D-Drive   作:Ирвэс

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それでは後編をどうぞ!


Act9:魔導と恐竜が織り成す幻想(後編)

服を着終わると、レキは顔を赤らめつつも改めてコルに質問を促した。

 

「んじゃあコル、続きと言っちゃ何だが今度はお前の話で何度か出て来た“D結晶”ってのが何か教えてくれよ?確かあのドラゴンもそれで生まれたみてーな事も言ってたし、気になってたんだ」

 

だがその前にコルはレキに問う。

 

「良いけどあんた、身体平気な訳?初めてのD-Driveで相当疲れてんじゃないの?」

 

するとレキは直ぐにこう返した。

 

「ん?いや、最初は確かに怠さを感じたが直ぐに無くなっちまったよ?()()()()()()()()()()から安心してくれよ」

 

レキのこの返事に、その場にいたオルニス族達は再び言葉を失った。そして―――――。

 

「何!?」

「おい、ちょっと待てよ!」

「全然疲れてないってどう言う事だよ!?」

「幾等何でもそれは無いって!嘘吐くんじゃないよ!」

 

直ぐにアドリア達4人がレキの前に殺到し、一斉に先程のレキの言葉を疑い詰め寄る。気付けば他のニッキ達研究員も駆け寄って来ており、直ぐ傍でジッとレキを見つめている。表情こそ余り変わっておらず違和感しか感じないが、取り敢えず自分が驚きと好奇の眼差しを向けられている事だけは理解出来た。

全員を代表してコルが言う。

 

「全然疲れてないって……そんなん有り得ないでしょ!?“D-Driveによる竜化は肉体に相当の負荷を掛ける”って最初に言ったけど、別な生き物の身体に変化する時だってそれは一緒なの!程度にも因るけど、全身そっくり変わると元に戻った時にメッチャ疲れるのよ!?」

「けどお前やホルスだってその力で人間になった時に余り疲れてなかったじゃねーか!特にお前に至っちゃトロオドンになっても平気そうにしてただろ!?」

「あれは私達がCWSとして並みのオルニス族じゃ投げ出す程の、それこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よ!!言葉通りあんたの世界の軍人がやる様な鍛錬をね!!“鍛えてる”って言ってたけど、あんたはそれ位の鍛錬を日常的にやってんの!?」

 

鬼気迫るコルの勢いに圧されるレキだが、何とか言葉を振り絞って答える。

 

「え、いや……精々腕立て腹筋100回ずつにウォーキング位だが………」

「全ッ然、話にならん!我々はお前も見た様なドラゴンを始めとした()()()()()()()()()()()()をし、24時間野山を駆け巡り、惑星アウロラの大気圏ギリギリまで飛翔したりと、そう言う鍛錬を積んでいる!そしてそれだけの鍛錬の果てに、漸く初めてD-Driveによる変化の負荷を跳ね返せるだけの肉体が得られるのだ!そんな生温い鍛錬しかしていない上、そもそもの素の身体能力もオルニス族と比べて種族レヴェルから劣るお前が疲れないなど可笑しい!!」

 

だが、その答弁はアドリアによってバッサリ切り捨てられてしまった。とは言え、それで黙っているレキでも無く、負けじと反論する。

 

「いや、知らねーよ!!実際マジで疲れてねーんだから!!つーか最後の方、微妙に僻んでねーか!?」

 

アドリア達オルニス族が納得出来ないのも、無理からぬ話であった。

通常、D-Driveは変身者に相応の肉体的負荷が掛かる物だ。日頃の鍛錬による基礎体力の多寡にもよるが、アドリア達も最初に竜化した後、津波の如く押し寄せる疲労の為に足元も覚束ない状態になっていたのだ。ホモ・サピエンスが自分達より身体能力的に劣る種族である事はレキの世界に赴いた際の調査で知っていたが、そんな人間のレキが変身解除後にピンピンしていられる筈が無い。

なのに竹内靂と言う目の前のホモ・サピエンスは疲れた素振りをまるで見せておらず、この時点で絶対に只者ではない事が分かる。然れど、厳しい鍛錬でD-Driveを物にしたアドリア達からすれば、やはり一般人のレキがD-Driveしても平気でいられる様が受け入れ難い現実だったのもまた事実であった。

