それではどうぞ!
Act10:回り始めた運命の歯車
それは、レキが元の世界へ帰った後の事だった。
突如現れたパルナシウスなる等身大の蝶の怪物をコル達は殲滅していた。先に戦っていたヒクイドリ型のオルニス族のカサリア、そしてピトフーイ型のチェンの2名と合流し、合計7名で任務に当たったのである。
相手は全部で5体いたが、何れも黒と紫を基調とした毒々しいカラーリングをしており、羽ばたく事で猛毒の瘴気を撒き散らす危険な蝶だったが、ディノニクス型の
残る2体も、チェンが自身の魔力を宿した羽根を投げて爆発させて1体撃破。残る1体も、コルが両手に集めた光のエネルギーを極太のレーザー砲として発射する事で消し飛ばし、掃討は完了。因みに残るレグラン、フェサの2名は周囲の生物達を安全な場所へと避難誘導させ、ラククはパルナシウスの瘴気が周囲に蔓延しない様に周囲を結界で囲んでいた。
尚、倒されたパルナシウス達の残骸は次の瞬間、黒い塵となって消滅した。
「PM14時21分、パルナシウス5体の完全消滅を確認。任務…完了!」
アドリアの任務達成宣言と共に、その場にいたCWSの面々はホッと胸を撫で下ろす。彼等はホルスからの命と在らば、こうした命懸けの戦いにも飛び込んで行く。まさしくネオパンゲアの平和と安全の要なのだ。
その後、一行はネオプテリクスへ帰還。カステルムアルバにてホルスに任務を終えた事を報告する。
「報告は以上ですホルス様。それと、タケウチレキなるホモ・サピエンスも無事に元の世界へ送還致しました」
「うむ、ご苦労であった。今日はもう解散して良い。手当は明日、支給しよう」
「はい、有難うございます…」
そんな遣り取りをアドリアがホルスと交わす中、コルは踵を返して応接室から出て行こうとする。
「何処行く心算だい、コル?」
コルの様子が目に入ったチェンがそう尋ねると、当人は振り向く事無く答える。
「話はもう終わりでしょ?私はさっさと帰って調べなきゃならない事が有るの」
「もしかして、君達がアウロラ様と一緒に連れて来たって言うホモ・サピエンスの事?」
「私達はその時居なかったけど、確かアウロラ様を掘り起こしてくれたって話よね?」
チェンとカサリアがそう言うと、コルは無言でそのまま退出。そのまま両腕の翼を展開し、自宅でもある魔導研究所へと飛び去って行った。
「あ~あ、行っちゃったよあいつ…」
「そりゃアウロラ様のお声をテレパシーで聴いてあの方を掘り起こした相手だから、コルが興味持つのも当然じゃない?」
「テクニカルD-Drive用にホモ・サピエンスのDNAを回収したのも彼からだし、猶更だろうね」
レキがホルスと面会した居た時、チェンとカサリアは別任務でその場に居なかったが、彼がアドリア達に連れられて魔導研究所に行っている時に国の情報機関から伝えられていた為に知っていた。尚、ネオパンゲアに於いてCWSは特殊部隊と情報機関の2つの顔を持つが、情報機関自体は何もCWSだけでなく他にも存在している。
2人の言葉をフェサが補足すると、チェンは頭の後ろで手を組んで言う。
「大昔の伝説じゃ、確かアウロラ様は向こうの世界から英雄連れて帰って来るって言ってたけど、あんな世界の猿が本当に役に立つのかなぁ?僕も向こうの世界には任務で行ったけど、弱くて狡くて文明しか能が無い上に、同族同士で争ってばっかのサイテーな生き物じゃん!そんなつまんない糞猿が英雄で、その力がこれから必要?全く勘弁して欲しいよ…」
(相変わらず毒舌だなこいつ……)
顔も見てなければ話した事も無い異世界人を辛辣にディスる彼女に対し、レグランは内心そう不快の念を抱いていた。
チェンはピトフーイ型のオルニス族で、ピトフーイとはニュージーランドに棲息する6種類のモリモズである。これ等の鳥の最大の特徴は何と
