ウルトラマンオーブ 第4.5章 少女の決意   作:ライフォギア

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後編:別離、そして────

 あの日以来、2人の間には良好ではない、同時に険悪でもない空気が流れていた。

 薄皮1枚隔てているような。距離感こそ変わっていないが、確実に壁があるような。

 アスカ側から設けたその壁をガイも感じていた。

 

 

「アスカ、最近変だぞ? どうした?」

 

「いつも通りですよ、ガイ」

 

「……本当に、そうか?」

 

「ええ。ところですみません、また教授していただきたい事があるのですが」

 

「あ、ああ……」

 

 

 言葉は交わしてくれるのに、どこか血が通っていないような。

 そんな気味の悪い距離感が2人の間に転がっていた。

 

 こと、『学ぶ』という事にアスカはより一層貪欲になった。

 ガイの知っている事を1つでも多く学ぼうと、彼女の質問の頻度は増していく。

 それはウルトラマンに関する知識にすら及んだ。

 ガイの変身するウルトラマン──『オーブ』の使う、『火』、『水』、『風』、『土』の4つのエレメントの話や、ウルトラマンの基本的な力である『光』の力。

 更には光と相反する『闇』の事や、先日の村で現れた『怪獣』の事まで。

 

 ガイは嫌な顔1つせずにそれらを教え続けた。

 それは以前までと変わらない。

 ただ、ほんの少しだけ不安そうな顔を覗かせるようになった事だけを除いて。

 

 

 

 

 ある日の夜、とある街の宿屋にて。

 ガイが寝静まっても尚、火の明かりを頼りにガイに教えられた事を纏める為に羽根ペンを走らせる。

 

 

(分かっていた事だ、私が足手纏いなのは)

 

 

 彼女は別に、ガイに対し反発心を抱いているのではない。

 むしろ真逆だ。尊敬しているとさえいえる。

 だからこそ、彼女は自分と、この世界の事を許せずにいた。

 

 

(歪な強者は支配をしたがる。理不尽、不条理な支配を。

 対し、正しき強者は、怯えた弱者に弾圧される)

 

 

 奴隷を初めとする下層階級を蔑ろにする貴族──自分の父親のような存在。

 それが彼女の思う『歪な強者』。

 圧倒的力を持ちながらも、決して理不尽に力を振るわない──ガイのような存在。

 それが彼女の思う『正しき強者』。

 得てして『正しい』とは人それぞれというものの、アスカにとってはそうであった。

 

 

(弱者の恐怖は『支配』からなる。強き者に踏みにじられる恐怖だ。

 だけど、その為にガイのような人が苦しみ、悲しむなど間違っている)

 

 

 彼女はガイの事を敬愛していた。

 同時に、己の経験則から『支配』を忌み嫌っていた。

 

 

(……だとして、私に何ができる? ガイの足を掴む枷である私に。

 彼の辛さを肩代わりするどころか、上乗せしていくだけじゃないか)

 

 

 彼女は既に結論を出していた。

 彼から学んだ教養があれば、ある程度1人で生き抜いて行く事も出来る。

 

 野外で生きるための術、金策の術、複雑な文字や数字のやり取り、護身術。

 

 彼女は真面目であり、勉学への情熱は極大であり、故に博識となれた。

 それだけの知識が揃えばある程度の事は自分でもできる。

 この世界の中で、1人で生き抜く事も。

 

 ──────ガイから、離れる事も。

 

 

(……ガイ)

 

 

 主人は既に寝静まり、布団の中で穏やかな寝顔を見せている。

 仄かな火明かりに照らされる青年の顔を見て、アスカはギュッと唇を噛んだ。

 

 

(恩を返せぬばかりか、仇で返す形になる事、お許しください)

 

 

 自分の為にと必死になってくれていた彼への裏切りだと、アスカは知っている。

 だからといってこのまま彼と共に在る事は、自分自身が許せなかった。

 

 

(ですが、いつか必ず、『正しき強者』や『虐げられる弱者』が、泣かぬ世界を。

 支配をする歪な強者も、

 その支配に怯える弱者も、

 歪な強者の為に誤解を受ける正しき強者もいない世界────)

 

 

 それは、以前から抱いていた彼女の理想だった。

 ガイに尋ねられた時には、まだ雲のように浮かんでいるだけだった理想。

 

 

(誰も、貴方に怯えぬ世界を)

 

 

 理想はいつしか、確固たる形に変わった。

 

 

(支配からの、脱却を)

 

 

 その日、アスカという少女はガイの前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 陽が照り付ける事も気にせず、宿屋を飛び出したガイはただただ走り続けていた。

 