念の為にコルはレスポナやニッキ達に命じ、専用の機器でレキの心拍数や血圧等の変化を計測させたが、何れも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事が判明。更に乳酸の蓄積や筋肉のグリコーゲン不足も余り見受けられなかった。どうやら本当に疲れていないらしい。因みにコルが心拍数や血圧等を含め、人間の正常な肉体の基準値を知っていたのは彼女が1()()()()()()()()()()調()()()()()()()()だった。蛇足だが、調査期間中にコルは人間の遺伝子の収集を見送っていた。研究対象の生物の生態や能力を知り尽くすまで、遺伝子を採取しないのが彼女のポリシーだったからである。

 

「信じられないけど、本当にこいつは疲れてないみたいね……」

「こんな事が本当に有るのか………?」

「有り得ないんだけど………?」

 

もしかしてレキは、本当にアウロラ神に選ばれた英雄なのだろうか?少なくともそれに相応しい何かが内に眠っているのは間違い無い様だが―――――?

 

 

「なぁ、良いからさっさとD結晶について教えてくれよ!お前等の方から教えてくれるっつったのにそっちで話の腰折ってちゃ世話無ぇだろ!」

 

良い加減、話の本題に入りたいレキがウンザリした調子でそう言うと、対するコルは「まぁ良いわ…」と気を取り直してD結晶なる物質の説明に入る。

 

「先ずはこれを見て頂戴」

 

そう言うと、コルはスマホ型魔導具(デヴァイス)の端末を弄って1つの立体映像を映し出す。それは一見すると大きな白いクリスタルだったが、良く見ると虹色の輝きを放っている。

 

「これがD結晶なのか?」

「そう。私達惑星アウロラに生きるあらゆる生命に魔力を齎し、肉体すら作り変えて超進化を促すエネルギー結晶体。それがD結晶よ」

「あらゆる生命っつっても、全部が全部その恩恵に与れてる訳じゃねぇんだろ、レグランみたく……。つーか超進化っつったが、この世界の恐竜や翼竜、延いてはお前等の進化にはこのD結晶ってのが関わってんのか?」

 

するとコルはコクリと頷き、更に説明を続ける。

 

「あんたの言う通り、この星の生き物の進化や魔法の力にはD結晶が関わってるのは確かよ。最近の研究によると、その起源はこの星が未だ水しか無かった今から凡そ3()2()()6()0()0()0()()()()に遡るわ」

 

(は?32億6000万年前……?)

 

コルの言葉に違和感を覚えるレキだったが、取り敢えず黙って聞く事にする。

 

「この時代、私達の星に途轍も無い位に超巨大な隕石が落下したの。その衝撃で大地は揺れ、海は燃え上がり、地殻すら大きく変える程の勢いだった。そしてその隕石に多く含まれていた物質こそ、D結晶と呼ばれる未知のエネルギー結晶体で、その影響によってこの星の環境は大きく激変したの」

 

その説明を聞いた時、レキの頭の中では地球史に於ける隕石衝突事件の1つがピンと頭に浮かんでいた。

地球に衝突した隕石と言えば、6500万年前に恐竜絶滅の決め手となったそれが有名だが、実は32億6000万年前にもレキの地球には同じ様に超巨大な隕石が降った事が有るのだ。

衝突地点は現在の南アフリカに有るバーベルトン緑色岩帯より、何千kmと離れた場所に位置する海盆。隕石の直径は37km以上とされ、それこそエベレストより遥かに巨大で、現在のロードアイランド州と同じ位。これは恐竜絶滅の際に衝突した物の約4倍に相当するとんでもないサイズである。加えて落下のスピードも時速7万2000㎞とされ、衝突時には直径約478㎞もの超巨大なクレーターが形成されたと言う。

当然ながら衝突の威力と影響は我々の想像を遥かに超えて凄まじく、極めて膨大な量のエネルギーを放出。その影響で海底を変形させて海も沸騰し、高さ数千mもの大津波が海洋全体に広がった。そして30分以上に亘って地球全体にマグニチュード10.8もの極大地震を発生させ、おまけに火山の噴火を助長。これによって大規模な気候変動が齎されたのは言うまでも無い。

落下した当時の地球は辺り一面海しか無く、大陸の存在しない水の世界だったとされているが、この隕石の衝突によって当時の地球のプレートの構造は恒久的に変化。結果として現在、我々の知るプレートの原型が出来上がったとされる。もっと有り体に言ってしまえば、この隕石の衝突によって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()訳である。

 

そんな初期の地球の環境を大きく変える程の隕石と同じサイズの物が、全く同時期にこの惑星アウロラなる星に降った?この偶然の一致は何なのだろう?