「初めてコルからD-Driveされて元に戻った時、全然疲れてなかったって言っても、お前は同じ事が言ってられるのかい?」
レグランの言葉を聞いた時、チェンとカサリア、そしてホルスも驚愕に目を見開いた。彼等も過去にD-Driveでサウルス族、そして其処から完全竜化した経験が幾度も有るから知っているが、初めての変化は細胞レヴェルで多大なエネルギーを消費する為、元に戻ると肉体に多大な負荷と疲労感が襲って来る。無論、CWSに属するだけの強靭な精神と肉体を以てすれば負荷は多少軽減出来るが、それでも皆最初は立っているのもままならない位キツかったのだ。
だが、レキは元に戻っても最初に少し怠さを感じた物の、それも直ぐに無くなって至って元気だった。少なくとも、疲れて立って歩けずにその場に倒れる様子は全く見せなかった為、コルのみならずアドリア達も一目置いていたのである。
「嘘……だろ?」
「ホモ・サピエンスがD-Driveしたってだけでも驚きなのに、其処から元に戻っても全然疲れてないなんて信じられない………」
「然もそいつ、只の市井の一般人みたいだったよ?そんな奴がオイラ達みたいに特別身体を強く鍛えられてるとは思えない。こっちに連れて来た時、コルがあいつの体温や筋肉の付き具合、健康状態とかをスキャンしたから分かるよ」
アドリア達がレキを気絶させて元の世界に帰還した際、実はコルはスマホ型
レグランの言葉にチェンとカサリアが唖然とする中、唯一冷静だったホルスが尋ねる。
「…どう言う事か、詳しく説明して貰おうか?」
「はい、実はですね―――――」
ホルスから説明を求められ、リーダー格のアドリアは伝える。カステルムアルバを出た後の、レキの行動の全てを―――――。
一方、魔導研究所に戻ったコルは、自分の研究室でレキにD-Driveを施した際に記録された彼のDNAのデータを解析していた。今日初めてD-Driveしたにも拘わらず、全く疲れていなかったレキの肉体の秘密を探る為だった。
レキをこちらに連れて来た際、コルは
より詳細なデータを採取するにはオルニス族の竜化の様に、その個体の遺伝子に本来眠る進化の記憶を呼び起こし、最も色濃く残る種の因子を活性化させる為の、謂わば“真なるD-Drive”を施す事である。そうする事によってその個体の遺伝子情報は
今回、魔導研究所で彼の要望通り
(あの時、要望通りあいつにD-Driveを施したのは正解だったわね。施した後の事を思えば、採取出来たのは僥倖としか言い様が無い………!)
真剣な表情でモニターと睨めっこをするコル。すると不意に研究室をノックする音が響いた為、何事かと思ってドアを開けると、其処にはレスポナとニッキが立っていた。
「レスポナ…それにニッキまでどうしたのよ?私に何か用な訳?」
「コル様、コーヒーをお持ちしました」
そう言うとレスポナは、コーヒー入りのカップとガムシロップの乗ったトレイを差し出す。どうやら研究室に入った自分を労いたかっただけらしい。
「有り難う。でも今は飲みたい気分じゃないの。もっと気になる事が有るから」
「それって、あのタケウチレキって言うホモ・サピエンスの事ですか?」
ニッキがそう尋ねると、コルは無言で頷く。周囲を見渡せば、それぞれの部屋から大小様々な機械音が響くのが分かる。研究員や技術者達が日々、新たな技術とそれに基づく道具の発明に精を出しているのだ。
「皆も頑張ってるわね。私も、私のなすべき事をやらないと…!」
そう言って部屋に戻ろうとした時の事だ。突然訪問者を告げるチャイムが研究所中に鳴り響く。何事かと思ってモニターを見ると、其処にはホルスがアドリア達を取り巻きに扉の前に立っているでは無いか。
『コル、取込み中済まないが失礼するよ』
「えっ!?ホルス様!?」
「そんな…どうしてあの方が!?」
