変異特異点「神代秘匿領域 幻想郷」   作:結城 鈴凛

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元々は知人のサークルで持ち上がった企画で書いていた小説です。
知人が急逝し、日の目を見る事なく没とするのも如何なものかと思いましたので、供養の意も兼ねて公開することにしました。
拙作ではありますが、少しでもお楽しみいただければ幸いです。

注意事項

・話によりばらつきがあるものの、文章量が少ない
・設定の自己解釈
・オリ鯖の登場
・原作からのキャラクターの乖離の可能性
・投稿後にも内容の変更などが行われる場合あり
・文章のおかしい部分などがある可能性

※指摘していただければ修正致します


壱話

───────全ての事の始まりは、森の近くの古道具屋だった。

今日は新聞を投げ込む鴉天狗に窓を破られる事もなく、僕は幸せな静寂を楽しんでいた。

その静寂を、来客を告げるドアの音が破る。

 

「───おや、いらっしゃい。久し振りのご来店じゃないかい?僕としては普段から利用して貰いたいものだがね、悪魔の館の使用人さん」

 

やってきた客の名は─────十六夜咲夜。

霧に覆われた湖畔に佇む、悪魔が住むとされる館「紅魔館」(実態は吸血鬼と魔法使いの様だが…)に仕える、館でただ一人の「人間」である。

外からやって来たかの館には外の珍品が山の様に有るらしく、蒐集家には堪らない場所なのであるが────それはまた別の話だ。

 

「誰も好き好んでこんな店に来ないわよ。人里の雑貨屋の方が品揃えも良いし。

この店に喜んでやって来るのはそれこそ霊夢か魔理沙くらい」

 

「ありゃ、手厳しいね。これでも僕なりに良い商品を仕入れてるつもりなんだがね」

 

「どうせ無縁塚から拾ってきたがらくたでしょう?それに、いくら目玉商品を仕入れても仕入れてもその殆どが非売品なんじゃ意味が無いじゃない」

 

そう、この僕、森近霖之助は興味深いと思った物は全て非売品にしてしまう。その為、棚には商品が所狭しと並んではいるが、その殆どは客の手に渡る事が無い。

 

「仕方ないさ。僕は商売人で有る前に蒐集家だからね…っと。

ところで、本日は何をご所望だい?悪魔の館のメイドさん」

 

「……はぁ、まぁいいわ。

今日はワイングラスを買いに来たのよ。妖精メイドが割っちゃって」

 

「ワイングラス……ねぇ。それ位ならそこらの雑貨屋でも売っているんじゃないか?」

 

「安物だとお嬢様がうるさいのよ。

陳腐な器じゃ折角のワインも不味くなる、何より使ってる私の格まで低くなる、ってね」

 

「何だいそりゃ。誰に見せるわけでも無いだろうに。

えぇと、グラス、グラスねぇ…この湯呑みじゃ駄目かい?」

 

そう言って、僕は棚の上にあった湯呑みを取って差し出す。

 

「駄目に決まってるじゃない。

使い古しの上に思い切り『霊夢』って書かれてる湯呑みなんて、あの巫女以外に誰が使うのよ」

 

 「はは、ジョークだよ。第一この湯呑みを勝手に売っちゃ僕が痛い目に遭う」

 

 「呆れた。ここまでジョークが下手な男もそうは居ないわね。……というか何であの巫女の湯呑みがこの店に有るのよ」

 

「それは僕が聞きたいね。

──────ではこのジョッキとかいうグラスはどうだい?麦酒を注ぐグラスらしい」

 

 「却下。麦酒なんて野暮ったいもの、お嬢様はお飲みにならないわ。それに肝心の見た目も芋臭い」

 

酷評を頂いた。次。

 

 「それではこれはどうだい?リキュールグラス。ウヰスキー等を飲む時に使うグラスだ」

 

 「……あのねぇ、私が要求しているのはワインを飲むグラスなのだけれど。何でさっきから勧めるのが麦酒のグラスなのよ」

 

 「僕の趣味さ。最近米酒より嵌っていてね。

────だが、うちの店は慢性的に商品が不足しているんだ。何しろ商品の入荷は全て『外』からの不定期入荷なものでね。

いきなり来てお眼鏡に叶うものがあるなんてそうそうない」

 

「使えないわねぇ。だから客が来ないんじゃないの?売っている品物も変な物ばかりだし」

 

「でも月に行く時は役に立っただろう?外の世界の科学書を置いてある店なんてここか鈴奈庵位だからね」

 

 「それとこれとは話が別。他には無いの?せっかくこんな辺鄙な所に来たのだから無駄足にはしたくないのだけれど」

 

ごもっとも。折角大入りが見込める客が来たのだからこちらとしても手ぶらで返す気はない。

 

 「──────仕方ないな。

それではうちの目玉商品をご覧になって頂こうか 」

 

