向かえとな」
もっともわたしはこの店がすべて、逃げる気などなかったが、と笑った老人は、店の外をうろつく影を見つめたままだ。
「ま、暴徒などというから店を守ろうと思ったが、死人が歩くようじゃどうしようもない」
「封鎖されていない道はわかりますか」
「店から出とらん、皆目検討もつかないね。まあ幹線道路のたぐいはあちこち塞いどるだろうが、この状況だ、警察がやらんでもだれかが塞いでたっておかしくはない」
出たとこ勝負ですねとダニエル。ヴラッドは投入前に配布された地図を広げ、現在位置と事前に設定した合流地点までの距離を見る。途中、あちこち道が封鎖され、あるいは死人で埋まっていたために目的地も何もなく移動したせいで、合流地点との間には四ブロックほどの距離があった。
四ブロック。大したことはない距離だ。すこし歩けばたどり着ける程度。しかしこの状況下、原因不明の暴徒、もとい歩く死人が跋扈する状況では途方も無い距離と言える。ここに逃げ込むまでの間に、何十人では収まらないほどのそれを目にしてきた。
何が人を歩く死人に変えるのか、それはヴラッドにもわからないが、住民の何割か――ひょっとすると半分以上は敵になっている可能性がある。
手持ちの人員は自分を含め九名、民間人を抱えて四ブロックを移動するというのは、ゾッとしない話だ。
が、ここでうだうだと悩んでいるだけの時間の猶予がないことは明白だった。がしゃんと店の玄関で窓ガラスが鳴り、店主が反射的に散弾銃を持ち上げる。店の奥でうなだれていた女性の悲鳴が上がり、すぐに小さくなった。見れば、年老いた女性が若い女の口もとに手をやり、小声でなだめている。
「ダニエル、店の裏から出るぞ。ルートは最短経路をとる。マディは俺について前衛、ダニーとドノヴァンは後衛、残りは民間人のお守りだ。もしはぐれた場合は、どうにかして切り抜けろ」
了解、と、再び緊張をみなぎらせた部下らが小声で応じる。店の外には、すでに何人かの人影が集まりつつあった。窓を叩く音も大きくなっていて、ガラスを破って入ってくるまでは秒読みだ。M4を握り、店の裏口へと歩み寄ると、前衛に指定されたマディソンが自分の隣についた。
振り向くと、保護した民間人らがすがるような眼差しを向けている。例外は老人で、古臭い水平二連式散弾銃を手に、自分の店を名残惜しそうに見回していた。
「行くぞ」
ヴラッドはマディソンにささやきかけ、鍵をあけた裏口の扉をゆっくりと押しのけた。裏路地から、生ゴミの臭いに混じって強烈な腐臭と血なまぐささが流れ込んでくる。
銃を構え、二人でドアの左右を潰す。人影はない。足元でゴミ漁りをしていたネズミが、その大柄な身体をはねさせて逃げ出した。裏路地に明かりはなく、カービンに固定したライトのスイッチを入れる。
暖色の光線が伸び、人がすれ違うのがようやくと言った幅の路地を照らす。ダストボックスから溢れたゴミ袋の影に、死体が一つ。合流地点に向かうのはその脇を通るしか無い。その先、裏路地を出た先では、電柱に突っ込んだパトカーが赤と青の回転灯を点滅させていた。
ヴラッドは左手で前進を命じ、銃口を前へ向けたままブーツを踏み出す。ゴミ袋の影に倒れ込む遺体へ銃口を向け、硬いブーツの底でその背中を踏みつけにした。死体は片腕がなく、うなじから喉にかけてがひどく損傷している。
踏みつけ、押しのけても反応はない。おそらくは死んでいる。そのはずだ。念の為頭に一発、というのも考えたが、街路における銃声がどこまで響くかを考えると、むやみな発砲は避けるべきだろう。
「俺達の仕事は市民救助だ」