突如国のトップが来訪すると言う予想外の事態に戸惑う研究員達だったが、コルだけは至って冷静だった。背後に控えるアドリア達を見て、彼女達がレキを研究所に入れて色々話した事をホルスに伝えたのではと推察していた。
「…分かりました。少々お待ち下さい」
モニター越しにそう返事をすると、コルは扉を開けてホルス達を玄関に通した。
「さてコル、何故私が此処に来たのか分かるかね?」
突然のホルスの質問に、コルは数秒間黙っていたが直ぐに答えた。
「あいつを…タケウチレキを送還の道すがら、此処に招き入れて色々話したからですか?」
「察しが良いな。その通りだよ」
ホルスがそう言うと、コルは思わず「やっぱり…」と呟いてアドリア達の方を見遣る。
「全く…さっさと送り帰せば良い物を、余計な真似をしてくれたねこのカラスは!」
「話聞いていなかったのかよお前?コルがレキに話したのはあくまでこの世界の歴史と魔法についてだけで、オイラ達の機密については何も話してないっての!」
「大事なのは其処じゃないだろレグラン。レキのD-Driveについてだ」
コルに対して毒づくチェンと弁護するレグラン。そして呆れながらそれに突っ込むフェサを横目に、ホルスがコルの前に歩み寄って言う。
「コル、別に私は君の行動を責めに来た訳じゃ無い。寧ろ良くやったと思っているよ。只送還するのではなく、これから英雄として私達の力になってくれるであろう彼の想いを汲んで、色々と教えてあげたのだろう?何も知らないが故に彼が感じていた不便さを、少しでも取り去ろうとした。そう言う訳だね?」
「はい……この世界の成り立ちや魔導について説明しただけで、私達の機密については特に喋ってないです。と言うかそもそも私は自分が間違った事をしたとは思ってません」
「君は優しい子だね。答えられる範囲で彼にこの世界の事を伝え、同じホモ・サピエンスに姿を変えて歩み寄ろうとするその度量……。彼と我々オルニス族とを繋ぐ1番の架け橋になれるのは間違い無く君だ。これはとても重要な事だよ」
「そう言って頂けると恐縮です……」
(ちぇっ、好奇心に任せて勝手に動いただけで気に入られちゃってさ!)
確固たる信念を以て答えるコルと、それを肯定するホルス。両者の遣り取りをチェンが面白く無さそうに眺めていると、ホルスは改めて本題に入る。
「アドリア達の話では、ホモ・サピエンスであるタケウチレキにD-Driveを施したそうじゃないか。それでクジャクらしき姿に変化した後、元に戻っても一切の肉体的負荷も無く動き回った……。そんな彼の身体の秘密を、そのDNAを調べる事でこれから解明しようとしたんだね?」
「はい……そうです!」
真っ直ぐ相手を射貫く様なホルスの視線を向けられても、コルはまるで動じも臆しもせずにそう返すと、更に補足の言葉を続けた。
「レキにD-Driveを施した時に採取された、あいつの遺伝子のデータを今、私の部屋で解析している所です。もう少ししたら結果が出るでしょう」
「そうか……」
「アウロラ様のお声を聴いて土の中から掘り起こし、テレパシーで居所を伝えられたとあいつは言ってました。それでも最初は未だあいつが英雄足り得る確実な証拠が無い為に疑ってましたが、今回のこの件でほぼ確信しました。レキには、間違い無くアウロラ様に選ばれるだけの何かが有ると………」
コルがそう言い終えた時、突然自室から解析終了を告げる音が響き渡る。
「――――来た!」
するとコルは、大急ぎでレキの遺伝子の解析結果を確認すべく自らの研究室へ急行する。他の研究員は勿論、アドリア達CWSやホルスもそれに続く。
「え―――――――何……これ?」
その解析結果を目の当たりにした時、コルは驚愕の余り言葉を失っていた。彼女だけではなく、他の研究員も同様に固まっていた。彼等の様子を見る限り、どうやらレキのDNAの塩基配列にはそれだけとんでもない物が組み込まれているらしい。