そう言って、僕は商品棚に仰々しく飾ってあった木箱を開き、彼女に差し出す。

「この杯の名はカリス。まぁ俗にいう伴天連の聖杯と言う奴かな。かの聖人は自らの血と称してワインを振舞ったらしいから、謂れとしても用途としても丁度いいんじゃないかい?」

 

 「へぇ、なかなか良いわね。最初からそれを出してくれれば時間を無駄にせずに済むのに」

 

 「セールステクニック、という奴さ。焦らしたり、一度要求とかけ離れた事を挟むとお眼鏡に適った商品が更に素敵に見える、と最近借りた本に書いてあった」

 

「慣れない事はやめた方がいいわよ。貴方の腕じゃただただ長ったらしくてうざったいだけだわ」

 

「左様で。

さて、肝心のお値段だが…弍〇〇圓戴こう。仮にも由緒正しき儀式に使う様な聖遺物だからね。安値で売り払う事は出来ない」

 

僕としては珍しく、神妙な面持ちで大口の商談を持ちかけたつもりだったのだが────────

 

 「あら、意外と安いのね。詐欺師まがいの貴方ならもっと吹っ掛けて来ると思ってたわ」

 

と、軽い反応を頂いた。 

酷い言われようである。

 

 「いやねぇ…君、弍〇〇圓と言ったら大金だろう。なんでそんなにあっけらかんとして即決できるんだい」

 

と問うと、彼女は実に真面目な顔で

 

 「外の世界じゃもう圓は通貨の最小単位なのよ。今時、銭や厘なんて古臭い単位は一部の専門家くらいしか使わないわ」

 

と答えた。

ちゃりん、とカウンターに硬貨を置かれる。2枚の銀貨?だ。

 

「何だい、これは?」

 

「弍〇〇圓よ」

 

確かに、注視してみると小さな文字で「日本国 百円」と書かれていた。

僕の能力で用途を視ても、紛うことなき貨幣である 。

 

「確かに。

…だが、できれば幻想郷で通じるお金で払って欲しいんだがね。せめて百圓札ならまだ分からないでもないんだけど」

 

「持ち合わせがないのよ。

そもそもわざわざ札束を持ち歩くよりは小銭の方が楽でしょう?」

 

「否定はしないがね……。

まぁいい、毎度有り。またのお越しを心よりお待ちしているよ」

 

そう言って、僕は店を出る彼女を見送った。

…………腰掛けたたままで。

 

 

─────霧の湖の畔に建つ、紅魔館、その食堂。

テーブルには幼い童女───もとい、この館の主、レミリア・スカーレット。

そして、その友人であり大図書館の主であるこの私、パチュリー・ノーレッジが座っていた。

 

 「──────それで、頼んでいたお使いは?咲夜」

 

とレミィは問う。傍に立っていた咲夜ははい、と返事をしながら手に持っていたものをを差し出した。

 

 「これを。

あの古道具屋の話ではカリス、という名前の杯で……何でも、かの救世主が弟子達に己が血と称してワインを振る舞った時に使われた聖杯を模したものだそうです」

 

 「ふぅん…つまりこれで呑んだワインは聖者の血、という事ね。面白いじゃない。

でかしたわ、咲夜。お手柄よ」

そう言いつつ彼女は咲夜にワインを注がせ────ようとした所で、私は彼女を静止した。

 

「待って、レミィ。

その杯………怪しいわ。

物々しい魔力を感じる。

もしかしたら本物の『聖杯』かもしれないわ、あくまで憶測に過ぎないけれど。

もしそうならば…というか、そうでなくても浄化されてタダではすまないわよ、あなた」

 

当然の事だが、彼女は信じようとはしない。

 

「面白いジョークね。そんな大層な物があのちんけな道具屋に置いてある訳がないじゃない?

第一、これがそんな力を持っているならあの忌々しい賢者がとうに察知している。

そうじゃないかしら」

 

「確かにそう……だけど。

でも、魔法使い────言うなれば専門家の私の勘が告げているのよ。その杯は異様なものだと」

 

言い切った。私にも、曲りなりに魔女としての矜恃がある。

 

彼女はしばらく静かに考え込む。

そして、口を開いた。

「─────分かったわ、パチェ。

親友がそこまで言うんだもの、信じない訳にはいかないわ。そもそも、魔法の事については私は素人だしね。

これは貴女に預けるわ。どういう物なのか、解析をしておいてくれないかしら」

 

そう言って、彼女は脇の容器にワインを棄て、拭き取った後に杯を私に手渡す。

 

「…えぇ、任せて。

この為の大図書館よ。蔵書量は伊達じゃない。必ず期待に応えてみせるわ」

 

杯を持って、私は食堂を後にする。

普段、刺激的な事なんてあの本強盗の襲来くらいしかない。クリーン…と言っていいかは分からないが、久し振りに充実した高揚感が胸を満たす。

 

 

【紅魔館で一悶着があったのとほぼ同時期、博麗神社にて】

 

 

───────最近、幻想郷は平和だ。

いい事なのだけど、平和だろうと大事件があろうと参拝客はここに殆どこない。

 

「あー…───暇ね」

 

「そうだな、暇だな」

 

…………いつもの事だけど、こいつはさもいて当然、といった感じで現れることができるのかしら。

 

「なんで居るのよ、魔理沙」

 

「居ちゃ駄目な用事でもあったのか?