誰に当てたわけでもないつぶやきは、自分の目的を忘れぬようにするためだ。死体に弾を撃ち込むためにここに降り立ったわけではない。
そのはずだ。いや、そうであってほしい。心の奥で自分の弱い部分が喚くのを黙らせ、店から出てきた後続に目を向ける。店内でガラスが割れる音がして、先程悲鳴を上げた若い女が身を固めたが、貴婦人然とした品の良い老女がその腰を支え、必死に励ましている。
その後ろから部下が全員裏路地に出て、ダストボックスをドアの前に引っ張って封鎖すると、後衛についたダニエルが親指を立てた。
ヴラッドとマディソンが裏路地から通りへ踏み出すと、そこは今までに見てきた地獄の続きだった。誰かが火をつけたのか、事故か、すぐそばで店が火に包まれ、割れたガラスから吹き出た炎が上階への外壁を炙っている。
その明かりはまばゆく、通り全体を染めて影を揺らめかせていた。赤く染まる景色の中、奇妙な呻きを漏らしながらふらつく死人たちをみやり、腕に巻いたリストバンドの蓋を開けてなぐり書きした移動経路を確かめたヴラッドは、手のひらで進行方向を示した。
大きな通りには死人が多く、細い路地ほどその数は少なくなる。それがここに逃げ込むまでに掴んだ傾向だが、移動経路は太い道を使うほうが都合がいい。細い路地の場合、仮に封鎖され、あるいは不意に多数の敵と出くわした場合、即座に全滅する可能性が否定できない。
大きな通りであれば、対処するべき敵の数は多いが、完全に行き止まりになる可能性は少ない。そこから別の経路へ切り替えるのも容易だ。
通りはどこへ向かえど、どこまで進めど似たような有様だった。突っ込んだ車、点在する死体、地面へ飛び散った血と、あちこちでくすぶる炎の赤。道端で、小さな子供が倒れ伏した人影に顔をおしつけ、腹の中身を必死に貪っているのが見えた。
肘から先がちぎれた小さな手を握り、中身が赤黒く染まったベビーキャリーを胸の前に下げた女の骸。パトカーの前で、弾の尽きたブローニング拳銃を手にうろつく警官の死体。
極めつけは、路肩でひっくり返ったスクールバスだった。ひび割れたフロントガラスの中で、首のへし折れた運転手の上に群がる子どもたちの姿を見たとき、背後では女性のすすり泣く声が聞こえ、気丈に振る舞っていた老婦人すらもはや言葉を失っていた。
それはヴラッドも、部下も同じだ。救助すべき市民など、いま自分たちが囲んでいる数名をのぞき皆死に絶えたのではないか。そう思えてくる。
しかし、街の各所ではまだ銃声が響いていた。風に乗って流れてくる死者の低く喉から絞り出す物哀しい合唱を吹き散らすように、甲高い連射音が力強く大気を震わせている。ラクーン市警の装備は知らないが、軍用ライフルの発砲音が聞こえるということは、まだ戦闘を続けている部隊が存在する証だ。
「ヴラッド」
マディソンが周囲へ警戒の眼差しを向けつつ、潜めた声を発した。周囲の死人共は、死肉を貪ることに夢中な連中をのぞき、固まって移動するこちらへとゆるゆると、おぼつかない足取りで接近してきている。
マディソンが進行方向を示した。通りの途中が、移動式の金網フェンスで封鎖されていた。その手間には警察車両が二台横向きに停車し、トラックを隙間に詰め込んでフェンスを補強している。
「クソ」
フェンスの高さは二メートル半かそれ以上あるように思えたが、コレを超えていく以外に方法はない。すでに、背後にはこちらを追いかける死体で溢れている。
フェンスは幅一メートル半程度、それをいくつも並べ、チェーンで厳重に結びつけて固定している。どかすのは不可能だろう。装備品にボルトクリッパーがあればワイヤーを切断して通用口にする方法もあったが、爆薬はあっても工具類は持ち込みがない。
