捻くれぼっちと拗れボッチ   作:よこちょ

15 / 31
前後編に分かれるとは思ってなかったお祭り編、はーじまーるよ~。


かくして、城ヶ崎と一色は偶然出合う

 夏祭り。読んで字のごとく夏に開催される祭りのことである。薄味の屋台のやきそばや大して美味しくないリンゴ飴、原価ほぼ0のかき氷など、色々なもので満ちあふれていて賑やかな空間を提供するイベントでもあり、リア充御用達の夏の風物詩だ。・・・ここまで言えばたいていの人は察してくれるだろうが、俺は夏祭りというものが好きではない。

 元々外や人混みが好きじゃないというのも理由としてあるが、それよりも財布に優しくないのというのが正直な理由だ。祭りに行くお金があれば、サイゼでちょっと贅沢できるくらいはできる。そう考えてしまう俺は、根本的に祭りに合っていないのだろう。

 だがしかし。俺は年に一度だけ、絶対に夏祭りに行かなければならない理由があった。

 

 

「さぁトラ!今年も祭りに行くわよ!!」

 

 

 ドンッ!という効果音でも背負っていそうな程の熱気、背後に炎を幻視できるほどのハイテンション。浴衣に袖を通したその姿は正に夏真っ盛り。

 理由はご覧の通り。我が姉、沙耶の付き添いに連行されるからである。

 沙耶はこういったワイワイするイベント事が大好きであり、ことあるごとに俺も荷物持ち兼男避けとして駆り出されているのだ。

 

 

「分かってるって。それより、浴衣なんだからそんなに急ぐと転ぶぞ?」

 

「大丈夫大丈夫!私が何年浴衣着てると思ってるのよ。それに、家の中で転ぶほど間抜けじゃないって!」

 

 

 そう言いながら、今にも駆け出しそうな勢いでステップを踏んでいる。しかしまあ、毎年毎年同じ祭りに行くというのに、どうしてこうもテンションが高いんだろうか。よく飽きないものだと感心するね。

 

 

「ねえトラ。今年こそ・・・」

 

「断る。俺に浴衣を着る趣味はない。」

 

「え~。ケチ~。」

 

 

 沙耶の言いたいことを看破した俺は、即座に拒否した。沙耶は毎年、俺に浴衣を着ないかと提案してくるのだから、この拒否も慣れたものである。ていうかよく挫けないな。

 

 

「だって周りもみんな浴衣着てるんだよ?トラだけそんな格好だと浮かない?」

 

「そのみんなに俺は元々含まれてないからいいの。」

 

「え~。トラ細身だし、絶対似合うのに。」

 

 

 今の俺の格好は、Tシャツに短パン。完全に深夜にコンビニに行く格好である。人混みに行くのだから少しくらい涼しい格好を・・・というのは建前で、実際はただただ着物を着るのが面倒くさいだけだ。そのせいで折角の俺の甚平は、自室の隅っこで眠っている。この前勝手に洗濯されていたが、知らないふりだ。

 

 

「・・・仕方ない。今年は諦めるか・・・・・・」

 

「今年だけじゃなくて来年も諦めといてくれ。」

 

 

 できれば再来年も、その先もな。何度も言うが、俺に浴衣を着る趣味はないんだ。すまんな、沙耶。

 

 

「善処しとくよ。・・・さて、では!いざ祭り会場へ!GO!!」

 

 

 テンションMAXで足を踏み出した姉。忘れ物がないか鞄をあさっている俺を尻目に、るんるんと歩を進める沙耶。そして沙耶が玄関にたどり着いたとき。

 唐突に、事件が起こった。

 

ドンッ!!

 

 

「!?沙耶!!」

 

 

 耳に鈍い音が届いた瞬間。俺は鞄を放り出し、慌てて階下へと走った。階段を転げるように下り、玄関へ直行。スマホの画面に119を打ち込み、最悪の場合すぐに掛けられる状態を整えながらたどり着いた玄関。

 

 

「いてて・・・ごめん。転んじゃった。」

 

 

 そこで俺が見たのは、足をさすりながら玄関で座り込んでいる、沙耶の姿だった。

 

 

――――――――――――――

 

 

 

「ただの捻挫だから大丈夫だって。冷やしておけばそのうち治るから。」

 

「・・・うん。」

 

 

