捻くれぼっちと拗れボッチ   作:よこちょ

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草葉の陰にいるのは幽霊とは限らない

 水着とはなにか。俺が思うに、人類が生み出した最強の兵器だ。といっても銃や剣とは違う。あれは男の魂というか中二心を刺激するものだ。そして水着は・・・うん。男のエクスカリバーを真名解放寸前に至らしめるもんだ。

 布面積は下着のそれなのに、水が近くにありさえすればそれが法律に許される最強装備。別に下着でも怒られはしないのかもしれないが、気分的になんか違う。服と似たようなくくりでありながらも、合法的にそこはかとないエロスを感じさせるそれはまさに最強の名を持つに相応しい。つまりゴッド。おお、神よ。楽園はそこにあったのだ。

 

 

「先輩もそう思いません?」

 

「いや知らんがな。」

 

 

 朝食を食べたあとに、小学生達の自由行動時間に合わせた自由時間ができた俺達は、水着に着替えて川へ遊びに来ていた。・・・俺と比企谷先輩を除いて。俺も比企谷先輩も水着を持ってなかったからね。仕方ないね。・・・戸塚先輩と水遊びしたかったなぁ。水の掛け合いとかしたかった。次こう言う機会があったら水着を持ってこなければな。例え冬であっても。

 

 

「やっぱりそういう武器が世界を平和にするんですよ。エロは世界を平和にするってやつです。」

 

「そういうもんか。・・・お、鳥が居る。きれいだなー」

 

「うわー露骨に聞いてねぇやこの人。」

 

 

 とはいえ、あんま気にしてない。なにせこの木陰に居るのは俺とバードウォッチングらしきことをしてる比企谷先輩だけだ。どうせどんな話してようが独り言に近いし・・・って、あれ?

 

 

「何馬鹿なこと言ってんの。」

 

「鶴見さん・・・?」

 

 

 いつの間にか、俺の隣に鶴見さんが立っていた。・・・ということは俺の水着の持論を小学生に聞かれたってことですかそうですか。死にてぇなぁ・・・

 

 

「先輩縄とか持ってません?丈夫なやつ。」

 

「ナチュラルに自害しようとすんのやめてくんね?ランサーももうちょい頑張ってただろうが。・・・んで、鶴見。お前なんでここいんの?」

 

「今自由時間でしょ?朝ご飯たべて部屋に戻ったら誰も居なかった。」

 

 

 ・・・思った以上に酷い仕打ちだった。やっぱ小学生も人間なんだなぁ。しかも大人と違ってすっとやっちゃうのがまた恐ろしいところだ。ちなみに大人は堂々とやってくる上に証拠の隠蔽までしやがるからもっとたちが悪い。ブラック企業とか最たる例だ。まあ俺バイトしかしたことないから知らんけど。

 

 その後、由比ヶ浜先輩と雪ノ下先輩が来て比企谷先輩が「どうせ小学時代の友人なんか1%しかいないし誤差みたいなもんだ」って言って呆れられてたりした。哀れなり。まあ同意はするけど。

 

 そして、鶴見さん本人の口から気になる言葉が出てきた。

 

 

「私・・・見捨てちゃったし。もう仲良くできない。またいつこうなるか分かんないし。同じことになるなら、このままでいいかなって。惨めなのは、嫌だけど・・・」

 

 

 この発言でわかった。彼女は、もう諦めているのだ。自分がやったってどうしようもない。変わったところでどうせダメ。現状を一気に変えてくれる救世主なんていないし、周囲だって変わりやしない。そんな風に思ってるんだろう。

 

 だが、俺は知ってる。小さな行動ではなく大きな行動――しかも、誰も想像できなかったことをすれば、少なくとも今の状況からの変化は生まれると言うことを。別に、やらかしてしまった自分の過去を美化するわけではない。経験上そうなると知っているだけだ。俺は大きく行動しすぎて失敗してしまったが・・・それだって、動かないよりはいい結果になったと信じている。