 

「此処までで何か分からない事は有る?」

 

丁度コルも自分の話に付いて来れているかを確認する為に質問を促している。違和感の原因を確かめる為、レキは別な視点から裏を取るべくこんな質問をした。

 

「そうだな……ならまた話の腰を折る様で悪いが、1つ訊かせてくれ。」

「何よ?」

「この惑星アウロラって星はどうやって生まれて、其処から()()()()()()()()んだ?」

 

レキの質問の意図が良く分からないのか、コル達は思わず首を傾げた。何故目の前のホモ・サピエンスはそんなどうでも良い事を訊くのだろう?だが質問を促したのはこちらなのだし、取り敢えず訊かれた事には答えよう。そう思ったコルはご丁寧にこう説明する。

 

「私達が生まれる少し前に科学者が研究した結果だけど、無数の微惑星が衝突して原型が作られたの。当時の地表はマグマの海で覆われてたわ。因みに重い金属類は底に沈んで地核とマントルを形成し、微惑星内の水蒸気や二酸化炭素みたいな軽い物質は重力の影響で原子の大気を形成。やがて地表が冷えて固まると、今度は大気中の水蒸気が冷やされて雨が降る様になり、その雨によって3()8()()()()()()()()()したの。ついでにこの時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わ。因みに今の惑星アウロラは()()()()4()6()()()()()()()()計算ね。で?それがどうしたの?」

「いや、別に何でもないよ……取り敢えず成り立ちは分かったぜ。有難うよ。じゃあ改めて話を続けてくれ」

 

先程のコルの言葉により、レキはほぼ確証を得た。未だ決定的な証拠が無いから仮説の域を出ないが、この星の正体が何と無く掴めて来たのである。

 

(何てこった……!まさかとは思ったが、俺の世界の()()()()()()()()()()()()じゃねぇか!38億年前に海が誕生したとこや月の誕生の仕方まで一緒なんざ出来過ぎてる!まさか惑星アウロラってのは………!?)

 

だが、今その話をしても仕方が無い。自分はこの星における魔法の存在について教えて貰っているのだ。それと関係の無い話を今これ以上この場でした所で、収拾が付かなくなるだけ無意味である。

頭の中で出来上がっていた仮説を封印するレキの心中など露知らず、コルは改めて本題の説明を続ける。

 

「さっきD結晶が進化を促したって言ってたけど、この星にその隕石がぶつかっていきなり直ぐに影響は及ぼしていないわ。D結晶は惑星アウロラへの衝突と共に星中に散らばり、それからこの星のエネルギーを糧にゆっくりと、それでいて無限に増殖して行き、この星を少しずつ作り変えて行った。舞台が整ったのは生物が陸に上がった頃で、此処から漸くD結晶は生物に影響を齎し始めたの。様々な特殊能力の発現や肉体の強化及び巨大化、知能の発達と、挙げてったらキリが無い位にね。そう言う進化と変異の下に生存競争が繰り広げられて激化する中、約2億6000万年前に漸く誕生したのが爬虫類から進化して生まれた沢山の恐竜と、私達のご先祖様に当たるサウルス族だったの。そしてサウルス族が進化を遂げて今の私達オルニス族が誕生し、今の繁栄に至ったって訳!」

「ふ~ん……大体分かったが、それでも1つ釈然としねぇな」

「何が?」

「そのD結晶によってこの星の生き物がさっき言ったみたいな魔法や超能力や強靭な肉体みたく、物凄ぇ力を得て進化を齎した。そしてその上でお前等が今存在してるってのは伝わったが、じゃあ哺乳類は何で存在してねぇんだよ?」

 

最初に会った時も同じ質問をされたが、良い機会なので具体を交えて説明しよう。そう思ってコルは答える。

 

「…詳しい原因は分かってないけど、これまで発見された中じゃ1番古い哺乳類って言われるアデロバシレウスやその祖先と思しき単弓類のディメノコドンの化石を調べても、()()()()()()()()()()()()()()か、有ったとしても()()()()()()()()()()()()()()の。この星じゃ魔力を持った生物は死んで化石になってもその中に魔力は残り、結晶化すらするんだけど、それこそ()()()()()()()位カツカツだった。然もその全部に外敵に襲われたって思われる、大きな外傷の跡が見つかったの。中には見るも無残にズタボロにされた跡の有る化石も見つかってるわ」