 迂闊過ぎたと自分を呪った。

 最近様子がおかしかったじゃないかと自分を責めた。

 何故踏み込めなかったんだと自分をなじった。

 

 アスカが姿を消した。

 彼女は何処までも生真面目だった。

 昨日の洗濯物も纏められていた。荷物も丁寧に整頓されていた。

 幾つかのアスカが持っている筈の荷物以外の全てが綺麗に整頓され、置かれていた。

 

 そしてもう1つ。

 彼女が昨日まで使っていた机の上に羊皮紙が置かれている。

 丁寧な字で綴られたそれは、アスカの言葉。

 

 内容は。

 

 

『恩を返すばかりか、このような形でいなくなる事、お許しください。

 それでも私はこうする他、手段が思い浮かびませんでした。

 先日の事もあります。きっと私は、貴方の邪魔になる』

 

 

 謝罪。

 

 

『貴方は沢山のものを与えてくれた。形あるものも、形なきものも含めて。

 戸惑いはありました。ですが、嬉しかった。貴方のような人もいるのだと。

 世界に希望が持てた、光を夢見れた』

 

 

 感謝。

 

 

『貴方のこれからの旅に、尊敬する貴方に、優しい貴方に、

 幸多からん事を影ながら祈っています。

 できる事なら、ずっと貴方と一緒に居たかった。

 それは私の、素直な想いです』

 

 

 敬愛。

 

 

『ですが、この世界は弱者や、貴方のような正しい強者にとってあまりに不条理だ。

 その根本を変えなければ、あの村での出来事のような事が、きっとまた起きる。

 だから私はそれを変えたい。『支配』を、根本から』

 

 

 理想。

 

 

『そしてその為に、貴方の使命と旅の足枷にはなりたくない。だから────』

 

 

 最後まで読み切った時、ガイは羊皮紙を握り締め、慟哭する他なかった。

 

 

「何でだよ……!!」

 

 

 最後の最後に綴られた、たった一言の言葉。

 その言葉の意味は酷く単純。

 

 

『さようなら』

 

 

 そのたった1枚の書置きが、ガイとアスカの最後のやり取りとなった。

 

 

 

 

 

 走り続けた彼は、終ぞアスカを見つける事はできなかった。

 そもそも走った方向がアスカの踏み出した方向なのかも分からない。

 

 聞き込みもしたが、陽が沈み切った深夜に宿を出たらしく、目撃情報もない。

 手掛かりなど、何処にもない。

 いつの間にか街から遠く離れていた。

 

 辺りに遮るものが何もない草原の上で、ガイは力なく座り込んだ。

 

 

「……何やってんだ」

 

 

 滲み出るような怒りの感情。

 その矛先は、自分。

 

 

(何が『アスカの為』だ。何も考えてない、自己満足じゃないか)

 

 

 アスカが去っていたのは、自分を足手纏いだと思ったから。

 恩人に迷惑を掛けたくないという心優しい想いから。

 先の羊皮紙からそれが感じ取れてしまったから、ガイは自分を責め続ける。

 

 

(いつだってそうだ。大切なものばかり零れていきやがる)

 

 

 長く旅をしてきた。

 彼女に投げかけた『旅仲間』という言葉は、心の底からの言葉だ。

 仲間を失った事もある彼だが、だからこそ仲間と共に旅をする事の嬉しさを知っている。

 分かち合える友が横にいてくれることが、どれだけ心安らぐ事かも。

 それを失っているからこそ、重要さや重大さが、身に沁みている。

 アスカとの旅はそれだけ大切だった。

 いつの間にか、とてもとても楽しい旅になっていた。

 

 なのに。

 巻き込みたくない、失いたくないという感情だけで、アスカをあの村に置いていこうとした。

 それが正しい選択だと、彼女にとっても幸せだと、間違ってないと思っていた。

 でも、それが彼女を、『足手纏い』を気にしていた彼女の心を酷く傷つけてしまった。

 

 大切だと知っていたのに。

 失う痛みを知っていたのに。

 気付いた時には、手遅れで。

 

 

(何でいつも、守れないんだよ────)

 

 

 彼の過去に、命を守れなかった少年がいる。

 彼の今には、心を守れなかった少女がいる。

 

 これはガイという青年の味わった、強く、重く、深い後悔の1つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い長い月日が流れた。

 果たして100年単位か、1000年単位か。

 ともあれ世界には高層ビルが並び立ち、電気で動く鉄の箱がそこら中を走っている。

 ガイとアスカの出会った時代から、遥か未来。

 月が欠けた世界の日本という国に、とある報道が流れていた。

 

 

 『ウルトラマンオーブ』

 

 

 突如として現れた怪獣に対抗するように現れた、光の巨人。

 人を守るその姿から尊敬と畏怖を込めてそう呼ばれる巨人。

 