どうせ参拝客も居ないだろうし、霊夢が相当暇してるだろうと思って来てやったんだ」

 

「余計なお世話よ。…暇なのは本当だけど」

 

こういう奴だし、今更気にすることでもない。変に相手にするだけ体力の無駄ね。

 

「ここの所しばらく、異変も起きてないもんな。いい事だが」

 

「そうね。面倒事の尻拭いさせられるよりはマシだわ」

 

などと言ってみるものの…やはり暇なのは確かだ。体も鈍って来てる気がするし…。

ここらで誰か、異変でも起こしてくれないかなぁ、という物騒な思いが頭をよぎる。やはり暇で頭まで鈍っているのかもしれない。

 

【更にそれから数度暦の月が巡り、季節も変わろうかという頃】

 

「やったわ、レミィ!」

私は息を切らしながら全速力で彼女に駆け寄る。

 

「どうしたの、パチェ。

いきなり大声を出して」

 

「あの杯について分かったのよ、やっと」

 

「あの杯って……どの杯?」

はて、と彼女は考え込む。

 

「もう…忘れたの?あの古道具屋から買い取った杯よ。解析しておいてくれって頼んだのはレミィじゃない」

 

そういえばそんな事もあった、と腑に落ちた顔をする。

 吸血鬼として幼い彼女は興味の対象がコロコロと変わる。月旅行の後もそうだった。ここら辺はこの子の性分として諦めて考えないことにしている。

 

「結論から言うと────当然だけど、あれは聖杯その物ではなかった。よくよく調べると明らかに数千年の時を経た聖遺物ではなかったしね。

その事実だけを見れば、よくある模倣品、精々どこかの誰かが起こす程度奇跡しか起こせない、ただの劣化品」

 

「ただ一つ違う所は……あれが『あらゆる物の願望を叶える』という規格外な魔力と効力を有している事。分かり易く言うならば聖杯の形をした打ち出の小槌ね」

 

興奮している私に対して、レミィは懐疑的な様子で私に聞き返す。

 

「ジョークだとしても笑えないわね。

仮に本当だとして、なんでそんな高等魔術の結晶があんなボロ臭い店に置いてあるのよ。

本来なら封印されて然るべきじゃない」

 

尤もだ。常識的に考えれば信じられないのも無理はない。

 

「その事についてだけど…大図書館である(・・)ある文献を見つけたわ。噛み砕いて言うとね…

 

『────とある島国のとある地方都市にて、魔術の真髄に辿り着こうとする三つの家があった。

その共同研究の結果生み出された聖杯の模倣品は、以後数度、それぞれの目的を果たす為の大儀式に用いられる事となった』ってお話」

 

「…恐らくはこの聖杯はその時に用いられていた物ね。ここに流れ着いたという事はもう行われていないのかもしれないけど」

 

 「…………その聖杯戦争とやらを再現する事は可能なの?」

 

「少し難しいわね。

ここの大図書館にある文献も、ほんの極一部……おそらく、システムとして完成する前に放棄したのかもね。もしくは余程技術の秘匿が厳重だったか。

そうでなければ流れ着いてこないでしょうし」

 

語り終えて彼女を改めて見ると、先程とは一点、好奇で目を光らせていた。

そして、こう二の句を継ぐ。

 

「いいわ、どれだけ時間がかかっても」

 

「スペルカードルールにも飽きてきてた所だわ。

いっその事、ここらでドカンと異変を起こしてみようじゃない?」

 

彼女らしい、周りの労力を考えない行き当たりばったりの発言だ。…が、不思議と私も悪い気はしない。

 

「………簡単に言うわね。

まぁ期待はしないで、喚びたい英雄でも考えながら待ってて。

どうせまた忘れちゃうでしょうけど」

 

「心外ね。こんな刺激的な事、そんな簡単に忘れられるわけないじゃい?」

 

確かに。流石に異変を起こすくらい大きな事なら、彼女も忘れないかもしれない。

なんにせよ、人数的にも多分私も参加する事になるだろう。

調べるのに並行して召喚する英霊を決めておきたいものだ。




如何でしたでしょうか。
以降、後書き欄は細々とした設定紹介(サーヴァントのステータスなど)をしていこうと思います。
また、以降の話に登場するサーヴァントの中で、原作に登場するサーヴァント(クラスが同一)は基本的に原作のステータスのままです。

また、ほぼほぼリアルタイムで書いておりますので、更新が不定期になります。御容赦いただければ幸いです。
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