「な、なぁコル……これってレキのDNAだよね?」
「僕達、遺伝子の事余り詳しくないけど、これの何処がどう凄いの?」
遺伝子への知識に明るくないレグランやラクク、それにフェサやチェンやカサリア達が首を傾げると、コルはいきり立ってこう叫ぶ。
「詳しい事は後であんた達にも分かる様に説明してあげる!!それより今は急を要するわ!!」
そうしてコルは、直ぐ様他の研究員達に命令を下した。
「ニッキ!ウラル!カガレ!ハク!急いで例の物の開発を進めなさい!!次元門のメンテが終わるまでなんて待ってられない!事態は一刻を争うわ!!」
「「「「りょっ、了解!!」」」」
大慌てで研究室へと向かうニッキ達を見て、ホルスは言う。
「どうやら、彼の遺伝子にはとんでもない物がプログラムされている様だね…」
「とんでもないなんてモンじゃありません!!認めたくないですけど……悔しいですけど………あいつは本当に英雄の素質を持ってます!!早くあいつと竜聖剣を見つけてこっちの世界へ回収しないと!!!」
わなわなと震える拳を握り締め、鬼気迫る調子でホルスにそう告げると、コルは残りの研究員達にも命令を下し、レキと竜聖剣の捜索と回収に向けた準備に取り掛かる。
その後、開発の合間にコルがレキの遺伝子の秘密を仲間達とホルスに伝えた事で、他の面子も事の重大さを漸く理解。ホルスも方針を大きく転換し、コルと魔導研究所に急遽多大な援助を行うと決めた。
斯くしてホルスのバックアップの下、魔導研究所での新技術及び新装備の研究、開発に更なる人員と予算が注ぎ込まれ、CWSの全メンバーにも召集が掛かる等、ネオプテリクス処かネオパンゲア全土でレキを巡る大きな動きが生じて行くのだった―――――。
さて、惑星アウロラでそんな動きが有るとは露知らず、元の世界に戻って来たレキは数日後、遂に新幹線で東京へと上京。大学へ通う為の住居であるアパートで、独り暮らしをスタートさせていた。
暦の上ではもう4月の初頭となっており、満開を過ぎた桜がその花弁を散らし始める時期である。
「遂に始まるんだな。俺の未来が此処から――――!!」
初々しいスーツに身を包み、大学での入学式を終えたレキ。新生活の幕開けと自身の夢の始まりに心を躍らせながら、東京に於ける拠点のアパートに帰宅すると、取り敢えずベッドの上に腰を下ろす。
そうしてベッドに備え付けられていた本棚から恐竜図鑑を取り出すと、何とは無しにそのページを捲っては、嘗てこの地球に君臨していた陸の王者達に想いを馳せていた。
「もうこの地球上にこいつ等はいない。けど――――」
窓を開けて近くの木々に目を遣ると、レキの視界には空を飛び交い、電線に停まる鳥達の姿が飛び込んで来る。彼等はご丁寧に美しい囀りまで聴かせてくれた。
「恐竜は滅んじゃいない。鳥になって生きてるんだ……俺はこれから鳥と言う、現代の恐竜を研究する学者になるんだ!」
6500万年前に滅んだ、ティラノサウルス達と同じ獣脚類に連なる現代の恐竜達―――――そんな鳥は陸のみならず、今や空や海にその版図を広げ、地球全土に自分達の命の根を降ろしている。
鳥の種類は知られているだけでも1万425種類とされ、これは既知の脊椎動物の中では
陸海空を制覇し、大地に生きる全脊椎動物の中で最も多くの種を生み出した鳥類型恐竜達は、我々人類の傍らで強く生きている。ならばそんな彼等を知る事で、嘗て地上で栄えた非鳥類型恐竜への理解を深めると共に、現代の獣脚類達と共に生きる未来を模索して行こう。
それこそがレキの夢なのだ。
「然っかし、あの世界での出来事は今にして思うと信じられねぇよなぁ~。夢だったんじゃねぇかって疑っちまうよ………」
