Act3:ようこそ恐竜の世界へ
コルから今自分がいる場所が地球の福井では無く、『惑星アウロラ』なる違う星=異世界と知らされ、レキは驚きと共に戸惑いを隠し切れなかった。
「惑星アウロラ…まさか漫画やラノベみてぇな異世界が実在してて、俺が其処に来る事になっちまうとはな――――」
「何よあんた、意外とすんなり受け入れてるじゃない?もっと取り乱して、みっともなく泣きベソ掻くって思ってたけど」
「馬鹿にすんな。俺だって漫画やアニメでそう言うの知ってんだよ。そりゃ最初は驚きはしたが、お陰でこんな状況でも多少は平常心でいられてる。それに、お前等だって一応俺の身の安全は保障してくれるんだろ?なら何とかなるって思えるよ」
「あっ、そう……」
鳥類学者を志望する手前、鳥類やその祖先たる恐竜に関する造詣の深いレキだが、サブカル知識も多少は嗜んでいた。だからこんな鳥人だの異世界だのと言った非日常といざ直面しても、最初は驚きこそすれこうやって取り乱さずにいられる。そんなレキの理屈には、コルは呆れるばかりだった。
すると先程から黙っていたアドリアが前に出て言う。
「コル、お前は未だこいつから訊くべき事が有るんじゃないのか?」
「あぁ、そうだったわね。じゃああんた…“レキ”っつったわね?改めてあんたに大事な質問をするわ」
「お、おう………で、何だよ?」
アドリアから忘れていた質問を指摘され、コルは改めてレキに尋ねる。
「レキ――――あんたはアウロラ様を発掘したって言うけど、それはどう言う経緯だったの?聞かせて頂戴」
まさかその質問をして来るか――――レキはそう思った。けど、その質問に何の意味が有るのかまでは流石に分からなかった。だが、訊かれた以上は答えねばなるまい。
深く深呼吸をすると、レキは口を開いて言った。
「声が聴こえたんだよ」
「声?」
「あぁ、或る日山へバードウォッチングの為にハイキングに来てたら、突然脳内に女の声が響いたんだよ。『私の声が聴こえし者よ、どうか私を掘り起こして下さい』ってな」
その言葉を受け、5人は驚愕した。それと同時に5人の視線がレキに殺到する。
「頭に声が響いたですって!?その話、もっと詳しく聞かせて!!」
「なっ、何だよいきなりそんな血相変えて…!?」
鬼気迫る表情でそうせがむコル。他のアドリア達も無言だったが、同じ様に真剣な眼差しをレキに向けて来る。彼等にどう言った事情が有るかは分からないが、並々ならぬ事情なのは確かな様だ。此処は大人しく続きを話した方が良さそうだ。
「分かった、分かったから落ち着けって!そんで、最初は空耳だって思って無視してたんだ。けど、段々声がデカくなって、然も近くの断崖絶壁がフラッシュバックして、そんで気が付いたら其処に行って持ってたスコップで掘ってたら、お前等が“アウロラ様”って呼んでる化石が出て来たんだよ。まぁ、その後どう言う訳か声はパッタリ止んだけどな………取り敢えず話は以上だ」
レキが話を終えた時、5人は言葉も無く絶句するばかりだった。その様子を受け、良い機会なので更に驚かせようと思ったレキは、先程伏せていた情報を暴露する事にした。
「あぁ、ついでに言っとくとな、俺がお前等を追って化石のある場所に辿り着いたのは匂いを追って来たからってのも勿論有るが、予知夢ってのも理由の1つだ。」
「よ、予知夢?」
思いがけない
「そ!予知夢!昨日の夜に夢ん中でお前等が化石隠した場所が出て来てな、更に俺が化石を発掘した時に聞こえた声が告げたんだよ。『私は此処にいます』ってな!」
レキの取って置きの情報開示の前に、5人は再び言葉を失った。まさか目の前のホモ・サピエンスは、本当に自分達の神に選ばれた存在だと言うのか!?
