捻くれぼっちと拗れボッチ   作:よこちょ

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今回ちょっと難産で遅れたので初投稿です。


似たもの同士は雪と陰

――ごめん、待った?

 

――いや。今来たところ。

 

――そっか。

 

 

 ・・・夢の中。どこからか、音が聞こえる。

 静かな森の中、鈴虫が鳴く声だけが聞こえていたはずだった時間。木の下で話す二人の男女。男はやたらと綺麗な字で書かれた手紙を手に持って、そこへ立っていた。

 俺に今聞こえるはずのない声は、だがしかしハッキリと聞こえている。

 聞いたことがある女の声は、俺にとある言葉を告げる。目の前の彼女の表情は、闇に飲まれていて思い出せない。そして・・・俺はそのとき、どんな表情をしていただろうか。俺は一体、なんと答えたんだろうか。思い出そうとすると、眼前の光景が掠れ、靄がかかる。ゆらりゆらりと見えなくなる景色の中でも、俺はたった一つだけハッキリと覚えている。

 彼女が涙を流しながら零した、愛の言葉を。

 

 

――私、貴方のことががずっと好きだったの。

 

 

 嗚咽を零し、まるで懺悔するように言った告白。これが、俺が人生で初めてされた告白だった。果たして俺はここでもなんと声を掛けたのだろうか。それすらもぼんやりとしている。だが、嬉しかったのは分かっている。

 霞む景色に耐えきれず、暗転する視界。そして靄が晴れ、俺の目はようやく焦点を結ぶ。

 

 

 真っ赤に咲き乱れる、血の花に。

 ぼんやりと開かれた目に、先ほどまで涙で濡れていた地面が映る。だが、そこには別の潤いが宿っている。原初の赤。誰しもが持っており、多量に失ってしまえばどうなるか容易に想像のつく暗い赤。それが辺り一面に、飛び散っていた。

 

 

「・・・あぁ。」

 

 

 ぐにゃりと、俺の首は力なく折れる。

 俺の耳に、雑音が入る。下から這い上がるように聞こえる雑音は、俺へと向けられている。

 許してくれと懇願する男は・・・誰だろうか。

 俺の足に、重さが加わる。下を向くに視界に映る醜い生き物は、俺へと手を伸ばしている。

 頭を地に着け、腕を押さえながら半狂乱ですがる男は、誰だろうか。

 そこまで思いを巡らせ、あぁ、と顔を上げる。

 

 

 こんなことになるなら・・・・・・俺は・・・

 

 

・・・こんな思いなんか、必要なかったのに

 

 

「ごめんね。私のせいで・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・ッ!!」

 

 

 意識が覚醒し、身体が跳ね上がる。全身から吹き出す嫌な汗を肌で感じ取り、思わず身震いを一つした。

 

 

「・・・あの時の夢、か。」

 

 

 俺の思い出したくもない、だが一生背負わねばならない過去。かつて千葉村で俺が起こしてしまった悲劇。その光景を、俺は夢に見ていた。目覚めとしては、人生史上最悪と言ってもいいだろう。

 恐らく、食事時の葉山先輩との諍いや千葉村にいるという事実が重なって思い出したんだろう。

 

 とりあえず水を飲み、暴走する心臓を落ち着けた。少しだけ収まった鼓動と連動して気分も少し楽になったのか、回りを確認する余裕が生まれた。

 俺が居るのは、昨日睡眠を取ったロッジ。俺が壁際を陣取ってしまったので、隣には空の毛布が一つ。その向こうに戸塚先輩が眠っているのが見える。他のメンツを見る限りでは、俺の隣の布団には比企谷先輩が寝ているはずなのだが・・・まあいいか。

 しかし、こう一回悪夢にうなされた後だと眠気は一切やってこない。授業中とかの余計な時にはやってくるのに、本当に空気の読めない三大欲求である。

 さてどうしようかと静かな空間で一人座っていると、何やら外から小さく音が聞こえる。サラサラと聞こえるこれは、恐らく水の音だ。はてなぜ水音が聞こえるのかと昨日の往き道を思い出してみれば、確かこのロッジの近くに川があった気がする。

 

 

「・・・行ってみるか。」

 

 