上京する数日前、自分が発掘した化石を盗んだ犯人達を追って行ったら彼等は何と鳥人間で、然も哺乳類が絶滅して鳥や恐竜や爬虫類が支配する別世界。然もファンタジーの幻獣や魔法のおまけ付き。
当然ながら盗んだ化石は返して貰えず、寧ろ自分達の神様なんぞと訳の分からない妄言を垂れられる始末。然も事情を話しても教えて貰えない処か、無理矢理こちらの世界に帰されると言うオチ。その癖、最後に自分が“英雄かも知れない”なんて言われてもう意味不明過ぎる。英雄だと言うならもっと丁重に扱えと言う物だ。
今にして思えばとんだ胸糞体験だったが、生きた恐竜を間近で見れた上にその料理に有り付けただけでも良しとしよう。帰ったその日の夕方、久し振りに父親も戻って来て慰められると共に励まされもした訳だし……。
「つーかあのカラス…確かコルっつったな。一ヶ月後にまた来るからレックスカリバーなんての捜しとけっつってたが…」
次元門を潜ってこちらの世界に帰る直前、レキはカラス型の鳥人の少女・コルから『竜聖剣レックスカリバー』なる物を自分達より先に見つける様頼まれていた。それと同時に帰る間際、2年前に化石を掘り起こした時に聞こえたのと同じ声が、その剣を求めているのも聞いた。
「剣ねぇ……そう言やあの化石を掘り出した時、一緒に出て来た
レキが化石を掘り起こした場面について述べた時の事を覚えておいでだろうか?あの時はレキが掘り出した化石が、如何に彼にとって重要な物かを伝える為に敢えて端折ったが、同時にレキはもう1つの歴史的遺産を発見していた。
そう――――“柄に恐竜の頭部らしき飾りが付いた奇妙な銅剣”こそがそれである。化石と一緒にレキが掘り出したその銅剣は形状もかなり独特の物で、刀身にも奇妙な紋様が刻まれており、サイズも片手剣と遜色が無かった。
只、この銅剣らしき物には奇妙な点が幾つか有る。先ず剣の形状自体が我々の良く知るそれと大きく異なり、
話は脱線するが、レキが発掘した化石もこの2年間、研究者達が熱心に調べたにも拘らず
何れにせよ、発掘した当初は化石共々レキは然るべき研究機関に寄贈しようと考えていたのだが、どの資料館の大人達もまるで相手にしてくれなかった。誰も彼も「工場で塗装されなかった子供の玩具」とか、「何かの劇の小道具」と一蹴してまるで信じようとせず、引き取りもしなかった。そもそもその剣が土中から出て来たのを知る者自体、掘り起こしたレキ本人だけだったし、歴史的遺産の割には時の浸食で劣化した形跡が全く無い新品其の物の見た目だった為、結局寄贈が出来たのは化石だけで剣は手元に残る羽目となってしまったのであった。
さて、此処から話を戻し、改めて現在その剣をレキがどうしたかお話ししよう。
結局どの研究機関からも寄贈を拒まれた剣を、レキは仕方無く家の自室に飾ってインテリア代わりにしたのである。無論、実家の母や弟や時々帰って来る父もその剣は見たが、只の部屋の飾り程度にしか思わなかった。弟からは中二病を疑われる始末で、何とも恥ずかしい想いもした。
だが、この剣を見ていると……そして手に取ると、何故か不思議と勇気と元気が湧いて来る。何かに取り組む時には本気の闘志が漲って来る。名も無きオーパーツの剣だったが、何時しかレキにとってそれは心の支えと言うべき一種のお守りとなっていたのは言うまでも無い。更に言うとその剣には2点面白い所が有り、先ず太陽の光に当てると黒い宝玉の部分がその間だけ
こんな素敵なお守りをセンター試験や大学での2次試験の時に持って行けなかったのは残念だったが、その代わり手にしっかり握り締めて強く合格を祈願したのは今年最初の良い思い出だ。何れの試験も非常に手応えが有り、結果見事に合格を勝ち取って現在に至る。
そして今――――――
「確か、引っ越しの時の荷物で未だ片付いてないのが………有った!」