話を聞いた5人は直ぐ様寄り集まると、そのままヒソヒソと何やらグループディスカッションを始めた。最初に発言したのはアドリアだ。
「どう思う、今のあいつの話……?」
するとレグランとフェサが口を言う。
「正直オイラも信じられないよ…あいつがアウロラ様の声を聴いたなんて……」
「けどあのホモ・サピエンスが眠ってるアウロラ様を掘り起こして、それを『自分の原点だ』なんて主張してる所からも強ち間違いじゃなさそうだよ?」
未だにレキの言葉に懐疑的な2名だが、其処へラククとコルが参加する。
「って言うか大昔の聖典で、『大いなる禍の再来に備え、救世の英雄を探し連れ帰る』ってアウロラ様はご先祖様達に告げてたよね?仮に彼の言う事が本当なら、あのレキって言うホモ・サピエンスが英雄って事になるけど……」
「英雄?あいつが?そりゃさっきの話聞く限りじゃ、確かにアウロラ様が夢って形でテレパシーを送って私達の居るとこに来る様仕向けたっぽいけど、流石にそう決め付けるのは早計でしょ!第一アウロラ様がその英雄ってのを連れ帰る前に、私達がアウロラ様を連れ帰ってる訳だし、あいつはそれに付いて来たおまけよ!」
コルの言葉を受け、アドリアは言う。
「どちらにせよ、このままネオプテリクスにあいつを届けるのが先決だろう。其処で
アドリアの言葉を受け、4人は満場一致で頷く。そして改めてレキの方を向く……が!
「待たせたわね……って、いない!?」
何と先程までレキが立っていた場所には誰もいなかった。何時の間にか何処かへ行ってしまったとしか考えられない。
「あ・い・つゥゥ~~~~ッ……あんだけ勝手に動くなっつったのにまた………!!」
「むっ、おい見ろ!奴はあそこにいるぞ!!」
一度ならず二度も勝手な行動に走るレキにコルが憤慨していると、直ぐにアドリアが少し離れた場所にレキを見つけ指差す。何とレキは事もあろうに草食恐竜の密集地帯に居るではないか。
幸い近くには大型の肉食恐竜の様な外敵らしき物の姿は見えない。大急ぎでアドリア、コル、フェサの3人は両腕の羽根を広げて翼を展開すると、そのままジャンプして空へと飛翔。レグランはラククをおぶさって大地を駆け出す。
一方その頃、レキはと言うと………。
「うわあぁぁ~~~~近くで見るとやっぱスッゲエェェェェッ!!CGみたいな作り物じゃない、本物の生きた恐竜だぁぁ~~~ッ!!!」
幼い子供の様に目をキラキラと輝かせながら、レキは目の前で動き、鳴き、草を食む恐竜達の息遣いを感じていた。今レキが置かれているこのシチュエーションは、恐竜好きならレキでなくても誰だって最高に贅沢で幸せな瞬間であろう。
化石を取り戻す為にコル達を追って来て、その結果こんな訳の分からない世界に来てしまった訳だが、生きた恐竜の楽園に足を踏み入れたとなれば何もかもチャラにしても良いと、レキは本気で思ってしまっていた。
だが、その夢心地の幸福は次の瞬間ブチ破られる事となる。
「………ェェェエエエエキイイィィィ―――――――――ッッッ!!!」
不意に耳元に聞こえて来る声。然も声は真上から近付き響く感じだった。
何事かと思って空を見上げると、其処には空を飛んで自分に近付いて来るコル達の姿が有った。
「おおっ!!やっぱあいつ等飛べ……」
「何やってんのよこの馬鹿アァァァ―――――――――――――――――ッッッ!!!!!」
空を飛んで自身に近付いて来るコル達の姿を見て、鳥らしく飛べる事に感心するレキだったが、そんな事御構い無しとばかりにコルは勢い良くドロップキックを叩き込もうとする。
「うおおあっ!?」
その気迫に気圧され、レキは咄嗟に身を屈める。寸での処でしゃがんだお陰で直撃は免れたが、コルのキックが大地に直撃した瞬間に轟音と衝撃波が起こり、レキは思わず吹っ飛ばされてしまった。突然の出来事を受け、当然ながら周囲の草食恐竜達は慌てて逃げ出していた。
「痛て……何なんだよ一体……って、えぇッ!?」