 慌てて沙耶を抱えて室内へ運び込んだ俺は容態を確認し、氷嚢を患部の足首に当てることで一通りの処置を終えた。姉曰く、下駄を履こうとしたらバランスを崩して転んでしまったらしい。頭をぶつけなかったことは不幸中の幸いだった。でなければ、俺のスマホは人生で初めて通報をするハメになっていたからな。

 

 

「・・・でも、この捻挫じゃ今日は歩けないよね。」

 

「・・・まあ、そうなるね。」

 

 

 うつむく沙耶に掛ける言葉が思いつかず、ただ質問に答える。さっきまでのハイテンションは霧散してしまっていた。あれだけ楽しみにしていた祭りに行けなくなってしまったのだから、無理もない。しぼんだ風船のようにしゅんとしている様子は、見ているだけで悲しくなってしまう。

 

 

「・・・しょうがないよね。怪我しちゃったんだし。『今日は行かない方が良い』って神様が教えてくれたのかもね。」

 

「・・・・・・」

 

 

 無理に明るく振る舞っているのが丸わかりな態度だった。

 

 

「じゃあ、俺が行くよ。」

 

 

 そんな姉を見ていると、自然と言葉が漏れていた。

 

 

「・・・えっ?」

 

「俺が行って、写真撮ってくる。屋台の食べ物だって、好きなもの買ってくるよ。」

 

 

 今の俺にできる最大の慰めの言葉は、これくらいだった。祭りに行けるわけじゃない。でも、せめて雰囲気くらいは・・・という気持ちだった。さっきまで値段がどうの人混みがどうのという考えはどうでもよかった。これ以上、沙耶の悲しい顔が見たくなかったのだ。

 

 

「・・・じゃあ、お願いできる?」

 

「勿論。任せてくれ!」

 

 

 ニカッと笑い、ドンと胸を叩く。さてと・・・それじゃ、行きますか!!

 

 

「あ、折角なら浴衣も着て行ってよ!」

 

 

 ・・・雰囲気づくりのためだ。気は進まないが着て行こう。なんだか出鼻をくじかれた気分だが、それはそれ。行くと決めたからにはしっかり行って任務を遂行するのみだ!!

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 という訳でたどり着いたのは駅前の広場。ここから電車を使って祭り会場まで移動するわけだが・・・想像以上に人が多い。歩けない程ではないが、普段と比べれば倍くらいの人数がいる。ちなみに今の俺の服装は、甚平に扇子、足袋に下駄と、お祭りフルセット。慣れない夏の装いだし、人にぶつからないように歩かなきゃな・・・って、なんだあの空間。

 よく待ち合わせに使われる(姉談)モニュメントの下に、妙に空白ができているのが見える。何かのイベントかとも思ったが、それにしてはざわつきの感じが違うような気がする。普段ならこんな人混みはスルーして行くところだが、残念ながらそうはいかなさそうだ。この量の人だかりを整理する人がいないため、半ば無法地帯となってしまっている。そのせいで際限なく広がった人だかりが広場のスペースを圧迫し、この中を突っ切っていかなければ駅にたどり着けなさそうなのだ。

 

 

(誰だよこんな騒ぎ起こしたやつ・・・)

 

 

 騒ぎの中心人物達へと恨み言を考えつつも、ちょっと失礼とばかりに前へ進んで行く。人混みをかき分け前へ進んでいると、少しづつ声が聞こえるようになってきた。

 

 

「・・・・ら、・・・だって。」

 

「え~。・・・じゃないですか。」

 

 

 聞こえてきたのは、男女の声が一つづつ。何やら揉めているような声音にただならぬ気配を感じた俺は、戻ってどうにか迂回路を探そうとしたがとしたが、時既に遅し。後ろの人だかりはこちらへ流れており、後退はできなさそうだった。ならば仕方ないと開き直って前へ進むことにした。結果、最前列へ押し出される形ではあるが、なんとか人混みを抜けることができた。

 

 

(やっと一息付けたな・・・)

 

 

 なんだか一気に疲れた気分だ・・・目的がなかったらこのまま直帰したいと考えるくらいには。だが、今日は祭に行かなければいけない。気を取り直して前を向き、駅へと歩を進めようとした。だが前を向いたら、当然この騒ぎの中心人物達が嫌でも目に入る。最初に目に入ったのは、金髪の男の背中。そして、その少し奥に見える亜麻色の髪の女の子だった。

 

 

「だから、今日は待ち合わせ中なんですってば。」

 