「って事は何か?この星じゃ哺乳類の進化の系列に位置する生き物はレグランみたく魔力を殆ど持たねぇ。言うなりゃD結晶に選ばれなかった存在で?軒並みD結晶に選ばれた他の恐竜や爬虫類、下手すりゃそれ以外の虫や魚からも駆逐されて滅亡しちまったってのかよ?」

「残念だけど、そう言わざるを得ないわね。勿論同じ恐竜や爬虫類を始めとした他の生き物や、オルニス族やサウルス族も魔力を持つ者と持たざる者に分かれるけど、それでも持たざる者は極一部だし、昔の生き物の化石を見ても程度の差こそあれ、D結晶で哺乳類以上に強く進化してたし変異もしてた。特に爬虫類やそれに連なる進化の系譜の恐竜や翼竜、鳥類の化石からは高純度の魔力エネルギーが測定されてるわ。これ等の種の方が、D結晶との適合率も断トツで高いって事でしょうね」

「マジかよ……」

「まぁ、他に巨大隕石や火山噴火みたいな大量絶滅のイベントも原因の1つだけど……」

 

その言葉を聞いてレキはショックだったが、同時に漸く理解した。D結晶なるエネルギー物質に選ばれなかった時点で、この星じゃ哺乳類は魔力は元より、進化や変異と言った恩恵に満足に与れない、謂わば()()()()()()()だった。そして逆にD結晶によって魔力を得、途轍も無い超生物へと進化を遂げた恐竜や爬虫類達によって滅亡に追い遣られた挙句、大量絶滅事件のお約束によって止めを刺された結果、現在にその子孫の種が存在していないとは、何と残酷な話なのだろう?

内心、「不公平過ぎるだろ!!」と思わず叫びそうになったが、今此処でそんな悔やみ事を言っても始まらない。大量絶滅による種の間引きなど、数十億年にも及ぶ生命の歴史の中では珍しくも何とも無いし、そもそも自分の世界とは関係無い異世界の歴史だ。どちらにしてもそれに腹を立てる事自体、お門違いと言う物だろう………。

 

「気を取り直して話を続けるわ。この星のあちこちで32億年の時を掛けてあちこちで増殖していたD結晶だけど、それも長い年月の中で変性する物も出て来たの。火や水、風、土、金、氷と、この星の自然のエネルギーが多く集まるパワースポットでその力を吸収して誕生した『()()()』って言う鉱物も存在するの」

 

そう言ってコルは再び魔導具(デヴァイス)を操作して赤や青、黄色や緑等の様々な色の結晶体の立体映像を見せた。どれも神秘的なオーラを放っており、如何にも“魔法の石”と言った感じだった。

 

「さっきD結晶のエネルギーを浴びた生物は魔力を得ると共に進化したって言ってたけど、更にこのE鉱石の有る環境で石の放つ特殊なエネルギーに適合した生物達は自身の魔力をそれぞれの属性に特化させ、「魔法」と呼ばれる能力を獲得。より効率良く魔力の運用が出来る様になったの。だけど、E鉱石の適合率が1番高かったのは長い生物の歴史の中でもオルニス族とサウルス族だけ。取り分けオルニス族の魔法運用能力はこの星のあらゆる生物の中で番この世界でトップクラスなの。そしてこの力を背景に私達は今日の高度な魔導文明を築き上げたって訳。最後になるけど、最初にレキが見たドラゴンは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、他にもサラマンダーやコカトリスやバジリスク、リヴァイアサンやクラーケンみたいな()()()()()()()()()()()()()するわ」

 

話の流れから判断してE鉱石の「E」は「エレメント(Element)」の事を差すらしい。と言うか、この星にはそんなファンタジーの定番みたいなモンスターまで居るのか……。哺乳類だけ絶滅の名の下にハブられているのは気に入らないが、それを除けば随分と何でも有りな世界だとレキは思った。

D結晶にE鉱石と、それに選ばれし者の魔法適性―――――取り敢えず魔法については生物の進化の歴史込みで教わって得心が行った。完全にでは無いが納得も出来た。

 

「D結晶による超進化ねぇ……」

 

ネオプテリクスへ向かう前、レキは道中でステゴサウルスやイグアノドン、更に遡ってブラキオサウルスやトリケラトプス、パキケファロサウルスを見掛けていたのを思い出していた。あの時は好奇心から目を輝かせて感動し、夢中になっていた為に特に何も考えていなかったが、今にして思うとあれは不自然な光景である。