衝撃で吹っ飛んだ挙句、地面を転がったレキが立ち上がってコルの落下したポイントを見ると、地面は少なからずひしゃげてちょっとしたクレーターが出来ていた。その中心に佇むコルは、改めてレキを睨み付けると同時に、大地を蹴って猛スピードで距離を詰める。
「ひぃっ!?まっ、待ってくれ!頼むから殺さな……」
「言った傍からまた勝手に動いてどーゆー心算よこの糞猿!!!あんたのその馬鹿さ加減は死ななきゃ治んない訳!?良い加減にしないとあんたマジで命無いわよ!?もう2度と帰れないわよ!?分かってんの!!?」
「御免なさい……本ッ当にスンマセンでした………」
2度目の叱責を受け、レキは一段と委縮してそう返すだけだった。気付けば他の4人も集まって来ていた。
「俺、本当に恐竜が好きなんだよ……もう大昔に絶滅したティラノサウルスとかトリケラトプスとかブラキオサウルスとか、そう言うのもう俺の世界じゃ6500万年の大昔に絶滅していなくなっちまったけどさ、そう言うのが生きてて目の前で動いてたら、そりゃ近くで確かめたくなるのが人情ってモンだろ?」
するとアドリアが溜息混じりに言う。
「何が人情だ?要は単なる愚かで哀しい性ではないか!」
そう吐き捨てるアドリアに続いて、レグランも呆れながら続く。
「お前、結構好奇心強いんだね。コルと良い勝負だよ…」
「なッ!?こっ、こいつと一緒にしないでよ!!」
コルが顔を赤くして否定の言葉を投げ掛ける中、レキは空を見上げながらフッと笑って言う。その視線の向こうには、群れを成して飛ぶ翼竜の姿が有った。
「けど嬉しいよ。最初お前等にこっち連れて来られた時はどうなるか心配だったけどさ、こんな生きた非鳥類型の恐竜達を見れただけでも俺は幸せだよ。化石取られたのは勿論許せないし、出来たら返して欲しいけど、こんな素敵なモン見せて貰った事には感謝しないとな!」
レキからそう言われ、5人は複雑な気持ちになった。礼を言われるのは素直に喜ぶべき所だが、先程からの言動の数々を思うと何とも言えない。ホモ・サピエンスとは、こんな理解に苦しむ生き物だと言うのだろうか?
「全く……お前って本当に訳分かんない奴だよ。けど、悪い奴って訳じゃ無さそうだね!」
レグランがそう言うと、何処からかやって来たコンプソグナトゥスがレキの足元に纏わり付く。
「あっ、何だよこいつ!可愛いな!」
コンプソグナトゥスと無邪気に触れ合うレキの様子を見て、目の前にいる人間が取り敢えずは悪意の存在ではない事を5人は確信する。
改めてコルがレキの前に近付いて言う。
「レキ、あんたが掘り起こしたって言うアウロラ様は、私達が『イアペトス』に頼んでネオプテロスに運んで貰ったわ。今頃はもう着いてると思う」
「イアペトス?お前等の仲間か?」
聞き慣れない名前に首を傾げるレキに対し、コルは答える。
「この辺を守るブラキオサウルスよ。私達とは顔馴染みでも有るの」
「マジかよ。じゃあ最初にあの小屋で聞いた足音と鳴き声って……」
「そ!イアペトスの物よ」
成る程、あれはブラキオサウルスの物だったのか……。そう聞いてレキは納得しかけたが、その一方で
だが、それを問い質すより先にコルは言う。
「取り敢えずあんたが竜の事を好きで堪らないのは良く分かったわよ。さっきので満足したでしょ?分かったら今度こそ私達と来て貰うわ。ネオプテリクスの行政庁で、私達の長であるホルス様と面会させてあげる。お互い言いたい事は有るだろうけど、話の決着は其処で付けましょう」
「あぁ……分かった」
どうにかお互いに気持ちや考えの折り合いを付ける事が出来、アドリア達は一安心と言わんばかりに安堵の息を吐く。
「なぁコル、悪いがもう1つだけ質問良いか?」
「何よ?」
次の瞬間にレキが発した質問は、短い間でもこの世界を観察していた彼ならではの物だった。
「この世界には、俺みたいなサル目ヒト科の人類は居ないのか?それ以前に、ネズミや猿や犬や猫みたいな哺乳類は存在しないのかよ?」