 

 

「なあ、鶴見さん。」

 

「・・・なに。」

 

「無駄だと思ってても、思い切ってでっかい行動をすることも時には必要だ。ソースは俺。まあ失敗するかもしれんがな。少なくとも現状は無くなるぞ。」

 

「・・・ふぅん。覚えとく。」

 

 

 これで実際に行動してくれるかはわからない。だが、行動しやすい状況にはなりそうだ。

 だって。

 

 

「惨めなのは嫌か。」

 

 

 俺の横に居る男も、その前に立つ二人も。

 

 

「・・・肝試し、楽しいといいな。」

 

 

 奉仕の名を掲げる部活動のメンバーなのだから。

 

 

「で、どうするんです?」

 

「なに、簡単だ。お前なら世界は変わらないが自分は変えられるとき、どうする?」

 

「・・・勿論、俺が神になりますよ。」

 

 

 ニヤリと笑う俺も先輩も多分、結構悪い顔してたと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで、肝試しである。ルールは簡単。決められたルートを通って森を進み、お札を取って帰ってくるだけである。こういったイベントでよくある、なんかそれっぽい雰囲気だしとけば大丈夫なやつだ。・・・だからといって脅かし役の俺達の衣装が完全にコスプレなのは良くないと思う。雪女や化け猫は許せるにしても、なんで巫女服とかサキュバス的なやつがあるんだよ。運営が女子高生のコスプレを見たいだけな気がするのは気のせいだろうか。

 

 

「それでどうするんです?言っときますが流石にド直球に話し合いなんかできませんよ。」

 

 

 先手必勝。鶴見さんを取り巻く環境を変化させるための行動指針を決める話し合いを、俺が切り出した。何か言いたげにしていた葉山先輩だったが、俺が最初に否定したせいで結局口を開かなかった。・・・まあ、予想通りだ。葉山先輩が極力穏便に話を進めようとしているのは、昨日の一件で明らかだ。できもしない話し合いという手段をこの期に及んで言い出そうとするのは分かっていた。

 

 

「・・・なら、どうするんだ?そう言うってことは何か考えがあるんだろ。」

 

 

 にらみつけるかのように視線を寄越す葉山先輩。出鼻をくじかれた上に反論もできないんだ。せめてもの抵抗というやつだろうか。防御力下がったりはしないので安心して欲しい。

 

 

「それについては俺に考えがある。」

 

「却下よ。」

 

 

 可哀想なくらいに速攻で切り捨てられていた。哀れ。だがしかし、めげずに作戦の概要を話していた。

 

 端的に纏めると、「森の中で恐怖を与え、全員の本性を浮き彫りにする」と言う物だった。先輩の心霊スポット体験談の「行ってみたら不良に絡まれた」を元にしたそうだが、果たしてそれはあるあるなんだろうか。っていうかこの作戦大丈夫なの?下手すりゃ小学生にチクられて終わりになったりしないよね?

 

 

「みんながボッチになれば争いごとも揉め事も起こんねえだろ。」

 

 

 そうドヤ顔で決めていた。

 

 

「うわぁ・・・」

 

「ひ、ヒキタニ君は性格が悪いな・・・」

 

 

 四面楚歌であった。一堂全員からしらーっとした目で見られている。

 

 

「八幡はよくいろんなこと思いつくね」

 

 

 と思ったらそうでもなかったわ。なんなら戸塚先輩にそんな目で見られてないだけで勝者まであるかもしれない。大天使の力は偉大ってはっきりわかんだね。

 

 

「・・・他に案は無いかしら。なければこのまま行くしか無いけれど。」

 

「じゃあ一つ、いいですか?」

 

「勿論よ。比企谷君の案よりはマシな物が出てくるだろうし。」

 

「そこまで断言されると流石にへこむんですがあの・・・」

 

「いや、大筋は比企谷先輩と同じです。ただ、その後に少しフォローを入れようと思って。」

 

「・・・どういうことかしら。」

 

 