何故なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()していたからである。トリケラトプスやパキケファロサウルスは恐竜が絶滅した白亜紀後期の『マーストリヒト期』なる時代に生きた生物であり、イグアノドンは白亜紀前期の『アプト期』の時代の生物。そしてステゴサウルスとブラキオサウルスは更に遡ってジュラ紀の時代の生物。トリケラトプスとパキケファロサウルスが生きていた時代には、残る三者などとっくの昔に絶滅している。

それがあぁして一緒に生きていると言う事は、やはりD結晶の影響なのだろうか?尤も、其処はサウルス族が家畜や農耕の様な何らかの目的の為に保護したお陰で絶滅を免れた可能性も有るだろう。また、胡桃サイズの脳しか持たず、第2の脳を持っていたとされるステゴサウルスも、D結晶のお陰で2つの脳の双方共によりハイスペックなそれになっていただろうし、寒さや暑さにも強く、硬い草も噛み切れる様になって食べる物に困らなくなった可能性も有る。

ならばと意を決したレキは、こんな質問をコルにぶつけてみた。

 

「ならコル、これが取り敢えず最後の質問だ。D結晶やE鉱石は生物だけじゃなく、()()()()()()()()()()のか?」

 

するとコルは表情こそ余り変えなかったが、フッと笑って言う。

 

「良い質問ね!その通りよ。DでもEでもこうしたエネルギー結晶は植物にも大きく影響を及ぼしたの。種類はバラバラでも、どんな草食恐竜達でも好む味で栄養価も繁殖能力も高く、年中通して餌不足に悩む事は少なくなったわね。噛む力の弱い恐竜も、D結晶のお陰で顎の力が強化されたお陰でそうした植物を何とか食べられる様になったから、食関連での絶滅のリスクは大きく減ったでしょう。勿論、私達が食べるフルーツ類にもその影響は良い意味で及んでるわ」

 

コルからの回答を経て、レキはまた1つこの世界について理解が深まった。本来生息時期が異なる恐竜が生きて来れた理由の1つに、D結晶やE鉱石による()()()()()()()()()()が有る事が知れたからだ。まぁD結晶による恐竜達の進化や変異等、理由は他にも幾つか考えられるが取り敢えず今はこの辺で良しとしよう。

すると突然誰かの腹の虫が鳴く音が多目的室に木霊する。音源に目を向けると、どうやら助手のニッキからだった。

 

「コル様ぁ~、もうそろそろお昼ですよ~?ご飯にしましょうよォ~……」

「そうね。時間も時間だし、それじゃあ食事にしましょうか」

「やったぁ~ッ!」

 

そう言って一同は食堂へと足を運ぶ。其処ではマガモを始めとしたカモ科の鳥型のオルニス族達が割烹着とコックコートを足して2で割った様なローブを纏い、その日の食事の用意をしていた。

 

「おぉ、コル様お帰りなさいませ!CWSの皆さんもようこそお越しなさ……って、えぇっ!?」

「もしかしてあれって、昔話で聞いたホモ・サピエンス!?」

 

当然のリアクションを此処でもされるが、レキは冷めた目で溜め息を吐くだけだった。コルが説明する。

 

「こいつはね、私達が任務で行ってた世界から迷い込んで来たから保護して送り返すとこなの。その前に食事位恵んでやっても良いかなって話になって連れて来た訳!」

「成る程、そう言う事でしたか……」

(つーか良くそう言う適当な事が口からスルスルと出て来るモンだよな………)

 

神の声を聴いてその化石を掘り起こした事とかは伏せつつ、レキの事を舌先三寸で都合良く説明する舌と頭の回転に当人は呆れと感心を抱くばかりだった。

 

 

「おっほォ~~~~ッ♪美味そう!!」

 

それから数分後、程無くして料理が到着。食卓に出されたのはキャベツやパセリに似た野菜サラダに始まり、ヴェロキラプトルに見られる羽毛恐竜の手羽先や唐揚げ、パンノニアサウルスのカルパッチョや、D結晶の力で美味しく甘く熟した果実のフルーツジュースと、どれをとっても一目でかなり美味と分かる物ばかりだった。

況してや帰る前に食事の施しまでして貰え、然もこれから本物の恐竜や絶滅した爬虫類等の料理を食べられるとなれば、レキとしても願ったり叶ったりだ。

するとコルは徐にまたスマホ型魔導具(デヴァイス)を取り出すと、再び自身にテクニカルD-Driveを掛け、本日3度目になる人間態への変化に踏み切った。

 