「わらわら集まってきてやがる」
ダニエルが罵った。ヴラッドは背後を振り向き、夜の街並みを背景に、わらわらと幽鬼の群れがこちらへ向かって行進しているのを見た。数はとてつもない。百はくだらないだろう。
「こんなの、登れないわ」
老婦人が上がり気味の呼吸を整えながら言った。隣に佇む若い女は、老婦人の背中を擦りながら、絶望の眼差しを群がり始めた死人へむけている。
ヴラッドはポーチからマルチツールを取り出して、フェンスへと取り付いた。指を金網に通し、エドモンドの遺品で重くなった身体を持ち上げる。金網が食い込んだ指先が痛んだが、それを飲み込み、フェンスの上にくくりつけられた有刺鉄線へマルチツールを伸ばした。
その間にも、ヴラッドの視線は移動先の様子を確認している。フェンスの向こうにも何人か歩く死体が見えたが、大した数ではない。こちらよりはマシだ。
ペンチの根本のワイヤーカッターに鉄線をはさみ、力を込める。フェンスの網よりもよほど細いが、それでも金属製のそれを切断するのは力がいる。片手でしばらく粘ったあと、ヴラッドは体を支えていた左腕で更に上へ体を持ち上げ、有刺鉄線の隙間に腕を通してしがみつくと、両手で力いっぱいマルチツールを握りしめた。
ばちん、と硬質な音がして、有刺鉄線が切断される。切断した有刺鉄線を手で押しのけると、鉄棘が腕に食い込んだが、かまっている余裕はなかった。人がひとり乗り越えられる隙間を開けると、マディソンに目を向ける。
「マディ、先に渡れ。ドノヴァン、リチャード、年寄を担いでその後に続くんだ」
「了解」
マディソンがカービンを背中に回し、訓練された人間特有の、力強く素早い動きでフェンスをよじ登り、飛び降りた。命令を受けた部下が老婦人の前にしゃがみ込み、彼女を背負う。古物商の老人は担がれるのが嫌なのか、自分で渡れると鼻を鳴らしてそれを拒んだ。
「どうします、こりゃエグい数ですがね」
「死ぬよりマシだ、近い順に片っ端から撃て」
ダニエルの問いかけにヴラッドは端的に返した。彼らが渡り終えるまで、この場所を固守しなければならない。
自分のM4を構え、直ぐ側の裏路地からよろよろと這い出してきた男へ狙いをつける。暗いせいで姿はよく見えないが、破れた腹部から内蔵を垂らし、ずるずると引きずる様子からすると、生きてはいるまい。
ソレを撃つ。一発で頭を射抜かれ、男が地面に転がった。小口径弾特有の小さな射入口からどろどろとした脳と血液の混合液が垂れるのが見えた。
照準を横に流す。市民の背を守る部下たちは、すでに各個に発砲を開始している。最も近い個体から、頭部だけを狙い撃つ。理性によってペースが抑制された銃声は心地が良い。この状況で、まだ分隊の統制が取れている事実はヴラッドを落ち着かせた。
だが、死人共の数は油断を許さない。高く、遠くまでよく響く銃声が一度響くたびに、新たに死人が姿を表すような、そんな気さえしてくる。引鉄を絞る、歩み寄る影が倒れる。助けるはずだった市民、その成れの果てが脳漿を散らして地面に伏し、次の標的を探す。
ドットサイトのレンズ越しにこちらへ行進する死者の群れ、その数は明らかに増えている。銃声に群がっているのだ。
「弾倉交換!」
「残り五本、半分切りました」
部下が叫ぶ。ヴラッドは、もう崩れた顔のディティールが見て取れる距離に近づいた死人の群れを見、背後へ視線を走らせる。最後の一人、老人が渡り終えたところだ。
「お前とお前、先に渡れ」
「くそ……了解、先に渡ります」
射撃列から若い二人を選抜して命じると、彼らは銃を背へ回してフェンスへ駆け寄る。足を噛まれた一人が取り付き、もうひとりがそれを下から押し上げる間に、ヴラッドは空の弾倉を入れ替えた。