段ボールの中を漁っていると、果たして出て来たのはまさしく“柄に恐竜の頭部らしき飾りが付いた灰白色の剣”!自分の夢の実現を見守るお守り足れと思い、レキがアウロラに行く前日に段ボールの中に他の荷物と共に入れ、この新居に送っていたのだった。
改めて手に取って見ると、その剣は実に物々しい意匠となっていた。
こんな形の剣が古代の日本で作られていたとはとても思えない。況してや恐竜の化石が発見される様な古い地層にずっと埋まっていたなんて、常識的に考えてもいよいよ有り得ないだろう。あの鳥達が御神体扱いしていたあの化石の傍に有ったと言う事は、やはりこの剣も彼等の捜し物なのか?だとしたら何故、
改めて分からない事だらけだが、そんな事は今のレキにはどうだって良かった。
「仮にこれがあいつ等の捜しモンだとして、一ヶ月後に渡したらもうそれで縁切りになるんだろうな………」
これから自分はこの新天地である東京で鳥類学者への道を歩むのだ。あんな訳の分からない異世界の連中と関わっている暇など自分には無い。
聞けばあの鳥達は自分が発掘した化石の他に、竜聖剣レックスカリバーなる剣を見つけて自分達の世界に持ち帰ろうとしていた。“神に選ばれし英雄”云々の話など知らないし知った事では無いが、この剣がレックスカリバーならばアドリア達に渡せばそれで万事解決。その時点でもう関係も縁も切れる。“英雄”なんて訳の分からない存在なんて、その後ゆっくり探して欲しい。自分は夢の道へと続く大学生活を謳歌するだけだ。
そんな風に想いを巡らすレキだったが、同時に一抹の不安すら覚えていた。己が発掘した化石を奪われただけでも、喪失感と言う名の精神的ダメージをレキは少なからず受けた。ショックであの時は何もする気力が起きなくなったが、もしこのお守りの剣まで取られたらどうなるだろう?受験やそれ以前の高校イベントでも、何かに臨む前にレキはこの剣から勇気と元気を与えられ、本気でぶつかる事が出来た。理由は分からないが、この剣は何か神懸かり的なパワーの有る開運グッズなのだ。
「こんな大事なお守りの剣、もしアドリア達に渡したら化石盗まれた時以上にショックで、勉強も身が入らなくなっちまうのかな?う~~ん、けどそれって、俺が今までこの剣に頼って来たって事になっちまうよな……。鳥類学者への道はそんな他力本願じゃなくて、自分の力で切り開かなければ意味無ぇってのに………あぁ~~~~もうどうすりゃ良いんだよ!?」
取り留めも無い考えに悩まされるレキだったが、幾等悩んでも答えは出ない。気晴らしに外の風に当たろうと、窓の方へと近付く。既に桜は散り始めており、太陽も西に沈み掛けて美しい夕陽を描いている。
夕陽の光を浴び、剣に埋め込まれた宝玉はオレンジ色に変色していた。
「福井でもそうだったが、東京から見る夕陽ってのも美しいモンだな。場所が変わっても、自然の美しさってのは変わらねぇ……きっと恐竜の時代の夕焼けも、こんなだったんだろうな――――――」
彫刻家で詩人の高村光太郎は、自著である『智恵子抄』にて「東京に空は無い」と述べていたが、あれは嘘だとレキは思っていた。都会からもこんなに美しい夕陽が見れるのだから……。
そして散る桜も東京、福井を問わず儚くて美しい。毎年見ているが、何時も心を洗われる。自分が生まれる遥か以前から、変わらずに繰り返されて来た自然の美しさとその営みを見て、自分の悩みが如何にちっぽけかをレキは実感した。
「まっ、一ヶ月経ってから考えても遅くねぇよな。取り敢えず飯の準備でもすっか!」
未だ答えは出ていないが、一先ず夕飯の為にレキは買い出しに出掛ける。そんな彼の様子を、部屋に残された剣だけがジッと見守っているのだった――――。
次回、鳥人達が再び人間界に出現!同時にレキの運命も大きく変わって行く事となる―――――。