「何でわざわざ人間の姿になるんだよ?」

「ホモ・サピエンスの食事の仕方って言うのを体験してみたくなっただけよ」

「あっそ……」

「それじゃあ皆、私達の糧になった者達に感謝と哀悼を捧げて頂きましょうか!」

 

コルがそう音頭を取ると、一同は無言で数秒間頭を下げる。数秒間の黙祷だった。レキも“郷に入っては郷に従え”の言葉通りそれに倣う。

そして全員が頭を上げてスプーンやフォークを手に取ると、早速食事を取って口に運ぶ。レキもスプーン片手に思わずがっ付き、さも美味そうに頬張っては咀嚼して飲み込んで行く。

 

「何と言う食いっぷり……」

「って言うかあれ、口の中で歯を上下に動かしてるよね?噛み砕いてるの?」

「いや、あれは噛み砕くって言うより磨り潰してるんじゃないか?」

「ホモ・サピエンスって、食べ物は歯で噛み砕いて、磨り潰した後で飲み込むの?僕達とは違うんだね…」

 

オルニス族=鳥人間であるアドリア達は嘴故に歯を持たず、ついばんだ食べ物を一旦素嚢に飲み込んだ後で前胃に送り、更に其処から砂嚢なる器官で予め飲み込んだ砂礫や小石によって磨り潰す。因みにこれはワニの様な爬虫類にも当て嵌まる。

食べ物を口内に入れると同時に噛み砕き、咀嚼する――――食事の際にそんな()()()()()()()()()()()()()()生き物なんて、彼等は余り知らなかったのだ。この世界でも限られた種類しかいない。

 

「う~~~ん、美味し~~い!ホモ・サピエンスってこうやって物を食べてるのね!この食べ方、気分が凄く良い!」

 

一方、咀嚼する度に口中に広がる食材のエキスに、人間態となったコルはご満悦だった。人間は普段、こんなに美味しく物を食べている―――――そう思うと何とも羨ましい限りだ。

顔一杯に笑顔を作り、口角を釣り上げて幸せそうに物を食べるコルの様子を見て、レキは漸くオルニス族達からずっと感じていた違和感の正体に気付いた。

 

(そうか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。それでこんな表情と感情が合ってねぇっつー違和感に繋がったのか―――――)

 

鳥の祖先である獣脚類の内、肉食の恐竜はティラノサウルスを見れば分かる様に歯が有り、更に強く噛む力の為に重量の有る顎と太い咀嚼筋を持っていた。だが、進化の過程で鳥達は徹底的に身体を軽量化させた。頭部も例外では無く、全ての歯や顎の骨は勿論、周辺の筋肉も口の開閉や嘴を左右に動かすのに最低限必要な分を除いて悉く捨ててしまったのである。

人間を始めとした哺乳類達は喜怒哀楽を始めとした様々な表情を作り出せるが、そもそも表情とは噛む為の筋肉を含め、それに連動した顔中の筋肉を使って作る物。言うなれば()()()()()()()()()とでも言うべき物なのだ。無論、絶滅した肉食恐竜達も顔中に相応に多くの筋肉が有った為に表情も豊かだっただろうが、鳥は進化の過程でそれ等を軒並み除外(オミット)してしまった。そう、表情の変化が少なく、ともすれば精悍にすら見える鳥達の雰囲気や印象は、()()()()()()()()()()()()()()()だったのである。

だが、その代わり鳥達は歌やダンスと言ったそれ以外の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。キモモマイコドリのムーンウォークも、カイツブリの夫婦での水上ダッシュも、カタカケフウチョウやゴクラクチョウのダンスも、全ては表情を作り出せない不可逆の進化を選んでしまった鳥達が編み出した、それに代わる自己アピール法に他ならないのだ。

 

(つーか、物噛んで食う位恐竜の姿になりゃ出来る事だろうに、今までそれやった事無かったのか?)

「あんた何見てんのよ?」

「……別に、何でも無ぇよ。只良く食うなぁって思っただけだ」

「は?何それ?」

 

半眼で睨み付けるコルに対してそう素っ気無く返すと、レキは食事を再開した。気を取り直して再び口中に料理を頬張るコルの様子を横目に見つつ、レキは思った。

 

(カラスとしてのこいつも良いが、人間になったこいつも良いな。あんな表情豊かで幸せそうに飯を食う姿、こっちまでほっこりするぜ。泣いたり笑ったり怒ったりを顔一杯で表現する―――――人間だったら誰だって当たり前に出来る事だが、それって実は凄ぇ事であり幸せな事なんだな。表情筋を捨てた鳥達に囲まれて良く分かるよ。つーかこいつ等もやっぱ歌なりダンスなり得意なのかね?)

