――シェイクスピア
学校生活を振り返って。
一年F組
青春とは毒であり、薬でもある。
青春を謳歌しようと画策してきた者どもは男女を問わず、その他のどんなものをも犠牲にしてでも時間を捻出しようとするからだ。
例えば自分の時間。何かをしようと予定していた時間を友人と称される存在の連絡一本で変更し、どこかへと遊びに行ったりする。
例えば成績。削られた自分の時間によって勉学に当てる時間が減り、人によっては成績ないし単位を落とす愚か者もいるだろう。
例を挙げれば枚挙に暇がない程に、青春は人生の毒となり得るのだ。
だが、決してそれは悪ではないとも思う。
毒が時に薬となるように、青春という毒でしか手に入れられない結果も存在するからだ。
時間をどう使おうがその人の勝手であるし、そういう人生の過ごし方だって選択の一つであると思えるほどそれに魅力を感じないわけではない。
クラスメイトのSNSにはそれはもう楽しそうな笑顔がでかでかと映し出された写真が跋扈しているのは確かなことであるし、その笑顔に嘘偽りなどないのだろう。少なくともその瞬間には。
故に人は太陽のごとき笑顔に憧れ、他人と時間を共有すべく群れるのだろう。
俺にはその行動原理を否定するだけの根拠もなければ、そんな人生を送ってきたわけでもない。
つまるところ何が言いたいかというと、だ。
青春を謳歌しようと毒の果実を貪りし者どもよ。
そのまま腹でも壊しておくがいい。
学校の課題に出された「学校生活を振り返って」という作文。さして印象に残った出来事もなく、印象に残られた覚えもない俺は結局深夜まで作文の作成に困窮。あげく深夜テンションでこんなものを書き上げてしまった。
当然こんなふざけた文書を学校側に提出してしまえば呼び出しからの説教、校長室に召喚からの再説教という格ゲーもビックリの即死ハメコンを食らうこと間違いなしである。嘘ちょっと後半は盛った。
ともかく、睡眠時間を削ってまで書いたこの怪文書は没にせざるを得ない。普通に説教は食らうだろうし。どうせ説教されるなら出さずに普通に怒られる方がマシだ。
「とはいえ何を書こうか・・・」
自慢じゃないが一般的な学生とはかけ離れた灰色の学校生活を送ってきた俺には原稿用紙を埋めるほどの思い出などない。そしてこういうときに助けてくれる友達もいなければ教師を頼るメンタルもない。
これはいわゆるチェックメイトなのでは?これがゲームなら空白でも勝てませんね・・・。ってかあの二人もボッチか。
昼食の購買製惣菜パンをかじりながら、ぼやっと思考の海を漂う。
しかし、そんな緩い思考は穏やかな風によって流された。
何を隠そう、俺が飯を食ってるのは教室ではなく外。
総武高校の立地の関係上、この時期は昼食時にちょうどよく気持ちよく風が吹く神仕様となっているので、それ目当てに外で食べている。
・・・これは決して俺の居場所が教室にないわけではない。
関係ないけど昼休み始まった瞬間リア充どもが俺の席に歩いてくるのって怖いよね。関係ないけど(関係ある)。絶対俺居ないものとして扱われてるやん・・・
そういえば中学時代もこんなことあったな。昼休み終わって教室戻ってきたら椅子がなくって、結局クラスのリア充どもが自分の机の横に勝手に持ってってただけだったっけ。あの時返してもらうために話しかけたら「誰だっけ?」みたいな顔されたの未だに根に持ってる。許さんぞS君め。
・・・ああもう。暗い話思い出したせいで俺の嫌な過去まで思い出してしまった。
ムシャクシャした胸の感情をぶつけるように作文用紙をぐしゃぐしゃに丸め、放り投げる。
だが紙を投げたくらいで感情の昂ぶりが収まるはずがなく、パンの残りも腹にかっ込んでようやくムシャクシャが収まった。代わりに胃もたれと虚無感が襲ってきたがな。
そんなこんなしていると、時計がそろそろ午後の授業開始時間を指しそうになっている。そろそろ教室に戻らなくては。
「作文用紙・・・は、まあいいか。どうせどっか飛んでくだけだし。」
今の俺には、環境に配慮とか誰かに見られたらとか、そういった考慮をする頭が残っていなかった。
俺は重い足を引きずるように教室へと向かうのだった。
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景虎が昼食を食べている壁から死角になる外。
テニスコートがよく見えるそこにはもう一人、昼食を食べている男がいた。
その男-比企谷八幡はアホ毛を風に泳がせながらちょうどパンを食べ終わり、教室へと向かっている途中にくしゃくしゃになった紙を拾う。その紙は正しく景虎が放り投げた怪文書だった。
「おいおい。千葉の路上にゴミ捨てていいと思ってんのか?誰だよこんなもの捨てたやつ・・・ぶっ飛ばすぞ。」
千葉愛に溢れる独り言をつぶやく八幡はわざわざゴミを拾い、中身を確認する。
どうせガムか何かだろう。そう思いながらも紙を開いてしまったのは何の因果か。
初めは文字が書かれた紙が捨てられていたことに驚いていたが、読み進めるにつれ、表情に変化が生まれていった。
口の端を釣り上げ、ニヤリとした読み終わった彼が発した言葉はたった一つだった。
「うっわなんだこいつ。めんどくさっ。」
声が少し高くなった彼の手にもまた、「高校生活を振り返って」と書かれた作文用紙が風にはためいていた。
始まりにはこうある。「青春とは嘘であり、悪である。」と。
似ているかもしれない二人。
彼らはふとしたきっかけで接点を持ち、交流を持つようになる。
果たしてこの出会いはどう影響するのか。
比企谷八幡と城ヶ崎景虎。
彼らの行く先はどう変わるのか、それは誰にもわからない。