「まずいな……分隊長、最悪先に渡ってください」
「バカ言え、負傷してるお前が先だ。急げ」
ダニエルが額に汗をにじませ、何本目かの弾倉を取り替えながら視線をこちらへ投げたが、ヴラッドはその申し出を鼻で笑って却下した。
M4のバレルが薄く白い煙を立てていた。過剰な連射に熱がこもっているのだ。だが射撃をやめるわけにはいかない。ヴラッドはダニエルの襟首をひっつかんで金網へ向かわせた。
「急げよ、俺が死んだらお前が責任者だ」
言いながら、ヴラッドはすぐ目の前に迫った死人の群れに向き合った。肩を並ばせ、互いにぶつかりながらこちらに歩み寄る影、ゾッとしない眺めだ。どれも皆、血にまみれてズタボロで、喉の奥から形容できない恐ろしいうめき声を上げている。
連射しながら徐々に後ろに下がる。目の前にできあがった人垣がどこまで続いているのかは想像もつかなかった。そもそも、数がどうあれ駆逐する前に残弾が尽きる。
「軍曹、行って!」
自分とともに残った部下の一人が叫んだ。それにうなずき、M4を背中に回して金網に飛びつく。フェンスの向こうでは、銃撃音につられて集まり始めた死人共を、マディソンが一体一体射殺して退路を維持しているのが見えたが、急いで移動を開始しないと行く手を塞がれそうだ。
「急げ、早くこっちにこい!」
ヴラッドは驚くほど俊敏に金網を昇り、その向こうへ飛び降りると、カービンを手にして振り返った。金網の隙間に銃口をねじ込み、残った二人を支援するべく狙いをつける。二人が弾かれたように振り返り、金網へ駆け寄ろうとしたが、横合いから飛び出してきた死体が一人に覆いかぶさった。
「あぁ! くそ、やめろ! やめてくれ、あ、っ、やめ、やめろぉ! ぉ゛、あぁ゛」
押し倒された部下に死体が顔を寄せる。ソレを押しのけ、立ち上がろうとした彼に、直ぐ側に迫っていた死体の群れが一気に覆いかぶさった。まるで、獲物に群がる肉食動物のように。
何体かにライフル弾を打ち込んだが、すでに手遅れだった。群がった死人共は必死にもがく部下に顔を押し付け、鈍い音を立てて肉を貪っている。それを振り返り、硬直した部下にヴラッドは怒鳴った。
「止まるな、急いで登れ!」
餌にありついた数体のまわりから、フェンスに取り付いた部下へと残りの死体共が歩み寄る。目の前で仲間が死人の餌食になった恐怖に引きつった声を上げ、必死に金網を登り始めた部下の足を、這いずって歩み寄った死体が掴んだ。
強く引っ張られ、彼がバランスを崩す。そのまま、腕が彼を引きずりおそろうとしたが、その前に大きく低い発砲音がとどろき、その腕が吹き飛んだ。というより、鉛玉の奔流にさらされ引きちぎれた。
古物商の老人だった。彼が散弾銃を金網から突き出し、12ゲージの散弾を二発連射したのだ。
「急げ、死にたいか、若いの」
中折式の散弾銃をテイクダウンし、薬莢を廃棄した老人がしゃがれた声で怒鳴った。部下は言い返す余力もなく、金網をよじ登り、ほとんど落ちるような態勢でフェンスから飛び降りる。
「くそ、くそ……ケニー、あいつ」
「後にしろ」
よろめきながら立ち上がり、金網の向こうで貪り食われる仲間へ目を向けた部下に、ヴラッドは突き放すような声音で言った。すでに、群がった死人の下の部下の叫びは聞こえなくなっている。感傷に浸っている余裕はない。
行くぞと、M4を掴んでそれに背を向けた。マディソンが始末した死体がそこらに散らばり、その向こうからいくつもの影が歩み寄りつつある。
残り二ブロック、合流地点までたどり着ければ、あるいは小隊と合流できるかもしれない。それだけが今持ち得る唯一の希望だ。