 

 

さて、食事も終わって研究員達に別れを告げると、改めてレキはアドリア達に守られながら最初の森へとやって来た。

再び目にする鬱蒼とした木々と丈の長い草の道を掻き分けると、間も無く自分が監禁されていた石造りの小屋が視界に入って来た。

 

「あそこって俺が監禁されてた小屋じゃねぇか……」

「黙って歩け。次元門はもう少し先だぞ」

「お、おう………」

 

アドリアから注意されつつも、レキはアドリア達に案内されて更に森の奥へと進んで行く。5分位歩くと、果たして其処にはインドのムンバイに有るインド門を思わせる巨大な門が聳えており、入り口には分厚い扉が備え付けられていた。

 

「こ、これが次元門なのか……?」

「そうだよ。オイラ達はこの扉を潜ってレキの世界に来たんだ」

「開ける準備をするからちょっと待っててよ?」

 

レグランがレキの問いに答える横でラククが前に出ると、門に備え付けられたダイヤルらしき物を操作してスイッチを押す。すると突然扉は眩い光を放ち、ゆっくりと開き始めたでは無いか!

 

「さぁレキ、この扉を潜れば君はもう元の世界に帰れる!分かったらもう行くんだ!」

「あ、あぁ……」

 

フェサに促されるまま、ゆっくりと開いていく扉へと歩みを進めるレキ。だが……その時だった。

 

 

『私の声を聴きし者よ……()()()()()()()()を手に……。既に貴方の手元に剣は有ります…早く………早く!!』

 

突然脳内に響いた聞き覚えのある例の声に、思わず歴は足を止める。

 

「どうしたのレキ?急に足なんか止めて……」

 

コルの問いにレキは答える。

 

「さっき、化石掘り起こした時に響いた声が聞こえた……。『レックスカリバーを手に』って……俺の手元に既に有るってハッキリとな!」

 

その言葉に5人は再び驚愕する。まさか、アウロラ神がこの土壇場でレキに語り掛けたと言うのか?

 

「ア、アウロラ様がレキに話し掛けた!?」

「然もレキの手元にレックスカリバーだって!?」

「何だよ、そのレックスカリバーってのは?」

 

初めて聞く“レックスカリバー”なる単語についてレキが5人に問うと、代表してアドリアは言う。

 

「済まん。悪いが今のお前に教える事は出来ない。私達の歴史に関する超重要事案だからな……」

「ハァ……そうかい。なら無理して今は聞かねぇよ」

 

溜め息交じりにそう返すと、レキは気を取り直して開かれた門の先に広がる光の中に進んで行く。

 

(まぁ…大体見当は付くけどな)

 

恐らくは面会の時にホルスが言っていた、“アウロラ様”以外でアドリア達が探していたもう1つの捜し物なのだろう。然し、既に自分が見つけていると先程謎の声は告げたが、それらしい物は何か有ったか?

思索を巡らせながらレキがゲートへ歩き出すと、不意に先程から小刻みに身を震わせていたコルが叫んだ。

 

「レキ!!」

 

思わず振り向こうとするレキに対し、コルは続ける。

 

「振り向かないで黙って聞きなさい!!」

 

無言で頷くレキに対し、コルは告げる。

 

「良いレキ、今次元門が閉じたら一ヶ月間はメンテナンスの為に開かなくなるわ。当然その間は私達もあんたの世界には行けない!だからこそ、私はあんたにお願いが有るの!!」

「何だよ、そのお願いってのはさ?」

 

何と無く見当は付いているが、一応尋ねる。するとコルは待ってましたと言わんばかりにこう叫ぶ。

 

「レキ……本当にあんたがアウロラ様に選ばれた英雄なら、『竜聖剣レックスカリバー』を()()()()()()()()()()()()()()の!!あんたの手元にあるって言うなら、きっとあんたの地元の何処かに有る筈!!一ヶ月したら私達はまたあんたの所に行くから、それまでに見つけておきなさい!!分かったわね!?」

 