 此処はとあるホテル内。

 そこを根城にする3人の女性がいた。

 

 

「はー。もー何なのよ、このウルトラマンとかいう巨人は。

 あーしらの邪魔になんなきゃいいんだけどっ」

 

 

 水色の髪を持った女性が新聞を放り投げてごちる。

 彼女──『カリオストロ』は、両手を広げながら呆れつつベッドの上に寝転んだ。

 

 

「心底不可思議な存在なワケダが……結社としては、計画に変更はないワケダ」

 

 

 椅子にちょこんと腰かける少女──『プレラーティ』がカエルのぬいぐるみを抱き締めつつ、落ち着いた口調で語る。

 

 カリオストロとプレラーティは、1つの『理想』の為に集まった同士だ。

 そして『結社』とは、彼女等が理想を叶えるために所属する組織の事だ。

 

 『パヴァリア光明結社』──それが彼女達の組織の名。

 

 

「………………」

 

 

 カリオストロが放って床に落ちた新聞を見つめる、この場にいる最後の1人。

 その彼女こそ、カリオストロとプレラーティに『理想』を提示した張本人。

 

 

「どうしたの? 何か気になる事でもあった?」

 

 

 じっと新聞を見つめる彼女の様子を不思議に思ったのか、カリオストロが体を起こして首を傾げた。

 問われた女性はすっと目を閉じると、いつも通りの、落ち着いた様子の顔を上げる。

 

 

「いいえ、何でもないわ」

 

 

 女性はあくまで平静だった。

 否、平静を『装っていた』。

 

 

(貴方はまだ、誰かの為にと戦っているのね)

 

 

 彼女にとって巨人は既知の存在であった。

 この3人の中どころか、パヴァリア光明結社の『局長』よりも、この巨人については詳しい自信がある程に。

 

 

(貴方はきっと、私のやり方を許しはしない。故にまた仇を返す事になる。

 ……それでも、此処で止まるわけにはいかない。

 許してほしいなどと言うつもりもない。これが私の覚悟だ)

 

 

 巨人の力以上に、巨人がどんな人物なのかを知っている。

 優しく、強く、その為に傷つく事もある青年なのだと。

 

 

(……ガイ)

 

 

 心中で青年の名を、何処か優しげに、悲しげに呟く女性。

 

 かつての恩人に賜った名前は当の昔に捨て去った。

 それは、恩人がくれた名前を汚したくないという我儘にも似た思いからなのか。

 真意を知る者は、彼女1人。

 

 『アスカ』と過去に名乗った少女。

 

 今の彼女はこう呼ばれている────『サンジェルマン』、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球は丸い。

 だから歩き続けていれば、生き続けていれば、そのうちどこかで会えるかもしれない。

 例えばそれが超常の寿命を持った2人ならば、再会はある種の必然なのだろう。

 

 死を灯す『サンジェルマン』。

 

 命を守る『クレナイ・ガイ』。

 

 2人の再会は必然的に戦場で、どうしようもなく敵同士で。

 

 

「久しいわね、ガイ。いえ────ウルトラマンオーブ」

 

「……アス……カ……!?」

 

 

 運命は残酷にも2人を巡り合わせる。

 

 その再会の果てに、どのような結末が訪れるのかは────。




後書き・キャラクター説明

・ガイ
ウルトラマンオーブ10エピソード構想のエピソード4『激闘!イシュタール文明』にて、マガタノゾーア戦後、地球の各地を転々としている頃。
この後しばらくして、ルサールカでナターシャと出会う事に。

・奴隷の少女(アスカ/サンジェルマン)
ガイに名付けられた奴隷の少女。
名の由来はガイの『先輩』から。
今回の一件を機に、歪んだ強者の支配から脱却する事、今の支配構造を変える事を理想と掲げる。

・裏設定
村の名前:サーフ村。





・その後の話
この後、オーブの介入やらなんやかんやあってサンジェルマン達はAXZ以降も生き残り、贖罪の旅を続けてるといいな、と作者は勝手に思っております。

例えば、
AXZ後、何か事件が起きる→オーブが敗北→オーブ消滅寸前→一時的にサンジェルマンと一体化する事で難を逃れる。
とか。

最終的にはカリオストロ、プレラーティ、そしてサンジェルマンの絆の力がギンガ、ビクトリー、Xのウルトラフュージョンカードに認められて
「サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ、3人の錬金術師の力、お借りします! オーブトリニティ!!」
とか言い出して、メビウス最終回のフェニックスブレイブよろしく、ガイ含めた4人で変身したらいいんじゃないかな、とか。

今回の作品は、そんな妄想達から生まれた作品でした。
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