「んなこと言わずにさぁ~。俺と来た方が絶ッ対楽しいって。な?」

 

 

 果たして目に入ってきた騒ぎの中心は、ちょっと珍しい光景だった。金髪にチャラチャラしたアクセサリーを付けた、いかにもという感じのチャラ男が、ナンパにいそしんでいたのだ。今時駅前でナンパをするやつがいたのも驚きだったが、それよりも驚いたことがあった。

 

 

「あれ・・・一色じゃないか?」

 

 

 ナンパをされていた亜麻色の髪の人が、まさかのクラスメイトである一色いろはだったのだ。

 

 

(おいおいまじかよ・・・)

 

 

 俺は心の中で空を仰いだ。ナンパする人を見ることすら俺の中では希なのに、されてるのが数少ない面識のあるクラスメイトってどんな確立してるんだよ・・・

 まぁでも、それだけ一色の可愛さがとてつもない威力を持っていることの表れでもあるんだろうな。わざわざ待ち合わせ場所で人を待ってる状態でナンパされてるんだから、客観的に見ても一色が魅力的であることを示唆しているだろう。

 

 

「だってその待ってる人来ねぇじゃん?もう帰ったんじゃねぇの?」

 

「そんなこと・・・」

 

 

 俺がそんなことを考えている時でも、ナンパは続いていた。チャラ男君との会話を聞くに、待ち合わせをしている人がなかなか来ないらしい。この人だかりと通行量じゃ、中々合流できないのも無理はないかも知れない。

 ダメ元でそれらしき人が居ないかと周りを少し探してみると・・・居た。発見したのは、こちらもクラスメイト。名前は確か、山・・・山田だっけ?うん、知らねぇや。俺友達いないし。だが、クラスの中心に居るような陽キャであり、サッカー部に所属していることは覚えている。思い出してみれば、夏休み前に山田が一色を夏祭りに誘えたって自慢していたような気がする。その山田(仮称)が、モニュメントを遠くからチラチラと見ているのを見つけたのだ。だが、その山田がいるのは一色の背後であり、距離もそこそこある。あれでは気づかないのも無理ないか。

 なんだ、待ち人もう来てるじゃん。なら心配いらないな!・・・っておい、助けろよ山田(仮称)。なに俺関係ねぇしみたいなスタンスで背後に潜んでるん?あれか、メリーさんリスペクトなのか?今貴方の後ろに居るのってやかましいわ。クソッ!これ俺が行った方が良いのか?でもまだ山田が動くかもしれないし・・・周りの野次馬も止めようとしないどころか、動画を撮ってる奴だっている。今ほど文明の発達を恨んだことはないだろう。

 だが、俺が迷っている間も時間は進む。その間もチャラ男は頑張って説得を試みていたが、一色は頑なに首を縦に振らなかった。それに気を悪くしているのか、チャラ男の口調は段々と荒々しいものに変わっていっていた。

 

 

「だから、俺と来いっつってんだろ!!」

 

 

 あっと思ったのも束の間。しびれを切らしたチャラ男が、とうとう一色の腕を掴もうと手を伸ばし始めたのだ。それでも、山田は動かなかった。

 だが、俺は見てしまった。手を伸ばされている一色の足が震えている様子を。

 

 

(・・・ええい何を迷ってる俺!)

 

 

 そうだ。もう迷う必要はない。そもそも、俺は一色に嫌われたって構わないのだから。一色にとっての最善はクラスの人気者がかっこよく助けることなんだろうが、この一瞬だけは我慢してくれ。

 そう思った俺は、躊躇わずに足を振った。今の俺が履いているのは下駄。そう、結構すぐ脱げる下駄である。それを、足をフルスイングすることで射出したのだ。

 

 

「ぐぇ!?」

 

 

 飛んでいった下駄は、チャラ男の後頭部にクリーンヒット。伸ばしていたてを後頭部へと誘導することに成功した。それを確認した俺は、そのままダッシュ。ついでに下駄を奪取し、一色の手を掴む。

 

 

「・・・走れるか?」

 

「え、あ、うん。」

 

 

 すぐさま脱出の了解を取り、素早く離脱。あまり早いペースで走るのもよくないので、早歩きくらいの速度でその場から離脱する。とりあえずは、駅に逃げ込むとしよう。




実は景虎も八幡と同じで、顔は整っているという設定。目は前髪長いせいで隠れ気味だけどネ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。