 許可を得てから、発言をする。

 

 

「このままこの作戦を決行すれば、小学生達にトラウマが残る可能性があります。それを少しでも減らしたいんです。」

 

 

 比企谷先輩の説明では、葉山先輩達が不良役で小学生を脅す役割になっている。このまま行けば、ただ小学生が怖い思いをするだけで終わってしまう。本性をさらけ出させるという点では申し分ないが、そのままだと葉山先輩達にヘイトが向きっぱなしになることになってしまう。それでは少し後味が悪い。

 

 

「いわゆるリスクヘッジってやつです。だから、葉山先輩達にはフォローの方に回って欲しいんです。そっちの方が適任でしょうし?」

 

 

 要は、不良に絡まれた後に美男美女+ウェーイが颯爽と登場し、俺を撃退してもらうっていうことだ。恐怖心を煽った後にイケメンに助けてもらえれば恐怖心なぞあっという間に吹き飛ぶ。だが、散々互いの醜い心を見た後だからその後仲良くなんかできないはずだ。これなら恐怖心だけを拭い、比企谷先輩の作戦を達成させつつこちらへ向くヘイトをある程度緩和できるはずだ。

 

 反応を見ようと目をやると、葉山先輩はなにやら複雑な顔をしている。だが反対意見を言ってないから反対ではないんだろう。そう思って話を進める。

 

 

「で、脅かす役なんですが・・・これ、俺にやらせてくれませんか?」

 

「・・・それだとお前が泥をかぶることになるぞ。なんなら俺がやってもいいんだが、それでもいいのか?」

 

 

 比企谷先輩は、少し驚いたような顔で俺を見て言った。どうやら、俺が名乗り出るとは思ってなかったらしい。

 まあ俺だって進んでリスクを背負いたい訳では無い。なんなら一生リスクも背負わずに平穏な生活を送りたいと思っているまである。

 だが、鶴見さんの意見を聞いてしまったし、この話し合いの口火を切った責任だってある。

 それに、俺は中途半端をしたくない。こうしてこの案に関わるのなら、俺は全力を持ってこれに取り組みたい。ただ、そう思ってるだけだ。

 

 

「構いません。俺はやるなら全力で取り組みたいんで。それに、『みんなの人気者』には荷が重そうですしね。」

 

 

 挑発するような言葉にも、葉山先輩は反応を返さない。三浦先輩や戸部先輩も、特に反応はしなかった。・・・どうやら、だんまりを決め込むらしい。まあ、それならそれで構わない。

 

 

「本人がそれでいいなら、それで行きましょうか。・・・葉山君も、それでいいのよね?」

 

「・・・いや、一つだけ聞かせて欲しい。城ヶ崎君。君は――――それが正しいと思ってるのか?」

 

 

 このまま黙り込むのかと思ったが、そうでもなかったらしい。どうせならもう少し早く反応を帰して欲しかったところである。

 

 しかし正しいと思ってるか、か。勿論、正しいなんて思っちゃいない。というか大前提として今回の件は正しい解決なんてあるわけがないのだ。比企谷先輩の出した案も俺が出したフォロー案も、限られた選択肢と時間の中でなんとか捻りだしたものに過ぎない。

 

 だが、最高の選択ができなくても比較的マシな選択はできる。人生だって最善の行動だけをしているわけではないし、今回だってそういうことだ。

 

 

「正しくはないですよ。ただ、これが比較的マシでしょう?葉山先輩にとっても、ね。」

 

 

 だから俺は、こう言ってやった。というかそれしか言えなかったし。

 

 

「・・・わかった。だが、俺はみんなが一致団結する可能性に賭けるよ。根はいい子達だと思うし。俺達の出番が無いことを願うよ。」

 

「・・・話は終わったようね。では、その案で行きましょう。」

 

 

 その後準備を進めていると、あっという間に夜が近づいていた。

 作戦決行の時は、すぐそこだ。




次回、「いつだってイケメンはイケメンである」。

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