このレキの質問に、アドリア達はまたも彼への感心を覚えた。好奇心のままに目を輝かせ、眼前の恐竜に夢中になってるだけだと思ったら、意外とこのホモ・サピエンスは目先以上の物が見えている様だ。中々に視野が広い。
その視野の広さに免じて答えてやろう――――そう考えたコルは、先の問いへの回答を発する。
「残念だけど、
「成る程、俺達哺乳類は単弓類っつって、お前の今言った竜弓類と並ぶカテゴリーの末裔なんだが、こっちじゃ単弓類は
地球において生物が海から生まれたのは周知の事実だが、最初にカンブリア紀の生物爆発を経て様々な種が誕生。その生存競争の中で脊椎動物は魚類から進化を遂げ、水陸両用の両生類を生み出した。やがて其処から水辺を離れても生きて子孫を遺せる様になるべく、彼等は
其処から恐竜、延いては鳥類の遠い礎となる『
だが、この世界では哀しいかなそんな単弓類の系譜は、哺乳類の原点となる『キノドン類』に進化の駒を進める前に途絶えてしまったらしい。
とは言え、生物の歴史は繰り返し言うが進化と絶滅のそれであり、取り分け絶滅と言うのは環境の激変や同じ事をするライバルの種の台頭と言った様々な条件が重なり合って起こる物。こればかりはどんな生物でも抗う事が出来ない。進化して生き残るか絶滅して消えるかは、その時々の環境下でそれぞれの種がどんな選択をするかに掛かっているが、何が正解なのかなんて誰にも分からない。文字通り
そして残念な事に、この世界では哺乳類の歴史は成立し得なかった。となると哺乳類の祖先は、キノドン類に行き着く過程で単弓類から盤竜類、或いは獣弓類の時代に差し掛かる辺りで、
考えれば考える程分からないが、取り敢えず先程のコルの話を聞いたレキが覚えたのは、一抹の切なさであった。
「けどそっかぁ…この世界には哺乳類が存在しねぇんだな。俺と同じ人類は疎か、ネズミ1匹存在しねぇなんて、何か寂しいぜ………」
そんなレキの様子を見て、コル以外のオルニス族3人は呆れるしか無かった。
「おいレキ、お前何言ってんだよ?」
「この期に及んでノスタルジーだなんて、危機感ゼロだねぇ~…」
するとコルは不意にレキに対し、思いも寄らぬ問いを投げ掛けた。
「あんた、要は
レキは言う。
「いや、まぁ……お前等鳥人の中に人間が俺1人ってのがアウェー感半端無ぇって気持ちは否定しねぇけどさ…」
その言葉を聞くや否や、コルは徐にスマホに似た奇妙なデヴァイスを取り出した。
「そう、分かった。時間は未だ有るし、あんたには特別に面白い物見せてあげるわ」
「おい、何だよそれ?スマホなんか出して何する気だよ?」
突然スマホらしき物を懐から出して起動させるコルの行動に、レキは困惑を隠し切れなかったが、他のアドリア達は別に動じた様子も無く、見慣れた当たり前の物を見る様な面持ちで成り行きを見守っていた。
他の4人が見守る中、コルがデヴァイスを起動させた次の瞬間、何と突然彼女の足元に巨大な魔法陣らしき光の模様が出現した!
「何だ!?魔法陣!?」
驚きを隠し切れないレキの目の前で、魔法陣の中心に立つコルの周囲からDNAを思わせる光の二重螺旋が天へと伸びる。螺旋がコルを取り巻いたかと思いきや、眩い光がその場を包み込んだではないか!
思わず目を塞ぐレキだったが、光が収まった目の前を見ると、その場にコルの姿は無く、1人の人間の少女だった。少女はコルと同じ服装をしていた。
「えっ!?お、お前、まさか――――――――!?」
本日何度目か分からぬ驚愕に打ち震えるレキの目の前で、コルと同じ服装をした少女は口を開いて言う。
「そう。あんたの思ってる通り、私はコルよ!」
はい、と言う訳で今エピソードの最後にコルは何と魔法らしき力で人間の女の子になりました!この力がどう言った物かは次回明かされます。ネタバレしますがタイトル回収です。
それでは次回お会いしましょう!