 どうせ寝れやしないのだ。それなら一度気分転換ついでに外へ出てせせらぎの音に耳を傾けるのも悪くないだろう。ついでに風呂に入ってしまうのも、悪くないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、というわけで外へと出てきた訳だが・・・存外に肌寒い。半袖短パンという寝間着そのままで出てきたせいもあるだろうが、多分それだけではない。眼前を流れる小さな川。ロッジに居たときよりも大きく音を立てるそれは、月光を映し出している。綺麗な水にしか住まない蛍が飛んでいるのも、幻想的な風景を作り出すことに一役買っている。

 

 

「ホントに綺麗だな・・・」

 

 

 そんなことを口に出しつつ、川に沿って歩く。水音は相変わらず俺に安らぎを与えてくれるし、ほのかな月光も心を落ち着かせてくれた。心が落ち着いたおかげで、瞼も少し重くなってきた。そろそろ戻って寝るかなー。なんてのんきなことを思ってたときだった。

 月明かりの元で、煌めく黒い長髪が揺れた。

 

 ほのかな光の中、すっと立っている雪ノ下先輩。後ろを向いていても分かる存在感は、なぜかこの風景にひどく馴染んで見えた。

 その隣で、光を吸っているんじゃないかと思うくらいに闇に馴染んでいる比企谷先輩。

 対照的に闇と同化している二人は、この幻想的な風景もあいまって、どこか違う世界に住んでいるのではないかと一瞬錯覚するくらいだった。光と影。光があるから影がある。俺にはそんな風に見えた。

 なにやら話している様子の二人を見た俺は、そっと後ずさりをする。なぜか、アレを邪魔してはいけないような気がしたから。なんかお似合いな感じだし・・・

 

 

「・・・どうかしたのかしら。城ヶ崎君。」

 

 

 だがしかし、現実は非情である。完全に後ろを向いていたはずの雪ノ下先輩に補足され、声を掛けられたのだ。・・・正直かなり気まずいが、出て行くほかに選択肢は存在しなかった。

 

 

「・・・すみません。邪魔しちゃって。」

 

「別に構わないわ。比企谷君の後をつける程悪趣味な訳でもなさそうだし。」

 

「何で俺が流れ弾食らってるんですかね・・・。」

 

「失礼ね。私は狙いを外すような腕をしてないわよ。」

 

「ということはそれ完全に俺にぶっぱなしてますねヤダー。」

 

 

 ・・・というかホント、なんで俺のこと分かったんだろうか。葉っぱとか踏まないようにしながら歩いたから音もしないはずだし、あの人後ろに第三の目でも付いてんのかしらん?比企谷先輩もあんま驚いてないし、もしかして奉仕部って超能力者の集会所だったりするの?でも由比ヶ浜先輩ついて無さそうだしな・・・。謎は深まるばかりだ。

 

 

「・・・んで、どしたん。お前。」

 

 

 そんな失礼ギリギリの思考になった俺に、声を掛けてくれている。・・・こういうとこなんだよなー。多分優しいって思えるとこ。普段全然態度に出ないからわかりにくいけど。妹が居ると自然とこうなるんだろうか。

 

 

「いや、途中で起きちゃって。それで目覚めが悪くて散歩に出たら遭遇しちゃって・・・ホントごめんなさい。」

 

「謝ることじゃねえっつうの。・・・まあ、目覚め悪いのも無理ねえか。」

 

「そうね。比企谷君と同じ部屋で寝てたんだもの。そうなるのも無理ないわ。」

 

「ねえさっきから俺撃たれすぎじゃない?ゾンビでも三、四発撃たれたら死ぬんだぞ。」

 

「あら、墓の下から何か聞こえるわね。」

 

「俺は蘇ってすらいない扱いですかそうですか・・・」

 

 

 日中も聞いたような応酬に、どこか心が安まるのを感じた。下手をすれば、この風景を見たときよりもずっと。・・・多分、気を遣ってくれたんだと思う。目が合った比企谷先輩が、すぐに目をそらしたから。そんな気遣いを受けて、俺は思わず笑いが零れる。誰かに励まされるなんて経験、家族以外から受けたことなんてなかったから、嬉しかったんだと思う。なんだか胸の中がすっきりした気持ちだ。

 

 

「ありがとうございます。気持ちよく寝れそうです。」

 

「ん、そうか。」

 

「それなら良かったわ。」

 

 

 微笑む雪ノ下先輩と、ニヤリと笑みを浮かべる比企谷先輩。多分比企谷先輩的には普通の笑顔なんだろうけど目のせいで邪悪さが・・・なんてね。その奥で揺れる優しさの籠もったまなざしはバッチリ確認できてる。俺の『神の目』は見逃さないのだ。うっ・・・いにしえの記憶がッ!