するとレキは一瞬当惑したが、漸く得心が行ったのか、直ぐにフッと笑って手を振って門の向こうへと進んで行く。やがて扉が閉まると、門は色の抜けた灰色に変色。扉に描かれた幾何学模様を時折光がなぞる様に駆け抜ける様が、辛うじて門が稼働している事を示していた。どうやらメンテナンス状態に入ると扉はこうなるらしい。

 

 

「………行っちゃったね」

「あぁ……そうだな」

 

レグランとアドリアがそう呟くと、コルは名残惜しそうに門を見つめていた。

 

「どうしたのコル?ホモ・サピエンスなんて興味深い研究対象が帰って残念?」

「そんなんじゃないわよ馬鹿……」

 

ラククからからかいの言葉を投げ掛けられても、コルはそう素っ気無く返すだけだった。今の彼女は心の中で後悔していたのだ。あれだけレキがアウロラ神に選ばれし英雄であって欲しくないと……このまま縁切りになって欲しいと思っていたのに、寄りにも寄って自分達が任務で捜していた物の捜索をレキに頼んでしまった。本当はこれ以上自分達の事に巻き込みたくなかったのに、このまま関係が続いて欲しいと願っている自分を抑えられなかった……。

だが、その二律背反の矛盾に懊悩する暇すら運命は与えてくれなかった。自分達のスマホにホルスから新たな指令が送られて来たのだ。

 

『このミッションはタケウチレキを無事送還した事を前提として伝える物とする。ネオプテリクス北東のスムール山脈にてパルナシウスが発生!現地には既にチェンとカサリアが討伐向かっている!アドリア、フェサ、レグラン、ラクク、コルの5名は直ちに加勢してこれを殲滅せよ!!』

 

どうやら急遽入った魔獣と思しき脅威の排除らしい。パルナシウスとは()()()()だが、それもこの世界に於ける魔獣の一種なのだろうか?

 

「ホルス様から新しい任務か……」

「やれやれ、こんな時に……」

 

フェサとレグランがそうボヤく中、アドリアが4人に向かって言う。

 

「レキに関する報告は後回しだ!全員、直ちにスムール山脈に出動するぞ!!」

 

「「「了解!」」」

 

だが、コルだけは呆然と立ち尽くすばかりで返事が無い。若干気を立てながらアドリアが腕を掴んで言う。

 

「コル!チンタラしてないでお前も行くぞ!!」

 

「えっ、あっ、うん!!」

 

瞬時に気持ちを切り替えると、コルも直ぐに任務へと飛び立つのであった―――――。

 

 

一方その頃、次元門を潜ったレキは再び地元の森の中にいた。振り向いてアドリア達が化石を安置していた洞窟を確認すると、入り口は土塊ですっかり埋められている。恐らく惑星アウロラに戻る直前、ラククが土の魔法で証拠隠滅の為に塞いだのだろう。

 

「やっと戻ってこれたか。それにしても未だ昼間かよ。向こうでの時間、凄ぇ長く感じたってのに………」

 

気が付けば、もう太陽は正午を過ぎていた。スマホで確認すると日付も今日のまま。なのにレキの中では色々な事が有り過ぎて、最低でも半日=12時間近く過ごした感覚だったのだ。裏を返せば、それだけ惑星アウロラでの時間はレキにとって濃厚な時間だったのだろう。

別れ際にコルが叫んだ言葉がレキの脳内に蘇って来る。

 

 

『レキ……本当にあんたがアウロラ様に選ばれた英雄なら、『竜聖剣レックスカリバー』を()()()()()()()()()()()()()()の!!あんたの手元にあるって言うなら、きっとあんたの地元の何処かに有る筈!!一ヶ月したら私達はまたあんたの所に行くから、それまでに見つけておきなさい!!分かったわね!?』

 

 

一ヶ月後にアドリア達がまた来る為、それまでにレックスカリバーなんて物を捜しておく様に言われた手前、当のレキはそれらしい物の心当たりを必死に思い出そうとしていた。2年前の記憶を振り絞ると、確か例の化石と共に変な銅剣みたいな物が出て来た気がするが……。

 

「“竜聖剣レックスカリバー”ねぇ……もしかして“あれ”の事か?こないだ荷物に入れて東京に送った―――――」

 

だが、そんな事を今は考えても仕方が無い為、取り敢えず一旦帰宅する事にした。

数日後に控えた上京。そして其処から踏み出す、鳥類学者への大いなる第一歩の為に―――――――。




今エピソードで本章は終了。次回から新章に突入します!
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