 

 

「んじゃ、戻って寝るか。」

 

「そうですね。」

 

「そうさせてもらうわ。おやすみ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪ノ下先輩と別れてからロッジへ歩く道。相変わらずサラサラと音を立てる川縁を二人で歩く。少し雲が出てきたが、多分明日には晴れてるだろう。明日もいいキャンプ日和になりそうだ。

 

 

「・・・」

 

 

 俺の口からは、なにか言いたげにしながら口を息を吸う音が聞こえる。だがそれは音にならず、ただただ大きめの呼吸にしかならなかった。

 隣を歩く比企谷先輩は、相変わらずの猫背でただただ歩いている。たまにちらりとこちらを一瞥するだけで、それ以上何も干渉しては来なかった。何か言いたげな俺の様子に感づいているのかは、その腐った目からは感じ取れない。

 俺は迷っていた。比企谷先輩に、「あの夢」のことを話すかどうかを。決して気持ちのいい話ではないし、むしろ寝る前の小話としては最悪な部類に入るだろう。夢見心地が悪くなること必須の、呪いのような話だ。

 ・・・それでも、俺は心のどこかで比企谷先輩には話していいんじゃないかと勝手に思ってしまっていた。それが親近感から来るものか、近しい人だからのものなのか、今の俺には分からない。だが、比企谷先輩は妙に安心感のある人なのは確かだった。少なくとも、俺は比企谷先輩のことを信頼はしているから。

 だが同時に、話さない方がいいと思っているのも確かだ。比企谷先輩の悪評を聞かれ、一瞬でも保身を考えてしまった俺がこれ以上の重さで関わる権利なんかあるのだろうかと思っているから。

 

 

「・・・先輩には、黒歴史ってあります?」

 

 

 結果、俺が出した答えはかなり曖昧な言葉だった。自分に何があったかは言わず、相手も具体的な内容は言わなくていい。ただ、両者の間で「過去に何かあった人」という共通認識ができるだけの、慰めにもならない確認。だが、律儀にも先輩は答えてくれた。

 

 

「は、あったりまえだろお前。なんなら俺から黒歴史抜いたらなにも残らないまであるぞ。」

 

「えぇ・・・(困惑)。どんだけ積んで生きて来たんすか。」

 

「いやまて、俺は悪く・・・ないこともないかもしれんが、社会も悪いんだ。というかむしろ世界が悪い。」

 

 

 やれこんな世界が悪いだの心構えがいけないだのと言いながらも、まるで誇るかのように自分の黒歴史をあっぴろげに語る先輩には、あまり気に病んだ様子はない。むしろ、そんな自分に誇りを持っているかのような具合だった。

 

 

「なんで先輩はそんなに自信満々何ですか?普通、そんな過去誇りにできませんよ。」

 

 

 不思議に思った俺は、聞いてみた。

 すると、もっと自信を持ったような不適な笑みを浮かべ、こう言った。

 

 

「当たり前だろ。なんせ、ぼっちだからな。」

 

 

 自信満々で答えてくれた。それを俺も見習えるかと言われれば微妙なラインだが・・・参考になった。多分、比企谷先輩は強い人なんだろうなーくらいの認識が、新たにできた。

 

 

「だからまぁ、なんだ。・・・お前もあんまし気張んなくていいんじゃねえの?」

 

 

 追加で、またぶっきらぼうな感じで言ってくれた言葉。

 それを聞いた俺は、ふとある人の言葉を思い出した。「前に進むには、今を受け入れるしかない」といったのは、はて一体どこの指輪の魔法使いだっただろうか。そして少なくとも俺は、過去の俺を少しだけ受け入れることができた。

 

 

「・・・善処しますよ。先輩がそう言ってますし。」

 

 

 なら俺も、少しなら前に進めるかもしれない。

 そう思えた、いい夜だった。




なんかオリ×八みたいになってますが違いますからね?ちゃんとオリ×色ですよ?
次回、「草葉の陰にいるのは幽霊とは限らない」。お楽しみに。
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